コメンテーター,くじらの会第1回CA研究会,「住む人が生き生きする家づくり,まちづくり」,東京都しごとセンター,講師黒崎洋二,林泰義,2007年3月14日
・ 研究会の名称:くじらの会CA(コミュニティーアーキテクト)研究会
・ 第1回の研究会テーマ、タイトル
「まちづくりは、一人一人との対話から」-住民参加型の共同建替え事業の取り組み-
黒崎羊二氏(「まちづくり研究所」所長)+ 林泰義氏
・セミナーの内容
くじらの会ワークショップ「タウンアーキテクトの可能性」の第2弾。
地域に根ざしたアーキテクトがどのように住民参加型のまちづくりを実践していくのか。今回は、住民一人一人の対話から個別事情に対応した柔軟なまちづくりを行っている黒崎羊二氏を迎えます。林泰義氏をコメンテイターに、密集市街地での共同建替え事業の取り組み等の話を聞きながら、住民の内発的な力を引き出すまちづくりについて考えます。
・ 日時: 3月14日(水)18時30分~20時30分
・ 会場: 東京都しごとセンター第1セミナー室
(東京都千代田区飯田橋3丁目10番3号 TEL. 03-5211-1571 )
JR飯田橋駅下車徒歩7分
・ 参加料:
1000円(資料代含む)
・ 定員人数: 30名
・ 主催者: くじらの会事務局、住宅生産性研究会
・ 協賛: 建築ジャーナル
・ 申し込み、問い合せ先:くじらの会事務局 八巻まで
(ht_yamaki@ybb.ne.jp・03-5986-2312)
・申込み方法:メールで「くじらの会事務局」まで申し込み。
(氏名、連絡先電話番号、参加人数を記入)
制度の問題を越えた
都市の住まいのあり方
―まず、布野の先生からコメントをお願いします。
布野 容積率を減らす提案をされた時に、訴訟など起こされなかったのか?住民や地主、外からのディベロッパーの反応は?
黒崎 まず、建築協定をやろうとしたが、結局ダメだった。そこで地区計画ならと提案した。それから1件1件家庭訪問した結果、絶対やめてくれという人が1人いました。その人は「売る土地が値下がりするのは困るから」とはっきり言いました。懇談会で、他の住民が「出て行くのにそんなこと言うな、俺たちは残るんだぞ。」と説得してしまう。ただ、この表の道路側は、商店や企業が多い場所です。経営者が「私は賛成だが、後継者の土地利用の可能性を縛るとはいかがなものか」という意見があって、400%を残す検討を始めました。アンケートでは、「もっと抑えろ」と言う意見も多く、規制に反対する人は全然いなかった。ただ、南側に容積400%という面影を残してしまった。
布野 日本型の街区としてどういう形体がいいのか?
黒崎 コープ愛宕の敷地面積は950㎡です。狭すぎる。せめて2000㎡あれば。ここで3棟です。北側に1棟、他2棟。最低でも3面開放です。コープ愛宕の設計者の杉浦氏(注2)が、建物と建物との間のスリット、中庭、そういった細々した戸建住宅をどう近づけるか、あるいは戸建住宅から集合住宅へのよさをどう出すか、背割り道路が入るために、中庭の連続させる等、検討を繰り返した。ただそれが言葉だけで、デザインとしては残らなかった。デザインよりつくり直すことに夢中になってしまった。
林 都市型住宅のポイントの1つは、ヨーロッパあるいは大陸型のゼロ・ロットです。隣の敷地とぴったり接して建物を建てるということ。そのことで、内部に中庭として安定した空間が出来る。建物の高さは、環境を配慮し4階ぐらいで連続していく。そうすると、パリなどで多くあるような、道路に面する空間と自分の敷地の中でとったオープンスペースの空間が、光庭みたいになり、各部屋が安定した環境を保てる。そういうことをだいぶ議論していた。しかし、それを制度的に確立出来なかったし、戸建住宅というスタイルに偏執狂的になってしまった。
布野 都市計画法の用途地域によって、高さや容積が、段階的にはっきり変わり、街並みをガタガタに乱している。
林 お互いの関係の中で「誰が売るとか、どうなりそうだ」という情報を共有する状況をつくったことが重要で(注5)。ダウンゾーニングの使い方は、地域でネットワークを作っていく方法と、住民の理屈で、「このまちは、これ位にしようじゃないか」と決め、実現することです。
戸谷 今日の話は、基本的な都市計画の矛盾です。例えば既存のものとかけ離れた容積を設定する。また、住居地域では、シングルでもマルチファミリーでも同じ立地であったりする。更に、戦後戦災の影響で防災街区をつくり、最優先するという出発点が狂ってる。(注6)デザインのことですが、通りに立った場合、これがアワーストリートだと思えるデザインになると良かった。デザインディベロップする時のプロセスや、それぞれの段階で何を決めなくてはいけないということが、分らない。道路を作る場合、昔の徒歩の秩序を再現するために車を入れない、という新しいルールを作ればいい。
コミュニティーアーキテクトの役割
―倉澤さんが、住民参加のプロセスについて、聞いていますね。
倉澤 どのようにして住民をまとめていったのか?そのプロセスをお聞きしたいと思います。
黒崎 地域の180所帯の家庭訪問を3チームくらいで繰り返しました。次に、懇談会を開いて「こんな感じでやっていこうよ」という話をする。同時に共同化に賛成のグループを家庭訪問し、頻繁に住まいのやり取りする中で、彼らの本当に言いたいことがわかってくる。「これは住宅設計の作法じゃないか」と気がつきました。力のある住宅の設計者なら必ずできる。
倉澤 私も鎌倉でそういった試みを色々と相談されます。鎌倉の場合相続が多いのですが、その突破の仕方は、なかなか難しい。
黒崎 やはり専門家同士は共同するということがいま問われていると思います。NPO作るのは大変なので、既存の組織を使えないか、こういうくじらの会なんかもいいと思うし、建築家協会や建築士会(注7)など、沢山ある。それでもう一工夫、行政を引っ張り込む。地域の課題が解決する案であれば、バックアップとお金がつく。
岡 私権と公的な利益、個人の生活と周りの人との関係、そういった解けない問題をどうするのか?
黒崎 やはり1人1人の家庭の事情をくみ出すということ。何で共同するのか、隣の利益は自分の利益になるという実感が何処まで持てるかということ。そこで自分たちの現状改善が目標になります。住民は大きな開発メリットは要求していない。(注8)
岡 どのようにしたら、1人1人が対話の関係になるのか?
黒崎 一番困っているのがドアホン、出てこなければ、役所を引っ張り出すのがいい。役所の人にはちゃんと応対しますよ。それと、自分の問題をはっきりしよう、何をしたいのか、を先に立てれば、何回かやり取りするうちに解けます。こちらのやり方次第です。
―長谷部さんは、いくつか独自の提案をされていますが。
長谷部 私は住宅を設計しながら、勝手に用途地域図を書き換えてみました。「コラボレートック」(注9)と呼びますが、特別区で、行政にオール借地権を持ってもらって、新しい建築の姿を考えました。家族という単位と用途地域を疑うことを始めると、住宅も随分変わります。