チャンディー・チョト,at,デルファイ研究所,199310
チャンディー・チョト ジャワ
布野修司
チャンディー建築については、これまでにあまり知られていないチャンディ・スク(中部ジャワ)とトゥガリンガ(バリ)を紹介したけれども、もうひとつ紹介したいものがある。チャンディー・チョトである。
チャンディー・チョトというのは、中部ジャワの古都ソロ(スラカルタ)の東方、ラウ山( )の山腹に位置する。ということは、チャンディ・スクのすぐ近くということになる。チャンディー・スクは、エロティックなチャンディーということで地元の人にも知られているのであるが、チャンディー・チョトについてはそんなに知られていないのではないか。
性のシンボルが様々に埋め込まれたチャンディー・スクで不思議な気分にさせられたあと山を降りようとすると、近くにもうひとつチャンディーがあるという。見逃す手はない。好奇心にかられて行ってみた。チャンディー・スクからさらに登ったところになるほど不思議なチャンディーがもうひとつあった。それがチャンディー・チョトである。
チャンディー・チョトについてはほとんど情報がなかった。ジャワで出された『中部ジャワのチャンディー』( )という本には記述がないのである。後で調べると丁寧なガイドブックにはちゃんと場所が示されていたのであるが、名のみで何の記述もない、そんなチャンディーである。
まずは木造の建物の方形の屋根が目につく。バリのプラ( 寺院)に似ている。第一感はこれは新しいだろうということであった。イジュク(やしの繊維)で葺かれた屋根や木造が新しいのである。しかし、もちろん、木造の建造物は何度も建て替えてきたはずだ。
急な階段を上がると最初の広場に変なものがある。海亀の大きな姿が石のモザイクで描かれている。よくみると、魚や蟹がいる。そしてリンガもある。さらに、チャンディー・スクにもあった甲の平らな亀がある。明らかに、チャンンディー・スクの親戚のように思えた。ここでは亀は階段の踏石として使われている。チャンディー・スクの亀石も踏石だったのではないか。
スケールはチャンディー・チョトの方がはるかに大きい。ここでも軸線は一直線にとられ、はるかに下界をみおろしている。構成原理は同じだ。階段状の構成は、急でダイナミックである。最上部には同じようにピラミッド状のチャンディーがある。何故か、ここも上屋がない。
チャンディーの前に二対の祠があり、そこにリンガが奉られていた。随分と具象的である。男根崇拝は至るところにあるということか。ところが、その直後にみたものには、いささか度肝を抜かれてしまった。
最上部のチャンディーのさらに上に建物の陰がみえる。木造の塔のようである。近づいてみると三重の塔である。なんと、塔の上に巨大なリンガがそびえたっているではないか。
リンガを最重要の崇拝物とするのはシヴァ派である。あるいはタントラ教である。タントラ教は、宇宙の生成、発展を男女の性的結合になぞらえて理解する。そのシンボルがリンガであり、女性性器ヨーニである。リンガ、ヨーニに対する崇拝はもちろんタントリズムに固有というより、ヒンドゥー教全体のものである。ジャワのチャンディーは、ずいぶんと見て歩いた。リンガもずいぶんみた。しかし、チャンディー・チョトの三重の塔の上の、こんなあっけらかんなのは初めてであった。
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