布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~2002年4月
公立はこだて未来大学 設計:山本理顕設計工場+木村俊彦構造設計事務所
函館市亀田中野町
なんともうらやましい大学である。まさに未来大学という名に恥じない。全ての教室の全ての机にコンセントがあり、インターネット用のジャックがついている。学生はノート・パソコンを持って移動すれば、教科書も参考書も要らない。教師も教材用にプリントを用意する必要はない。学生は黒板代わりの画面をそのままダウンロードすればいいのである。旧態以前たる教室で、講義のために毎回スライドやオーバー・ヘッド・プロジェクターを用意するのに四苦八苦している身には実に刺激的であった。
しかし、それだけではない。以上の情報メディアの問題であれば早晩全ての大学がそうなるであろうし、多くの大学で既に情報技術は教育研究に駆使されている。過激なのは全ての研究室がガラス張りであることだ。大学の研究室といえば蛸壺と言われたイメージは全くない。スタジオやアトリエ、ラウンジ、モールなどは巨大な吹き抜け空間に一体的に配されており、明るい自然光が差し込んでくる。そして、いつでもどこでも眼前に函館山の全容を望むことができる。絶好の立地である。
建築は巨大な箱だ。極めてわかりやすい。一律一二・六メートル四方という柱間にトリプルTスラブと呼ぶプレキャスト(予め工場で作った)の床を架けるだけだ。工期の短縮を絶対的条件としたための架構方法の選択である。全体を手掛けたのは埼玉県立福祉看護大学(要確認)で芸術院賞を受けた山本理顕、今、脂が乗り切っている建築家のひとりである。単純な架構の中に、高低、広狭、開閉、明暗、・・実に多様な空間を作り出し、全体を通じて破綻がない。
そして、構造計画を担当したのは木村俊彦、日本を代表する構造デザイナーのひとりだ。その簡素で徹底した技術の追求には、全てが乏しかった戦後まもなくの建築家たちの初心を思い起こさせる。木村は、テクニカル・アプローチを標榜し、戦後の建築界をリードした前川國男設計事務所の出身である。
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21
⓳土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
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