住まい・空間の美学 住まいの豊かさとは? 全10回 07~10 未発表
地水火風 09
PHOTO:囲炉裏のある風景
日本の住まいが豊かになるにつれて、確実に失われたのは自然との関係である。都市化とともに日本列島全体から自然が失われてきたのだから当然といえば当然なのであるが、自然との関係を徐々に希薄化してきた意味は住まいにとって大きい。
空気調和設備など設備機器の発達で、住宅内の環境を人工的に制御できるようになったことによって、次第に季節感が失われてきたことは実に寂しいことだ。しかし、問題は単に季節感だけの問題ではない。
環境を自由にコントロールできるのはいい。しかし、そのために余りにも多くのエネルギーが浪費されている。そして、そのことが都市や地球規模の環境に及ぼす影響が忘れ去られてしまっている。実に大きい問題である。
例えば、水はどうか。僕らは水を蛇口をひねればすぐにでてくるものだと思っている。只(ただ)ではないが、空気と同様、無限に近いものだと思っている。しかし、水に恵まれない地域は世界に多い。毎日、少しづつ水を買って生活している多くの人々が発展途上国の大都市にはいる。それに比べると僕らは贅沢だ。雨水を利用したり、飲料水以外は、家庭用排水を再利用しようというプログラムもあるけれどまだ実現はしていない。
また、僕らは水を完全に制御できるものと無意識に考えているのであるが、集中豪雨で河川が溢れる水害は決してなくなったわけではない。全ての道路を舗装するため、雨がすぐに河川に流れ込み、都市ではかえって洪水が起こりやすくなったりしているのである。
そういえば、土を都会ではほとんど見なくなった。土がなければ緑もない。緑が失われ、疑似的自然のみが創られのは悲しいことだ。
水や土だけではない。風はどうか。風通しというのは住宅にとって極めて重要だったのだけれど、すきま風すらなくなった。室内を密封し、室内気候を機械的に制御することだけが目指されてきたのである。
火はどうか。住居の中で、火のウエイトはますます小さくなっていく。料理から調理へ、火を使う場所であった台所がほとんど火を使わなくなるのだから当然である。薪割や焚火は都会ではもう見かけない。ゴミを身近に処理することはないのである。
ゴミといえば、僕らの生活は余りにも浪費的である。捨てるために生産する悪循環である。自然のエコロジカルなサイクルを傷つけ、取り返しのつかないところまで至りつつある、そんな気がするのにやめられない。こんな状況を果して豊かというのであろうか。
1.一坪一億円 ○価格
2.入母屋御殿 ○イメージの画一性
3.展示場の風景 ○多様性の中の貧困
4.建築儀礼 ○建てることの意味
5.都市型住宅 ○型の不在
6.ウサギ小屋 ○狭さと物の過剰
以上 01~06
空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911
01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁,空間の美学3,学芸通信,新潟日報 19900814
04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に,空間の美学4,学芸通信,新潟日報 19900828
05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911
7.電脳台所 ○感覚の豊かさと貧困
8.個室 家の産業化 ○家族関係の希薄化
9.水。火。土。風 ○自然の喪失
10.死者との共棲 ○歴史の喪失
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