ソンボ・ハウジング・プロジェクト,at,デルファイ研究所, 199301
ソンボ・ハウジング・プロジェクト
マルチ・ディメンジョナル・ハウジング・プロジェクト
スラバヤ・ジャカルタ
布野修司
インドネシアで、いま、新しい形の集合住宅が生まれようとしている。カンポン・インプルーブメント・プログラム(KIP)の成果のあと、ジャカルタ、スラバヤといった大都市では、既成市街地の再開発という形での住宅供給が本格化しようとしているのであるが、それに先駆けて、実験的試みが展開されようとしているのである。リードするのは、スラバヤ工科大学のJ.シラス教授だ。
最初のプロジェクトは、スラバヤのデュパッ 地区のハウジング・プロジェクトである。続いて、ソンボ 地区の計画が進められ、もうすぐ完成する。そして、ジャカルタでも、J.シラス教授によるプロジェクトが建設中だ。プロガドン 地区のプロジェクトである。
三つのプロジェクトの基本的なコンセプトは同じである。何がその特徴なのか。何が新しいのか。J.シラス自身は、何も特別なことはないというのであるが、そうでもない。
その特徴は、ひとことでいうと、共用スペースが主体になっているところにある。リビングが共用である、厨房が共用である、カマール・マンディー(バス・トイレ)が共用である。もう少し、正確に言うと、通常の通路や廊下に当たるスペースがリッチにとられている。礼拝スペースが各階に設けられている。厨房は、各戸毎に区切られたものが一箇所にまとめられている。カマール・マンディーは二戸で一個を利用するかたちでまとめられている。まとめた共用部分をできるだけオープンにし、通風をとる。その特徴を書き上げ出せばきりがないけれど、およそ、以上のようだ。
このハウジング・システムをどう呼ぶか。マルチ・ディメンジョナル・ハウジングと呼ぼうと思う、というのがJ.シラスの答である。直訳すれば、多次元的ハウジングである。
デュパッやソンボを訪れてみると随分活気がある。コモンのリビングというか廊下がまるで通りのようなのである。そこに、カキ・リマ(屋台)ができ、作業場ができ、人だかりができるからである。二階であろうと三階であろうと、すぐにトコ(店舗)もできる。カンポンの生活そのままである。
シェルターだけつくっても仕方がない、経済的な支えもなければならないし、コミュニティーの質も維持されなければならない。マルチ・ディメンジョナル・ハウジングというのは、経済的、社会的、文化的、あらゆる次元を含み込んだハウジングという意味なのである。
J.シラスの場合、経験を積み重ねながら、よりよいデザインを目指すそうした姿勢が基本にある。デュパッの経験はもちろんソンボに生かされている。また、その設計施工の過程において、住民参加が基本になっている。
赤い瓦の勾配屋根を基調とするそのデザインは、カンポンの真直中にあって嫌みがない。素直なデザインの中に力強さがある。
0 件のコメント:
コメントを投稿