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2025年12月3日水曜日

ヴィリニュス:布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日

 ヴィリニュス:布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日


D12  独立なき都市

ヴィリニュスVilniusズーキア地方Dzūkija、首都, リトアニアLithuania

ヴィリニュスは、リトアニア東部の中心に位置し、丘陵地に囲まれた都市であり、バルト三国の中で唯一海に面していない首都である。また、ネリス川とヴィリニャ川の合流点の二つの谷間でもあり、ヴィリニュスの名前の由来はヴィリニャ川からきている。

ヴィリニュスは13世紀に当時のリトアニア大公ゲディナミスによって築かれたとされている。このことについては伝説が残っている。ゲディナミスはある日狩猟にでた日に夢を見た。鉄の鎧を纏った狼のような生き物が丘の上で吠えている夢である。このことを異教の神官に訪ねたところ、

「狼の建つ場所は街を意味し、鉄の鎧は何物にも屈しないことを意味する。そして狼の遠吠えのように世界に知られる」

と言われ、ゲディミナスは夢と同じように丘の上に城を築いた。現在、ヴィリニュスがある場所である。ゲディミナス城は現在存在せず、ロシア占領時に破壊されてしまった。現在あるゲディミナス塔は城壁の一部である西の塔を再建したものであり、ここからヴィリニュス旧市街地と新市街地を見ることができる

ユネスコ文化遺産に登録されているヴィリニュス旧市街地はネリス川沿いに位置する。ヨーロッパの中でも旧市街地としては最大となり、バルト三国の各首都と異なり、城壁による明確な境界がほとんど残っていない。特徴としては路地が入り組んでおり、街を構成する建築物は、バロック様式が多いものの、ゴシック様式やルネッサンス様式といった多様な様式が残っている。また、旧市街地を含めヴィリニュスの街中には数多くの教会が存在し、ローマン・カトリック派が主として多数存在する。

この旧市街地への入口の一つには夜明けの門がある。16世紀初めに建設された城門の一つであり、現存する最後の門となる。夜明けの門は始めメディニンカイ門と呼ばれており、二階には奇跡を起こすといわれる聖母マリアの肖像が飾られている。建設された時期にはイタリア文化の影響を受け始めており、夜明けの門はルネッサンスの影響を受けている。

同じようにルネッサンスの影響を受ける建築物は聖ミカエル教会がある。16世紀から17世紀にかけて建造された建物ではあるが1655年コサック(軍事共同体)の襲撃等によって破壊され、幾度も修理、改修されている。また、リトアニア大交宮殿もあたり、15世紀に建設された。現在あるものはロシア帝国によって破壊されたものを再建したものである。

 ゴシック様式では、聖アンナ教会が15世紀末に建設された。33種の赤レンガによる造りは細かい細工が施され美しい。逸話としてナポレオンが「この教会を持ち帰りたい」と言ったという。

 ヴィリニュスで最も多いバロック様式の建築物は、聖ペテロ・パウロ教会、聖三位一体教会、ヴィリニュス大学が残っている。

聖ペテロ・パウロ教会は新市街地にあるが外装に7年、内装に30年かかった美しい教会である。ロシアからの開放記念として17世紀に建設された。聖三位一体教会は東方帰一教会であり宗教的にも珍しい。リトアニア・ポーランド王国時にウクライナへ進攻していた影響である。ヴィリニュス大学は1579年創立のヨーロッパの中でも古い大学である。建物内には四季のフレスコ画が残されている。1795年のポーランド分割時の反ロシア運動の中心となる。

 これまでに書いたようにリトアニアは多様な宗教と建築様式の残る街である。同じように異なる民族の人々も暮らしている。このような街が形成された要因として周辺諸国との関わりが大きい。リトアニアという国が成立してからも幾度も侵攻を受けた。特に関係が深かったのがポーランドとロシアである。ポーランドとは一時期共和国となり、カトリックの信仰やルネッサンス様式が持ち込まれる。15世紀には実質的に、リトアニアはポーランドの支配下となっていた。この共和国は18世紀末には分割されてしまいロシアによる支配を受けるようになる。これによりロシア正教の影響が大きくなる。リトアニアはロシアによって工業化が進み、19世紀には新市街地が誕生し広がっていった。また、ヴィリニュスの都市部には多くのユダヤ人が住んでおり、当時のユダヤ文化の中心となった。その後ポーランドとドイツに占領され街は幾度も破壊されてしまう。1940年リトアニアがソ連に併入されるようになるとリトアニア地方や隣国からさらに多くの人がヴィリニュスの北側に移り住むようになる。

このように隣国との戦争、侵攻、占領など国の存在を脅かされながらも独立したリトアニアは多民族、多宗教、多種の建築様式といった異なるものが混在するヴィリニュスは、街を歩きながら様々な年代を感じる街である。

原 翔『バルト三国歴史紀行Ⅲ リトアニア』彩流社、2007

志摩 園子『物語 バルト三国の歴史』中公新書、2004


 図 各年代の領地の変化

駐日リトアニア共和国大使館https://jp.mfa.lt/jp/jp/8008/8009/8010

 図 ヴィリニュスの街並み TRIP HUNTER

http://the.trip-u.com/16697


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布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...