空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
入母屋御殿 02
PHOTO:入母屋御殿 お城のように派手な
日本の各地を歩いていて、随分と豪華な御殿風の住宅をみかけるようになったのは、十年ほど前からのことである。秘かに僕は入母屋御殿と呼んでいるのだが、いまでは、あちこちでみかける。
都市近郊の兼業農家の住宅に多い。入母屋屋根で、しかも妻(つま)を沢山もつ、いくつも屋根が積み重なってお城のように見える住宅だ。
まさに一国一城の主の心境なのであろう、日本では理想の住宅のイメージは城郭のイメージに結びつくらしい。入母屋御殿は実に豪華に見える。屋根や妻の数を競い、近所の家に負けまいと次々に建てられつつある。
入母屋御殿をみるたびに、日本の住まいは実に豊かになった、と思う。しかし、まてよ、とも思う。
入母屋御殿が建てられるようになったのはそれなりに理由がある。調べてみると、そう驚く程コストがかかるわけではない。大抵は、広縁のついた続き間を持つのであるが、そう規模が大きいわけでもない。農家住宅の近代化ということで、座敷や床の間の追放が叫ばれたこともあったが、続き間はなくなることはなかった。農村では、冠婚葬祭や地域の集まりに欠くことができないからである。続き間をもつ入母屋御殿が造られ続けてきたのは、住まいとはこうだ、というあるイメージが強固に生き続けているからなのである。それが何故かお城のイメージなのだ。
何故、入母屋御殿かというと、他にも理由がある。地域の棟梁大工の美学、あるいは生き残り作戦があるのだ。プレファブ住宅とかツー・バイ・フォー住宅が増えるに従って、大工さんの建てる在来の木造住宅は次第に少なくなりつつある。そこで、腕に覚えのある棟梁大工は自分をアピールする必要がある。入母屋屋根は、技術的に難しいから、入母屋屋根をいくつもつくることは腕の見せどころでもあり、付加価値を得ることができるポイントともなるのである。
しかし、問題はここからである。入母屋御殿が棟梁大工の技能と美学に基づくのはいいとして、日本全国同じように建てられつつあるのは一体何故か。不思議なのは、地域の伝統を活かした住宅と称しながら、同じような入母屋御殿が建てられていることである。
地域性をうたいながら、地域の固有性を主張しながら、何故か画一的に、ワンパターンに入母屋御殿がつくられるのは、発想が貧しいのではないか。入母屋御殿は確かに一見豪華にみえる。しかし、同じようにお城のイメージというのも想像力の貧困というべきではないのか。
01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁,空間の美学3,学芸通信,新潟日報 19900814
04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に,空間の美学4,学芸通信,新潟日報 19900828
05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911
住まい・空間の美学 住まいの豊かさとは?
1.一坪一億円 ○価格
2.入母屋御殿 ○イメージの画一性
3.展示場の風景 ○多様性の中の貧困
4.建築儀礼 ○建てることの意味
5.都市型住宅 ○型の不在
6.ウサギ小屋 ○狭さと物の過剰
7.電脳台所 ○感覚の豊かさと貧困
8.個室 家の産業化 ○家族関係の希薄化
9.水。火。土。風 ○自然の喪失
10.死者との共棲 ○歴史の喪失
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