住宅戦争,彰国社,1989年12月10日
都市に寄生せよ
「ある日あなたは突然家族と家を失った。
身よりも何もない。あなたは誰にも頼らずたった独りで生きていくことを決意する。いわゆるフーテンである。家を建てたり借りたりする気は最早無く、またその余裕もない。都市そのものに住もうと考える。しかし、そのためにも生活上最低限の装置は必要である。時には地下鉄の入口で、あるいは橋の下で、またあるいは路上で寝なければならない。
都市に寄生して生きる。」
課題はこれだけである。ヴァリエーションとして、以下のような条件をつける場合もあっていい。
「以下の条件を最低限満足する装置をデザインせよ。」
1.寝られること
2 食事ができること
3 人を招待できること
要求図面
①装置の平面図
②装置の立面図
③使用状況のスケッチまたはアクソメ、その他必要と思われる図面
すべての材料を明確に、着色の上提出すること。
要するに、住宅の設計課題である。住宅の設計は、建築家の基本であるという。
しかし、住宅の設計といっても、すぐさまできるわけではない。まずは、コピーから入るのが順当であろう。近代建築史のなかで傑作とされる住宅をあるいは評価の高い現代住宅を数多くコピーする。できたら模型をつくってみる。
いきなり、「理想の住宅」を設計せよ、といっても、うまくいくわけはない。まず、住宅は極めて身近であり、その具体的なイメージから離れられないということがある。「理想の住宅」といっても、どこかしら、今住んでいる、また育ってきた住宅の痕跡が表現されるものである。困るのは、固定した住宅イメージから全く逃れられない場合である。まずは固定観念をぬぐい去って、頭を柔らかくする必要がある。
いずれにしても体験しない空間を具体化するのは難しい。だから、とにかく、実際に様々な空間を体験すること、古今東西のすぐれた建築を見て歩くのが建築家となる第一歩であり、基本である。
住宅といっても実に様々である。世界中を見渡して見て欲しい。地域によって、民族によって、様々な形態がある。
こうしたヴァナキュラーな住居に、基本的な架構原理など多くを学ぶことができる。また、その多様性によって固定観念は揺らいでくるはずである。
しかし、結局自分にとっての「理想の住宅」である。自分がよければいいのである。
また、そもそも住宅の設計が複雑であるはそのものが