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2021年8月17日火曜日

空間の美学02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911

  空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 199007310911

 02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807

入母屋御殿                  02

  PHOTO:入母屋御殿         お城のように派手な



 日本の各地を歩いていて、随分と豪華な御殿風の住宅をみかけるようになったのは、十年ほど前からのことである。秘かに僕は入母屋御殿と呼んでいるのだが、いまでは、あちこちでみかける。

 都市近郊の兼業農家の住宅に多い。入母屋屋根で、しかも妻(つま)を沢山もつ、いくつも屋根が積み重なってお城のように見える住宅だ。

 まさに一国一城の主の心境なのであろう、日本では理想の住宅のイメージは城郭のイメージに結びつくらしい。入母屋御殿は実に豪華に見える。屋根や妻の数を競い、近所の家に負けまいと次々に建てられつつある。 

 入母屋御殿をみるたびに、日本の住まいは実に豊かになった、と思う。しかし、まてよ、とも思う。

 入母屋御殿が建てられるようになったのはそれなりに理由がある。調べてみると、そう驚く程コストがかかるわけではない。大抵は、広縁のついた続き間を持つのであるが、そう規模が大きいわけでもない。農家住宅の近代化ということで、座敷や床の間の追放が叫ばれたこともあったが、続き間はなくなることはなかった。農村では、冠婚葬祭や地域の集まりに欠くことができないからである。続き間をもつ入母屋御殿が造られ続けてきたのは、住まいとはこうだ、というあるイメージが強固に生き続けているからなのである。それが何故かお城のイメージなのだ。

 何故、入母屋御殿かというと、他にも理由がある。地域の棟梁大工の美学、あるいは生き残り作戦があるのだ。プレファブ住宅とかツー・バイ・フォー住宅が増えるに従って、大工さんの建てる在来の木造住宅は次第に少なくなりつつある。そこで、腕に覚えのある棟梁大工は自分をアピールする必要がある。入母屋屋根は、技術的に難しいから、入母屋屋根をいくつもつくることは腕の見せどころでもあり、付加価値を得ることができるポイントともなるのである。

 しかし、問題はここからである。入母屋御殿が棟梁大工の技能と美学に基づくのはいいとして、日本全国同じように建てられつつあるのは一体何故か。不思議なのは、地域の伝統を活かした住宅と称しながら、同じような入母屋御殿が建てられていることである。

 地域性をうたいながら、地域の固有性を主張しながら、何故か画一的に、ワンパターンに入母屋御殿がつくられるのは、発想が貧しいのではないか。入母屋御殿は確かに一見豪華にみえる。しかし、同じようにお城のイメージというのも想像力の貧困というべきではないのか。


01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731

02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困空間の美学2学芸通信,新潟日報 19900807

03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁空間の美学3学芸通信,新潟日報 19900814

04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に空間の美学4学芸通信,新潟日報 19900828

05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904

06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911

 

 

住まい・空間の美学  住まいの豊かさとは?

  1.一坪一億円          ○価格  

 2.入母屋御殿                          ○イメージの画一性

 3.展示場の風景        ○多様性の中の貧困

 4.建築儀礼                             ○建てることの意味

 5.都市型住宅                         ○型の不在

 6.ウサギ小屋                   ○狭さと物の過剰

 7.電脳台所                              ○感覚の豊かさと貧困

 8.個室 家の産業化                  ○家族関係の希薄化

 9.水。火。土。風       ○自然の喪失 

10.死者との共棲                        ○歴史の喪失

  

 

 






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