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2025年6月29日日曜日

東南アジア(湿潤熱帯)における地域の生態系に基づく住居システムに関する研究(文部省科学試験研究費 1996~98),1999年3月

 東南アジア(湿潤熱帯)における地域の生態系に基づくハウジング・システムに関する研究

 

 本研究の当初の目的およびプログラムは以下のようであった。

 本研究は、東南アジア(湿潤熱帯)における地域の生態系に基づく住居システムの構築を大きな目的とし、具体的にはエコ・ハウス(環境共生住宅)の概念の確立とモデル住宅提案を行うことを目的とする。まず、第一に、東南アジア諸国でどのような環境適応型の要素技術が蓄積されているか、各研究機関への調査を通して把握する。第二に、東南アジアの伝統的な集落の具体例から、環境適応型の要素技術を抽出し、体系化を試み、エコ・ハウスの概念の提示を行う。第三に、日本における環境共生技術のあり方検討し、湿潤熱帯への適用の問題を検討する。以上のような作業をもとに、モデル住宅の設計提案を行う。さらにその具体化についてのプログラムを展望する。

 しかし、当初の予定をはるかに超えた展開があり、インドネシアのスラバヤ工科大学のキャンパス内に実験棟の建設が決定した。本報告書は、モデル住宅の理念、基本設計、実験棟の建設、モニタリング計画について中心にまとめたい。

 

 

 目次

 

 I. 湿潤熱帯におけるエコ・ハウスの基本理念

  1 東南アジアの諸機関における環境適応型要素技術の取り組み

  2 湿潤熱帯の伝統民家に見られる環境適応型要素技術

 

 II. モデル住宅の設計

  1 実験棟建設の経緯

  2 実験棟の設計指針とパッシブデザインの導入

  3 コンピューター・シミュレーション

 

 III. 実験棟の建設

  1 実験棟の建設工程

  2 建設工程と人工数

 

 IV. モニタリング

  1 モニタリングの評価項目と測定パターンの設定

  2 モニタリングのスケジュール

  2 使用機器と設置個所

 

 V. まとめと課題・展望

 

 VI. 巻末添付資料 

      スケッチ、図面集

 

 

 

I. 湿潤熱帯におけるエコ・ハウスの基本理念

 

1 東南アジアの諸機関における環境適応型要素技術の取り組み

 初年度に断続的に、タイ、インドネシア、フィリピンの建築研究機関、NGO、大学を訪問し、資料収集を行った。こうした訪問先における材料技術、設備・環境工学、計画技術などの環境適応技術に対する取り組みについて報告する。

 タイでは1.タイ科学技術研究所(TISTR)、2.人口とコミュニティ開発財団(PDA)、3.アジア工科大学院(AIT)、4.コンケン大学、5.ビルディング・トゥゲザー、インドネシアでは6.ディアン・デサ、7.ガジャマダ大学、フィリピンでは8.NHA(住宅公団)、9.フリーダム・トゥ・ビルド、10.パグタンバヤヨン財団、11.PROS、12.MPCで情報収集を行った。表1に動向の概要をまとめた。

 

 1-1 環境適応技術に対する取り組み

<タイ>

1.タイ科学技術研究所(TISTR

 科学技術研究を行うために1979年に設立された国立研究機関で建築研究部門が設置されている。建築材料研究室、建築技術研究室、建築研究所があり、主な活動は(1)ソイルセメントブロックの開発と適用、(2)木枠の中に裂いた竹を編んで籾殻石灰石砂を塗るバンブーハウスを改良するための技術開発、(3)断熱性の高いポリスチレン板のサンドイッチパネルの開発である。*1

2.アジア工科大学院(AIT,HABITECH PARK

 1989年アジア工科大学院人間居住学科にハビテックパークが設立された。農業廃棄物の利用を考え籾殻灰を混入したブロックの開発も行われたが、籾殻灰の質が均質でないため実用化には至らなかった。現在はソイルセメントブロックの開発、軽くて耐久性に富んだ屋根材としてのマイクロコンクリート・ルーフィング・タイル(MCR)の生産を中心にローコスト住宅の建設技術の研究開発、未熟練工でも生産可能な技術を基本とした開発を行いタイ国内外での技術普及に取り組んでいる。

3.人口とコミュニティ開発財団(PDA

 人口とコミュニティ開発財団(POPULATION AND COMMUNITY DEVELOPMENT ASSOCIATION :PDA)はタイ最大のNGOで家族計画の普及活動を行うため1974年に設立された。現在は、健康およびコミュニティ開発の統合的事業を実施している。環境衛生、農業技術の普及に取り組んでいる。1980年からは乾季に深刻な水不足を抱える東北タイ地方で雨水タンクを建設する活動をはじめた。住民に道具や機材、原材料などを原価で提供し研修を行う。雨水タンクを建設した世帯は労働力を一人提供し、村民が共同で建設にあたる相互扶助プロジェクトとして行われている。

4.コンケン大学

 タイ東北部にある国立大学で、ソイルセメントブロックの研究をはじめ地域産材の利用に関する研究が行われている。

5.ビルディング・トゥゲザー

 ビルディング・トゥゲザーは1978年に、実験を踏まえて具体的なプロジェクトを実施するために設立された。AITとの協力関係のもとローコスト建材を利用した住宅建設を行っている。

 

<インドネシア>

6.ディアン・デサ

 ディアン・デサは1972年にジョグジャカルタに設立されたNGOである。伝統的なコミュニティーや技術、生活の知恵をベースに農村地域の生産基盤の改善に取り組む財団である。

 水供給部門、農業、エネルギーなど10部門で構成されている。

 水供給部門は、水資源の乏しい地域において個人所有の雨水タンクの建設がスタッフ指導のもと行われている。竹筋コンクリートでつくられたものもあったが、耐久性の問題により現在では鉄筋コンクリートでつくられている。

 エネルギー部門では、バイオガスの利用を試みたことがある。しかし、家畜を飼うための投資が必要であり、またそのイメージから調理に利用することに抵抗を感じるものが多く、受け入れられなかった。近年では、エネルギー効率を高めた調理用の素焼きストーブの研究に取り組んでいる。さまざまな活動は、住民間の協同作業を前提としたもので、それぞれの農村に適した技術移転の仕方を考えている。プロジェクト導入後も状況把握につとめ、コミュニティ重視のプロジェクトを通して、トータルな農村生活の向上が目指されている。

7.ガジャマダ大学

 環境工学科では”Sustainable urban drainage"の開発が進められている。住宅の敷地内に雨水を浸透させる井戸を設けることによって都市洪水を防ぎ、地下水の水位をあげようとするものである。現在、インドネシアではこうした雨水浸透層の設置がジャワ島を中心に義務づけられるようになった。

 この他、インドネシアではジャワ島中部のスマラン市において現地と日本のNGOの協力によってゴミから堆肥をつくるリサイクルに関する取り組みがみられる。

 

<フィリピン>

8NHA(住宅公団)

 途上国建設技術開発促進事業のモデル事業として日本の技術援助のもとバイオモデュールを使った下水処理施設法が実験的段階で始められている。これは、微生物の付着により汚水中の有機物を処理する方法で、設置面積が少なく、維持管理費が安いなどの利点があり途上国においても実用化が期待される。

9.フリーダム・トゥ・ビルド

 インフラが整備された宅地に水回りとワンルームのコアハウスを供給し、あとは居住者に委ねる住宅供給に取り組んでいる。セルフビルドを許容するようなコアハウジングの住宅供給の方法は東南アジアに適している。また、完成住宅とは異なり、居住者のニーズに応じて段階的な住宅建設を行うことが可能である。

10. パグタンバヤヨン財団

コミュニティを組織化することをめざしたコミュニティオーガナイザーによって設立されたNGOである。1995年よりその活動はコミュニティの組織化のみならず政府との連携によって適正技術センターを開設し、地場ソイルを利用したブロックづくり、屋根材(MCR)の開発に取り組んでいる。また、適正技術センターで生産される建材を使用して住宅建設を行う建設請負業務も別組織として活動をはじめた。ソイルセメントの生産は手押し式の機械で手作りするものであるが、これはタイのAITで取り組まれてきたものと同じである。

11.PROS (Planning Research and Operation System)

 1976年に設立された設計・コンサルタント事務所。農業廃棄物(バナナ、パイナップル、ココナツ)の繊維をセメントに利用する技術の開発を行っていたが、実用化には至らなかった。

12.MPC (Mount Pinatubo Committee)

 ピナツボ火山の噴火災害対策のため、設立された機関。火山灰を利用したコンクリートブロックの利用を行っている。

 

 1-2 取り組みの整理と評価視点

(1)材料技術 身近な材料を用いた材料開発が広く展開されている。なかでもソイルセメントブロックの生産、マイクロコンクリート屋根材の生産は普及しつつあるが、農業廃棄物を利用した開発は技術的な問題を抱えて実用化には至っていない。また、天然資源、例えば成長のはやい竹の利用についても見直すべきである。

(2)設備・環境工学

 水資源を有効利用するため雨水の利用が積極的に進められている。それらは、高度な技術を必要としないシンプルな方法であり、東南アジアの実状に則したものである。雨水タンクの建設は地域コミュニティの共同作業、相互扶助で行われることが多い。 

(3)計画技術

 住居建設を行う場合においても東南アジアでは豊富な労働力を利用したセルフビルドを許容するコアハウジングは、住宅建設のあり方として有効な方法として評価できる。

 当初、上記の技術の多くは居住環境改善のためのローコストハウジングの技術として開発された。しかし、経済発展とともに建築技術に求められる価値が「ローコスト」→「デュラビリティー(信頼性)」へと移行しつつあり、すでに利用されなくなっている技術も多く見られる。しかし、環境適応という面からこれらの技術をもう一度捉えなおす必要がある。また、環境に配慮したこれからの住居、住環境のあり方は開発された環境適応的な技術だけで構成されるのではなく、伝統的な生活の工夫、文化を考慮しながら多角的に考えていくべきである。

 

2 湿潤熱帯の伝統民家に見られる環境適応型要素技術

 東南アジアにおいて環境適応住宅を考える場合、上に見てきた技術開発をいかに行うかという視点とともに重要なのは、伝統的な住居集落にみることのできる環境と共生した居住システムをいかに評価し活用するかという視点である。

 ここでは、インドネシアの西部ジャワ・バドゥイ地方の住居集落を対象とし、伝統的な住居集落にみられる環境適応技術を具体的に抽出したい。バドゥイ地方は東南アジアの中でも特に閉鎖的な民族とされ、現在でも伝統的な生活様式を保持しており、環境適応という視点から伝統的な住居・集落をみる場合のモデルケースとして位置づけられるからである。

 

 2-1 バドゥイ地方の住居集落にみられる環境適応型要素技術

■高床: バドゥイ地方の住居イマは高床式住居である。東南アジアでは高床式住居が一般的である。湿潤なこの地域にあって、地表周辺の湿気を避けるため床高を高くする必要がある。床下空間をとり、床下の換気を促進することによって、床上の湿気を取り除くことができる。また虫、動物等の住居内への侵入を避けることも可能となる。床下を鶏を飼うためのスペースとして利用している。高床式住居では、天井裏・居住面(床上)・床下が上層界・中層界・下層界といったコスモロジカルな意味をもつケースがあり、儀礼の際などにそれぞれの空間がその役割を果たす。

■高い棟、低い軒、熱容量の大きい屋根材: 前面にはソソロと呼ばれるテラス空間が配置されている。下屋がのばされ軒高は低い。日差しの強い地域では、軒を低くし、日射の影響をやわらげる工夫がされている。屋根に葺かれたカヤが深くたれこめ、低い軒がかたちづくられている。逆に棟は高く、屋根と床面の間に十分な距離が確保されている。さらに、トタンと異なり熱容量の大きいカヤは日射による熱を内部に伝えにくくする。

■かまど: 住居内後背部の部屋であるイマにはパラコとよばれるかまどが設けられている。室内で炊事を行い煙を充満させることによって、木材の炭化を促進し耐久性を増加させたり、虫の駆除にもつながる。

■開口: 前部、後部、側面の3カ所に設けられている。湿潤熱帯では、暑さまたは湿気を防ぐため、住居内の換気は必須である。風の通り道を設けることが重要となる。住居内部の間仕切り壁の配置・数または開口の位置に考慮する必要がある。

■竹: 屋根と壁あるいは屋根と屋根の接合部の間隙から自然と風が住居内に流入し、換気が行われる。換気を容易にし身近にある建材として竹が多用されている。床は竹を縦にさいた割竹で、壁は網代に組まれた竹でつくられている。集落周辺には竹が多く植えられており、竹の利用度は高い。水を川からひくためにも、竹をつなげ利用している。水を竹筒を通して水源から集落へとひき、共同で利用するという形態も興味深い。

■地域産材の使用、セルフビルド: 建材として使われる木材はすべて周囲の山地から自ら入手している。床下や住居脇には、簡単に製材された材木が置かれている。穀倉の床下には屋根葺き材が置かれている。必要な時、住民自らが増改築を行う。住居の建設は住民自らが行う。誰もが住居を建設する技術を保持している。屋根の葺き替え等も住民たちの相互扶助で行われる。

 

 2-2 伝統民家とエコハウスの理念

 上に伝統的な民家に見られる環境適応型要素技術のうち、開口、高床や網代の壁を通した通気、カヤ葺き屋根などは、住居に直接に熱が入るのを防ぎながら、かつ外気などの周辺環境と密接な関係(ハイ・コンタクト)を保つことに注目したい。また、地域産材を使用やかまどの煙による木材の耐久性の増加などは、資源の有効活用という視点から環境に対する負荷を少なくする効果(ロー・インパクト)がある。この「ハイ・コンタクト」、「ロー・インパクト」は、環境適応技術の自然環境との関わりを考えた場合、ひとつの有効な切り口となりえる。一方で、高床が儀礼に関係することや、地域産材の存在を前提とした住居建設技術や相互扶助のありかたは、環境適応要素技術が、地域の生活習慣や文化と切り放せないことでもある。東南アジアの場合、社会形態や文化形態が住居の形態に大きく影響を及ぼす例が多く見られ、自然環境といった視点からだけではなく、社会・文化形態の影響を重視する必要があることを付け加えたい。

 

 

II. モデル住宅の設計

 前章で述べた各機関からの情報収集および伝統民家のケーススタディから、モデル住宅の提案を行うのが、本研究の申請時点での最終目的であったが、その後、大きな展開があり、具体的に実験棟を建設する運びとなった。

 

1 実験棟建設の経緯

 実験棟の建設は、建設省による「途上国建設技術促進事業」の一環として実施される運びとなった。事業の目的は、日本国内から開発途上国へ、有用と考えられる技術を本格的に移転する前に、その有効性を試験施工の実施により検証した上で、現地での普及に向けていくことである。パッシブデザインを導入した実験棟の建設を実施するにあたり、インドネシアがモデル国として選定された。事業の実施は、国際建設技術協会に調査委託され、そのもとに専門部会が組織された。この専門部会からの指導のもと、京都大学を中心に、設計が進められることになった。また、インドネシア側からは、スラバヤ工科大からの敷地提供を含めた参加協力が得られた。試験施工は、大成建設の現地法人であるPT. PP-Taisei Indonesia Constructionが行った。実験棟は、5ヶ月間の施工期間を要して、1F,2F: RC(1Fはピロティ)3F: 木造の3階建て、建築面積116.64m2、延床面積262.44m2の規模で建設された。*2

 専門部会において、インドネシアの将来の住宅対策への応用を視野に入れて議論が重ねられた結果、実験棟の空間モデルは集合住宅とされた。もうひとつの重要な点は、実験棟に導入されるパッシブデザインとは、現代の技術によって、支えられるものであるという合意が形成されたことである。確かにパッシブデザインの各要素には、伝統民家に共通するものも存在するが、その熱環境が、シミュレーションとモニタリングよる予測と確認の両過程を経て検討されることによって、パッシブデザインは、いわゆる伝統的な知恵と一線を画するのである。この意味で、本研究では、実験棟に取り入れた環境共生技術を「パッシブデザイン」と呼ぶ。*3

 

2 実験棟の設計指針とパッシブデザインの導入

 

2-1 インドネシアの居住環境整備事業と実験棟の距離

 インドネシアにおける居住環境整備の代表的な取り組みとして、1960年代末に始められたKIPKampung Improvement Program:カンポン改善事業)がある。*4 主に衛生条件の改善を目的とし、インフラストラクチャーの整備を中心とした居住環境整備が行われた。スラバヤ市の場合、1980年代後半になって、こうした取り組みに一定の成果が見られるようになると、KIPも新たな局面を迎え、高密度居住を解決するために新たな住宅モデルの導入が模索された。この一つの解答が、スラバヤ工科大学J. Silas教授グループとスラバヤ市建築局によるルーマー・ススン・ソンボ(Rumah Susun Sombo)をはじめとする集合住宅建設であった。*5

 ソンボでは、従前居住者の転出を防ぐことを第一義的な目的としており、そのため平面計画も居住者の生活様式に配慮したものとなっている。廊下を兼ねた吹きさらしの広めの共用空間の両側に住戸が並ぶのであるが、これは半戸外空間の利用が生活に欠かせないカンポン(インドネシアの下町:村落的要素を保持しつつ、都市化に取り込まれていった)全体の空間構成がモデルとなっている。*6

 前章におけるエコ・ハウスの理念抽出で、自然環境の視点からだけではなく、空間利用の仕方など社会・文化の影響も考慮する必要があることを述べたことが、ソンボは空間モデルとして、「ハイ・コンタクト」であることに加え、別稿で検討したように、インドネシアの生活様式に対する十分な理解の上に設計されている。*7ソンボを実験棟設計の下敷きとしたのは、こうした生活様式に合った集合住宅の空間モデルに、パッシブデザインを組み合わせることが、広く居住者に受け入れられるには必要不可欠であるとの判断からである。

 

2-2 パッシブデザイン

 パッシブデザインでは、太陽や自然の風、温度の変化を利用して、建物の熱の流れをデザインすることによって室内の環境を快適にコントロールしようとする。一方で、その対極にあるのが、空調設備や照明設備によって、完全にコントロールされた室内環境である。両者には、環境負荷、エネルギー消費量などの違いがあるが、最も基本的なのは、身体を通して感じる両者の快適さの質の違いである。自然の快適さを指向したパッシブデザインの場合、室内外をいかに連続または遮断するかが重要な設計のポイントになる。以下に実験棟のパッシブデザインの設計指針をまとめた。

a. ポーラスな空間構成と 空気の流れのデザイン

・クロスベンチレーションによる平面計画(図1)

 平面計画では、吹きさらしの共用空間の四隅に居室が並ぶ。共用空間は、東西の外部空間に向かって、大きく開かれている。この東西の通風は、年間を通じて吹く海風の向きである。また、北側、南側、それぞれの居室の間にも、外気に面した共用空間が設けられ、南北の通風が取られている。これは、年間を通じて、南北から北東・南西の向きを変化しながら吹く季節風を考慮したためである。実際の風向きは、これらが複雑に組み合わされたものになるのだが、今回の実験棟では、こうした東西、南北両方に通風軌道を確保し(クロスベンチレーション)、どの風向きにも対応できるようにした。

・煙突効果を利用した断面計画(図2)

 実験棟の断面では、2階、3階の共用空間のスラブの中心に、1800mm四方の吹き抜けが取られている。また、高い小屋裏の中心には、越屋根が設置されている。このように垂直方向に、煙突効果によって暖められた空気が抜けるよう意図されている。また実験棟のような空間構成においては、規模によっては共用空間が暗くなるため、トップライトの効果も兼ねている。

・居室の開口部の通風デザイン(図3)

 開口部は、クロスベンチレーション、夜間冷気の利用、廃熱の問題を考慮して設計された。外壁の開口部はクロスベンチレーション確保のため、異なる2面の外壁の両方に取り付けられている。またこの外壁の開口部は、下部がジャロジー、上部が通常のガラス窓となっている。一方、共用空間に面したドアおよびドアと一体化した開口部の上部は、下ヒンジの押し出し式窓になっている。夜間に外壁の開口部は下側のジャロジーを開け、共用空間側の開口部は上側を開けることによって、その高さの違いを利用した重力換気を行うのである。これにより、室内へ夜間冷気の取り入れ(同時に居室から共用空間への廃熱)がスムーズに行われることが意図されている。

 また、外壁の開口部のガラス窓は、季節風を効率よく受け止められるように、開く向きが決められた。

b. 日射を遮断する屋根デザイン(ダブルルーフ:図4)

 日射の遮断のため、実験棟には、躯体に比較的大きな屋根を架けている。小屋裏を大きくとることによって、居室への熱伝達を防ぐ。この屋根の内部には、空気層が設けられ、屋根が2枚重ねられたような構造を取っているためダブルルーフと呼んでいる。より詳細には、このダブルルーフは、5層からなる。上から、瓦、アルミニウムフォイルを利用した遮熱・防水層、空気層、ココナッツ繊維を利用した断熱層、トラスの順である。ココナッツ繊維は、インドネシアでは足拭きマット等として、リサイクル利用されており、身近な低コスト材料であることから、断熱材として採用した。2階庇は、室内への直接の熱伝達がないため、通常の屋根になっている。

c. 循環水による輻射床冷房システム(図5)

 全ての居室部分のスラブ上には、200mmピッチで、直径13mmのポリエチレンパイプが、モルタル仕上げ内に埋め込まれている。このパイプ内に循環水を通すことによって、床を冷却する仕組みである。循環水用の貯水タンクは、地中に埋め込むかたちで、1階スラブ下に配置されている。これは大地の畜冷熱を利用し、夜間に循環水を冷却しておくためである。貯水タンクは、循環前と循環後の水を分離するため2槽に分かれている。循環後の水については、いわゆる中水利用を行っており、洗面、便器、シャワー、台所、太陽熱温水として再利用している。

 循環水の供給には、当初、身近な資源利用とより冷たい温度という理由から、井戸水を使用する計画だったが、最終的に水質が問題になり、今回は市水を利用した。また、循環水の動力源は、ソーラーセル(太陽電池)によって電力供給されたポンプ稼働である。ポンプは、バッテリー等を介さず、ソーラーセルに直結されており、雨天で日射の少ない場合や夜間などは、運転されない。

d. 躯体の熱容量の利用

 日射や外気の影響に対して、できるだけ躯体に熱容量の大きい材料を使用するほうが有利である。昼間を考えた場合、躯体が受ける熱量が同じとすれば、体積当たりの熱容量が大きな材料のほうが、温度上昇が少ないし、また夜間を考えた場合、同様に、より多くの冷気を蓄積できるからである。実験棟の柱梁等のRC躯体部分は、インドネシアの一般的な場合より、大きめの寸法になっている。外壁は、レンガ積みであるが、モルタル仕上げを厚くすることによって、熱容量が増やされている。床も循環水用パイプの埋め込みを兼ねて、スラブ上に100mmのモルタルを敷くことにより熱容量が増やされている。

 実験棟の3階は、木造だが、これは必要があれば、3階木造壁を異なる材質に交換し試験するためである。

 

3 コンピューター・シミュレーション

 今回使用した熱環境シミュレーションソフト*8は、建物の全体あるいは部分を近似的に閉じられた一室の空間と考えて、熱環境をシミュレートする。実験棟の場合は、各居室の熱環境が、シミュレートの対象である。以下の手順(添付マニュアルより簡略抜粋)を繰り返し行うことによって検討される(図6はa-1c-2の画面)。

a 建築条件の設定

 1開口形状&開口部の仕様 …外形寸法、方位、開口位置と寸法

 2開口部の仕様 …熱貫流率、日射透過率

 3日除けの仕様 …外形寸法、日除け位置

 4床の仕様 …断熱・蓄熱部位厚、仕上げ、日射吸収率、熱伝導率

 5東西南北の壁の仕様 …断熱・蓄熱部位厚、仕上げ、日射吸収率

 6天井の仕様 …断熱・蓄熱部位厚、仕上げ、日射吸収率

 7冷暖房、夜間断熱戸、換気モードの仕様、室内発生熱

b 気候条件の設定

 8気候パターンの登録 …緯度、経度、気温等各種気候データ

 9気候パターンの入力/変更

c 計算・パッシブ性能予測

 11計算の実行~グラフの作成

 12定常計算表示・建物の各部位温度の表示

 尚、今回の実験棟で採用したダブルルーフや循環水による輻射冷房システムの効果は、このプログラムで直接、予測することはできない。その性能は、以下に述べるモニタリングを通じて検証されることになる。

 

 

III. 実験棟の建設

 

1 実験棟の建設工程

 実験棟建設の敷地は、スラバヤ工科大学キャンパス内で、土木・計画学部建築学科棟の北側である。南側に教室棟が建つ以外は、周辺に建物はなく開けた環境で、通風は良い。マドゥーラ海峡に面したスラバヤ市は、概して土地が低く、地下水位が高い。このため敷地周辺は雨季には、湿地状になる。この地下水位の高さが、後に述べるように、いくつかの点で検討事項となり、設計変更等が行われた。

 実験棟の工期は6ヶ月に渡ったが、途中、作業の中断もあり、実質的には、5ヶ月間の工期を経て竣工した。本節では、建設過程の概略について、報告を中心に、必要に応じて、設計変更など、前章で述べた設計指針以外の事項について、いくつか補足したい。

 工程表は、表2のようである。1ヶ月目は、まず現場の仮設工事が行われた。本格的な工事に入るのは、イスラーム正月明けの2ヶ月目からで、4ヶ月目前半までは、コンクリート躯体工事、木躯体工事、屋根工事を中心に作業が進められた。4ヶ月目後半からは、これらと平行して、配管工事が行われた。4ヶ月目終了の時点で、全作業の約半分が終了した。5ヶ月目に入ると、内装工事、設備工事など残りの工程の作業が一気に進められ、6ヶ月目前半で完成した。

 以下、各週別に、基礎工事以後は、写真を交えながら、建設工程を少し詳細に作業を見てみたい。*9 

▼1ヶ月目

 土工事では、敷地内を流れる水路の変更が行われている。またこれと平行して、基礎工事が行われた。杭は当初、三角形断面のもの(写真1)が使用される予定であったが、耐久性の点から、円形断面のものに変更された。また、同時に基礎梁、1階柱等の鉄筋の加工が行われた。

・第1週

【仮設工事】サイトクリーニング、仮設フェンス設置、地均し、排水溝の移動、既存排水溝の埋め戻し、起工式の準備。

・第2週

【仮設工事】仮設フェンス設置と塗装、排水溝の移動、既存排水溝の埋め戻し、起工式の準備、起工式、現場事務所設置

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップと基礎梁の鉄筋製作

・第3週

【仮設工事】サイトクリーニング、現場事務所設置

【鉄筋コンクリート工事】基礎の型枠の製作・鉄筋加工、パイルキャップ・1階柱の鉄筋加工、

・第4週

イスラーム正月のため休暇

▼2ヶ月目

 主に杭工事が行われた。これと平行して基礎梁、1階柱の鉄筋加工作業が進められた。

・第1週

引き続きイスラーム正月のため休暇

・第2週

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップ・基礎梁・1階柱の鉄筋加工

・第3週

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップ・基礎梁・1階柱の鉄筋加工、パイルキャップ鉄筋取り付け、

【杭工事】杭打ち準備、地均しと締固め

・第4週

【仮設工事】仮設フェンスの再設置

【鉄筋コンクリート工事】貯水タンク用パイルキャップ・2階柱・2階梁の鉄筋加工

【杭工事】杭打ち込み、杭頭切断

【木工事】ドア枠・窓枠の製作

▼3ヶ月目

 躯体工事が始まるが、まず基礎の工程である(写真2)。その後、基礎梁のコンクリートの養生を行いながら、1階柱の配筋(写真3)が取り付けられ、型枠の取り付け(写真4)までを終了した。

・第1週

【土工事】根切り

【杭工事】杭頭切断

【木工事】ドア枠・窓枠の製作

・第2週

【仮設工事】サイトクリーニング

【土工事】根切り、残土処分

【杭工事】杭頭切断

【木工事】ドア枠・窓枠の製作

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップの型枠用バタコブロック設置・水抜き

・第3週

【仮設工事】サイトクリーニング

【土工事】残土処分、基礎梁根切り

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップ型枠用バタコブロック設置、パイルキャップの水抜き、パイルキャップ・1階柱・基礎梁の配筋、コンクリート打ち込み準備、基礎梁コンクリートの締固め、1階柱・梁用の鉄筋加工、コンクリート養生

・第4週

【仮設工事】サイトクリーニング

【土工事】残土処分、埋め戻し

【鉄筋コンクリート工事】パイルキャップ型枠用バタコブロック設置、基礎梁の配筋、1階柱の梁用鉄筋加工・型枠取り付け・配筋、基礎梁の配筋、2階柱の梁用鉄筋加工・型枠製作、コンクリート養生

▼4ヶ月目

  4ヶ月目は、鉄筋コンクリート工事と木工事を中心に作業が進められ、実験棟の躯体がほぼ全体の姿を現した。鉄筋コンクリート工事に関しては、当時、特に雨季であったことも手伝い、コンクリートの養生が、温度・湿度の両面から、比較的有利な条件で行われ、工事は順調に進められた。中旬までに、1階柱のコンクリート打ち込み、2階スラブと柱の配筋・型枠取り付け・コンクリート打ち込み、3階スラブの配筋・型枠取り付けが終了した(写真5)。

 さらに、下旬に入ってすぐに、3階スラブのコンクリート打ち込みが完了する。その間に、3階部分の木構造材、屋根トラスが、平行して製作されており(写真6)、床スラブの養生が終わると同時に、柱、梁、屋根トラスが、組み上げられ、棟上式が行われた。棟上式の際には、さとうきび、稲、米、ココナッツの花などが飾られた。(写真7)。

さらに最後の1週間で、空気層、ココナッツファイバーの断熱層(写真8)、アルミフォイルシートの防水層など、ダブルルーフの各層が完成した(写真9)。また貯水タンク埋設のための根切りが行われた。また、スラバヤ工科大学側との打ち合わせ上、浸透漕について変更があった。当初案では、排水は、浄化槽-浸透漕1-浸透漕2のように、二つの浸透漕を通して、廃水処理が行われる予定であったが、通常、スラバヤ工科大学内の排水は、浸透漕はひとつで処理されており、これに習うこととなった。

 越屋根は、当初、大屋根と同じ構成にする予定であったが、居室から離れているため通常の屋根構造に変更した。必要に応じて、大屋根と熱伝達を比較する目的もある。また、3階の共用空間の庇を支えるために、木造支柱を追加した。

・第1週

【土工事】埋め戻し

【鉄筋コンクリート工事】1階柱の配筋・型枠製作・型枠取り付け・コンクリート打ち込み、コンクリート養生、2階柱の梁・床スラブ用鉄筋加工、2階床梁・床スラブの型枠支持取り付け

・第2週

【鉄筋コンクリート工事】2階床スラブ・床梁・柱の鉄筋加工、2階床スラブ・床梁の配筋、コンクリート養生、2階床梁・床スラブの型枠支持取り付け、2階梁・柱の型枠製作、2階スラブ下にスタイロフォーム設置、2階スラブ・床梁にコンクリート打ち込み

【木工事】屋根トラスの製作

・第3週

【鉄筋コンクリート工事】

3階柱・床梁の型枠製作・取り付け、3階床スラブと床梁の型枠支持取り付け、3階床スラブと床梁の型枠取り付け、2階柱のコンクリート打ち込み、3階床スラブと床梁のコンクリート打ち込み

【木工事】

3階柱脚の固定用プレートの埋め込み、木造トラスの製作

・第4週

【鉄筋コンクリート工事】

2階床スラブ・床梁の型枠取り外し、1階柱の型枠取り外し

【木工事】

木造トラス製作・取り付け、3階柱脚の固定用のボックスプレート溶接、3階柱・梁取り付け

【土工事】貯水タンク用の根切り

 

▼5ヶ月目

 全工程のうちの半分が、5ヶ月目に施工された。コンクリート躯体の打ち込みは、終了しており(写真10)、型枠取り外しが始まった。その後、輻射冷房システムの循環水の貯水タンク(写真11)、壁の取り付けが始まった(写真12)。第2週以降には、階段の取り付け、壁の仕上げ、輻射冷房システムのポリプロピレン・パイプの埋設(写真13)、ヘッダの取り付け(写真14)が行われた。一方で、設備関係の配管・配線や建具の製作も進められた。

 その他、設備面では、水浴び用の水桶を設置するより、シャワーのほうが、水使用量が少ないため、実験棟ではシャワーを採用した。また、室内の通風条件を、詳しく検討した結果、換気量を増やして、廃熱を有効に行うために、各ドアの上部に突き出し窓の設置、外壁開口の下部にジャロジーを追加することが決定した。

・第1週

【鉄筋コンクリート工事】3階床スラブ・床梁の型枠取り外し、2階柱の型枠取り外し

【木工事】屋根取り付け、3階木造壁取り付け

【建具工事】木造建具製作

【土工事】貯水タンクの根切り、水抜き、残土処理

・第2週

【鉄筋コンクリート工事】3階床スラブ・床梁の型枠取り外し、2階柱の型枠取り外し、貯水タンクのバタコブロック型枠設置・梁配筋

【木工事】屋根取り付け、3階木造壁取り付け、階段1-2階部分の型枠設置

【土工事】貯水タンクの根切り、水抜き

【杭工事】貯水タンクの杭頭切断

【壁工事】2・3階の組積造壁(バタコブロック)の積み上げ、2階壁のプラスター仕上げ

【輻射冷房システム工事】ワイヤーメッシュ・ポリプロピレンパイプの埋設、2階床のモルタル仕上げ(被り厚10cm

【配管工事】トイレ・キッチンの配管

・第3週

【鉄筋コンクリート工事】貯水タンクの底スラブ・梁・パイルキャップのコンクリート締固め、貯水タンクのバタコブロック型枠設置、貯水タンクの壁・底スラブ・梁・パイルキャップの配筋・コンクリート打ち込み、階段1-2階部分の配筋・型枠設置

【土工事】残土処理

【杭工事】貯水タンクの杭頭切断

【壁工事】2・3階の組積造壁(バタコブロック)の積み上げ、2階内外壁のプラスター仕上げ

【建具工事】木造建具製作

【輻射冷房システム工事】ワイヤーメッシュ・ポリプロピレンパイプの敷設、3階床のモルタル仕上げ(被り厚10cm

・第4週

【鉄筋コンクリート工事】貯水タンク側壁・天井の配筋・型枠設置・コンクリート打ち込み、1階床(貯水タンク天井)のコンクリート締固め、階段23階部分の配筋・型枠設置・コンクリート打ち込み、階段全体の型枠取り外し

【土工事】残土処理

【壁工事】3階の組積造壁(バタコブロック)の積み上げ・内外壁のプラスター仕上げ、壁塗装

【建具工事】建具の製作と取り付け

【設備工事】浄化槽・浸透漕の根切り、浄化槽の設置・コンクリート上蓋打ち込み、トイレ配管

【その他】階段の金属手すり取り付け

・第5週

【壁工事】塗装

【建具工事】建具取り付け、木手すり製作

【設備工事】浸透漕の設置

【その他】階段の金属手すり取り付け、梁・スラブ(天井仕上げ)、2階梁プラスター仕上げ

▼6ヶ月目

 前半で、塗装などの仕上げ(写真15)、建具や手すりの取り付けが行われ(写真16)、ほぼ、全体の工程が終了し(写真17)、後半は仕上げの補修と現場の撤収が行われた。

 輻射冷房システムについて、当初、循環水を圧送は、まず1階から2階に一台のポンプで、さらに2階から3階へ、もう一台のポンプで行う予定であったが、ポンプの負荷の問題および各階ごとに循環水の停止ができるよう、それぞれ別経路の独立した系として、水を循環させることになった。このため、2台のポンプは、ともに1階に設置された(写真18)。

 仕上げと建具の取り付けをしたのは、各階4室のうち、北東側、南西側の2室のみである。インドネシアの低所得者向けのハウジングでは、コア・ハウス・プロジェクトやソンボのように、しばしば、コストを押さえるため、内装等を居住者に委ねる方法が取られる実験棟も、これに習い、取り急ぎ、モニタリングを行う部屋のみ仕上げ、建具の取り付けを行った。

・第1週

【鉄筋コンクリート工事】

【建具工事】建具取り付け、木手すり製作・取り付け、ガラス取り付

【設備工事】台所設置、

【壁工事】塗装

【その他】2階床梁・1階柱の吹き付け工事、階段の金属手すり取り付け、トイレ内装工事

・第2週

【建具工事】木手すり取り付け、塗装

【設備工事】パイプシャフト工事、電気ケーブル埋設

【壁工事】塗装

【輻射冷房システム工事】循環水供給ポンプ・分岐ヘッダの設置

【その他】階段の金属手すり取り付け、トイレ内装・衛生器具設置、バルコニーモルタル仕上げ、共用空間床仕上げ、ドレイン取り付け、照明取り付け、階段の段鼻取り付け・仕上げ

・第3週

【仮設工事】仮設フェンスの除去、資材の片づけ

【建具工事】木手すり仕上げ

【設備工事】電気ケーブル接続

【壁工事】塗装

【その他】金属手すりの補修、階段の仕上げ、

・第4週

【仮設工事】現場事務所の撤去、現場後かたづけ、地均し

【壁工事】壁の補修

【その他】床仕上げ・床タイルの補修

 

2 建設工程と人工数

 

 まず、工事全体のデータを見てみたい。表3に、全体の人工数の変化を示した。総工事日数は、162日、延べ人工数は、3192人で(現場監督を除く)、1日当たりの平均労働者数は、19.7人になる。*10

 第1ヶ月目からイスラーム正月後しばらくの間は、10人に満たない数で、現場の準備が進められた。鉄筋コンクリートの躯体工事が進められた4ヶ月目は、型枠工を中心とした熟練工*11、非熟練工とも最も人工数が多く、ピーク時は1日に60人を越える人数で作業が進められた日が、週末を除いて約2週間続いた。躯体の完成後は、各種工事合わせて、30人前後で作業が進められた。

 表4は、工事全体で見た、工事別人工数の割合である。非熟練工(common worker*インドネシアでは、いわゆるpembantu)の36%を除けば、鉄筋工(re-bar worker13%、型枠工13%(form worker)などを含む鉄筋コンクリート工事に関わった人工数が、合計27%で最も多く、次いで、大工(carpenter)が13%、れんが・ブロック工事(brick layer)が5%、杭工事(pile worker)、塗装工事(paint worker)、各種仕上げ工事(misc. finish)が、それぞれ3%と続く。

 次に表5に示した週ごとの工事別の人工数の変化を、見てみたい。

▼1ヶ月目

 第1週は、現場の準備のために、主に非熟練工が作業を行った。第2週、第3週は、基礎の鉄筋コンクリート工事のため、鉄筋工の作業が平行して行われ、非熟練工との割合は半々程度であった。第4週は、イスラーム正月に入り、作業が休止された。

 重機は、第2週に、1日のみエキスカベーターが、使用された。

▼2ヶ月目

 第1週は、引き続きイスラーム正月の休暇で、第2週から作業が再開される。基礎の鉄筋加工が集中して行われ、鉄筋工がほとんどの割合を占める(第2週:39/39人、第3週:34/59人、以下、分母はその週の延べ人工数)。第3週から杭工事が始まり、第4週は、杭工事に関わる人工数が36人と最も多くなった。

 重機は、杭打ち機が、第4週を通じて、一台使用された。

▼3ヶ月目

 3ヶ月目は、非熟練工が第3週目まで、大きな割合を占める。これは、主に基礎工事に関わる根切りや残土処理といった土工事が行われたからである。しかし後半からは、1階柱や2階床梁の鉄筋加工が始まったため、35/82人(第3週:鉄筋工数/総人工数)、5/121人(第4週:同じ)と再び鉄筋工が多くなる。

▼4ヶ月目

 すべてのコンクリート打ち込みを終えて、鉄筋コンクリート躯体が完成した。このため、型枠工が顕著に増加した。すでに第1週から、型枠工の人工数は最も多いが(48/135人:型枠工/総人工数)、第2週、第3週は、さらに増えて、週間の型枠工の延べ人数が100名を越えている(第2週:111/313人、第3週:159/404人)。この期間が人工数から見た場合のピークで、週間の全労働者数は、第2週で300人、第3週には400人を越えるなど、他の工事期間と比較して、2倍から3倍になる施工人員が、集中して投入された。

 また、木造柱・梁の加工が、鉄筋コンクリート躯体工事と平行して行われたため、非熟練工を除くと、第2週目、第3週目は型枠工についで、大工が2番目に多い(第2週:45/313人、第3週:54/404人)。第4週には、すでに鉄筋コンクリート躯体の施工が終了し、3階の木造躯体の組立が行われた。このため第4週の延べ人工数では、大工が最も多くなっている(73/221人)。

▼5ヶ月目

 鉄筋コンクリート躯体の型枠取り外しが、始まったため、非熟練工が、各週を通じて、延べ人工数の4割から5割弱を占めた(第1週:88/168人、第2週:90/218人、第3週:86/212人、第4週:90/212人)。またこのうちの一部は、貯水タンクのための土工事を行ったようである。

 非熟練工以外に目を向けると、第1週は、引き続き3階木造躯体の組立のため、大工が最も多いが(52/168人)、屋根が組み上がると、壁工事、配管工事、電気工事、建具工事、溶接工事、仕上げなどが、各種工事が一斉に始まった。このため各工事の週間延べ人工数は、ほぼ20人以下といったように、全体に分散することになった。

▼6ヶ月目

 5ヶ月目の末に、階段や貯水タンクなど、一部残っていた鉄筋コンクリート工事が終了すると、それ以後、型枠工、鉄筋工はとして作業する人員は、完全に無くなった。内装、設備関係の工事が、前月末と同じように、週間延べ人工数20人以下の規模で進められ、前半で、ほぼ工事を終了した。

 

 

IV モニタリング計画

 

1 モニタリングの評価項目と測定パターン

1-1 評価項目

 モニタリングによって、期待する評価項目は、大きく以下の6点にまとめられる。

 a 屋根の効果・・・・ダブルルーフ全体の断熱性能の有効性を検証。さらに、ココナッ           ツ繊維層、空気層、反射層などの各層の個別の断熱性能の検証。

 b 床スラブの効果・・輻射冷房システムを稼動することによる床スラブの冷却効果を           検証。循環水の温度と冷却効果の関係。

 c 通風の効果・・・・クロス・ベンチレーションの有効性検証。

 d 夜間換気の効果・・夜間冷気を利用した躯体の蓄冷効果、ジャロジーを通して夜間に           重力換気を行う有効性の検証。

 f 建物全体の効果・・以上の各部分の熱性能を総合した建物全体の有効性の検証

 g その他、共用空間の吹き抜けの効果、各居室と共用空間の使い分けの効果など、データを取った上で有効性が導き出せる期待のある効果

 

1-2 測定パターンの設定

 以上の評価項目を念頭において、モニタリングに当たって、5つの測定条件のパターンを設定した。各測定パターンと期待される評価項目の関係を表6に示した。各パターンの測定条件の概要は、開口部の解放・閉鎖と輻射冷房システムの起動・停止によって、以下のようである。

・パターンI  :開口部終日解放状態、輻射冷房システム起動

・パターンII  :開口部終日閉鎖状態、輻射冷房システム起動

・パターンIIIA   :開口部、朝8:00-夕方5:00まで解放(その他の時間閉鎖)、輻射冷房・システム起動

・パターンIIIB :開口部、朝8:00-夕方5:00まで解放(その他の時間閉鎖)、輻射冷房システム停止

・パターンIV  :開口部、朝8:00-夕方5:00まで閉鎖(その他の時間解放)、輻射冷房システム起動

 

2 モニタリングのスケジュール

 前述の各パターンは、それぞれ7日間の測定期間を取る。最初の2日間は、試験データ測定となっているが、これは、前のパターンの影響を取り除くための準備期間である。分析には3日目以降のデータを用いた。

 上記の5パターン(5週間)全ての測定を連続して行い、1サイクルとした。全体では、3サイクル繰り返して、合計15週間モニタリングを行った。

 1サイクル中の測定パターンの順番は、次のように計画した。

1.パターンIIIA - 2.パターンIIIB - 3.パターンIV - 4.パターンI -5.パターンII

 この順番で行うのは、モニタリング予定期間中に、インドネシアの気候が、乾季から雨季へ近づいていたため、少なくとも最初の1サイクルの測定データ収集への、降雨や曇天などの影響を最小限にするためである。より厳しい気候条件で、パッシブデザインが、より効果的に働くと予想されるパターンから、測定を行ったのである。

 尚、上記のスケジュールでモニタリングを実施する以前に、2週間程度の試験モニタリングを実施し、データの回収・検討を行い、センサーの異常・設置ミスの有無、データ転送などの確認、モニタリング本番に向けての準備事項の確認を行っている。*12

 

3 使用機器と設置個所 

 モニタリングに用いる計測機器は、表7のようである。各機器について簡単に説明を加えたい。「温湿度データコレクター」(商品名「おんどとり」、以下、「おんどとり」と呼ぶ)は、特にある空中の一点の温度と湿度の両方を測定できる専用のセンサーを持つ(写真19)。これに対して、「温度データコレクター」は、いわゆるT型熱電対を持ち(以下、「データコレクター」と呼ぶ)を持ち、湿度の計測はできないが、空気温、表面温、水温など、様々な温度の測定が可能で、汎用性の高い温度測定装置である(写真20)。日射計は、電圧積算によって、日射量を記録する装置である(写真21)。以上の各機器が、モニタリング実施中に、常に記録を行っていたものである。記録間隔は、すべて10分に設定した。

 アスマン温湿度計は、乾球温度計と湿球温度計の両方が計測でき、また両方の測定値の差から相対湿度を導き出すものである。 これは、「おんどとり」と「データコレクター」のセンサーの誤差を確認するために使用された。モニタリング期間中、3回にわたり、各4時間程度、10分間隔で、3階北東室の温度を測定した。このデータを用いて、センサーや収集データに問題がないことを確認した。

 測定個所は、各機器の設置場所は、図7のようである。測定箇所は、大きく、ダブルルーフ、共用空間、居室、貯水タンクに4つ分けられる。居室は、仕上げを行った各階の北東室と南西室のみ測定しているが、この二つの居室のうち、北東室の方が、熱環境的に条件が厳しいため(スラバヤは南緯7度に位置するため)、より詳細にデータを測定した。以下、各部分ごとに測定箇所を示す。

a ダブルルーフ

・瓦表面温度  (測定器機:データコレクター、図版番号DC-11

・空気層温度  (測定器機:データコレクター、図版番号DC-12

・断熱材上面温度(測定器機:データコレクター、図版番号DC-13

・断熱材仮面温度(測定器機:データコレクター、図版番号DC-14

・天井表面温度 (測定器機:データコレクター、図版番号DC-15

 以上は、全て北東室側のダブルルーフ各層で測定した。

b 共用空間

・1階ピロティ温湿度  1FL+0.1m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-1

・1階ピロティ温湿度  1FL+1.2m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-2

・2階共用空間温湿度  2FL+0.1m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-3

・2階共用空間 温湿度 2FL+1.2m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-4

・3階共用空間 温湿度 3FL+1.2m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-5

・屋根トラス部分温湿度 3FL+4.5m(測定器機:おんどとり、図版番号OT-6

 尚、1階ピロティ1.2mの高さに設置された「おんどとり」は、直射日光を受けず、風通しの良い場所であることから、外気の温湿度を兼ねて測定を行った。

c 居室

・3階北東室床表面温度      (測定機器:データコレクター、図版番号DC-25

・3階北東室受照壁面外気側表面温度(測定機器:データコレクター、図版番号DC-21

・3階北東室受照壁面室内側表面温度(測定機器:データコレクター、図版番号DC-22

・3階北東室グローブ球温度    (測定機器:データコレクター、図版番号DC-26

・3階北東室温湿度        (測定機器:おんどとり、図版番号OT-8

・3階南西室温湿度        (測定機器:おんどとり、図版番号OT-10

・2階北東室床表面温度      (測定機器:データコレクター、図版番号DC-35

・2階北東室受照壁面外気側表面温度(測定機器:データコレクター、図版番号DC-31

・2階北東室受照壁面室内側表面温度(測定機器:データコレクター、図版番号DC-32

・2階北東室グローブ球温度    (測定機器:データコレクター、図版番号DC-36

・2階北東室天井表面温度     (測定機器:データコレクター、図版番号DC-34

・2階北東室間仕切壁居室側表面温度(測定機器:データコレクター、図版番号DC-33

・2階北東室温湿度        (測定機器:おんどとり、図版番号OT-7

・2階南西室温湿度        (測定機器:おんどとり、図版番号OT-9

 重点的に測定を行ったのは、各階の北東室である。南西室は、比較のため室内の温湿度のみ測定した。また各階の北東室の室温は、「おんどとり」とグローブ球温度(内部にデータコレクターセンサーを挿入)の両方で測定されている(写真22)。グローブ球室温度と通常室温度の差から、輻射冷房の効果を検証するためである。

d 貯水タンク

・輻射冷房給水パイプ内水温    (測定機器:データコレクター、図版番号DC-23

・輻射冷房排水パイプ内水温(2階より)(測定機器:データコレクター、図版番号DC-16

・輻射冷房排水パイプ内水温(3階より)(測定機器:データコレクター、図版番号DC-16

 給水側の温度は、床を循環する前なので、2・3階を区別する必要がなく、タンク内の水温に等しい。よってセンサーは一ヶ所とした。排水側は、各階の床を循環した後なので、水温が違うため、それぞれのパイプ内にセンサーを設置した。また輻射冷房パイプは、各階で南北に分岐している。この分岐点に設置されたヘッダーに温度計が取り付けられているが、記録装置はない(写真14)。

e 日射量

・日射計センサーは、南側の2階庇から設置台を設けて、その先端に取り付けた。南側庇においたのは、今回のモニタリング時期に太陽が南側を通っていたためである(影にならないため)。スラバヤは、南緯に位置するので、年間約8ヶ月北側から太陽が照り、残りの約4ヶ月が南側からになる。日射計センサーは、太陽が北側に昇る季節には、北側に移動される。

f アスマン温湿度計

・3階北東室の温度を測定

 

 

V. まとめと課題・展望

 冒頭に述べたように、本研究は、予定していた情報収集とコンセプト・メイキングを中心とした内容から、さらに踏み込んで、その成果を実際に、実験棟の建設に生かす機会に恵まれた。当初の段階では、まずはインドネシアを含む東南アジアで、環境適応要素技術に対する諸機関の取り組みや民家の再評価に目を向けたが、実験棟建設が「途上国建設技術促進事業」として実施された時点で、こうした研究の取り組み姿勢にも、ある程度の転換が迫られた。建設省の指針として、「日本の国の技術」を盛り込むことが前提のひとつとされたからである。そこで、「パッシブデザイン」という概念を、実験棟に盛り込むことになった。周知のように「パッシブデザイン」とは、元来、ドイツなどヨーロッパの寒冷地で、太陽熱を有効に利用して熱環境を改善する「パッシブソーラー」がもとである。「パッシブヒーティング」と言ってもよいだろう。「パッシブ」という用語は、その発生自体が、近代的な概念である。

 これをインドネシアなどの湿潤熱帯に適用しようとすれば、逆になんらかの冷却の仕掛けを検討することになり、主に「パッシブクーリング」となる。「パッシブデザイン」とは、狭義には「パッシブヒーティング」と「パッシブクーリング」の両者を含む概念で、自然エネルギーを有効に活用して、快適な熱環境を実現する建築設計技術の全体を指すと言えるだろう。そして、これは、実験棟建設の経緯で述べたように、シミュレーションやモニタリングといった熱環境の解析技術に支えられることによって、初めて成り立つのである。

 以上を踏まえれば、今回の実験棟は、(1)熱環境の予測技術/シュミレーション(2)各部分設計(空気の流れのデザイン、ダブルルーフ、輻射冷房、躯体の熱容量利用) (3)熱性能検証のための測定技術、評価技術/モニタリング、の一連の過程を本研究で呼ぶパッシブデザインとして最重要視し、さらに環境負荷や資源問題(中水利用、ココナッツ繊維断熱材)を考慮した上で、環境共生住宅と呼ぶのが適当だろう。

 また、パッシブデザインを自然エネルギーを有効に利用して快適な熱環境を実現する技術と考える場合、太陽熱発電など代替エネルギー的な発想もあるが、「自然エネルギーの利用」=「自然の快適さの獲得」というのが、直接的で、無理のない図式である。完全に空調設備でコントロールされた熱環境を通して、身体が感じる「快適さ」がある一方で、無理のない「自然に近い熱環境」によっても身体は「快適さ」を感じる。この意味で、パッシブデザインの導入は、こうした質の異なる二つの「快適さ」のうち、「自然に近い熱環境」のもたらす「快適さ」への指向性を根本的な前提としているのである。半戸外空間を利用するカンポンやルーマー・ススン・ソンボの空間構成や生活スタイルは、たとえ絶対的に居室面積が不足している場合があるにしろ、「快適さ」の指向性の上で、パッシブデザインの前提となる「快適さ」の指向と近い距離にある。もっとも、本来、ハウジングの対象となる中低所得者層は、冷房付の居室に生活しているわけではないので、「快適さ」の指向の選択肢を持つわけではない。しかし、今回の実験棟のように集合住宅モデルとして建設されるにしろ、戸建てモデルにしろ、ハウジング計画の重要な条件のひとつに、生活スタイルの変化を最小限に留めることがある。この点でパッシブデザインは、既存の生活スタイルを大きく変えることなく、居住環境を改善する大きな可能性を持つことを強調しておきたい。

 最後に、今回の実験棟の建設より今後の課題として残った点について触れたいが、パッシブシステムの総体的な性能評価は、現在モニタリングデータを分析中であり、性能/コスト比の提示を含め、この結果を待って行うこととしたい。

・熱環境シミュレーションについて

 今回の実験棟の場合のように、各室ごとの熱環境をシミュレートする場合、隣室や上下階の室による遮熱効果を、対象室の壁厚や天井厚などに換算して付加し、近似を行う。この近似の基準が明確に決定できず、シミュレーションの精度に問題を残した。予測計算結果とモニタリングデータを突き合わせて、近似の精度を上げたり補正を行うことが、場合によっては必要である。

・輻射冷房システムについて

 当初、輻射冷房システム用の循環水は、井戸水を使用する予定であったが、水質の心配があり、市水を使用することとなった。実際にモニタリングをスタートすると、給水タンク内の市水の温度とコンクリート躯体の温度が、期待したほど差が無く、輻射冷房システムが期待通りに稼動しなかった可能性がある。分析結果によっては、再び井戸水の利用を考慮するか、もしくは、それが困難な場合、分析結果をもとに、輻射冷房システムの熱性能を算出し、循環水の温度によってシミュレートできるプログラムを作成するなど対策を講じる必要があるかもしれない。

 また循環水用のポンプの動力となる太陽電池の納入が遅れ、モニタリング期間中は、バッテリー駆動となった。太陽電池を使用した場合、雨天などは、ポンプの運転がされないので、今後、引き続きデータ収集を行い検討する必要がある。

・ダブルルーフについて

 ココナッツ繊維の断熱性は、詳細についてはさらなる分析待ちだが、現段階で、一般的な工業断熱材のグラスウールより、断熱性能は良いようだと報告を受けている。また、ダブルルーフの各層に合版を用いたが、コスト低下のためには、空気層と断熱層の間の合版などの省略可能な部分について検討が必要である。

・モニタリングについて

 測定機器購入の予算より、今回は風速関係の測定は見送った。これは流動する空気の影響を測定、分析することが、技術的にもまだ難しいためでもある。

 測定機器は、日本から全て持ち込んだが、インドネシアで使用すると、センサーの劣化が早く、データの欠損を招いた場合があった。データ収集状態を、より頻繁にチェックする必要がある。

 本年度は、気象異常の影響を受けて、例年より降雨が多く、また雨季も予想より早く訪れた。体感温度も、明らかに例年より涼しく、データの分析結果次第では、より厳しい気候条件でのパッシブシステムの検証が必要になる可能性がある。

 モニタリングでは、窓の開閉時間や輻射冷房の運転時間の設定が問題になるが、今回の設定が、パッシブデザイン性能を十分に引き出したかどうかの検証が待たれる。また、結果的に、より有効に性能を引き出す設定とインドネシアにおける生活習慣に大きな食い違いが無いように調整される必要がある。*13

 

謝辞

 実験住宅の循環水による輻射冷房システムについては、シャープ株式会社から太陽電池一式、三菱化学産資株式会社から、ポリエチレンパイプ、温度計付きヘッダー一式の協力寄付を受けた。

 

 

参考文献

*a 布野修司, 「インドネシアにおける居住環境の変容とその整備手法に関する研究」, 東京大学学位請求論文, 1987

*b 山本直彦他,「ルーマー・ススン・ソンボ(スラバヤ,インドネシア)の共用空間利用に関する考察」,日本建築学会計画系論文集第502,p.87-93,199712

 

脚注

*1 バンブーハウスは森林減少を食い止めるため成長のはやい竹を使った住宅供給を進めているコスタリカやコロンビアなどでも広く見られる。

*2 本実験住宅では、居室内の仕上げは、各階4室のうち、モニタリング実施予定の2室のみ行われている。これはコスト削減のためであるが、インドネシアでは、戸建て、集合住宅に関わらず、ローコストハウジングの場合、居住者自身による自助建設が前提とされる場合が多い。こうした現実から、今回の実験住宅も、自助建設プロセスを前提としたハウジングモデルとして提案を行っている。

*3 本研究は、「パッシブデザイン」について、特に技術力に支えられていることを強調したいが、一般的には、現代の技術を用いて自然エネルギーを有効に活用し、快適な室内環境を実現する建築設計技術の全体を指すだろう。つまり、「パッシブデザイン」は、自然の暖房効果を得るための「パッシブ暖房(Passive Heating)」と冷房効果を得るための「パッシブクーリング(Passive Cooling)」の両方を含んだ概念である。元来、こうした技術は、太陽熱を暖房に利用する寒冷地の技術である「パッシブソーラーシステム」から始まったものである。今回の実験住宅では、「パッシブクーリング」が中心となるが、一部、太陽熱温水利用なども行われるため、本稿では「パッシブデザイン」という用語を用いたい。

*4 道路の舗装、側溝整備、上水道の設置等が行われた。詳細は、参考文献*a参照

*5"Rumah Susun" は、インドネシア語で「集合住宅」の意味。"Sombo" は、場所の名前。ソンボの建設は、既存のカンポンの従前住居調査から始まり、住民間の権利関係の調整を経て、カンポン全体を集合住宅に建て替えるという非常にユニークなアプローチが取られた。詳細については、文献*aを参照されたい。

*6 さらに言えば、ソンボのモデルは、居住者の大半を占めるマドゥーラ島出身者の村落部の住居の構成である。マドゥーラ人は、スラバヤ市のすぐ対岸にあるマドゥーラ島に住む民族だが、移住や季節労働によって、ソンボのあるスラバヤ市北部にも多数が住む。

*7 参考文献*bで、ソンボの特徴である共用空間について、特に分析を行った。

*8 今回使用したシミュレーションソフトは、 "Solar Designer Ver. 4.1"といい、建設省建築研究所で開発された"PASSWORK"というプログラムをベースとして、市販化されたものである。ただし、実験住宅の空気の流れを前もってシミュレートする技術は、このソフトウェアには不可能である。

*9 工事の分類は、施工管理を行ったPP. Taisei Inodnesia Constructionの工事レポートによっている。

*10 施工作業は、基本的に毎日進められたが、コンクリートの施工中といった連続作業が必要な場合を除いて、日曜日は、平日や土曜日に比べると小規模な場合もあった。以下では、特に日曜日を別扱いしていないので、特に平均値等については、本節で記述した数字より、平日に関しては若干上回るであろうことを最初に断りたい。

*11 熟練工の日給は1万2000ルピア

*12 試験モニタリングの結果、以下の点が改善された。

・当初、循環水の温度を計る予定はなかったが、本モニタリングでは、これを測定することとした。

・時間によって、室温測定用のセンサーが日射の直撃を受けていることが判明したため、センサーの位置を若干移動した。

・当初、外気温湿度測定用に、おんどとりを一台回す予定であったが、防犯上の理由で、1階共用空間のデータで代用することになった。

・試験モニタリングでは、おんどとりの測定インターバルを30分としたが、本モニタリングでは、データコレクター、日射計と同じ、10分インターバルとした。

*13 例えば分かりやすい例として、窓の開閉は、人間が起きていなければ不可能だし、防犯や蚊の出現時間とも関係する。



















2025年6月3日火曜日

地球環境時代の都市デザイン、特集 温暖化への対応 日本のテクノサイエンス、科学、200805

温暖化にいかに対応するか──技術・都市・ 環境(仮)

「生態系的都市」(仮)4500程度

 

地球環境時代の都市デザイン

布野修司

 

 地球環境問題が喧しく論じたてられ、様々な対応策が論じられるにも関わらず、いっこうに事態の進展が見られないのは実に不思議である。そして、そこにこそ現代の根源的危機があるのもはっきりしている。

 第一、危機を危機として認識しない底抜けの楽天主義がある。あるいは危機を疑う懐疑主義がある。第二、裏返しで、危機を危機として煽るだけのエコ・ファシズムがある。あるいは、エコという名に値しない「偽装エコ」が横行している。第三、この二つによって「不都合な真実」が隠されてしまっている。第四、隠された「真実」として、危機を危機としてそれをビジネスとする、あるいは危機であろうとなかろうと格差、差異を利潤の原動力とする世界資本主義の自己運動がある。第五、危機を危機として意識するものの、対処の仕方がわからない、対処ができないという問題がある。これが最も身近な問いである。

石油依存の社会、車依存の社会が決定的に問題であることははっきりしている。しかし、車に乗るな!と言われても、そうはいかない。根源的にはライフスタイルの問題であると頭で理解はできても、最早身体がついて行かない、そんな事態に立ち入ってしまっている。すなわち、地球大の問題と個々の身体の問題が直接絡まり合って、解くに解けないのが現代である。

 ここでは、地球環境時代の都市について考えたい。「日本の風土に合わせた都市のデザインをどのように考えていくのか」というのが与えられたテーマである。物質循環、エネルギー循環といった観点からの論考は他に譲ることになるが、もとより、理論モデルを立て、シミュレーションをして、数値目標を導き出すなどは不得手である。しかし、事態が、50%削減が不可避という方向であるとすれば、解決は、単なる数値合わせ、CO2排出権取引といった次元にはない、ことははっきりしている。

もう30年もスラバヤ(インドネシア)のカンポン(都市村落)に通っている。カンポンとはムラという意味である。都市の住宅地なのにカンポン(ムラ)という。詳述する余裕がないけれど、そこには自立的なコミュニティがある。貧しいけれど、職住近接の活気に満ちた世界がある[i]

そうしたカンポンの世界でスラバヤ・エコ・ハウスと呼ばれる実験集合住宅を建てた。椰子の繊維を断熱材に用い、井戸水を太陽電池のポンプで汲み上げて床輻射冷房の装置を組み込んだ。こうしたモデル集合住宅、モデル住宅地が各地で試みられる必要があると心底思う。とりわけ、今後人口が増えるのは熱帯地域である。そこで皆が一斉にクーラーを使い出したらどうなるか。インドネシアの友人たちと議論を重ねて設計した、自然エネルギーを最大限に生かしたモデル集合住宅がスラバヤ・エコ・ハウスである。

「しかし、何故、エコ・ハウスをわれわれだけに押し続けるのですか?日本ではクーラー使わないのですか?」という無数の声がある。

今のところ筆者は、何も言えずに、黙るしかない。

都市といえども、それを構成する都市組織のあり方、具体的には街区のかたちや住宅のかたちが問われる。そのあり方を念頭に、世界の都市史を大きく振り返って、素朴な直感をメモしてみたい。

 

大転換の1960年代

 都市の歴史を大きく振り返る時、それ以前の都市のあり方を根底的に変えた「産業化」のインパクトはとてつもなく大きい。都市と農村の分裂が決定的となり、急激な都市化、都市膨張によって、「都市問題」が広範に引き起こされることになった[ii]。しかしながら、今日の都市をとりまく状況は、さらに桁外れに危機的となりつつある。その決定的な転換の閾は1960年代にある。

日本列島の景観の変化が象徴的にそのことを示している。1960年代初頭、日本にアルミサッシュの住宅はゼロである。全て木製建具であった。1970年その普及率は100パーセントとなる。クーラー(空気調整機)が普及し、日本の住宅の機密性があがったということである。日本の都市の人工環境化は以来とどまることを知らない。日本にプレファブ(工業化住宅)住宅の第1号ミゼットハウスが販売されたのが1959年である。1970年には年間新築戸数の14パーセントをプレファブ住宅が占めた。現在は20パーセントを超える。住宅は建てるものではなく、工場で作られたものを買う時代になった。この10年で、日本中から藁葺き茅葺きの民家がほぼ姿を消した。1960年代は、間違いなく、日本の住宅史上最大の転換期である。東京オリンピックを期に、高速道路網が東京につくられ、百尺規定が撤廃されて、最初の超高層建築霞ヶ関ビルが建ったのは1968年である[iii]

第二次世界大戦が終わった頃、すなわち20世紀半ば頃までは、都市景観に大きな変化はなかったといっていい。東京で言えば、江戸の雰囲気がそこここに残されていた。

CO2削減の基準年を1990年代のどこに置くのか、といった議論はあまりにも姑息で近視眼的である。都市を含めた社会システムの全体を問題にするのであれば、少なくとも1960年代の初頭、あるいは第二次世界大戦終戦直後に遡って、そこを出発点と考えるべきだと思う。

 

鉄とガラスとコンクリート

産業社会の進展を加速化し、都市化の水準を格段に変えてしまったのが石油である。すなわち、外燃機関から内燃機関への展開、具体的には、車と飛行機の出現は、移動時間を短縮させ、都市の拡大を飛躍的に促すことにおいて、都市のかたちをそれ以前とは比較にならないほどに変えてしまう。そして、都市の立体化を実現したのが「鉄筋コンクリート造(reinforced concrete construction、略してRC造という)」の「発明」であった。鉄とコンクリート[iv]の「偶然の結婚」と言われる、この「発明」がなかったら、世界都市史は全く異なったものになった筈である。

鉄筋コンクリートは、引張りに強い鉄と圧縮に強いコンクリートを組み合わせる実に都合のいい合成材料である。「偶然の結婚」とは、たまたま、鉄とコンクリートとの付着力が十分強いこと、コンクリートはアルカリ性であり、鉄はコンクリートで完全に包まれている限りさびる心配がないこと、そして鉄筋とコンクリートの熱膨張率が非常に近いこと、という条件があったということである。

1850年頃に、フランスの J. L. ランボーが鉄筋コンクリートでボートをつくったのが最初で、1867年に、J. モニエが鉄筋コンクリートの部材(鉄筋を入れたコンクリート製植木鉢や鉄道枕木)を特許品として博覧会に出品したのが普及の始まりである。J. モニエは1880年に鉄筋コンクリート造耐震家屋を試作する。その後ドイツのG.A.ワイスらが86年に構造計算方法を発表し、実際に橋や工場などを設計し始め、建築全般に広く利用されるようになった[v]

すなわち、鉄筋コンクリートの歴史はたかだか一世紀のことである。そして、われわれにはかつて最強の永遠の素材と考えられた鉄筋コンクリートに対する信頼感はない。塩分を含んだ海砂の問題で明らかになったように意外にもろい。再生コンクリートも模索されるが、その未来は見えない。

ここでも、われわれは一世紀前に遡って、都市空間支える物質的基礎(建築材料)を再考すべきである。

 

都市の死

都市の立体化へ向かっては、もちろん、鉄骨造の発達もあれば、エレベーター技術の開発が不可欠である。いずれにせよ、科学技術の発達によって、都市は垂直的に空間を確保することによって、さらなる集積が可能となった。そして、地域の生態系を超えるキャパシティを持つ都市が世界中に出現することになった。かつて、プライメイト・シティ(首座都市、単一支配型都市)と呼ばれた発展途上地域は、だらだらと繋がり始め拡大巨大都市地域EMR[vi]と化しつつある。

こうしたクライマックスが見えてしまった段階で、想起すべきは都市の生と死の歴史(栄枯盛衰)である。都市が無限に拡大し続けることはあり得ない。エネルギー、資源、食料が有限であることは、既に地球大の規模で確認されつつあることである。

インダス文明は、紀元前2000年頃から衰退し始め、前1800年頃には解体したとされる。衰退の理由として挙げられるのは、まず、インダス川の大氾濫、あるいは河口の隆起による異常氾濫、もしくは河川の流路変更などの自然条件である。また、モエンジョ・ダーロにおける「スラム」化など都市機能が麻痺したことによる都市内的要因である。その衰退は、徐々に進行したとされ、煉瓦を焼くための森林の過剰伐採による気候変化(乾燥化)という説もある。

都市は、そもそも、自然、地域の生態系への挑戦として成立する。その原型としてのオアシス都市を考えてみればいい。オアシスは、単に、水のあるところではない。水を利用して農耕が行われるところがオアシスである。すなわち、オアシスは自然に存在するのではなく、人工的営為によってつくられるのである。オアシスの持続のためには人為が不可欠である。沙漠に埋もれて忘れ去られた数多くの都市があることがそのことを示している。また、オアシスの成立には水の利用について高度な技術、知恵が必要とされる。

都市が今日でも自然、地域の生態系との関係においてのみ存続していることは、台風や地震、ますます増え続ける都市洪水などで思い知らされていることである。

 

地域の生態系に基づく居住システム

さて、ここからが本題である。建築、あるいは土地は、基本的に動かないし、動かせない。基本的には「地(ぢ)のもの」である。プレファブ(工業化)建築は、ある意味で画期的な発明であった。土地土地で採取できる材料(地域産材)によってつくられてきた建築が工場で作られようになるのである。工業材料(鉄、ガラス、コンクリート)でつくられることによって、また、四角い箱形のジャングルジムのような超高層建築を理想とする近代建築の理念によって、世界中の都市が似てくるのは当然の流れであった。

ただ一点、建築は他の工業製品と異なる。99%工場でつくられても、具体的な敷地に置かれて始めて建築となる。建築が「地のもの」、というのはそういう意味である。

環境をめぐる全てが複雑に絡まり合う現代社会において、唯一、共通の指針となるのは、

「可能な限り身近に循環系を成立させる」

ということであろう。「地産地消」というスローガンが共有されつつあるが、食糧にしても、エネルギーにしても、廃棄物にしても、地域を越えたとてつもないシステムが地域の生態系に基づいてきた居住の仕組みをずたずたに切り裂いてしまっていることが最大の問題なのである。

都市についても、同じように言いうる。「日本の風土に合わせた都市のデザインをどのように考えていくのか」と言われれば、地域地域で採れる、あるいはつくられる素材を基礎にして、都市をデザインすること、その原点に立ち返ることが出発点になる。例えば、木材は真剣に見直されていい。しかし、国内自給率が50%を下回って(1985年)既に久しい。日本に木材が育っていないわけではない。食糧同様、その生産流通消費の構造が狂ってしまっているのである。

エコハウスなどと言わなくても、日本の住まいは、そもそも、日本の気候風土にあったかたちで成立し、その伝統を維持してきた。世界中を見渡しても、住居が地域の生態系に基づいて成り立ってきたことは明らかである[vii]

何故、日本でエコハウス=地域の生態系に基づく居住システムが実現しないのか、と言えば、冒頭に戻っての堂々巡りである。そうした方向を否定してきたのが産業化の流れである。それ故、またしかし、エコハウス=地域の生態系に基づく居住システムの実現は、過去に戻ることを意味しない。また、誤解を恐れずに言えば、単に法制度的な枠組みの改変の問題でもない。確かに、居住あるいは建築をめぐる日本の制度的枠組みには、日本の都市を鉄と・ガラスとコンクリートで画一的に固めてしまえばいいといった、どうしようもないところがある。そして、エコハウス・オリエンティッドな環境経済学的な仕組みも最大限追求されるべきである。しかし、全く新たな世界史的な実験と考えなければ展望は見いだせないと思う。それよりも何よりも、百の議論より、身近な一歩である。


布野修司先生
 平素は社としてお世話になっております。突然のメールで失礼いたしますが、私は、岩波書店の雑誌『科学』を担当しております田中と申します。
 『科学』085月号において、地球温暖化への日本の対応について特集したいと考えております。構成案としては末尾のように考えておりますが、どうしても技術的な話が多く、違った角度からの論考も織り交ぜたいと考えております。
 先生には、そうしたものの1つとして、都市のあり方について、4500字程度の論考をご執筆いただけないかと希望しております。
締切としては、314日(金)でご検討いただけると幸いでございます。
 内容としては、先生にお任せしてよいと考えております。構成案に示した「生態系的都市」というのは、あてずっぽうで、先生のホームページに記載されていた言葉を勝手につなぎ合わせたものです。
 都市については、花木啓祐氏(東大)に、エネルギーや物質循環などの側面でお願いしておりますので、先生には、より建築に則した論考を考えていただければと思っております。
 温暖化がすすむとして、日本の風土に合わせた都市のデザインをどのように考えていくのか、といった方向で考えていただくのはどうか、と思っております。
 漠然としていて恐れ入ります。お電話で相談した
いと思ったの
ですがタイミングがうまくあわず、メールにてまず
はお願いをさ
しあげる次第です。
 ご検討をどうぞよろしくお願い申し上げます。

 岩波書店
 田中太郎

『科学』085月号 (敬称略、流動的な内容ですのでお手元に留めてください)
特集:温暖化にいかに対応するか──技術・都市・ 環境(仮)

[技術]
総論(新エネルギーを含めて) 山地憲治(東大)
省エネ 永田豊(電中研)
炭酸ガス貯留 藤井康正(東大)
 [コラム]
 ・IPCCの議論 杉山大志(電中研)
 ・地底の二酸化炭素の科学 赤井誠(産総研)
 ・家庭のエコ 山岡寛人(元高校教師)
 ・産業 製鉄 鵜沢政晴(鉄鋼連盟)
     セメント 北村勇一(セメント協会/太
平洋セメント)

[都市]
総論 花木啓祐(東大)
生態系的都市 布野修司(滋賀県立大)

[環境]
日本の適応策(農業、防潮堤) 原沢英夫(環境研)
森林の吸収 松本光朗(森林総研)
 [コラム]
 ・バイオ燃料 北林寿信(農業情報研)
 ・農業とメタン 八木一行(農業環境技術研究所)
 ・海洋吸収:地球科学の視点から 中澤高清(東
北大)

[社会]
排出権 岡敏弘(福井県立大)
CDM
 明日香壽川(東北大)


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岩波書店『科学』編集部
田中太郎
1018002
東京都千代田区一ツ橋2
電話:0352104435(直通)
          4000(代表)
ファックス:0352104073
電子メール:tarotan@iwanami.co.jp
HP
http://www.iwanami.co.jp/kagaku/
12
月号特集「富士山噴火の危険性––噴火予知と災
害対策」発売中
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[i] 拙著、『カンポンの世界』、PARCO出版、1991

[ii] 拙稿、「都市のかたちーその起源、変容、転成、保全ー」、『都市とは何か』『岩波講座 都市の再生を考える』第一巻、岩波書店、20053

[iii] グローバルにも、大きな閾となるのは1960年代といっていい。既に兆候は現れていた。「都市化」は、「産業化」の度合に応じる一定のかたちで引き起こされてきたのではない。「工業化なき都市化」、「過大都市化」と呼ばれる現象が、工業化の進展が遅れた「発展途上地域」において一般的に見られた。結果として、1960年代初頭には、世界中に数多くの人口一千万人を超える巨大都市(メガロポリス)が出現しつつあった。

[iv] コンクリートそのものは、建築材料として古代ローマから用いられてきた。広くはセメント類、石灰、セッコウなどの無機物質やアスファルト、プラスチックなどの有機物質を結合材として、砂、砂利、砕石など骨材を練り混ぜた混合物およびこれが硬化したものをいう。セメントとは、元来は物と物とを結合あるいは接着させる性質のある物質を意味するが、その利用そのものは古く、最も古いセメントはピラミッドの目地に使われた焼石膏CaSO4H2O と砂とを混ぜたモルタルである。

[v]日本では、1891年の濃尾地震で煉瓦造の耐震性が決定的に疑われ始めていた。1903年の琵琶湖疎水山科運河日岡トンネル東口の支間7.45mの弧形単桁橋が日本最初の鉄筋コンクリート造土木建造物である。そして、真島健三郎が佐世保鎮守府内のポンプ小屋を建てたのが1904年である。東京帝国大学に「鉄筋コンクリート構造」という科目が開講(佐野利器担当)されるのは、サンフランシスコ大地震が起こった1905年である。そして、06年には白石直治が神戸和田岬の東京倉庫を鉄筋コンクリート造で建てた。本格的な鉄筋コンクリート造建築の最初のものは、その白石直治の東京倉庫 G 号棟(1910年完成)と言われている。

[vi] Extended Metropolitan Region. 拙稿、「メガ・アーバニゼーション」、『アジア新世紀8 構想』、岩波書店、青木保編、2003

[vii] 布野修司編著、『世界住居誌』、昭和堂、2005







 

布野修司 履歴 2025年1月1日

布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...