このブログを検索

2021年8月23日月曜日

住まい・空間の美学 住まいの豊かさとは? 08 密室(個室の集合としての住居) 

  住まい・空間の美学  住まいの豊かさとは? 全10回 07~10 未発表

  密室(個室の集合としての住居)              08

 PHOTO:AV機器満載の個室/カプセル・マンション/ホテルの個室(長期滞在型:AV機器完備)

 

 金属バット殺人事件、女子高校生コンクリート詰め殺人事件、連続幼女誘拐殺人事件といった凄惨な事件が起きる度にクローズアップされるのが個室の問題である。

 子供部屋が密室化することが犯罪を生むのではないか、子供に個室を与えるのは是か否か、というのだ。もちろん、子供部屋の独立、個室化ということと凶悪な犯罪を単純に結びつけることはできない。密室の問題でまず問われているのは家族の問題である。家庭内の人間関係である。住宅の物理的な構造が事件を生むのであれば、そこら中で犯罪が頻発している筈だ。そんな馬鹿なことはない。しかし、日本の住まいが単なる個室の集合と化しつつあることは一方で問われていいと思う。

 戦後の日本の住まいの歴史は、一部屋づつ規模を拡大する歴史であった。まずは、食寝分離、すなわち食べる場所と寝る場所を分けることが目標とされた。その結果生み出されたのがDK(ダイニング・キッチン)という日本独特のスペースである。続いて、公私の空間を分離すること、すなわち、家族の団らんのための居間を確立することが目指された。そしてさらに、家族のひとりひとりの部屋を確保することがテーマになった。

 一方、家の中での仕事は、どんどん、家の外へ追放された。すなわち、サービス産業によって代替されるようになってきた。食事の宅配サービスやハウス・クリーニングなど、家では何もすることがないほどである。

 その究極の形態はと問われれば、それはまるでホテルのような住まいである。ベッドメーキングからなにからなにまで、あらゆるサービスがついた住まいである。実際、そうした、ホテル型のマンションは既に建設されつつある。

 もちろん、そうした住まいが一般化していくのは簡単ではない。しかし、その前に問われるのが家族の関係である。あらゆるサービスが外化され、住居が単なる個室の集合となるとすれば、家族の結びつきの意味が改めて問われる筈だからである。

 テレビやビデオ、ファックスやパソコン、様々なAV機器、情報機器がビルトインされた個室は、物質的には閉じられているけれど、様々なメディアを通じて世界に開かれている。しかし、その一方で家族の直接的関係が希薄になりつつあるのだとすれば大問題だろう。単に家計を共有するというだけでない、家族の触れ合いをより豊かに実現する住まいがそれぞれに求められつつある。そうでなければ一緒に暮らす意味がない、そんなところまで日本の住まいは到達しつつありはしないか。


 1.一坪一億円           ○価格  

 2.入母屋御殿                            ○イメージの画一性

 3.展示場の風景         ○多様性の中の貧困

 4.建築儀礼                              ○建てることの意味

 5.都市型住宅                          ○型の不在

 6.ウサギ小屋                    ○狭さと物の過剰

以上 01~06

空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 199007310911

01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1学芸通信,新潟日報 19900731

02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困空間の美学2学芸通信,新潟日報 19900807

03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁空間の美学3学芸通信,新潟日報 19900814

04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に空間の美学4学芸通信,新潟日報 19900828

05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904

06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911


 7.電脳台所                               ○感覚の豊かさと貧困

 8.個室 家の産業化                    ○家族関係の希薄化

 9.水。火。土。風         ○自然の喪失 

10.死者との共棲                          ○歴史の喪失



0 件のコメント:

コメントを投稿