住まい・空間の美学 住まいの豊かさとは? 全10回 07~10 未発表
電脳台所 07
PHOTO:電脳台所・HA(ハウスオートメーション)、HS(ホームセキュリティー)機器
ハウス・オートメーション(HA)、ハウス・セキュリティー(HS)ということで、コンピューター制御による住宅機器が様々に開発されつつある。三種の神器(洗濯機、テレビ、冷蔵庫)の時代や3C(カー、カラーテレビ、クーラー)の時代に比べると、まさに隔世の感がある。住宅の設備は随分と高度になった。そして便利になった。
掃除、洗濯、裁縫、炊事など家事労働の形は、家電製品の登場で大きく変わった。家事労働の時間は大幅に削減されることになったのである。便利になることによって余暇ができる。自由な時間を好きな趣味や学習やスポーツなどに使うことができる。自由な時間は生活のゆとり、豊かさの指標である。
外から電話でお風呂のお湯をわかすことができる。セットしておけば、自動的に好きな料理ができる。室内環境は自動的にコントロールされる。実に結構なことである。しかし、ますます、便利になって、ワンタッチで、全てがコントロールできるようになることに対して不安がないわけではない。
故障したり、緊急の場合のシステムに問題があるといった技術的な不安では必ずしもない。具体的な物と身体との具体的な関係が希薄になって行くのではないかという漠然とした不安である。様々な生活技術が失われていくのではないかという危惧があるのである。
システム・キッチンの流行がわかりやすいかもしれない。既に台所はかってのような台所ではない。台所は、煮たり焼いたり、食器を洗ったりする場所であるだけでなく、食べ物を保存をして置くなど多様な場所あった。しかし、極言すると、今では冷凍・レトルト食品を簡単に調理するだけの場所となりつつあるのである。そこで、台所は作業の場でなく、インテリアの一部となる。家具としてのシステム・キッチンが生まれた由縁である。
今に、自動料理器ができるかもしれない。既に、焼いたり煮たり蒸したりという部分的なプロセスについてはコンピューター・プログラム付きのものがある。果して、味噌汁や漬物など、お袋の味とか我が家の伝統の味といったものも、簡単にコンピューター・プログラムとして伝承されるのであろうか。
生活の知恵と呼ばれる様々な生活技術は、住まいから次第に追放されてきた。ナイフや包丁を使えない子供たちが育っていく。手で触れた感覚より、センサーの数字を信用する感覚が育って行く。自分の感覚より、感知器のブザーに反応する習性がつく。便利になるのはいいけれど、感覚や感性を貧しく鈍感にするのでは困ったものだと思う。
1.一坪一億円 ○価格
2.入母屋御殿 ○イメージの画一性
3.展示場の風景 ○多様性の中の貧困
4.建築儀礼 ○建てることの意味
5.都市型住宅 ○型の不在
6.ウサギ小屋 ○狭さと物の過剰
以上 01~06
空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911
01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁,空間の美学3,学芸通信,新潟日報 19900814
04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に,空間の美学4,学芸通信,新潟日報 19900828
05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911
7.電脳台所 ○感覚の豊かさと貧困
8.個室 家の産業化 ○家族関係の希薄化
9.水。火。土。風 ○自然の喪失
10.死者との共棲 ○歴史の喪失
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