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2023年3月9日木曜日

スタジオ・コ-ス,雑木林の世界94,住宅と木材,199706

 スタジオ・コ-ス,雑木林の世界94,住宅と木材,199706

雑木林の世界94

スタジオ・コース

布野修司

 京都大学の建築学科では二年前からスタジオコースと呼ぶ設計演習のプログラムを行っている。四回生の半期の設計演習で、教師がそれぞれスタジオを開設し、それぞれ独自の課題に取り組む、というものだ。アメリカなどのスクール・オブ・アーキテクチャーでは普通のシステムで取り立てて珍しいことではない。日本では共通課題が一般的であるが、四回生となると設計に対する興味や進路もはっきりしてくることから、多彩なメニューを用意しようというのが導入の動機である。竹山聖先生の設計教育改革の一環でもあった。

 講評は全スタジオが集まって行う。だから、スタジオ毎に勝手にやればいいということではない。スタジオということは指導教官が競争する形になるのが刺激的である。

 少し考えた末に、わがスタジオはアーバン・デザインを課題にすることにした。講座の名前は「地域生活空間計画」であり、地域計画、都市計画を担当しているからある意味では当然の選択である。そして、もうひとひねりして、課題はアジアのフィールドに求めることにした。オーソドックスな建築設計の課題は、竹山聖など他の先生がいるから特徴を出そうということであるが、敷地や町のコンテクストを読む方法に少しウエイトをおいてみたいと思ったのである。

 一年目は中国・大連の南山地区を対象として選んだ。南山地区は戦前期に日本によって計画建設された。満鉄社宅共栄住宅など現在も当時の住宅群が残っている。そして、南山地区全体の保存開発が問題となっていた。日本人建築家としてかっての植民地に何が提案できるか、がテーマである。

 研究室で大連理工学院の陸偉先生と共同で調査した資料があり(ヴィデオ、図面、・・・)、その整理をとっかかりに地区の分析を行う。調査を実際に行った山本麻子君がティーチング・アシスタントとして指導に当たった。彼女は結局修士論文(一九九六年度)を南山地区についてまとめることになるが、研究と一石二鳥をねらった課題設定と言えるであろうか。

 二年目は、台北の萬華地区をとりあげた。萬華地区は台北発祥の地であり、また「日拠時代」(日本植民地時代)には西門町など日本人が多く居住した。台北萬華地区はチェ君、田中禎彦君と調査したことがあり(雑木林の世界82 台湾紀行)、ヴィデオなどの資料は豊富にあった。まず、手元の資料から地区のイメージを分析するのが課題となるのは同じである。

 三年目は、インドネシアのジョクジャカルタのマリオボロ地区を選ぶことにした。この三月訪れて(雑木林の世界94)ガジャマダ大学で講義をした際、大学院の学生達がマリオボロ地区を対象としてスタディを行っており、アドヴァイスを求められた。帰国して、スタジオ・コースのテーマを決めるに当たって同じテーマでやってみたらと思い立ったのである。ティーチング・アシスタントには、一緒に調査に行った藪崎達也君と北岡伸一君が当たる。二人は最初の年にスタジオコースを経験しており、要領がわかっているのが心強い。

 ガジャマダ大学のプログラムは立命館大学とのジョイントプログラムである。立命館大学の佐々波秀彦先生にはまず最初に講義をお願いした。さらに続いて、ジョクジャカルタの歴史的環境の保存的開発について学位論文を書いたシータ先生(ガジャマダ大学)にも指導していただくことにした。豪華な布陣である。

 プログラムは現在進行中で結果はわからない。最終プレゼンテーションをガジャマダ大学へ送るのが楽しみである。学生達は現地を知らない分、思い切った提案ができる。とんでもない誤解もあるかもしれないけれど、それは現地を知った教師陣の責任である。両方の学生のアイディアをつき合わせて議論できれば面白いに違いない。外人の発想も役に立つかもしれない。

 ジョクジャカルタは、ボルブドゥールやプランバナンのヒンドゥー・仏教遺跡で知られる。また、イスラームの侵入以降もマタラム王国の首都が置かれた古都である。

 マリオボロ地区はその古都の中心に位置する。ジョクジャカルタの中央にはクラトン(王宮)が位置し、現在もスルタン一族が居住している。クラトンの南北にアルンアルンと呼ばれる大きな広場がある。そして、北のアルンアルンの西に大モスクが配される。ジャワの都市の基本的なパターンがジョクジャカルタであるとされる。

 その北のアルンアルンからさらに北へ伸びる大通りがマリオボロ通りであり、その周辺一帯がマリオボロ地区である。この大通りの軸線上に聖なる山ムラピ山が聳える。富士山より高い活火山で数年前に噴火して数人の死者を出した。

 こうして記述しても紙数が足りないけれど、計画的課題としては同じ課題としては京都をイメージすればいい。同じ古都として同じ様な課題を抱えているのである。

 マリオボロ地区の北端にトゥグ駅がある。鉄道線路が町を南北に分断している。南北の交通問題はかなり深刻である。駅周辺の再開発問題はJR京都駅周辺の問題と同じである。

 地区の内部、都心地区には人口減少という大きな課題がある。これも京都の都心と同じである。

 マリオボロ地区には古都として多くの歴史的建造物が残されている。この歴史的建造物をどう継承していくのかも共通の課題である。御所を中心とする大通り、烏丸通りや河原町通りをイメージすればいい。八坂神社へ向かう四条通りが似ているかもしれない。

 カンポン(都市内集落)の再開発問題もまた同様である。京都で町屋型集合住宅がもとめられているように、インドネシアでも町屋型集合住宅が求められている。

 観光客をどうするのかもジョクジャカルタにとって死活問題である。大学町であることもよく似ている。

 レクチャーをもとにした資料の分析から、いくつかの問題群が指摘される。現地を見なくてもある程度共通のテーマを理解できるのは以上のような類推も力になっている。ジョクジャカルタのことを考えながら京都のことを考えるのが課題ともなる。これまでの課題も同じで、各地区とも共通の課題がある。それぞれに固有の解答を求めるのがねらいである。