このブログを検索

2021年8月4日水曜日

見聞録10 縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化

   三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 


 小さな芝生の丸い岡に、大中小いくつかのコンクリートの楕円の筒が突き刺さっている。周囲をめぐると筒が様々に重なり合って表情を変える。全体は岡に埋め込まれ、建物そのものによって自己主張するところがない。正面のない建築である。

 まるで円墳のようだ。古代の越の国は、出雲とともに四隅突出型古墳が出土する。すなわち大和とは異なった文化圏があったことが知られる。しかし、何も古墳をイメージしたわけではない。ここに収められるのは、古墳時代にはるかに先立つ縄文時代の遺物だ。福井県三方町には鳥浜貝塚という国内屈指の縄文遺跡がある。その遺跡を縄文の森に埋めるようにつくられたのがこの建築である。

 平面の形は三重の楕円形をしている。一番奥の楕円が最大の筒で、映像シアターになっている。次の楕円が縄文ホールと呼ばれる主展示室で、いくつもの丸い筒が巨大な樹木のように上から降りてくる。一番大きな楕円の岡に楔形の切り込みがつくられており、人々は、その縄文の森を模した空間に誘われる、そんな仕掛けだ。小さな筒は換気塔と光の塔である。全体を土と芝生で覆うことによって、光をどうとるかが大きなテーマになる。建築家の腕の見せどころである。

 全体の形は背後の山によく合う。土と芝生は断熱にも大きな役割を担う。通風のシステムもよく考えられている。何より楽しげなのは、この岡にどこからでも自由に登れることである。天候がいい季節には子どもたちが鈴なりになるのだという。

 こうした全体を土で覆う建築はこれまでもなくはない。そうした中でも、テーマといい、立地といい、空間構成といい、なんとなくぴったりとくる作品だ。屋上緑化、壁面緑化ということで、こうした建築のあり方はさらに様々に追求されるだろうが、どんな建築でも土や緑で覆うというわけにはいくまい。問題は、本来の森をとりもどすことである。







➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104




⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

0 件のコメント:

コメントを投稿