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2021年8月11日水曜日

見聞録17  世界貿易センター(WTC)の悪夢  呪われた建築家、ミノル・ヤマサキ  現代技術の盲点:最適設計の美学

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 世界貿易センター(WTC)の悪夢

 呪われた建築家、ミノル・ヤマサキ

 現代技術の盲点:最適設計の美学





ミノル・ヤマサキという建築家はよくよく呪われている。彼が設計したプルーイット・アイゴー団地(セントルイス)が爆破解体されたのは一九七〇年代初頭であった。近代の理想の団地もスラム化がひどく壊すしかなかったのである。その爆破の写真は、近代建築の失敗の象徴としてしばしば取り上げられる。そして世界貿易センタービルの一瞬の消滅である。その設計思想の破綻が白日の下にさらされたのである。

それは信じられないような光景であった。超高層ビルがまるで砂のように崩れ去ったのである。建築のことはひと通り学んだつもりの僕でも、こんなことがありうるのか、と眼を疑った。超高層にジェット機がぶつかることなどそもそも想定されていないと言えばそれまでである。しかし、ぶつかって火焔を上げている超高層ビルが次の瞬間に崩れ落ちると予測した人が何人いたであろうか。

事件からしばらくして、予想通りの美しい壊れ方であったと嘯く専門家がいると聞いた。最も経済的に最も合理的に設計された建築物は全ての部位が同時に破壊されるのが理想だという。最適設計の理論である。そんな理論など一般の人は知らないだろう。超高層ビルがそんな思想で設計されていると知っていたら、多くの消防士や警察官は救助に向かわなかったであろう。そして命を落とすことはなかったであろう。

超高層はそもそも不要だ、あるいは不自然だ、などとは言うまい。それ以前に、何があろうと、建造物があのように崩れてはならないと思う。一本の柱でも一本の梁でも壊れずに残れば多くの命が救われた筈だ。全て同時に壊れるのではなく、わざと弱いところをつくっておいて、他を救うという考え方だってある。問われているのは設計の思想である。

超高層ビルを生んだ二〇世紀の設計思想が恐ろしいのは、それがいかに危ういか、を知りながらそれを隠していることではないか。




➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

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❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

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❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

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⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

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