空間の美学 学芸通信,新潟日報連載 全6回 19900731~0911
都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
都市型住宅 05
PHOTO:町屋OR画一的な戸建建売団地の風景(航空写真)
日本の都市には、日本の都市の特性がある。そして、それなりの魅力がある。しかし、一般的にいって貧しいと思う。
第一、雑然としすぎている。雑然としていることについては、その魅力を主張する人も多い。特に外国人がよくそういう。日本ほど建築の自由な国はない、勝手気ままなデザインが百科瞭乱で、そのアナーキズムに活気がある、様々な建築規制のある欧米だとこうはいかない、というわけだ。
確かに、そうした見方もあろう。しかし、ただ雑然としているだけで、都市の特徴が雑然性にあるというのはやはりいただけない。スクラップ・アンド・ビルドを繰り返すのみでいっこうに都市の骨格ができない。歴史的な表情がストックとして形成されないのは、どこかに欠陥があると言わざるを得ない。都市というのは、そこに住んできた人々の歴史の作品でもある筈だからである。
日本の都市が雑然として無個性に見えるひとつの理由は、都市住居の型をもっていないからである。日本の住居の原型となっているのは、農家である。持家一戸建て志向が強いのは、農村部の民家が住宅イメージの原型となっているからである。現在でも、庭付き一戸建ての住宅を人々は終(つ)いの栖(すみか)と考えているのである。
町屋とか、長屋とか、都市住居の伝統もなくはない。しかし、一般的には都市の伝統そのものが日本には希薄であった。江戸は、世界最大の、巨大な村落であったといわれるのであるが、戸建住宅がただ密集した形で出来上がったのが日本の都市の原型なのである。
ヨーロッパの場合、古くから都市住居の伝統がある。コートハウス(中庭式住居)の伝統がそうだ。イスラム圏にも、中国にもコートハウスの伝統はあるのであるが、都市に密集して住むためには、通気や換気、日照などをうまく制御する装置としての都市住居の型が必要なのである。
日本の場合、都市住居のひとつの形式として、共同住宅、アパートメント・ハウスが導入され始めたのは、大正期から昭和の初めにかけてのことである。関東大震災後に建設された同潤会のアパートなどが初期の例だ。半世紀余りの歴史があるにすぎない。
みるところ、日本に合った都市型住宅を作り出すことに僕らは失敗し続けてきた。極端に言うと、ただ住宅を積み重ねただけの集合住宅をつくり続けてきただけだ。そのことと都市の景観が雑然と貧しいこととは大いに関係がある。もう少し集まってすむための空間を考えてみる必要がある。戸建持家志向のみでは、日本の都市は一向に豊かになるまい。
01 本当の豊かさとは 経済優先を考え直せ,空間の美学1,学芸通信,新潟日報 19900731
02 今なぜ入り母屋御殿 底流に想像力の貧困,空間の美学2,学芸通信,新潟日報 19900807
03 景観壊す無国籍デザイン 住まいの向上と無縁,空間の美学3,学芸通信,新潟日報 19900814
04 簡素化した建築儀礼 建てる過程を大切に,空間の美学4,学芸通信,新潟日報 19900828
05 都市住宅の型 伝統育てるために必要,空間の美学5,学芸通信,新潟日報 19900904
06 物過剰の追放 「狭く貧しく」返上を,空間の美学6,学芸通信,新潟日報 19900911
住まい・空間の美学
住まいの豊かさとは?
1.一坪一億円
○価格
2.入母屋御殿 ○イメージの画一性
3.展示場の風景 ○多様性の中の貧困
4.建築儀礼 ○建てることの意味
5.都市型住宅 ○型の不在
6.ウサギ小屋 ○狭さと物の過剰
7.電脳台所 ○感覚の豊かさと貧困
8.個室 家の産業化 ○家族関係の希薄化
9.水。火。土。風 ○自然の喪失
10.死者との共棲
○歴史の喪失
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