布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~2002年4月
土木デザインの新展開 何にお金を使うのか
地下鉄都営大江戸線・飯田橋駅 設計:渡辺誠/アーキテクツ・オフィス
東京へは度々出掛けるけれど用事をこなすのが精一杯だから町を歩く機会はほとんどない。行ったといっても移動は地下鉄であり、歩くのは地下街だ。東京駅から地下街を辿ればほとんど雨に濡れずに歩ける。東京は既に一大地下都市と化している。
都営・大江戸線の飯田橋駅をたまたま通りかかって驚いた。打ち放しコンクリートの肌が剥き出しのままなのである。そして、天井を蜘蛛の巣のように、所々照明灯が組み込まれた緑色のパイプが這っている。新鮮だ。
地下鉄のホームや通路というと天井が低く、背を折って歩く重苦しい閉塞感がある。しかし、この駅は何よりも天井が高く伸び伸びしている。それに地上のように随分明るい。普通は天井を貼って様々な設備を隠してしまうけれど、ここでは全て剥き出しにして、その分大きな空間が確保されている。そして、緑のパイプも現代彫刻のようで斬新だ。
同じような通路やホームで地下街にはアクセントが少ないから個性豊かな駅の誕生は歓迎である。大江戸線の駅のデザインには他にも何人かの建築家が関わったという。いくつか見て歩いたけれど最も挑戦的なのがこの飯田橋駅だ。そっけなかった橋梁や高速道路など土木構築物のデザインを見直す貴重な試みのひとといっていい。制度的な枠組みが強くて思うようにいかなかったというが、その悪戦苦闘を評価したい。
出来たものは素っ気ないトンネルにすぎない。素材をそのままに表現する1960年代初頭のブルータリズム(野蛮主義)のデザインのようだ。利用客の評価は果たしてどうであろうか。賛否相半ばするかもしれない。設計者は渡辺誠、ポストモダンの旗手とも目された建築家だ。その溢れる表現意欲を押さえたある種の欲求不満を解消するかのように地上の入口には異形の排気筒が建っている。この排気筒は必要なのか。何にお金を使うのか、デザインとは何か、大いに考えさせる作品だ。
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201
21
⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
0 件のコメント:
コメントを投稿