布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~2002年4月
こじんまりとしたスケール
中島ガーデン 静岡県富士市 設計 松永安光 近代建築研究所
全部で一二戸のこじんまりした集合住宅である。家の中から毎日富士山が見える。実にうらやましい。
二階建ての住棟が三列に並ぶごくシンプルな構成だ。しかし、単調さを破る工夫がある。まず、真っ直ぐ富士山に向けて斜めの通路が走っていて面白い。通路の上には平行して二階の住戸のためのブリッジがあり、その上に立つと富士山が住戸の壁と壁の間に見える仕掛けである。また、各戸の坪庭が交互に配置され、眼を楽しませる。さらに、幅二メートル程の路地が心地いい。スケール感がいいのである。小さな池と水路も効果的だ。モウソウチク、ヤマモミジ、ベニカナメ、そして下草にシャガ、ヤブラン、フッキソウ、ユキノシタ、コグマザサなど植裁もきめ細かくデザインされている。全体として路地と坪庭が実に効果的に外部空間を形作っている。設計者は、路地型集合住宅という。
住戸は全て二寝室で一室は和室という構成であるが、メゾネット(二階建て)型が二種類、フラット(平屋)型が二種類用意されている。一二戸でも居住形式の多様性に対応する意図もある。全てが専用庭を持ち、南北に通風と採光が採れる。目新しい技術の利用があるわけではないが、細部に目配りの効いた設計である。
単なる空き地が連なるだけの集合住宅が少なくない中で、共用空間が随分豊かである。ひとつには、特定優良賃貸住宅制度(特優賃)という制度の利用がある。敷地を民間が提供し、金融公庫が融資し、共用部分の建設費を公共が補助し、基準収入以下の入居者に対して家賃補助を行うという制度である。もっと利用されていい。
一二戸ほどの小さな集合住宅に、二〇〇一年度の日本建築学会賞が与えられた。個人住宅や小規模の集合住宅が受賞するのは珍しい。小さいが、日本の街並みをつくっていくモデルになるというのが最大の評価である。
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201
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⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
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