布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日
K23フィリピン最古の都市-スペイン東インドの橋頭保
セブCebu、中央ヴィサヤCentral Visaya、フィリピンPhilippines
セブは、スペインがフィリピンを植民地化するに当たって最初に拠点を置いた都市であり,スペイン東インド最初の植民都市,土着の都市の伝統のないフィリピンにおいては、最古の都市となる。
スペインが到来する以前,セブ島は中国・ムスリム・東南アジアの商人たちが定期的に来航する交易中心であった。13世紀~16世紀,セブには,ラージャ(ダトゥ)と呼ばれる首長によって率いられるヒンドゥー教徒,ムスリム,そしてアニミズムを信仰する先住民などいくつかの集団が存在していたことが知られる。フィリピン諸島に到達した最初のヨーロッパ人はマガリャンイスとその船団員であるが、セブには多くの高床式住居からなる多くの集落があったという記述が残されている。
マガリャンイス以後, ヌエヴァ・エスパーニャ総督が4度にわたって編成したメキシコからの遠征隊はいずれもフィリピンに到達できなかったが、ようやく1565年になって、レガスピが訪れたのがセブ島である。レガスピは、セブの町を破壊し,最初の植民拠点を建設する。しかし、スペインは,続いてパナイPanay(1569)を拠点とし,ムスリムの攻撃を警戒してマニラ (1571)に拠点を移す。セブは、その後2世紀以上に亘ってそのまま放置されることになる。いわゆるガレオン貿易は1565年以降19世紀初頭まで存続するが,セブは1590年代に独自のガレオン船をメキシコに送るなど短い期間栄えた後は,中国及び東南アジアとの伝統的な交易拠点としての役割を維持することになった。
19世紀になると,セブは,ネグロス,パナイ,レイテ,サマル,ミンダナオの農業生産物を集積する重要な港市都市に成長する。1860年代には,蒸気船の登場とともに,英国,米国,スペインとつながって世界経済に包摂され,経済的にも発展し,都市化も進展した。米西戦争(1899~1902)によってフィリピンは米国に服属することになるが,セブは1936年に信託統治市の地位を獲得し,フィリピン人によって独立的に運営された。
セヴィージャのインディアス総合古文書館AGIに収蔵されたフィリピン関係の地図や史料などによると、レガスピが来島した頃,沿岸部には14~15の集落があり,セブには300を越える住居が密集している状況であったが,16世紀末頃には,スペイン人が居住するシウダードCiudad(都市)の西に先住民の集落, 北に三角江によって海につが中国人居住区パリアンが形成されている。パリアンが形成されるのは1590年頃で,1595年に,イエズス会が学校を設置し,1599年までに中国人は自前のキリスト教会を建設している(図1)。
17世紀末(1699)の都市図にはグリッド状の街区に主要建造物,土地の所有者が書き込まれている。サント・ニーニョSanto Niño (アウグスティノ会),カテドラル(イエズス会)そして市政府(シウダード)の土地で市街地の70%を占めている。要塞の西に広場が設けられ,広場の北にカテドラル,その西に総督邸が置かれる。スペイン植民都市の基本的構成であるが,要塞が近接するのは初期の形である(図2)。
18世紀に入ると,セブは停滞し、1738年までは,行政官と軍人,司祭を除くと一般のスペイン人はほとんど居住していなかったとされる。19世紀半ば以降,蒸気船の時代となり,マニラ,イロイロに次ぐ港市都市となると、港湾部を中心に都市改造がなされ,市域も拡大する。1850年以降,中国人の移住が急増し,経済活動の中心を担うことになる。
セブが大きく変化するのは19世紀末以降である。鉄道が敷設され,シウダード,パリアン,サン・ニコラスの三地域は連坦し,港湾部も建てづまる。刑務所と市場は市役所に建て替えられ(1885),新たなプラサ・マヨールがその前に形成された。
セブは,アジアにおける最初のスペイン植民都市であるが,その都市計画は完全なかたちでは実施されず、当初の計画図も残されていないが,17世紀末までにはある程度計画的な整備がなされた。グリッド・パターンの街区が構成され,そのパターンは今日にまである程度維持されている(図3)。現在の街区の縦横幅をみると,残された歴史地図が明快に示すような厳密なグリッド・パターンによる街区割りはなされておらず、要塞の建設,広場の設定と教会の建設が先行して行われる素朴なやり方がとられたと考えられる。インディアス法の規定が成文化される以前の都市計画を示す例であり、同じような立地が選択されたマニラの予行演習であったと位置づけることができる。残念ながら,特にパリアンにおける変化は激しく,伝統的な住宅バハイ・ナ・バトはほとんど残っていない。
参考文献
Kiyoko Yamaguchi. Philippine Urban Architecture History. Transformation of the Poblacion Architecture from the late Spanish Period of the American Period. Dotoral thesis dissertation. 2004.
Lucy Urgello Miller. Glimpses of old
Maria Lourdes Diaz-Trechuelo
Spinola. Arquitectura Espanola en Filipinas 1565-1800. Publicaciones de la Escuela
de Estudios Hispano-Americanos de Sevilla. 1959.
Concepcion
G. Briones. Life in Old Parian.
Bruce L. Fenner.