布野晶子,記憶と沈黙『都市美』創刊2号 7月4日 訳者解題
訳者あとがき
『記憶と沈黙』(2003)以降,日本で出版された「戦争画」など「戦争と美術」に関する著書には,椹木野依(2005)『戦争と万博』美術出版社,椹木野依(2006)『美術に何が起こったか 1992-2006』国書刊行会,針生一郎編(2007)『戦争と美術1937-1945』国書刊行会,平山周吉(2015)『戦争画リターンズ 藤田嗣治とアッツ島の花々』芸術新聞社,ロバート・イーグルストン(2013)『ホロコーストとポストモダン 歴史・文学・哲学はどう応答したか』田尻芳樹・太田晋訳,みすず書房,林洋子監修(2014)『藤田嗣治画集』全三巻,小学館,河田明久(2014)『画家と戦争』別冊太陽日本のこころ220 平凡社、椹木野依・会田誠(2015)『戦争画とニッポン』講談社,飯田高誉(2016)『戦争と芸術 美の恐怖と幻影』立東舎,藤田嗣治・林洋子編(2018)『藤田嗣治 戦時下に書く 新聞・雑誌寄稿集 1935~1956年』ミネルヴァ書房,北村小夜『画家たちの戦争責任
藤田嗣治の「アッツ島玉砕」をとおして考える (教科書に書かれなかった戦争)』梨の木舎などがある。
谷尾晶子は,草稿(図①),講義ノートなどの資料,参照文献,引用文献やそのコピーなどを残しているが,論文を組み立てるに当たって大きな影響を受けたと思われるのは,ロンドン大学のゴールド・スミス・カレッジのA.シュメッタリングAstrid Schmetterling講師による大学院講義「記憶と文化史」(2002~03)であるが(図②),その講義資料集は,マリアンヌ・ハーシュのミーケ・バル他編『記憶という行為』に納められた論文「投影された記憶」も含めて,W.ベンヤミン,S.フロイド,J.デリダ,T.W.アドルノなどによる13もの論文からなっている。A.シュメッタリングには,『回想としての視覚文化』などのという著書[1]がある。コア科目である美術史についても,事前にE.H.ゴンブリッジの『美術史』を読むことが求められ,シラバスには「美術史から美術と視覚文化の諸歴史へ」「伝統再訪」「伝統からフォルマリスト・モダニズムへ」「美術の社会史」「モダニティとモダニズムについてのポストモダン批評」「オーサーとオーソリティ」「歴史(美術史)へのフェミニストの介入」「視線」「アイデンティティと差異」「博物館学と収集」「文化的記憶」といった各回講義テーマに,それぞれ参考文献が示されているし,配布された膨大なプリント資料がある。
日本のアーティストについては独自に文献史料を収集したと思われるが,毛利嘉孝(「相互結合:1980年代,90年代の現代日本の美術,文学,大衆文化」),高橋瑞木(「身振りと態度:マンガと日本の大衆文化の関係」),中村伊知哉(「日本と大衆文化」),椹木野依(「ネオ・ポップ,オタク,そしてオーム真理教:第二次世界大戦と日本のサブカルチャー」),らが参加した2003年3月28日に,キングストン大学とロンドン大学SOAS(School of Oriental and African Studies)が共催したシンポジウム『現代日本の大衆文化』を聴いている。
ホロコーストの生存者の子どもたちとその両親の記憶の関係について論じた論文「家族写真」(1992)[2]によって,「ポストメモリー」という概念を初めて提出したマリアンヌ・ハーシュも,その後『家族の枠』(1997)『家の幽霊』(2010)『ポストメモリーの生成』(2012)[3]などによって考察を深めており,議論はさらに拡がりつつある。
[1] 現在, 上級講師Senior Lecture。Schmetterling, Astrid(2017)“Charlotte
Salomon.Bilder eines Leben”. Berlin: Jüdischer Verlag im Suhrkamp Verlag. Schmetterling, Astrid and Turner,
Lynn(2013), “ Visual Culture As Recollection”, Berlin: Sternberg Press.
[2] Marianne Hirsch(1992), Family
Pictures: Maus, Mourning, and Post-Memory Marianne Hirsch, Discourse
Vol. 15, No. 2, Special Issue: The Emotions, Gender, and the
Politics of Subjectivity (Winter 1992-93), pp. 3-29
[3] Marianne Hirsch(1997), “Family Frames: Photography, Narrative, and Postmemory”, Harvard University Press,. Marianne Hirsch & Leo Spitzer(2010), “Ghosts of Home: The Afterlife of Czernowitz in Jewish Memory”, University of California Press, 2010. Marianne Hirsch(2012), “The Generation of Postmemory: Writing and Visual Culture After the Holocaust”, Columbia University Press. Marianne Hirsch(2019), “School Pictures in Liquid Time: Reframing Difference, co-written with Leo Spitzer”, University of Washington Press.