インド都市の空間構造―曼荼羅都市とムガル都市―、第65回羽田記念館定例講演会 2010年12月4日
第65回羽田記念館定例講演会 2010年12月4日
インド都市の空間構造―曼荼羅都市とムガル都市―
布野修司(滋賀県立大学)
布野修司,戦後建築論ノート,相模書房,1981年6月
布野修司,スラムとウサギ小屋,青土社,1985年12月
1 布野修司,住まいの夢と夢の住まい・・・アジア住居論,朝日新聞社,1997年10月
2 布野修司編,世界住居誌,昭和堂,2005年12月
3 布野修司(監訳)+アジア都市建築研究会,生きている住まいー東南アジア建築人類学(ロクサーナ・ウオータソン著 ,The
Living House: An Anthropology of Architecture in South-East Asia,学芸出版社,1997年,監訳書
4 布野修司+安藤正雄監訳,アジア都市建築研究会訳, 植えつけられた都市 英国植民都市の形成,ロバート・ホーム著: Robert
Home: Of Planting and Planning The making of British colonial cities、京都大学学術出版会、2001年7月
5 布野修司編+アジア都市建築研究会:アジア都市建築史,昭和堂,2003年8月
6 布野修司編:近代世界システムと植民都市,京都大学学術出版会,2005年2月
7 布野修司,カンポンの世界,パルコ出版,1991年7月(『インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究---ハウジング計画論に関する方法論的考察』)
8 布野修司,曼荼羅都市・・・ヒンドゥー都市の空間理念とその変容,京都大学学術出版会,2006年2月25日
9 Shuji Funo &
M.M.Pant, Stupa & Swastika, Kyoto University Press+Singapore National
University Press, 2007
10 布野修司+山根周,ムガル都市--イスラーム都市の空間変容,京都大学学術出版会,2008年5月
11 布野修司+韓三建+朴重信+趙聖民、韓国近代都市景観の形成―日本人移住漁村と鉄道町―,京都大学学術出版会、2010年5月
Ⅰ アジア都市建築研究の経緯
カンポンの世界(7) Surabaya
イスラームの都市性
チャクラヌガラCakranegara・・・ロンボク島(8 Shuji Funo: The Spatial Formation in
Cakranegara, Lombok, in Peter J.M. Nas (ed.):Indonesian town revisited,
Muenster/Berlin, LitVerlag, 2002)
ジャイプル(8)
アフマダーバード(10)
植民都市研究(4,6)
Ⅱ アジア都市の系譜:都城とコスモロジー
応地フレーム(テーゼ)(6)
1 アジアは「コスモロジー・王権・都城」連関にもとづく都城思想(理念)をもつA地帯とそれをもたないB地帯とに二分される。
2 A地帯は、都城思想(理念)を生み出した核心域とそれを受容した周辺地域という「中心ー周辺」構造をもつ。
3 A地域の核心域は2つ(古代インドA1と古代中国A2)存在する。
それぞれは都城思想(理念)を表す書物『アルタシャーストラ』(A1)『周礼』考工記(A2)をもつ。
A地域について
4 コスモロジーに基づく都城理念は、空間的な図式として表現される。
5 空間的な図式として表現される都城理念は具体的な都市のかたちとして計画されようとするが、図式がそのまま幾何学的な形式として実現するとは限らない。都城の立地する場所の特性、条件によって制約を受けるからである。また、理念形は土地によって変形される場合もある ジャイプル フエ
6 理念形がそのまま実現した場合でも、歴史を経るに従って、変化していくのは自然である。 長安 平安京 マドゥライ
7 理念形がそのまま実現されるのは核心域より周辺地域の場合が多い。周辺地域の場合、支配権力の正統性を表現するために都城の理念形がより必要とされる。 アンコール・トム マンダレー
B地域について
8 B地域(西アジア)にコスモロジーに基づく都城理念(都市のかたちをコスモスの表現とみなす考え方)はない?←メソポタミア?ペルセポリス?天上のエルサレム?
9 イスラームには、一つの都市を完結した一つの宇宙とみなす考え方はない。メッカを中心とする都市のネットワークが宇宙(世界)を構成する
10 イスラームは、都市全体の具体的な形態については関心をもたない。イスラーム圏の諸都市の形態は地域によって多様である。
11 イスラームには、イスラーム固有の都市の理念型を現す書物はない。←イスラーム以前の西アジアにないのか?
12 イスラームが専ら関心を集中するのは、身近な居住地、街区のあり方である。この都市組織のレベルでイスラームの空間構成原理を認めることができる。
B.S.ハキーム『アラブ・イスラーム都市』
Ⅲ インド都市の空間構造
1 曼荼羅都市―ヒンドゥー都市の系譜
アルタシャーストラの都城理念
ヴァストゥ・シャーストラの空間構造
曼荼羅都市の系譜
南インドの寺院都市
マドゥライ
1 マドゥライの都市形成 /1-1 ドラヴィダの世界―タミル王国/ 1-2 マドゥライの発展/
2 マドゥライの空間構造/ 2-1 プラーナの中の都市/2-2 都市のかたち/
2-3 都市と祭礼/ 2-4 王宮と寺院
3 カーストと棲み分けの構造/ 3-1 商業施設とジャーティ/ 3-2 カーストと居住地区
4 居住空間の変容
4-1 プラーナの中の住居/4-2 住居の基本型/ 4-3 住居の変化型――街区特性
2 ムガル都市―インド・イスラーム都市
A 「インド都市」論/イスラームの「都市性」:移動とネットワーク/「イスラーム都市」論/「イスラーム都市」の空間モデル/「イスラーム都市」とコスモロジー
イスラームは,基本的に都市全体の具体的な形態については関心をもたない。専ら関心を集中するのは,身近な居住地,街区のあり方である。
イスラームは,「偶像禁止」を遵守することにおいて,基本的に建築の様式,装飾等には関心を持たない。だからといって,イスラーム建築が他に比べて劣っていると言うことでは決してない。「偶像禁止」ということで,むしろ精緻な幾何学を発展させ,数多くのすぐれた建築を生み出してきたことはよく知られるところである。宮殿にしても,むしろ精緻な幾何学を基礎に設計されることが一般的である。
しかし,モスクにしてもキブラqibla(メッカの方向)のみが唯一重要視されるだけで,その形式,様式は時代によって,地域によって異なる。場合によっては,異教徒の建造物をそのまま使用して,執着するところがない。土着の建築様式を借用するのはむしろ基本的手法であり,一般的である。建築の型についてのこうした無頓着からの類推にすぎないけれど,都市の形態についてもイスラームは一定の型に拘るところはないのではないか。
B 「ムガル都市」 1 オアシス都市と楽園2 歴史の中の「ムガル都市」 「インド・イスラーム都市」=「ムガル都市」の成立:遊牧国家の移動するオルド(宮廷)の大河川(インダス川,ガンジス川)支流域への定着,「オアシス都市」から農耕定着型の生産基盤を背景とする都市への転換:内陸の交易ネットワークから海のネットワークへの転換:ユーラシアを大きく移動し,雄大な世界を構築してきたテュルク・モンゴル系の遊牧民たちのインド定着=デリー。およそ1世紀半先立つ,大元ウルスが大都を建設したのと並行する過程。 3 「カールムカ」と幾何学 イスラームの幾何学とインド古来とされる「カールムカ」の伝統が結びついたのが「ムガル都市」である。コスモロジカルな秩序を重視するインド的世界観に基づく「曼荼羅都市」と異なり,「ムガル都市」の場合,都市全体について幾何学的秩序が維持されることはない。精緻な幾何学が展開されるのは,宮殿,モスク,庭園の周辺のみである。むしろ,幾何学性と非幾何学性(迷路と袋小路)の併存が「ムガル都市」の特性である。4 「ムガル都市」の計画原理「イスラームは,基本的に都市全体の具体的な形態については関心をもたない」というテーゼ。都市についても土着の伝統を借用するのがイスラームである。都市の全体構成について,「アラブ・イスラーム都市」と同様の手法を確認することができる。主要施設の配置以外は,ディテールのルールに委ねられる。イスラームには全体を予め細部まで決定するマスターン・プランの伝統はない。5 街路体系と街区組織イスラームが,都市のあり方について専ら関心を集中するのは,身近な居住地,街区のあり方である。 「ムガル都市」において,人々の生活の場となる居住区あるいは街区は,様々な名称で呼ばれる。「ムガル都市」に共通するのは,いずれも街路を中心として街区組織が構成されていることである。街区名称に一般に通りの名が用いられていることがその特性を示している。「ムガル都市」と「アラブ・イスラーム都市」:①バーザールに沿って線状に店舗が並ぶのはアラブ,そしてペルシアの特性であるが,「ムガル都市」の場合,さらに下位レヴェルの細街路に沿って,網目状にバーザールが形成される。また,屋根付きバーザールが一般的である西アジアに対して,「ムガル都市」のバーザールは屋根を持たない。シャージャーハーナーバードのラール・キラのバーザールはおそらく唯一の例外である。②街区は,モハッラ(ハーラ)を単位とするが,その名は各地の言語によって様々である。また,下位単位を二重,三重にもつ場合が少なくない。③街区を構成する基本単位としての住居は,一般的にハヴェリと呼ばれる。地域によって木造のものもあり,当初は平屋か二層が一般的であったと考えられるが,地区によっては数層に及ぶ。高層のハヴェリがびっしりと高密度に細街路を埋め尽くすのが「ムガル都市」の特徴である。④都市の構成要素としての諸施設は「インド・イスラーム」に特徴的な建築様式をとる。オールド・デリーのジャーマ・マスジッドは,三つのドームを並べる礼拝空間の前面に広大な広場を設けるインド型モスクの典型である。アウラングゼーブがラーホールに建設したシャーヒー・モスクは,ミナレットを広場の四隅に置くなど,二本だけドームの両脇に建てるジャーマ・マスジッドとは異なるが,基本的な空間形式は同じである。京都大学大学院文学研究科附属ユーラシア文化研究センター(羽田記念館) ━━━━━━━━━━━━━━━━━□■第65回羽田記念館定例講演会■□━━━━━━━━━━━━━━━━━日時 2010年12月4日(土) 午後2:00 〜 (午後5:30より懇親会)場所 ユーラシア文化研究センター(羽田記念館) 〒603-8832 京都市北区大宮南田尻町13 TEL 075-491-6027 ◇◆講演◆◇ (1) 「インドとチベットの交点 −アティシャの伝えた仏教−」 宮崎 泉 氏 (京都大学大学院文学研究科准教授:インド哲学・仏教学) 紹介・司会: 熊谷 誠慈 氏 (日本学術振興会特別研究員・京都大学人文科学研究所) (2) 「インド都市の空間構造 −ムガル都市と曼荼羅都市−」 布野 修司 氏 (滋賀県立大学大学院環境科学研究科教授:建築・都市研究) 紹介・司会: 杉浦(田中) 和子 氏 (京都大学大学院文学研究科教授)











































































































