布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~2002年4月
神戸税関本関 兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計
七十年前(一九二七年)に竣工した旧神戸税関は大蔵省営繕課の設計である。当時の大蔵相営繕課といえば、逓信省営繕課、東京市役所営繕課などと並ぶ日本を代表する建築組織であった。今でこそ高速道路の影に隠れるようだが、円形の時計塔を掲げた玄関は威風堂々であり、そのゼセッション(分離派、アール・ヌーボー)風のインテリアはいかにも当時の最先端を思わせる。港町神戸のシンボルとして、港と町の接点として、長く市民に親しまれてきた。
こうした歴史的建造物をどう保存再生活用していくのかはいままさに建築家のテーマである。スクラップ・アンド・ビルド(建てては壊す)時代は終わったのである。関東大震災直後の設計ということもあって充分な配慮がなされていたのだろう、阪神淡路大震災でも大きなダメージを受けたわけではない。旧館の竣工後、必要に応じて建て増された分館を統合し、高度な情報処理システムに対応することがこのプロジェクトの背景にある。そして、市民に親しまれてきた旧神戸税関をどう活かすかが主テーマとされたのである。
中庭に十本の柱がただ建っている。旧館で用いられたものをそのまま残したのだという。インテリアもほぼそのままで旧館の記憶を甦らせる。可能な限り旧館の構成を活かす。採用された方法は単純だ。面白いのはロの字型の平面構成である。片廊下型で中庭を囲むオフィスビルの構成は現代では珍しいが、新たにつくられた高層部分にもそのまま用いられている。この中庭は「自然の光に満ち、爽やかな風が吹く」という「環境親和型」のオフィスビルの構想にも結びついている。
阪神淡路大震災直後、公的補助がなされるというので多くの建造物がそのまま廃棄された。あの時、こうした建築物の保存再生の試みが広範になされていたら、既に多くの経験が蓄積されていたであろう。いまにしていささか悔やまれるが、遅くはあるまい。
➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007
❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008
❸出島の復元 日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009
❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010
❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011
❻空調を使わないビル エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012
❼知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101
❽木匠塾の目指すもの ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102
❾笑う住宅 くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103
❿縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104
⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105
⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106
⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107
⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109
⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110
⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111
⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112
⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201
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⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201
⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11
㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204
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