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2021年8月30日月曜日

外国人労働者問題⑤ 建設現場の光景 お寺と黒人、建設通信新聞、1991年4月

 01] 避けられね「第三の開国」? 異質なものの共存原理、外国人労働者問題①、建設通信新聞、199141

02] 身近で見えない「スラム」、拡散する隔離空間、外国人労働者問題②、建設通信新聞、199142

 [03] 寄場の変容 重層構造のさらなる重層化、外国人労働者問題③、建設通信新聞、199143

 [04] 差別と排外主義 「不法」というレッテルが生み出すもの、外国人労働者問題④、建設通信新聞、199144

 [05] 建設現場の光景 お寺と黒人、外国人労働者問題⑤、建設通信新聞、199145

埼玉県S市。あるお寺の現場。木造の本格的な新築である。珍しく丸太の足場である。丸太で素屋根がかかっている。全国で鳶さんの数は少なくないとはいっても、丸太と番線だけで大スパンを架構できる鳶さんはそう多くない、という。今、ほとんどの現場が鋼管足場である。簡単で早い。それならなんで丸太の足場かというと、単管ではできない場合がある。跳ね出しの場合、丸太の方がはるかに強度があり、遠くに跳ね出すことができるのである。それに木造のお寺に鋼管足場は似合わない、というので丸太の足場にしたのだという。とにかく、いまどき珍しい、伝統的な現場である。その現場に外国人が働いていた。黒人で大柄である。なんとなく、違和感のわいてくる現場の光景であった。

 鳶さんは、かなりの腕のいい職人さんである。数十人の弟子を育てたというし、業界でもかなりの立場にある、。重鎮である。そこに何故外国人労働者なのか。

 現在、息子さんを中心に千葉県N市で営業するのであるが、総勢一二人のうち、六人が外国人である。プエルトリコ、ガーナ、ソマリア、そして三人がイラン人である。また、これまでパキスタン人も雇ったことがあるという。何故、外国人を使うようになったか。その話は熱っぽい。

 「とにかく、中学卒が駄目なんだ。冗談じゃなく、二十までしか数が数えれないような連中を預かるんだから。おねしょがなおらないものもいる。それじゃなくても根性がない。最近のことだけど、中卒を九人採ったんだけど、半年後に全員辞めたなんてことがある。6Kとかいうけど、五つまではなんでもない、なんとかなるんだ。しかし、仕事がきついというのはどうしようもない。そう思うんだからしょうがないよね。

 それに比べてみると、外国人の場合しっかりしている。パキスタン人なんか根性あるよ、特にね。うちにいるのは、就学生なんだけど、日本語も勉強している。彼らも大変なんだよ。学校へ行くために三〇万も五〇万もかかるんだよ。」

 むしろ、「不法」就労を取締り、指導する立場にあって、外国人労働者を使わざるを得ない実態とはなにか。問題の根は深いと言わざるを得ないだろう。

 「あるゼネコンの現場なんだ。難しいんだよね。だから、引き受けた。六人やったけど三人が外人だ。最初の日に早速電話があったよ。向こうの監督さんからね。「親父さん。外人駄目だよ」ってね。「いやあ、駄目だってってしょうがないよ。いま手がないんだから。まして突貫工事なんだから。偉い人が来た時だけは車んなかに放り込んでおいてくれていいから。偉い人というのは、半月に一遍とか一ケ月に一遍しか来やしないんだから」といったんだ。そしたら、「毎日三時から十分安全講習やるんだけどわかるんだかどうだか困るんだよな」というから、「大丈夫だよ、教えてあるから。日本語もわかるから。とにかく三日か四日か黙って眼をつむって奴らがやるのをみててごらんよ」といって押し切った。一週間ぐらいたって現場に行ってみてたら、監督が何をいうかというと「親父さん、すごいねえ。あいつら、随分やるねえ。よく働くねえ。安全帯の掛け方とかよく教えたねえ。日本人の三倍やるねえ」っていうんだ。」

 何もピンハネや賃金不払いが横行しているわけではない。この親方の場合、直接一万円から一万三千円を払っているいるのだという。最初は五千円だったんだけど、仕事に馴れるに従って、八千円になり、九千円になり、今は日本人と変わらなくなったのである。他に、月当り五万五千円のマンションも会社の名前で借りてやっているという。

 「不法だというのは知ってますよ。住居を与えれば幇助罪になる。しかし、期限を限って研修生として受け入れるべきなんだ。また来てもいいしね。皆優秀なんだから。彼らも大変なんだよね。ただ、結構優雅にやっている。六本木辺りでは結構もてるらしいよ。日本人の彼女もいるらしいよ。生活習慣の違いは大きいけどね。電気代、水道代は彼ら持ちだよ。朝からシャワー浴びるし、とにかく使うんだから。イスラームの場合、銭湯なんかで体毛を全部剃っちゃうんだよね。だけど、生活習慣や文化の違いだってわかりあえると思う。同じ人間なんだもん」

 親父さんは、短期に期限を限ったスイスの移民政策を日本もとるべきだという。不法就労問題、外国人労働問題についてはかなり詳しい。そして、人夫出しの底辺世界にもかなり通じている風である。

 「この世界で何年も生きてるとね。色々な奴を知っている。弟子のなかにね、人夫出しをやってるやつがいてね、紹介してきたんだ。一人につき、三万か五万貰うわけだ。紹介料としてね。紹介してすぐ逃げられるとまずいから、一ケ月後に払うんだそうだ。親父さんならいらないよといわれたけど、商売なんだから、半額払うことにした。それがきっかけなんだ。色々、何人もいるよ。外国人労働者を取り締まるというのであれば、人夫出しを取り締まらなければ駄目だよ。

 パキスタン人の人夫出しもいる。外国人の人夫出しの場合、本人から手数料を取る。それであちこちたらい回しして稼ぐんだ。五〇人も百人も抱えてて廻すんだね。一回世話して貰うと三万から五万払うわけだ。」

 話を聞くうちにお寺の現場で働く外国人の姿がそう異質な風景には見えなくなってきた。日本の伝統技能が外国人によって継承されていく、そんな経験も既にここそこの現場で始まっているのかも知れない。




 [06] ウサギ小屋文化 非関税障壁としての住まい、外国人労働者問題⑥、建設通信新聞、199148

 [07] 最底辺 ガストアルバイターの光と影、外国人労働者問題⑦、建設通信新聞、1991410

 [08] 歴史の記憶 朝鮮人と日本の経験、外国人労働者問題⑧、建設通信新聞、1991411

 [09] 貧困の共有 インドネシアのカンポンの世界、外国人労働者問題⑨、建設通信新聞、1991412

 [10] 情報公開われらの内なる国際化 開かれた世界へ、外国人労働者問題⑩、建設通信新聞、1991415

 

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