住まい・空間の美学 住まいの豊かさとは? 全10回 07~10 未発表
死者との共棲
PHOTO:墓地公園/霊園/墓のマンション
日本の地方都市はどこでもミニ東京のようだ、とよく言われる。日本の都市の風景がどこでも同じように見え始めたということは、それぞれが固有の歴史を失いつつあることを意味している。
同じ様な材料を使い、同じ様な構法によって建てられたかっての民家は画一的であった。しかし、それぞれの町や村は個性的であった。何故だろう。それに対して、現在は、一見、多様に見える住宅が建てられているのに、都市のほうが画一的にみえるのは何故だろう。
ひとつのヒントは、かっての村や町は、はっきりとした境界をもっていたのに、現代の都市は、のっぺらぼうに連続しているということだ。具体的には、死者のための空間を考えてみるといい。
かって、人は住まいで生まれ住まいで死んだ。誕生から死に至るまで、住まいが舞台であった。しかし、今は、生まれるのも死ぬのも病院という施設である。冠婚葬祭や通過儀礼も全て住居や集落と一体で行われてきたのだけれど、都市の中の施設において行われるようになった。
墓地は、かって住まいに近接して置かれていた。町外れや村外れにあって、彼岸と此岸を境界づけていた。すなわち、死者は生きているものとともにあったといっていい。
しかし、現代はどうだ。ほんの一坪程の墓地を買うのも大変である。まるで住宅を買うのと同じである。死後の住まいを買うのにも僕らは汲々とせねばならないのである。
墓地は郊外へ郊外へ次第に追放されていく。ニュータウンのような郊外型霊園が次々に造られた。そして今やお墓のマンションも出現している。墓地の問題と住宅の問題は全く同じ経緯を辿ってきたのである。
僕らは死者のための空間を全く考えずに生者のためだけの都市を考えてきたといえるだろう。考えてみれば当り前である。一千万人の都市があれば一千万人の墓がいる。しかも、都市が歴史を重ね、人々が世代を重ねれば、その何倍ものスペースがいる。しかし、そんなことはおかまいなしだ。
死者をないがしろにするということは、その生の軌跡をないがしろにすることである。都市が無数の人々の歴史的な作品であるとすれば、それぞれの歴史を無視するということは、都市の歴史を無視するということを意味する。
1.一坪一億円 ○価格
2.入母屋御殿 ○イメージの画一性
3.展示場の風景 ○多様性の中の貧困
4.建築儀礼 ○建てることの意味
5.都市型住宅 ○型の不在
6.ウサギ小屋 ○狭さと物の過剰
以上 01~06
空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911
01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁,空間の美学3,学芸通信,新潟日報 19900814
04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に,空間の美学4,学芸通信,新潟日報 19900828
05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911
7.電脳台所 ○感覚の豊かさと貧困
8.個室 家の産業化 ○家族関係の希薄化
9.水。火。土。風 ○自然の喪失
10.死者との共棲 ○歴史の喪失