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2022年7月7日木曜日

ダスマリニャス・ハウジング・プロジェクト,at,デルファイ研究所,199308

ダスマリニャス・ハウジング・プロジェクト,at,デルファイ研究所,199308


ダスマリニャス・ハウジング・プロジェクト                マニラ

                布野修司

 

 コア・ハウス・プロジェクトとは、七〇年代以降、世界中で展開されてきたある種のハウジング・プロジェクトの呼称である。東南アジアでも、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアといくつかの試みがなされてきた。その一つ、フィリピンのものを紹介しよう。

 発展途上国は極めて深刻な住宅問題を抱えており、様々な対応策がとられてきているのであるがなかなかうまくいかない。特に、スラムをクリアランスして、集合住宅に建て替える形の住宅供給は全く成功しなかった。コストがかかり、決して低所得者向けのハウジングにならないことが大きな理由である。また、集合住宅のモデルが、それぞれの地域の生活様式に合わないということも決定的であった。

 そこで考え出されたのがこのコア・ハウスのアイディアである。専門的には、より広く、サイタンサーヴィス(                )・プロジェクトとも言われる。サイタンサーヴィスとは要するに宅地分譲のことである。水道や電気などのインフラを整備した宅地を供給する。住宅は、各自の資力に従って自力建設で行う、というのが基本である。

 しかし、ただの更地だと手がかりがない。ワンルームに水回りがついた程度のコア(核)・ハウスを前もって建ててあげようというのがコア・ハウス・プロジェクトなのである。

 このアイディアは世界中の発展途上国で採用され、実にユニークなコア・ハウスが建設された。写真は、マニラ近郊のダスマリニャスのニュータウン建設で行われたコア・ハウス・プロジェクトである。

 細い四本の柱の骨組みが二組、中央のブロックが積んであるところがバス、トイレと水道設備がある場所である。最初見たときは、これが一体家になるのか、という感じであった。

 一日、建設の様子を見ていた。人々は、大きなトラック一杯に廃材を積んでやってきた。親戚や友人も沢山乗っている。建設材料となる廃材を降ろして、早速、建設が始まるのであるが、あれよあれよである。二時間もすると、コア・ハウスは、廃材で覆われてしまう。とりあえず、住めるようにするのである。一斉に建設が行われる光景はなかなか壮観なものであった。

 まるでゴミ溜のようであるが、中には本格的な家もできる。一年建ってまた訪れてみたのであるが、びっくりするような家もできていた。お金が貯まれば徐々に増築したり、改造したりするのである。

 スケルトンだけのコア・ハウスでは、景観的に少し問題だと言うので、壁を張ったコア・ハウスも試みられた。また、ブロック造やRC造のコア・ハウスもフィリピンで試みられてきた。お金がないが故に苦肉の策として考案されたのであるが、建築的アイディアとしては実に面白い試みであった。

 




 

2022年7月4日月曜日

渡辺豊和/布野修司・後藤真理子・小松和彦 都市の火/住宅の火 住居に現れる火,深化する建築 住居根源論 5,松下電器設備季報,松下電器産業,199105

セミナー:司会:都市の火/住宅の火 住居に現れる火,深化する建築  住居根源論5,小松和彦・後藤真理子・渡辺豊和,松下電器設備季報,松下電器産業,19910322 

 渡辺豊和/布野修司・後藤真理子・小松和彦 都市の火/住宅の火 住居に現れる火,深化する建築  住居根源論 5,松下電器設備季報,松下電器産業,199105











2022年7月1日金曜日

書評:木造建築の基本原理ーエスノ・アーキテクチャーを目指して 太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』(彰国社 2015年11月10日)、『建築技術』、2016年5月

 書評:木造建築の基本原理ーエスノ・アーキテクチャーを目指して 太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』(彰国社 2015年11月10日)、『建築技術』、2016年5月

書評 太田邦夫著 『木のヨーロッパ 建築とまち歩きの事典』 彰国社 201511

『建築技術』 20160303締切  1500

 

 木造建築の基本原理-エスノ・アーキテクチャーをめざして

 布野修司

 

木造建築研究に関する日本の第一人者―そして、おそらく世界的にもグローバルな視野において木造建築を最も知る建築家のひとり―による「ヨーロッパ木造建築」案内である。旅の準備編、旅編、旅の参考資料編と大きく3編に分かれ、中心となる旅編には「おすすめ12のルート」について魅力あふれる解説がなされている。「木造建築」ファンのみならずヨーロッパ旅行に出かける全ての人にとっての必携書といっていい。

しかし、本書は単なるガイドブックにとどまるものではない。「建築とまち歩きの事典」をうたうように、ヨーロッパの木造建築、村、町に関する豊富な写真、図面、スケッチが収められており、資料集成として比類のない質を有している。小屋組、軸組、平面形式、インテリア、開口部(窓・扉・門)、細部の装飾、大工道具、樹木などについて多様なディテールが著者自らのスケッチで示されており、建築家にとっては魅力あふれるデザイン・ソース満載である(旅の参考資料編)。

「木のヨーロッパ」というタイトルは極めて挑戦的である。われわれが学ぶ西洋建築史は木造建築に触れることはないが、ヨーロッパの木造建築の豊かな伝統を教えてくれる。木造建築の分布が構造別(軸組、井篭(井楼)組、土壁造、木柱テント造、石造、煉瓦造・・・)にまず示され、気候、植生、土地利用、民族、宗教の分布と重ね合わせられる(旅の準備編)。すなわち、木造建築の構造形式、住居形式を自然社会文化の生態学的基盤において理解しようとする視点がある。また、逆に木造建築、住居の諸指標の分布をもとにヨーロッパの基層文化を理解しようとする姿勢がある。

評者が、著者の太田邦夫先生とインドネシアの北スマトラを訪ねたのは19791月である。バタク諸族の村々を回りながら、採寸の仕方から写真の撮り方も含めて、木造建築について手ほどきを受けた。当時、既にヨーロッパの木造建築についての研究を開始されており、その成果は、『ヨーロッパの木造建築』(講談社、1985)、『ヨーロッパの民家』(丸善、1988)を経て、学位論文を基にした『東ヨーロッパの木造建築―架構方式の比較研究』(相模書房、1988)にまとめられる。幸せにも、この理論化の作業を身近にいて逐一知ることができた。大きな刺激を受けたのは、後に『エスノ・アーキテクチュア』(SD選書、2010)にまとめられる『群居』連載の論考である(19831987)。「建築はなぜ四角になったのか」「右が先か左が先か」といった建築の基本原理に関わる考察が根底にある。『世界の住まいにみる 工匠たちの技と知恵』(学芸出版社、2007)もまた興味深い建築の基本原理を考察するが、著者が「ヴァナキュラー・アーキテクチャー」ではなく、「エスノ・アーキテクチュア」という概念を用いるのは「エスノ・サイエンス」「エスノ・テクノロジー」という概念が念頭にあるからである。すなわち、近代科学技術の依拠する普遍的な原理において建築を理解するのではなく、地域の、民族の、土着の、建築を成り立たせる固有の原理を明らかにしたいということが基本にあるのである。

本書にはヨーロッパの木造建築を成り立たせる基本原理をめぐる様々な問いが秘められている。木造建築から石造建築への移行はどのようになされたのか、軸組構造、壁構造、井楼(籠)組構造は何故地域分布を異にするのか、ハーフティンバー構造はどのように発生したのか、日本の木造建築とヨーロッパの木造建築はどう異なるのか、・・・おそらく、さらなる議論のためにはもう一冊の理論書が必要であり、既に用意されているのではないかと思う。