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2025年7月26日土曜日

建築の拠って立つ基盤 基礎杭工事問題を考える 第8回けんちくとうろん  2015年12月29日  お茶の水 A-Forum 『建築討論』007号、2016年春

 ── By  | 2016/01/22 | Featured, けんちくとーろん, 007号:2016年春(1月-3月) | 0 comments

2015年12月29日
お茶の水 A-Forum

建築の拠って立つ基盤

基礎杭工事問題を考える

 

出席
佐伯英一郎
金箱温春

司会
和田章

オブザーバー参加
布野修司 宇野求

http://touron.aij.or.jp/2016/01/316


 

出席

 佐伯英一郎(1951~) 日之出水道機器株式会社取締役。1974 東京工業大学工学部建築学科卒業、1976年東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻修了、1976年新日本製鉄株式会社入社、1983Northwestern大学Civil Engineering 修士課程修了、1997年博士工学(東京工業大学)、東京工業大学建築物理研究センター客員教授(200042007)、2011年~現職

 

 金箱温春(1953~) 建築構造家。工学院大学特別専任教授、東京工業大学連携教授。日本建築構造技術者協会前会長。1975 東京工業大学工学部建築学科卒業。1977年東京工業大学大学院総合理工学研究科社会開発工学専攻修了。1977年 横山建築構造設計事務所入社。1992年金箱構造設計事務所設立。作品に「京都駅」原広司(1997)、 「兵庫県立美術館」安藤忠雄(2001)、「青森県立美術館」青木淳(2006)、 「龍谷大学深草キャンパス 和顔館」飯田善彦2015)など。著書に「構造計画の原理と実践」建築技術(2010)、「力学・素材・構造デザイン」(共著)建築技術(2012)、「建築を創る 今、伝えておきたいこと」(共著)井上書院(2013)など。

 

司会:和田 章1946~) 建築討論委員会委員: 元日本建築学会会長201113年)。東京工業大学名誉教授。1968東京工業大学理工学部建築学科卒業1970年東京工業大学大学院理工学研究科建築学専攻修士課程修了1970日建設計(構造設計)1981年工学博士(東京工業大学)1982年東京工業大学工学部建築学科助教授。1989年東京工業大学教授2011年。日本建築学会賞(論文)「建築構造物の非線形挙動の解明とその応用に関する一連の研究」(1995年)

 オブザーバー参加:布野修司 宇野求

 


20151225日、国土交通省に設けられた「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」[1]による「中間とりまとめ報告書」(http://www.mlit.go.jp/report/press/totikensangyo13_hh_000382.html)が公表された。

201411月、横浜市のマンションで、L字型に接した2棟の建物のジョイント部で約2 cmの段差があることを居住者が発見、マンション管理組合が三井不動産レジデンシャル(株)に対して指摘して以降、三井不動産レジデンシャル(株)、横浜市の対応、マスコミ報道、そして国土交通省の対応などの経緯については、中間報告書に委ねたい。

同中間報告書は、(1)安全・安心と信頼、(2)業界の風潮・風土、個人の意識、(3)責任体制(発注者、設計者、工事監理者、元請、下請)、(4)設計と施工、その連携、(5)ハードウェア(機械、装置、設備等)という5つの項目について基本的な考え方を整理した上で、明らかになった課題とその背景を(1)発注者、(2)設計者・工事監理者、(3)元請、(4)1次下請、(5)2次下請、(6)3次下請のそれぞれ関連主体について指摘、再発防止策を、1.基礎ぐい工事に関する適正な設計・施工及び施工管理のための体制構築:(1)地盤の特性に応じた設計方法等に関する周知徹底(2)施工ルールの策定と現場での導入等(3)適切な施工管理を補完するための工事監理ガイドラインの策定(4)建築基準法に基づく中間検査における工事監理状況の確認(5)相談窓口の支援、2.建設業の構造的な課題に関する対策:(1)元請・下請の施工体制上の責任・役割の明確化と重層構造の改善(2)技術者や技能労働者の処遇・意欲と資質の向上(3)民間工事における関係者間の役割・責任の明確化と連携強化という項目について委員会提言としてまとめている(図1)。

施工ルールの策定など今後に委ねられた課題がほとんどであるが、そもそも、建築がよって立つ基盤である地盤と基礎の問題をめぐって、建築学そして建築技術のあり方の原点を考えてみたい。

佐伯英一郎氏は、建築基礎杭の開発及び施工に長年関わられ、「支持層不陸」について今回の問題の以前から「見えない杭の品質管理」の問題を指摘してこられた。また、金箱温春氏は構造設計者として、数多くのすぐれた作品の設計に関わられ、2007年の建築基準法制度の改定に対して実務者の立場から意見発信を行ってきており、今回の「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」にも提言を行われている(資料2「杭の設計と施工 現状と提言」20151126日)。

 「不陸(ふりく)」-支持層に届いていない杭-ボーリング・データと支持層深度

 和田 1225日に国交省の「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」の中間報告がでました。佐伯さんは「見えない地盤」の問題ということで、杭が支持基盤にちゃんと届いているかわからないということを前から指摘されてきているわけですが、今回の問題をどう考えておられますか。

佐伯 「社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会中間報告(案)」に対するパブリックコメントが求められた時、2007年だったと思いますが、意見を出しました(資料1)。「耐震強度偽装事件」が問題だったのですが、建築の「見えないところ」に対する国民の不安と怒りを感じました。安全上最も重要な構造躯体は仕上げ材に隠れて余り見えませんし、鉄筋はまったく見えません、特に「杭」は非常に重要な構造部材であるにもかかわらず、「見えない」ために品質管理が万全であるとは言いがたいと思っていましたので、杭工事に関して至急検討とすべき点を提案しました。建築学会でも杭の鉛直支持力小委員会の成果報告の中で「先端支持杭の支持層管理」の問題を東京と大阪で議論しています。また、地盤工学会にも支持層の不陸が思ったより大きい事実を報告しています(資料3:永田誠、大木仁、佐伯英一郎、桑原文夫「杭の支持層の不陸に関する調査報告」(その1)(その2)(その3) 地盤工学会学術講演会20052006)。

和田 建築学会でもいくつか基準とか指針をもっているわけですよね。

佐伯 そうです、色んなものがあります。鉛直支持力小委員会(桑原委員長)の研究活動では、先端支持力については私が担当しまして打ち止めのあるべき姿について提言しました。、九州の学会大会の基礎PDでパネルディスカッションもしました。「杭の支持層の不陸に関する調査報告」なんですが、その1、その2、その33報、出しています。新日鉄でNSエコパイルというクルクル回して入れる回転貫入杭を開発しその施工記録に関するものです。。排土がでないので「エコパイル」と言っています。

和田 鋼管杭ですね。今回問題になったのはコンクリート杭ですね。

 佐伯 そうですね。今回の杭はは穴を掘って杭を挿入するのですが、NSエコパイルというのはクルクル回してネジのように入れるんです。この場合、施工トルク[2]・上載荷重[3]・一回転あたりの貫入量がリアルタイムで計測できます。「報告その1」の図を見ていただくと、左がN[4]と称するボーリング・データ、続いてトルク、貫入量、上載荷重ですが、地盤が固くなるとトルクが大きくなるんですね(図2)。それで支持層管理をして、確認して値入れを確保することを施工管理指針にしてました。

 ところが、エコパイルの施工管理記録を基にしたコンター図をつくってみたら、土質柱状図を基にしたコンター(等高線)図と相当違うんです。報告その1の図をみてください(図3)。Aプロジェクト、Bプロジェクトと2つあります。上がボーリング・データ(N値データ)からつくったもの、下が施工記録データからつくったものですが、随分違います。したがって最初の頃、現場では大変混乱しました。Aプロジェクトは大きな現場で他の工区では他工法の杭が採用され、ボーリング・データに基づいて想定通りの長さで施工が出来たと聞きました。当時は「レベル止め」と言う長さ管理だったんです。我々の現場では、杭を逆回しして杭頭を地上に出して鋼管を継いで入れなおした箇所がかなり出てきました。長さ管理で打った工区の場合、支持層に届いてない可能性があるかもしれないと思いました。

 そこで、エコパイルを使った41例について、設計図書に設定された支持層、要するにボーリング・データによる土質柱状図をもとに設定された支持層とエコパイルの施工記録に基づく支持層出現深度を調べて比較をしてみたんです(「報告その2」)。ボーリングは平均的に1000㎡毎に1箇所実施されているんですが、施工してみた支持層深度にはばらつきがあります(図4abcdefgh)。

 和田 ひとつのグラフがワン・プロジェクトですか?

 佐伯 そうです。縦軸が頻度です。何mの深さで打ち止めた杭がが何本ありました、ということです。図4aですと10mの杭が10本ありましたということです。赤がボーリング・データです。ボーリング・データが1つしかない現場も結構あります。

 和田 図4aだとボーリングの深さは11mですね。

 佐伯 そうです。この場合、みんな11mだと思って杭の準備しています。そしたら、浅い場合も、深い場合もある。短くて良い場合は切ればいいんですがその当時は所定の深さまで入れるように言われていました。無理やり入れると、杭や機械が壊れたり、時間がかかったり無駄なことが発生しました。

 和田 11mがパーフェクトと思ってやってたんですね。図4bは、たまたま平均に近かったんですね。

 佐伯 図cはボーリング・データが2本あったケースですが、この場合は、2点を斜めに等高線を引いて、杭の長さを決めるわけです。図4dは、ボーリング・データは2本あったんですが、実際はそれよりかなり深かったんですね。図4g5本のデータがあったケースですが、このぐらいあると予測精度は高いかもしれません。

 和田 必ずしも埋立地だけではないですね。今度の横浜の場合も埋立地ではない。

 佐伯 この41例には、全国のマンション、オフィスなど色んな建物種別が含まれています。横浜は支持層深さのばらつきが大きい地域です。「杭の支持層の不陸に関する調査報告」(その3)は横浜のプロジェクトですが、小さな現場ですが7本のボーリング・データをとっています。横浜は杭の長さを予測することが難しく、この現場ではフーチングごとにすべての杭の支持層深さの調査を「ミニエコ」と称する小さい調査用回転杭により行いました。結果は7本のボーリングコンターとも随分違い、ボーリングでは予測できないことが分かりました。

ボーリング調査による支持層深度が全体の平均より浅い場合、図4deですが、「レベル止め」で施工すると杭先端が支持層より浅い深さで止まることになる可能が高いわけで、支持層に未到達というケースが考えられます。逆にボーリング調査による支持層深度が深い場合、安全側に作用するわけですが、当時は「レベル止め」のため、無理に入れることを要求される場合が多く、施工に多大な時間と労力がかかるという問題がありました。

 

 和田 パブリック・コメントは、「社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会中間報告(案)」に対する意見ということですが、どんなタイミングだったんでしたっけ。

 佐伯 姉歯事件の後で中間検査のあり方についてでだったと思います。。杭の施工管理に関してもう少し品質管理を制度化した方が良いのではないか、という提言です。

 和田 見えない支持地盤については、ちゃんとやらないといけないということですね。

 佐伯 そうです。そういう地盤があるということです。均質の地盤のところももちろんあると思いますが、ボーリング・データだけでは予測できない「不陸」のある地盤も多いということです。お施主さん、設計者、施工管理者にも知ってほしいと思いました。杭体及び根固め部の形状も検査対称にすべき、ということも提言しています。。

 

 

 支持層の設定

 和田 今回の国交省の「中間報告」には、そういう問題があるという記述は見えません。金箱さんは意見具申されたんですね。メモによると杭支持の考え方に3つあるということですが。

 金箱 僕のメモ(資料2)の前段の話になるんですが、杭には既製杭と場所打杭があって、今回の話は既成杭に限定される話ですね。場所打杭ですと、支持層を確実に把握して深い場合には、鉄筋を長くしてコンクリートを打設して、という対応が可能になります。佐伯さんのお話はなったエコパイルは回転貫入杭のひとつの種類です。既製杭には、埋込杭と打込杭と回転貫入杭の3つがあります。昔は、打込杭が主流だったわけですが、1本ずつ現場で打撃時の貫入量を想定しながら支持層へ打ち込んで杭先端の深さを決めますから、杭を打ち終わった現場へ行くと高止まりした杭が地面からばらばらに立ち上がっていて、実際の支持層の深さの違いが出ていました。埋込杭は施工時の騒音や振動が少ないということでその後主流となってくるんですが、埋込杭の場合、だいたい支持層を見極めて穴を掘りセメントミルクを注入し杭を埋め込みますが、杭の支持力は打ち込み杭に比べて小さく押さえられていました。ある時期から杭メーカーが先端支持力を大きくとれる高支持力杭を開発したんです。このこと自体は基本的にいいんですけど、問題なのは、実際の支持層の深さの違いに1本ずつ対応しにくいことです。試験杭については先端部の土を採取して確認することで支持層を確認してやるからいいんですけど、その後に施工する11本の杭については、深さの管理やオーガー掘削時の電流抵抗で調べるとい間接的な方法で支持層確認が行われています。埋め込みという原理から所定の深さに杭を施工することが行いやすいのですが、実施の支持層のばらつきに厳密に対応しているとは言えないこともあります。

 佐伯さんの説明された回転貫入杭も、ネジのように上から推しつつ回しながら埋め込んでいくんですけど、支持層に届かなければどんどん埋め込まないといけないわけですよね。逆に、所定の支持層に届いたら浅くてもそこで止めてもいい。

 和田 回転貫入杭はネジ、打込杭は釘の違いですね。

 金箱 杭の種類によって支持層に到達することの確認方法を考えないといけないと思うんです。但し、杭は支持層に届けばいいということではなくて、私のメモでは、先ずそもそも支持層とは何か、ということを述べています。地盤というのは、一般的には、浅いところに柔らかい地盤があって深いところにいくと固い地盤がでてくる。それを支持層とするわけですが、実際は、急に地層が堅くなる場合だけではなく、だんだん硬くなっていくこともありますし、硬くなったかと思うと柔らかくなることもある。さらに30m以上も連続的にやわらかい地盤が続くということもある。例えば、鹿児島のシラス台地では火山灰でできたN値(標準貫入試験の値)が1020程度の柔らかい地盤が続きます。このような場合、支持層をどこに設定するかということではなく、杭の先端をどの位置に設定し、どの程度の支持力を期待するのかということが問題になります。杭の種類と地盤との関係においてどういうメカニズムで杭が支持されるかをそれぞれ考えていく必要があります。横浜の問題は、杭が堅い支持層で支持できるという設定ですから支持層に到達したかどうかが問題になっているわけです。

杭の支持方式にはいくつか方式があるということをメモ(資料2)の冒頭に書いています。要するに、杭の支持はどのように行われるかということになりますが、杭に作用した鉛直荷重は、先端の地層で支えられるとともに杭と周囲の土との摩擦によっても支えられます。全てが先端の支持層によってのみ荷重を支持するわけではないのです。①荷重を先端の地盤の支持力でほとんど支持する場合、②荷重を先端の地盤の支持力とともに周囲の土との摩擦力によって支持する場合③荷重を杭周辺と土との摩擦力でほとんどを支持する場合があります。今回の横浜の場合は①に相当します。日本列島全体では様々な地層、地盤があります。それぞれの敷地や建築規模に対応してふさわしい杭の耐力、支持層を考慮しないといけませんそれをどう設定するかが設計の問題です。

大臣認定を受けている杭だからとか、一定の計算式に従っているからということだけで設計としては完結しているという意識が一人歩きするのは問題だと思います。

 和田 高支持力杭というのがそもそも問題だということはありませんか。コンクリートを流し込む埋込杭と断面積でどのくらい違うんですか。

 金箱 杭の断面に対して根固め部のセメントミルクの断面積は2倍から3陪ぐらいです。高支持力杭の先端抵抗のメカニズムとしては、先端部で地盤に力を伝える部分の面積が大きくなっているというものです。

 和田 地面の下はよくわからないのに、地上部と同じように本数を減らして組み立てるというのは、経済性の追求が優先されているんじゃないか、と思うんですが。

金箱 どんな杭を選ぶにせよ、地盤をどう読むか、どう判断するかです。ただ、地盤調査にはお金がかかります。地盤調査は、建築学会「建築基礎設計のための地盤調査計画指針」によると、地層構成が想定される場合は300~500㎡毎に1ヶ所、地層構成が想定できない場合は100~300㎡毎に1ヶ所行うとされています。これ以外には国交省大臣官房営繕部監修「建築構造設計基準及び同解説」などにガイドラインが示されており、おおよそ同じ程度の調査箇所数が示されていますが、法的に決まっているわけではない。

和田 お金がかかるといっても、地盤調査はちゃんとやるべきですね。

金箱 そうなんですが、法的には決まっていなくて、施主次第ということが現状です。調査の計画段階で設計者と相談して決めることが多いのですが、十分な調査は費用がかかることもあり、必要最小限の提案となります。途中で追加調査が必要と感じた時に建築主に理解してもらうこともたいへんです。

和田 エコパイルなんかの場合は、試験的に細い鋼管を捩じ込んでいけば分かるので、そうお金はかからない?

佐伯 そんなにかからないと思いますよ。

和田 施主に理解してもらって、どの工法を用いるにせよ、設計者が地盤調査を要求する必要があるんじゃないですか。

 

 現場での確認

佐伯 その通りだと思います。加えて、先端支持杭の場合、現場で、杭1本1本が支持層に到達したことを確認することは当たり前だと思います。先ほどの金箱さんの話のように、摩擦杭の場合は、長さ管理で良いと思いますが。

和田 横浜の場合の杭をみますと(図5)、ドリルで穴を開けて、杭を挿入して、それからセメントミルクを流して固めるんですよね。こういう埋込杭の場合、摩擦は見込めないんじゃないですか。打込杭の場合は、打つときにきゅっきゅっと入れていくわけですからその摩擦は期待できるんだけど、埋込杭の場合は後からの荷重に対しては摩擦は期待できるけど、引き上げる力に対する摩擦は期待できませんよね。地震なんかの場合、上向きに対する力が問題になるでしょう。

佐伯 各杭とも載荷試験をやって確認しているのでその範囲で摩擦を見込むのはいいんじゃないかと思います。

和田 先端が支持層にに行ってないというとどうなります。

佐伯 週面摩擦力も含めて杭の長期許容支持力は安全率を3を見ており、終局の周面摩擦力は3倍あります。したがって長い杭の場合は、摩擦力に余裕があり、先端支持力にあまり期待しないで良い場合があるかもしれません。むしろ短い先端支持杭の方が先端支持力が重要になりますので支持層に届いてないと問題です。杭の支持力の問題が起きているのは短い杭の方が多いと聞いています。

和田 径と長さの比も問題になるから一概に長さだけじゃないですよね。

金箱 支持層が不陸のあるような地盤では、想定と違っても支持層まで杭を到達させることが必要です。しかし、杭の長さが足りなかったら、追加の発注に2ヶ月かかるので現実的ではありませんし、今回の報道でもそのことが問題視されていました。1mぐらいの深さであれば基礎レベルを下ろせばいいのです。構造計算や確認申請がやり直しになると思うのかもしれませんが、軽微な変更で対応できるはずです。

佐伯 私の経験ですと、基礎を下げることはゼネコンにとっては結構大変なようであまりやりたくないようです。杭は切ったり継いだりも時間と労力がかかり今の制度ですと難しい面があると思います。

金箱 上の杭を新たに発注すると2ヶ月かかるということですけど、基礎フーチングの下端のレベルを下げればいいんですよ。

 

和田 基礎を伸ばせばいいといってもそう簡単じゃない、と言ってるひともいますよね。ぎりぎりで設計するということはやめたらいい。つなげないということはないんでしょう。既成杭の端部には鉄板があるので溶接すればいいんだから。

佐伯 部品を作れば繋げます。しかし、今は部品がないと思います。短い部品が。

和田 確かに! 既成コンクリート杭にはプレストレスが導入されていますが、1mや2mの短い長さでは上手にプレストレスは導入できません。

金箱 事後の対応が難しければ事前に考えておけばよく、地層には多少の「不陸」があると想定される場合には想定した支持層深さに対して長さ+1mの杭を用意しておいて、現場で対応できるようにすればいい。但しこういう考え方だと“不経済だ”、と言われることは予想されますけどね。

佐伯 支持層確認するためのオーガーの電流値というのは以前からあったんですけど、他にも必要なパラメーターがあります。回転トルクが電流値と相関し地盤の固さを表します。このトルクは杭を上から押さえる力(場合によっては引っ張る力)を大きくすると、同じ地盤でも大きく(小さく)なります。ですから、きちんとやるんなら押さえる力(引っ張る力)とトルク(電流)を両方測定して、きちんと管理をしないといけないんです。深度も正確に測られていない場合も以前は見受けました。「押さえるとトルクが上がる」というシステムでは駄目だと思います。そのあたりのことは最近の基礎の専門誌でも取り上げられています。

 

 大臣認定と設計

和田 金箱さんが、大臣認定を受けている杭だからいい、ということではないと言ったけど、全くそうなんですよね。

金箱 ただ少し誤解があるのは、杭の大臣認定には杭の支持力の計算式が認定されているだけで、施工方法は含まれていないのです。

和田 大臣認定というと、施主は安心するかもしれないんだけど、現場のことが理解されていない。姉歯事件がありました。横浜のマンションの工事はちょうどその頃ですが、姉歯事件の原因はお墨付きのコンピューター・プログラムを用いればいい、ということに発端があります。設計者も大臣認定のソフトを使っていればいい、審査する自治体や審査機関も大臣認定であればいい、ということになった。免振の東洋ゴムの問題も、大臣認定ということで、現場でチェックしない、実験データもきちんとチェックしない、といったことになるんです。設計者も、冷房の効いた部屋で設計していて、現場を知らないで図面の線を引く、大事な部分が他人任せになり、現場と設計が離れてしまうんです。

金箱 今回のことでゼネコンの方の話を聞きましたが、ゼネコンの場合、場所打杭だと自分たちで全部管理するという感覚がありますが、大臣認定の杭ですと、メーカーも限定されていることもあり、自分たちは書類確認でいいと思う雰囲気がある、というんです。

和田 大臣認定がなければ、すべての責任は関係者に戻るから、もう少し真剣にやるということでしょう。

佐伯 場所打ち杭の場合はゼネコンも管理するが既成杭だと杭屋がやる、という役割分担は、確かにありますね。杭屋自身がきちんとやらないといけない。

和田 設計者も杭屋メーカーに全部任せてしまうこともある。杭だけでなく、天井だってサブコン任せで、設計者から現場はどんどん遠くなっていってる。何かあるたびに、仕様や規定、計算式だけが複雑になって、サブコン・メーカーしかわからなくなってる。「制振構造」のシンポジウムがあって、これわかんないから手伝ってください、どなたが発言し、メーカの方が我々がしてあげると応えたら、昨年亡くなった構造設計の大御所の山口昭一先生が、お前達、何馬鹿なことをいうんだ、自分で考えろ!と怒られたのです。みんな手伝っちゃうから駄目ですね。

金箱 今回の「中間報告」で、一番違和感があるのは、施工管理、施工者のシステムが一番問題で、工事監理者が確認するということが強調されており、設計者と現場は切り離されている、関係ないということが前提になっているということです。地盤のことは最後は現場で確認し、そこで設計が完結すると考えることが必要かと思います。

 

 見えない構造

佐伯 「不陸」の問題については、杭を1本1本確実に打つこと、それを確認するということなんですが、もうひとついいたいことは、杭先端の根固め部の形状です。その確認の手法が余りにも間接的なんです。古い場所打杭の掘り出しに立ち会ったことがあるんですが、先端の状況は、所定の形状とは余りにもかけ離れた物でした。これは大きな問題になる可能性があると思います。

和田 今度の「中間報告」には、建築界の体制のことと杭の支持層到達の確認については振れられているんだけど、地震の場合などを想定した問題点は指摘されていませんね。

佐伯 そうですね。支持層への確実な根入れと先端の形状はそれにも関わります。地震で液状化が起こった場合や杭に上下の繰り返し荷重がかかった場合、杭周辺の摩擦が切れることや摩擦力が低下することもあり得ます。安全率は、短期で1.5みているんですが地盤によっては充分に余裕があるとは言えないかもしれません。

和田 阪神淡路大震災の時にも問題になりましたね。場所打杭の施工中にコンクリートが固まる前に水道(みずみち)があり地下水が流れていて、見えない地盤の中で鉄筋と砂利だけの切れてる杭があるらしい、安全率はみているといっても、確かめられないのは問題ですね。建築界の下請け構造も見えない部分があるんだけど建築構造にも見えない部分がある。

金箱 そうなんです。私の事務所で関わったプロジェクトで、都内の現場で埋め込み杭の施工をしたところ、水道があって、どうしても打てないということで杭の場所を移したことがあります。東京でも地面の下はいろいろあります。

佐伯 発注者が官の場合でも、杭の支持層確認や品質管理の重要性について理解している人は少ないと思います。したがって施工後の杭工事の「精算」の必要性が定着していないと思います。ゼネコンもお施主さんがお金を精算してくれないから、杭業者に追加の支払いが出来ない、ということも起きているかもしれません。だから「レベル止め」が一般的になっていたのかもしれません。

和田 無理やり入れてそろってるのはいいんだけど。

日本列島にはいろんな地盤があるわけだし。継げばいいわけでしょう。ただ、短いプレストレストコンクリート杭は意味がない。難しいですね。

金箱 そういう地盤の複雑さや杭の設計・工事の難しさが建築主を含めて一般に分かってもらえるといいんですけどね。建築界でもあんまり知られていないことも問題ですね。

佐伯 学会の委員会で問題にして、シンポジウムを行ったり、アナウンスしたりしたんですけどね。

金箱 土の中のことは、施工してみるまでわからないことが多いです。ですから、地層が不確かな場合は十分な地盤調査が必要で、建築主に調査をお願いします。ただ、構造設計者が直接クライアントに言う機会というのは、多くなく意匠設計者を介することがある。意匠設計者も意識を持つことが必要です。土のなかのことが建築の出来栄えにあんまり関係ないと思われているとしたら問題ですね。

佐伯 「不陸」についても、みなさんが実態を知ることが大切だと思います。。データを集めてみんなが真実を知れば、変わっていくと思います。

 金箱 ただ、繰り返しますけど、先端支持杭だけじゃないということも知ってもらわないといけないですよね。

 佐伯 ヨーロッパは超高層でも摩擦杭を使っています。摩擦杭も有力な工法で、場所場所によって適切な杭とその施工法を選定すべきと思います。。

 和田 そうですね。地震のことを考えても、自然の力をもう少し的確に把握することに努力し、自然を尊重することをアピールしないといけませんね。地面の下について、また、建築の見えない構造について、情報をオープンにしていく。地域がそれぞれ違うように、地面の下についてもそれぞれ違う。場所に即して、現場に立脚して、設計しようということでしょうか。 

(文責 布野修司)


資料1 「社会資本整備審議会建築分科会基本制度部会中間報告(案)」に対する意見

中間検査対象項目の見直しの提案

佐伯英一郎 2006年

 

 

今回の耐震強度偽装事件は建築の「見えないところ」に対する国民の不安を生じさせています。安全上最も重要な構造躯体は仕上げ材に隠れて余り見えませんし、鉄筋はまったく見えません。こうしたものへの国民の信頼回復が急務であると思います。

このような観点から、「中間検査の対象項目の見直しと実施方法」についてもう少し議論し、具体的方針を打ち出すべきであると思います。特に「杭」は耐震の観点から非常に重要であるにもかかわらず、「見えない」ために品質管理が万全であるとは言いがたい状況にあると思います。

現在、私は「回転貫入杭(商品名:NSエコパイル、以下エコパイルと称す)」に関係する業務を担当しています。杭工事に関して至急公的検査対象とすべき点を二点提案します。 

 

1. 先端支持杭の支持層管理と支持層への根入れ

エコパイルは施工中に発生するトルクと深度の関係を全数記録しながら支持層判定をし、その後所定の根入れを確認して打ち止めています。その結果、支持層には相当な不陸がありボーリングデータだけでは推定できない地盤も数多くあることが判明しました。この事実はまだ一般的には認知されていないかもしれません(文献1参照)。

打撃杭の時代は一本一本支持層管理をしていたのに反し、現在の埋め込み杭は支持層管理が充分に行われているとは言い難いと思います。したがって根入れについて管理されているか定かではありません。いくつかの埋め込み杭工法の施工報告書を調べてみましたが、ボーリングデータをもとに決定した長さ管理であると思われます。掘削の際のオーガー(掘削刃)の駆動電流値(地盤の固さをあらわす指標)は添付されていますが、不明確な物が多く、かつ時間との関係で表されているため支持層管理の報告にはなっていません。したがって支持層に届いていないものも無いとはいえないと思います。

先日、拡大根固め工法の施工状況を見る機会がありました。オーガーの電流値はオーガー先端が支持層に到達すると明確に上がります。深度が測定できるセンサーを取り付ければ一般的な地盤であれば充分に管理できると思います。

支持層確認方法は制度化し、公的検査対象にすべき重要なアイテムであると考えます。 

 

2. 現場造成杭の杭体及び根固め部の形状

上部構造の躯体は中間検査対象となっています。それに対して杭工事は杭本体や根固め部の形状確認の手法が余りにも間接的であると感じています。ある大手GCの現場で既存場所打杭の掘り出しに立ち会う機会があり、先端の状況を確認しましたが、所定の形状とは程遠い物でした。根固め部についてもいろいろ問題が指摘されています。

現在は超音波等を使った非破壊検査方法が大変に進歩しています。杭体及び根固め部の形状も中間検査対称にすべきではないでしょうか。

 

文献1)永田誠、大木仁、佐伯英一郎、桑原文夫:杭の支持層の不陸に関する調査報

告(その1)、(その2) 地盤工学会学術講演会2005

 


資料2 杭の設計と施工 現状と提言 

2015.11.26  金箱温春

 

杭工事の施工記録のデータ偽装・流用が行われていたことが明らかとなったが、このようなことはあってはならないことであり再発防止策は必要である。また事実は定かではないが、データ偽装があった建物において杭が支持層に到達しておらず安全性に疑問があるということが報道されている。設計長さどおりの杭の施工が行われていたことと適正な杭の施工が行われることの話が混同されている。建物にとって安全な杭をつくるために必要なことは何かを冷静に考える必要がある。工事の監視体制を強化すれば済むといった短絡的な対策ではなく、設計・施工のそれぞれのあり方や役割を考えてどのようにして杭工事が合理的に安全に行えるかを考えることが肝要である。

以下に、杭の設計・監理・施工に関しての現状と改善提言(アンダーライン)を述べる。

 

1)杭の支持方式の種類 -支持層とはなにか-

杭が鉛直荷重を支持するメカニズムにはいくつかの種類がある。

杭に作用した鉛直荷重は、先端の地層で支えられるとともに杭と周囲の土との摩擦によっても支えられるもので、全てが先端の支持層によってのみ荷重を支持する杭ではない。

杭が鉛直荷重を支持するメカニズムには典型的な形式として下記のようなものがある。

①荷重を先端の地盤の支持力でほとんど支持する場合

柔らかい地層が続き、下部にかなり堅い地層がある場合。今回の横浜の杭。

②荷重を先端の地盤の支持力とともに周囲の土との摩擦力によって支持する場合

ある深さから地層が徐々に堅くなっていく場合には、大きな摩擦力が発揮できる。

摩擦力を発揮しやすいように節を設けた杭を用いることもある。

この場合には、ある深さを支持層として明確な決められないこともあるし、先端の地盤は強固な層ではないこともある。

③荷重を杭周辺と土との摩擦力でほとんどを支持する場合

かなり深いところまで堅い地層がない場合には、ほとんどを杭と周辺の土の摩擦によって支持する杭を用いることがある。

この場合には、先端支持層は定義できない。杭先端深さを決めることができる。

 

2)地盤調査・杭の設計

設計に先立ち地盤調査が行われる。

地盤調査は、建築学会「建築基礎設計のための地盤調査計画指針」などに基づき計画される。それによると、地層構成が想定される場合は300~500㎡毎に1ヶ所、地層構成が想定できない場合は100~300㎡毎に1ヶ所行うとされている。

これ以外には国交省大臣官房営繕部監修「建築構造設計基準及び同解説」などにガイドラインが示されており、おおよそ同じ程度の調査箇所数が示されている。

地盤調査結果に基づき、地盤の状況と上部の建物の重さによって杭の種類や支持形式、長さなどを決める。

土の中は一様であるとは限らず、同じ敷地内で複数の調査を行った際に地層の状況が一様でないことがあり、そのような場合には杭の支持層もしくは杭先端として想定する地層の深さは位置によって異なることもある。

この場合には、同じ建物で杭の先端深さを変えることが必要となる、地盤調査を行っている箇所が限られているので、それらの中間の場所では地盤調査結果から地層構成を推定し、それぞれの場所での杭の長さを決める。必ずしも想定と実態が一致するとは限らないという難しさがある。

地盤調査は設計とは別に発注されることが多いが、調査計画には構造設計者が関わるべきである。

支持層が傾斜していることや地盤の不均一性が想定される場合は調査箇所を標準より増やす必要があり、調査の途中でも必要があれば追加調査を行う。

支持層が傾斜していることや地盤の不均一性が想定される場合は、杭長さの設定や許容支持力において余裕を見込み、施工時の調整ができるようにしておく。

3)試験杭

施工開始時には試験杭や試験堀を実施する。試験杭は実際の杭を利用して行う。

試験杭の本数は定められたものがないが、地盤調査が行われた付近で行うこと、支持層が傾斜していることや地盤の不均一性が想定される場合は箇所数を増やすことが一般的である。

杭先端付近の地層をサンプリングし地盤調査内容との整合を確認する。

同じ施工方法の杭でも地盤の状態により掘削のスピードや電流計の表示は異なる。対象とする地盤に対して、掘削時の抵抗や地盤と電流との関係を確認する。

 

工事監理者は試験杭には必ず立ち会う。構造設計者も立ち会うことが望ましい。

 

4)杭の施工

掘削を伴う杭の施工においては電流により土層の締まり具合を確認できるが、それだけで支持層を決定するのではなく、作業員が感じる掘削に伴う抵抗の感覚も判断材料となる。

支持層が傾斜していることや地盤の不均一性が想定される地盤での工事において、想定深さで支持層に到達しない場合は、杭施工者→元請施工者→工事監理者→構造設計者という情報伝達が必要。深さ2m程度までであれば支持層まで杭を深く施工し、基礎を深くすることで対応する。杭の変更をせずに対応できるので工期の問題は生じない。

1)で述べた荷重を支える形式の②、③の場合には地盤調査や試験杭で把握した地層状況を見極め所定の深さまでの施工を確認する。

工事監理者は試験杭には必ず立ち会うがその他の杭については立会いを行わないことが多い。

 

支持層が傾斜していることや地盤の不均一性が想定される地盤での施工に際しては、支持層が想定と異なる場合に付いての方策をあらかじめ決めておくことが必要である。

発注者が要望するのであれば、工事監理者は全ての杭の施工に立ち会うことになるが、費用は別途考慮すべきである。

 

5)施工報告書

施工報告書は、一次的には杭施工業者が作成し、が最終的には元請け施工者の責任で作成し、工事監理者が確認する。

 

デジタルレコーダーなど記録が残しやすいような機器を開発すべきであるが、現状では現場で輝記録が残せなかった場合の対応をルール化しておく。












[1] 委員は、委員長深尾精一(首都大学東京名誉教授)、副委員長小澤一雅(東京大学大学院工学系研究科教授)、委員大森文彦(東洋大学法学部教授・弁護士)、蟹澤宏剛(芝浦工業大学工学部教授)、時松孝次(東京工業大学大学院理工学研究科教授)、中川聡子(東京都市大学工学部教授)、西山功(国立研究開発法人建築研究所理事)、古阪秀三(京都大学大学院工学研究科教授)、升田純(中央大学大学院法務研究科教授・弁護士)の9名。

[2] 回転軸のまわりの力のモーメント。「ねじりの強さ」

[3] 杭頭部に作用させる押込み、引抜の力

[4] NN-valueとは、標準貫入試験(JIS A 1219)によって求められる地盤の強度等を求める試験値で標準貫入試験値とも言う。「質量63.5±0.5kgのドライブハンマーを76±1cm自由落下させて、ボーリングロッド頭部に取り付けたノッキングブロックを打撃し、ボーリングロッド先端に取り付けた標準貫入試験用サンプラーを地盤に30cm打ち込むのに要する打撃回数」。


2025年7月24日木曜日

建築時評:建築家の拠って立つ場所−多様なアプローチとその根拠,布野修司・宇野 求・木下 庸子・山梨 知彦・和田 章,建築討論001,日本建築学会,201404

 建築時評022014.03.14

 建築討論委員会 2014314日 日本建築学会会議室 17:0019:00

 https://www.aij.or.jp/jpn/touron/soukangou/jihyou002.html

 建築家の拠って立つ場所-多様なアプローチとその根拠

 

 出席者   布野修司

       宇野 求

       木下庸子

       山梨知彦

       和田 章

 

 

評価のスタンス-建築デザインとは?

布野 個々の作品(応募作品0306)についてはそれぞれ書いて頂くとして、応募作品を全体として議論しましょう。全体の印象、あるいはどういう視点で見るかというようなことをお話して頂ければと思います。まず、木下先生からお願いできますか。

木下 4つを見て、建築デザインとはなんだろうということをちょっと考えさせられました。04は、『新建築』でみたことがあるんですが、デザイン的にも以前から気になっていた集合住宅です。それ以外は、材料とか、バリアフリーとか、安心、安全だとか、ハード面の充実を中心に話が展開されている印象です。デザインよりむしろ、社会的なコレクトネスというか、そういう切り口で建築が語られているように思われます。

布野 日本建築学会は、学術、芸術、技術をうたい、様々な側面から建築にアプローチしてきているわけですよね。構造、材料、エンジニアリング部門もあれば、計画、デザインの部門もある。03の老人ホームについては建築計画委員会が取り組んでいるテーマですよね。

木下 わかります。さまざまな評価軸が存在するなかで、私自身の評価のスタンスを申し上げたとご理解ください。

布野 建築の評価は多様で多面的であるべきで、評者のスタンスを鮮明にすることは大事だと思います。私も04は気になります。しかし、随分余裕のありそうな作品ですね。

木下 そうなんですよね。かなりポーラスに出来ている。大都会では可能でない、地方都市だからできる集住のあり方に興味を持ち、共感しました。中と外が交互に存在する住宅は面白いし、住み心地もよさそう。ただ、中庭の使い方がちょっと見えにくく感じました。

布野 中庭は、何か起こりそうな雰囲気がある。しかし、「都市をつくる」というんですが、何世帯ですか?8世帯ですね。何か施設が入ってるんでしょうか。アパートといえばアパートなんだけど、長屋(ロンングハウス)じゃない、長屋は一般的には連棟形式をいうと思う。タイトルは甘いかなあ、キャッチコピーとしては?

和田 こういう建築、私が住んでいる場所の近くにもあるんだけど、多分有名な建築家の作品だけど、庇がなくていいんですかねえ。日本のような雨の多いところで、あとあと困らないんですか。汚れるし。

木下 まあ・・・雨の日はつらいでしょうね。庇はつけずにスキッとしたかったんでしょう。05は、窓と床の関係など断面的には面白いところもあるけれど、形態は法規を忠実に表現した結果という感じ・・・、方位が表示されてなくても、形態から読み取れる。

宇野 限定された条件の中で面積を最大限有効に確保しようとすると、外壁を沿道に寄せて中庭をインテリアに接して配しますから、こうなりますね。

木下 06の正面ファサードのシンメトリーと大屋根は、少なからず前川國男自邸を意識した結果でしょうか。空間的には全く違うけれど。木という素材の使い方には好感をもちますが、木の存在感が強すぎるせいか、デザイン意図が見えにくい。

山梨 デザインというのは確かにいろんなアプローチがある。空間をデザインするというけれど、部分的なエレメントからデザインするとか全体から発送するとか、方法は様々あるんだとおもいました。ただ、社会に対して何をアピールするかという視点が大事だと思います。そのためには、建築家は拠って立つところをはっきりさせる必要がある。何を根拠に表現しているかですね。そうした意味で、04は拠って立つところははっきりしている。しかし、これだけクローズでいいコンテクストに置かれているのか?周辺のいろんなが見えないのが問題だと思います。

布野 04は、これがプロトタイプになるんだとしたら、どう建ち並ぶ並ぶかという問題ですね。

山梨 そうですね、コンテクストが語られていないことで、この作品の本質が語られていない気がします。「都市をつくりたい」といいながら、これだけがコンテストから浮いたスタンド・アローンに見える。意外に郊外にしか建ちえない形式かもしれない。05が唯一敷地の状況が読み取れますね。限られた敷地に可能な限りの空間を確保するうまい解答かもしれない。意外にありそうでないかもしれない。これを突き詰めてやってるのが安藤忠雄さんだから、新味はないかもしれない。ただ、周りに対して、これまた閉ざしてしまってる。

布野 隣地との境界に塀を建てていないのがいいかな?敷地境界線を突破する工夫がみたい。

宇野 典型的な旗竿敷地ですが、間口の取り方と境界の位置に工夫があります。

山梨 06は完全にエンジニアリング的な提案だと思いますが、肝心の構造壁がどうなっているかが分からない。木造を露わしで使うのは日本建築の伝統だから、あらわしの構造壁ならば見てみたい。

宇野 僕は、「建築学的多様性」といっているのですが、色々な建築を認める立場です。創る立場として、もちろんハイ・エンドな建築も好きですが、人のテイストは色々あるわけで、多様な建築を認めたい。03については、ごく普通に考えて、施設として、近所にこういう老人ホームあるといいよね、ということでしょう。シビルミニマムというか、ある程度の機能と要求を満たしている建築だと思います。作品にはならないと設計者は説明文に書いていますけれど、投稿したいという気持ちは、よくわかります。建築文化的な意味で突出していなくても、一生懸命、丁寧に作られていることが大事なのだと思います。04の建つ高崎市のこの40年ほどの経緯を見ていると、自動車がないと暮らせない街を造ってきたといえると思います。新幹線の駅前だけはマンションが集まって徒歩での生活もできなくはないけれど、それ以外のところではすべて移動は車です。それが,高崎のアーバンコンテクストでしょう。作品は、8戸の集合住宅ですが、プランに車が4台しか描いてない。本当のところは、どうなっているの分からない。デザインとしては上手だと思いますが、一点いえば、この辺りは地盤がよくないでしょうから、杭と基礎に相当コストがかかっている。とても重い建築をここに造る意味やコンクリートでつくる意図について設計者に聞いてみたいと思いました。

和田 そうだねえ。かなり過剰かなあ。

宇野 05の吉祥寺の住宅については、こうした旗竿敷地の条件下で、青木淳さんとか千葉学さんがぎりぎりの条件で非常に完成度の高い解をすでに出していますね。それからすると、全体的に少し余裕があるため、設計のつめ方が緩いのかなという印象ですね。06については、自分の仕事が論評される適当な媒体がないと書いてられる。やっているのは、合板ではなくて地元の材を使って、板材を固めて盤にして組み立てるという構法です。これはこれで興味深い。内部空間としても質感にこだわりがあって、それなりに成功しているのではないか。建主さんも満足しているのではないか。正面のシンメトリーが強く平面が固いかなという印象はあります。

布野 私は、地(グラウンド)を作っていく建築と図(フィギュア)を創っていく建築をわけて考えるんです。それぞれに個の表現を追及するのは前提ですが、図をつくっていくのは、街なり村なりのベース、スケルトンに関わる。そこでは「型」を問題にします。研究事として、一貫して関心をもってきたのは、都市組織建築類型なんです。05については既に「型」になっちゃってる。これでいいのかという感じです。「型」といえば制度と裏腹ですね。現実を規定する「型」を超える「型」新たなプロトタイプに興味があります。03の老人ホームも「型」なんですけれど、制度がそのまんま自己実現している印象があります。空間の「型」になっていないんじゃないか。04は、新たな「型」になる可能性を持っているんじゃないかと直感的に思います。06は、構法的にひとつの型になるかもしれないと思います。建築生産システムを再構築するかは大テーマだと思っています。前回の二つ0102についても同様に思います。和田先生、0306如何ですか。

和田 それぞれ、言われていることにその通りだな、と思って聞いてました。興味あるのは景観ですね。この間、岩国に行って、江戸時代からの街並みを見たんですけど、すごくそろっててコントロールされている美しさを感じたんだけど、今の街をみていると、ごちゃごちゃしてて、みんなが好き勝手にやってる。どうしたらいいですかね。奈良の県庁辺りはいいんだけど、近鉄辺りに来ると、しっちゃかめっちゃかになっている。それぞれ一生懸命やってるんですけど、奇麗じゃない。

布野 一応、都市計画としてコントロールがなされてるんです。奈良ですと、美観地区とか風致地区がかかっている。最近ですと、景観法もあります。ただ、宇治市で都市計画審議会の会長を10年ぐらいやりましたけど、色々問題があります。街並み景観をめぐってはまた議論しましょう。個々の作品評はそれぞれお願いします。

 

東京オリンピックというテーマ-日本は何処へ

布野 さて、「第一回けんちくとうろん」(2014225日)では、「公共建築はだれのものか」ということで議論したわけですが、大きな話題として東京オリンピック新国立競技場をめぐって議論になりました。山梨さんは、実際に設計に関われているわけですが、具体的には話せない状況ですね。

山梨 はい、守秘義務があります(笑)。

宇野 国会で予算が通っていますから制度面と実務面からいえば、その枠内でやるしかない、ということだと思いますが、ザハの案をそのままつくると、実際のところ、コストが合わないでしょう。ですから、いずれ実行可能な代案がいくつか出されるのではないかと思います。

布野 和田先生は専門委員として審査に関わられたわけですが、ザハ・ハディド案しか構造的には可能ではないとお考えですか。

和田 あくまでプログラムを前提として、構造的要求水準を充たすという観点からですが、あと他の案では、伊東豊雄さんの案は可能性があったと思います。槇文彦先生の提起された問題は大いに議論して頂きたいですが、二年前に国が出したスペックに何かが言えたかが問われますね。構造エンジニアとしては、与えられた条件の中でベストの解答を出してもらいたいと思っていて、山梨さんのチームに期待しています。新国立競技場の問題は、今年の学会の大会で議論するんです。

布野 開閉式の屋根ということですけど、今年のドカ雪もあったし、議論すべきことはありそうですね。

山梨 新国立劇場の問題はおくとして、気になっているのはオリンピックのテーマが議論されていない。オリンピックは何のためにやるのか。オリンピックを辞めてしまえという議論は一杯あるんですが、国として国際公約した以上、何をテーマにするかを2014年は議論する必要もある。オリンピックそのものを、今の東京の中で、そして日本の中でどう位置づけるか、その前後をどう橋渡しするか、そういう大きい議論が必要だと思います。景観論も大切ですけど、オリンピックをどうするか、ですね。オリンピック景気に浮かれて、インフラに膨大なお金を使うおうといったような乱暴な議論が今後出てくると思うんですけど、その前にテーマを見据えなければいかないのでは?・・・

布野 もう出てますよ。今日午前中、テレビで予算委員会を見ていたら、環状線をつなげてください、と議員が質問していました。一方で巨大なお金を使うなという議員もいましたけどね。

山梨 オリンピックをドライビング・フォースにして、建築をどういう方向にもっていくか、東京をどういう方向にもっていくか、を議論する必要がある。

布野 同感です。前回の建築討論委員会(2014113日)でも、東京の都市計画をどう考えるかがが問題だという話が出ました。

宇野 日本では、建築家と建築技術者は、大きくても小さくても敷地内で敷地に与えられた制限の範囲内で建物を設計する仕組みになっています。「公共建築は誰のものか」といえば、本来は、税を払っている住民のものなのでしょうけれど。そして、これもまた本来は、議会は納税者代表が集まって税の使い道を審議する場でしょう。しかし、実状は、建築計画、都市計画ともに役所が起案企画して外部発注して公共建築が造られています。建築家でなくとも、たとえば、いわゆるコンサルやデザイナー、あるいは代理店がコンセプトを提供し、絵を描いて、それをもとに積算の図面を設計事務所が引く。そのままでは建たないのだけれど、優秀なゼネコンが建ててくれる。建築や都市プロジェクトがそうやってできちゃう。建築家や建築技術者をインハウスで抱える必要はなく、発注者にとってとても便利な社会になってしまっています。全体的に調整調和のとれたまちづくりにはならず、ちぐはぐな公共建築が地域計画都市計画とのかかわりなくできている。不都合なところが多々ありますが、批判ばかりしても始まらないので、ネクスト・ベストというか、今の状態を所与のものとして、どうしたらより健全でよりよい造り方ができるのか、前向きの議論に持って行きたいと思います。同時に、山梨さんがいう理念やヴィジョンを議論することはもちろん大事だと思います。21世紀をわれわれはどう生きていくのかという原点から再考することが望ましい。

山梨 今、旗印が見えないから、もし何をつくればいいか見えてくれば、それをめぐって議論も起こるし、評価も違ってくる。

宇野 いまの建築界は、ものいえば唇寒しというか、ここはあまりものを言わない方がいいといった雰囲気があるような気もする。いいことではないですよね。よりよい方向と方策を見定めるためにも、異なる意見をかわして議論を続けなが前に進むようにしたいものです。

布野 僕は、東京の今後を考えるために、まず、東京オリンピック1964の直前まで帰ってみたらと思うんだけど、「第一回けんちくとうろん」で松隈さんは、1936年の東京オリンピックまで帰っちゃった。確かに15年戦争期の大東亜共栄圏の首都・東京も今日的には時代の雰囲気のような気もしないでもないんですが、・・・まずは、原発ゼロ、高速道路ゼロ、超高層ビルゼロに立ち返って、2020とその後の半世紀を展望したらどうか。

宇野 僕は、それはもう20世紀中に出してあるんです。

布野 え、それちょっとしゃべってよ。具体的な東京計画について議論した方が面白い。

宇野 仮設と常設を組み合わせる、建築とインフラをマージ(統合)する、自律分散的な修復ネットワークをつくる、都市農場を臨海部につくる、などなど・・・岡河貢さんと発表した「TOKYO計画2001」で、アイディアをまとめました。

山梨 そうなんですよ。絵を描くというとすぐ都市のハードウエアを造ろうという発想になる。僕らは既にインターネットの世界にいるんだから、そのネットワークのほうが可能性がある。環状線の話にひっかけると物質的にネットワークにならなくても、交通制御システムをつくりあげることは可能なんだけど、いざオリンピックで巨大な投資が期待されるとハードウエアの話に戻っちゃう。半世紀前には、スマートフォンの「乗換案内」のアプリをみて電車に乗る人なんか想像すらできなかったわけでしょう。

布野 もうひとつ、オリンピックを契機にこの際、高速道路をとっぱらえ、という動きが日本橋である。こういう動きはいいんじゃないかと思う。東京の歴史の層を掘り起こしてみる、東京オリンピック1960に戻ってみるというのはそういう意味なんです。宇野先生がずっとまちづくりに関わっている日本橋ですが、小泉内閣の時に、小池百合子環境相がソウルの清渓川再生をみて、提案してちょっとした騒ぎになりました。1960年に戻って考えるという意味では、日本橋の上の高速道路をとっぱらうというのは象徴的ですね。しかし、高速道路をとっぱらって、環状線もそのままでいい、交通制御は可能というわけにはいかないでしょうね。防災を考えると、巨大地震が起こったら車が立ち往生して、大変なことになることは考えておかないといけない。

和田 東京も盆、正月は、住んできれいになる。地方から出てきた人はみんな地方に帰ればいいと思うけど、どう。

布野 それは東京っ子の和田先生が言わない方がいい。けど、要するに東京一極集中の構造をどうしたら転換できるかということですよね。それはこの間一貫する問題ですね。東京一極集中のほうが効率がいい、資本の論理としては。仕事があるから人が集まって、平均収入も日本で一番高い。オリンピックは財政力のある東京でしかできない。なおかつ東京に投資するという構造ですね。

宇野 日本の特殊事情があります。中央官庁が集中しすぎている。官庁が許認可権限をもっているから霞が関に近い方がビジネスしやすいので、企業も集中してしまった。また、台頭するアジアのメガシティを考えると、国際競争力のある東京に集中した方がいいということに、どうしてもなりがち。

布野 地方分権、地域再生自立といいながらそう動かない。巨大なメカニズムというか、運動ですね。しかし、地域分散のネットトワークシステムを実現していかないと地球は持たないと思う。資源問題、食糧問題、エネルギー問題、環境問題・・・を考えるとね。原発問題については、人類の歴史と能力を考えると制御不能だから、断念すべきだと思うけれど、産業界は50ヘルツ、60ヘルツ、100ボルトの安定した電力が欲しいという。

宇野 エネルギー問題といっていますが、それは、つきるところ、ライフスタイルの問題で、なにをして食べていくのか、ということでしょう。歴史的世界的に最高水準の生活を営んでいる現在の日本社会のこれからは、価値を生み出して財とする新しいビジネスモデルと多様なライフスタイルが鍵ですから、必ずしも大量のエネルギーを要さないでも済むのではないかと思いますし、そういう方向を探るのが得策だと思います。

布野 この間、株式会社エナリス池田元英さんに来てもらって話を聞いたんです。「エネルギー情報化とスマートグリッド関連ビジネス」というんだけど、実に興味深かった。若いんですよ、40代前半なんです。発電もするんですけど、売電、買電、電気の売買の調整するんです。大型のマンションなどから風水力発電まで扱って、上場するまでになった。電力量予測をするんです。気象予測もする。人がどう動くかが鍵だという。まあ、ビッグデータを扱っているということなんですけどね。言いたいのは、再生可能エネルギーを調整制御して使っていく技術は既にあって、実用化もされているということです。

宇野 そういう動きについて、これまで政府は熱心に後押ししてこなかった面があります。これからは、効果的な方策をうって、こうした動きを促進すべきです。

 

この国の構造欠陥!?-東日本大3周年

布野 東日本大震災3周年ということですけど、動きませんね。和田先生、地盤工学会と共同企画討論をされてリーフレット(『東日本大震災と向き合う』和田章・龍岡文夫・座庫小田・末岡徹2014315日)を出されていますけれど、いかがですか。

和田 いつも言うんですけど、なんでみんな同じパターンなんでしょう。嵩上げして木造住宅を建ち並べる、高台に島のように木造住宅団地を建てる。シンガポールの南端の町とか、シカゴの湖畔の超高層があって、高速道路が走って、広く公園があって市民はジョギングしてるという、ああいう街なら、津波が来ても平気なのに、なんで、同じように木造の昔風の建物が建ち並ぶそういう景観を目指すんでしょう。三井所清典先生(建築士会連合会会長)は、伝統的街並みの再生という方針でしょう。昔に戻そうというのは何故かなあ、とずっと思ってるんです。布野先生は、多様な解があっていいっておっしゃってるでしょう。最近の若い人は高層、といってもせいぜい10階、15階ですけど、そういう住み方をしてるわけだから。

布野 多様な解があっていいと思います。日本の戦後の団地だって、ウォークアップ可能で5階建て、階段室共用のバッテリー・タイプということでやってきたんですけど、モデルにした北欧では、高層にした集合住宅の周りに広い緑地をとるという方針でした。要するに「型」、まちのかたちが問題なんです。

和田 それと、最初は高台移転とか、防潮堤が必要といっていた人が、住んでいた場所に居させてあげたい、防潮堤は要らないなんて言い出すのはなんででしょうね。1000年後に津波が来たら、今度は助けませんよ、ということでやってもらわないと困りますね。先日、確定申告に行ったら、最後に2パーセントぐらいとられるんですよ。復興支援ということで。みんながサポートしていることを忘れないで欲しい。

布野 今度のような大津波が来ても誰も死なない、というのが原則だと思います。「フクシマ」は全く別ですけど。はっきりしているのは物理的に防ぐのは不可能だということです。高台移転にしても、これだけ長引くと、当初から予想されたことですが、合意形成できていたのに、一人かけ、二人かけして、計画自体がなりたたなくなるケースがでてきてる。非常にまずい状況ですね。宇野先生は、つい最近、被災地を回ってこられたわけですが、いかがでしたか。

宇野 犠牲者が概ね2万人、仮設居住ほか他県などへの避難者数がおよそ30万人といわれています。未曾有の被災ですが、日本の人口は13000万人もいますから、国民皆で支援すれば、割合(30/13000からいって、より円滑でスピードがあり適切な復興も可能だったと思います。しかし、3年もかけて復興が進んでいないのは、社会システムに問題があるからでしょう。社会システムの設計が実状現状に適していないので、エラーとバグが続出するのだと思います。都市(計画・設計・建設・経営の)システムにも課題が多々あります。加えて、非常時に平時のそれを援用したため、機能不全を起こしたといえるのではないかと考えています。誰がいいとかいけないとか言うのではなく、現時点でうまくいっていない部分を、部分部分からバグを取り除いて修正するといった、現実的な対応がいまは大事なのではないか。現実と理想とを突き合わせて、これでは駄目だ、駄目だといっていても始まりません。復興の現場では被災者の方々が依然としてたいへんな不自由をしている。現状を見据えて具体的に前進できる対応をしていく必要があります。一方で、中南海、南海大地震の可能性に対して備えることは大切ですが、東日本大震災に対応できなくてより大規模な被災の対応をできるわけがありません。被災者の皆さんは東北が忘れられていくのではないかと思い始めている。そういうことがないように、専門家としては支援を続けるとともに世間に訴えることも必要でしょう。

布野 この間、中国支部のシンポジウム(平成25年度「中国支部研究発表会」同時開催事業「地震,戦争,大災害と建築」・石丸紀興(広島諸事・地域再生研究所代表,広島大学名誉教授)「原爆と戦後復興関連」・杉本俊多(広島大学教授)「ドイツの近代建築と戦争関連」・武村雅之(名古屋大学教授)「科学技術と防災-関東大震災から学ぶ」・布野修司(滋賀県立大学教授)「戦後復興と東日本大震災復興」)に呼ばれたんだけど、司会の、先ほど名前が出た岡河貢先生が「これから被災地に行こう」と呼びかけてました。被災地の問題を地域の問題として受け止めるのは当然なんだけど、被災地支援は息切れしてるんじゃないか、という。実際そうです。滋賀の方から被災地支援というと結構大変です。第一に旅費がかかる。陶器浩一永井拓生先生、それに宮城大の竹内泰先生の気仙沼の大谷地区の支援ということで、総務省の「域学連系」というプロジェクトを獲って、去年は「浜の会所」を建てたんですけど、これから長期にわたって維持していくのは結構大変なことだと思っています。当該自治体も大変なんです。莫大な予算がついてそれをこなすだけで精一杯。人手が足りない。どう持続的に支援体制を組むかが問題ですね。学会の取り組みも少し息切れしてるんじゃないか。

木下 地震が起きた直後から、フットワーク軽く動けないような仕組みがあると感じてきたんです。私もこの一年半ほどアーキエイドとして釜石復興公営住宅に関わっているんですけど、当初の予定どおりには全く進んでない。1年かかってようやく3戸が完成し、入居が済んだという状況。当然、今建設中のものもありますが、スピーディーにこなすには仕組自体から考えなくてはならないと感じてます。皆考えは同じ方向を向いているんだけど、どうもスムースに回っていかない。

宇野 建築家たちが考慮すべきことに財源の問題があります。実は財源が無い。たとえば、陸前高田では、公共(的)サービスを提供する仮設建築、復興建設が多少なりとも進んでいる公共建築は、その財源がNPOとかシンガポール政府とか企業の寄付とかの外部資金が多いようでした。公的資金つまり税を投入しようとすると、その執行において制約がとても大きく、事務手続きが煩雑かつ大量にあって、使い勝手がよくない、それも事業毎に書式手順基準がまちまちで事業相互の連携など弾力的に計画することができない・・・そこに大きな問題があります。

木下 そうなんですよ。手続きにも時間がかかりすぎる。平等と公平に則った仕組みが、結果としてかなり足枷になっている。

山梨 それと工事費が上がっちゃってる。僕もアーキエイドの事務局をやってるんですけど、計画がまとまっていざという時に、結局工事費があわないんです。つまり、きれいごと言ってるんだけど、群がってる人たちがいて、利権が発生する構造がある。建築家側が理念的に提起しても、造る側が旧態然としている面がある。それがここ一、二年で見えてきているんだけれど、政府もわれわれも何もしてこなかった。その構造が足枷になってるんですね。新聞もあんまり書かない。

木下 そうそう。入札不調を繰り返せば、工事予算はその都度あがるわけだから・・・

山梨 一部の施工者は、建築家を追い出したいわけです。旧態然たる構造側としては。アイディアだけもらっちゃってね。

宇野 地場の建設会社に直接アプローチして信頼されたならば、もっとうまくいったかもしれませんね。残念なのは、旧来の社会構造を介してアプローチしたというところなのでしょうか。

山科 僕は大きな組織に属しているから、住宅の設計をうまくやれるとは思わない、僕らが担うべきは経済基盤をつくることだと思うけれど、未だにできていない。高台移転にしても、移転する人たちがどうして食べていくか何にも無い。

布野 高台に限界集落をつくるだけだ、という批判は当初からある。

山梨 「フクシマ」が象徴的ですが、震災当日の東京で学んだことは、実は東京と「フクシマ」は密接に結びついていた。東京では一棟も建物は倒れていないのに、東京の交通は完全にマヒをして、僕らは歩いて帰らないといけなかった。そして、まったく無縁のように見える東北の各地と東京は、魚や野菜のような小さくはあるが多様な結びつきを持っていたことを、震災後の生活の中で実感していったわけです。ほんとは経済学者が提起すべきだと思うんですけど、東北に経済基盤をつくる、というのが一番かけている。先ほど東京オリンピックのテーマの話をしましたけど、オリンピックと東北の復興を結びつけて大きな話をすべきだと思うんです。東北のディスクリートな地域のミクロな経済基盤と東京をどう結びつけるかという視点ですね。そこにオリンピックのテーマもありそうな気がしています。

宇野 僕は、当初から提案しているのですが、東北の復興と将来ヴィジョンは、ノルウエイをモデルにするといいと考えています。北国の広大な土地を少ない人口で民主的合理的に統治管理経営している彼らの社会システムに学ぶのが適切だとも思います。水産加工業、ワンストップの交通インフラネットワーク、観光資源として自然物の価値を高めて観光産業とするノウハウ、都市とは異なるライフスタイルなどなど、学ぶべきところが、たくさんあります。

山梨 でも100年以上も前にもじつは、そういうシステム、東京と東北のつながりはあったんですよ。イザベラ・バード『日本奥地紀行』(東洋文庫、全4巻、金坂清則)を読み直してみると、東北は一見悲惨なんだけど、東京とつながって成立している経済基盤の存在も読み取ることが出来る。あの時代にでもできていたことなのだから、もう一度そこを掘り起こしてみる必要がある。それは北欧のディスクリートな漁村のモデルとも繋がるんじゃないか。東北の経済構造を浮彫りにして、問題にすべきです。

布野 経済学の先生方も、建築学会の例えば農村計画の先生方も色々提起されているんだけど、表に出てくるのは、とにかくアベノミックスで、実体経済というより、為替と株と証券のヴァーチャルな操作による経済政策だけに関心が集まってる。

和田 文部科学省の復興プロジェクトで小学校の復興について、長沢悟先生、小野田泰明先生にお願いして学会はお手伝いしてきてるんです。昨年、石巻に行ったんですが、ようやく三つぐらいの学校を合わせて復興したんですが、浜と浜の間が意外に仲が悪かったりするんですね。そういう問題もある。

 

世界建築の行方-リヤドとハイチ

布野 その他、最近の建築事情はどうでしょう。山梨さん、外国へいかれてるんでしょう。

山梨 最新の建築デザインのヴィヴィッドな状況を見に行ってるわけではないですけど、興味あるのはリヤド(サウジアラビア)ですね。建築家はバブリーなところに集まるわけですが、ものすごい建設ラッシュですね。すごい量のオフィスが建設されていますが、需要は10分の1も無さそうに思える。石油が枯渇する前に、第二のドバイを建設してしまおうと狙ているかのようです。

布野 舛添新都知事は、東京をドバイに!とか言ってるようですが、大丈夫ですかねえ、ドバイは崩壊直前に行ったことがあるんですが、ロシアの富裕層が投資してたんですが、一体何処のマネーを呼んでるんですか。

山梨 石油で設けたお金がけた違いにあるはずです。は非常にすごいオフィスビルができていて、これから世界中から人を呼ぼうという、そういう順番ですね。とにかくお金は有るものの、これまであんまり開発してこなかった。ドバイは投資を呼び込んで開発したんですけど、リヤドは自らのお金でつくれちゃう。つくってから人を集めようということが起こりつつある。一方で、ムスリムの国だからパスポートがとりにくい国でもある。そういう国で、今後どういうことが起こるのか、興味芯々なんです。

布野 中国、インド、そしてアフリカかなあと漠然と思っていて、学生にはインドに行きなさいとけしかけてます。実際、スタジオ・ムンバイとか、ドーシのところに行ってる子たちもいるんですよ

山梨 そうインドでしょう。それからミャンマー、だけどミャンマーはマーケットが小さい。バブルがどうアフリカに軟着陸するか少し興味がありますね。

布野 建築家として具体的な名前があがりますか?こいつは面白いぞ!という建築家。

山梨 具体的な名前は出ないですが、スペインが終わって、これからは南米じゃないですか。スペインは素材感あふれる建築をつくる建築家が一杯いますよね。建築雑誌を開けば嫌というほど出てきてた。

布野 へえ、知らなかった。この半年、セヴィーリャ大学から学生が三人着てて楽しくつきあったけど、スペインでは就職が厳しい、日本で働きたいって言ってたけどね。ひとりは藤本壮介のファンだと言ってた。

山梨 だから、次は南米で同じことが起きるんじゃないかと思ってるんですけどね。

布野 和田先生は、地震で中国へ随分行かれてましたけど、最近はいかがですか。

和田 この前、ハイチに行きました。

布野 ハイチも全然復興してないですね。どうなってるんでしょう。

和田 人口が一千万人。島の西半分がハイチで、東がドミニカ共和国です。首都の200万人のうち30万人が亡くなってしまった、大変な災害です。

布野 ポルトープランスですね。

和田 もともとテントやトタン屋根のような家に住んでた人は大丈夫だけれど、15センチ角のコンクリートの柱にブロックの壁をつめたような家が壊れて、多くの人々が亡くなった。カテドラルがハイチ全体で11あって、首都にあったのが壊れて壁だけしか残っていない。二つはヒビだらけで、どうしたらいいかということでアドヴァイスに行ったんです。バチカンから派遣されてきた人がいて、お金はあるんです。東日本大震災の場合、津波の映像は流れるんだけど、あんまり悲惨な場面は流しませんよね。ハイチの場合、生々しくて、最初は瓦礫の下から声が聞こえているけれど、次第に聞こえなくなるとか、聞いてきました。とにかく貧富の格差が激しい。

宇野 日本で悲惨な場面を出さないのは自主規制でしょうか。ニューヨークタイムズなど外国メディアは、遺体の捜索、安置、埋葬の現場もリアルに報道していました。

和田 四川地震の場合も、亡くなった人の写真があって、残された家族はどうなるんだろう、といったコメントがその画面についていたりして、生々しいんです。

布野 いま、滋賀県立大のヒメネス・ベルデホ、ホアン・ラモン芦澤竜一、そして森田一弥の三人の先生がフィリピンセブ、ボホール、レイテに行って、復興支援を考えているんですが、あんまり日本で動きがありませんね。台風と地震で相当のダメージなんです。教会もかなり被害を受けています。レイテタクラバンは未だにテント生活で、計画ができていないんです。

和田 ハイチでもいろんな問題があります。アメリカは援助ということで米を配給するんだけど、もらうほうが楽だから、ハイチの人は作らなくなっちゃう。80%は無職なんですよ。アメリカは援助によっていうことをきかせようということですね。

布野 リヤドハイチ、両極端の世界がここで話できるのもすごいですね。僕は、スペイン植民都市研究ということでキューバと隣のドミニカ、2回カリブに出かけましたけど、ハイチ革命1804年ですが、フランス革命の影響を受けた最初の黒人革命、カリブ海最初の独立国なんですけど、その後、苦難の道を歩んできてますね。

山梨 さっきリヤドのことを話しましたけど、イスラーム圏というのは日本から一番遠いじゃないですか。そうした中でアジアでは仏教と出会うインドネシアが注目されるんじゃないかと思うんですが、いかがですか。

布野 インドネシアには30年通ってるんですけど、僕も当初はイスラームは遠かったですね。実はムスリム人口が世界で一番多いのはインドネシアなんです。ただ、西アジアのイスラームからみると、堕落したイスラームと見られている。基層文化が違うし、気候も違う。まず、インド化があって、その上にイスラームが乗っかってます。一神教と八百万のヒンドゥー、仏教との関係は面白い。話せば切り無いですが、現在再び光が当たりつつあるように思います。とにかく資源がある。今、中間層が育ってきてて、インドといい勝負かもしれません。

山梨 いやあ、布野先生の仕事のことを思い出したらインドネシアを思い出したのですが、意外とインドネシアが台風の眼になるかもしれない。新しいコンセプトが生れるような気がするんです。また、色々お話をうかがいたいです。

布野 気を使って頂いてありがとうございます。日本の話にまでは至りませんでしたが、次回にしましょう。

(文責 布野修司)














布野修司 履歴 2025年1月1日

布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...