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2021年8月6日金曜日

見聞録12  建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな 神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 建築の保存再生  建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな

神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

  


 七十年前(一九二七年)に竣工した旧神戸税関は大蔵省営繕課の設計である。当時の大蔵相営繕課といえば、逓信省営繕課、東京市役所営繕課などと並ぶ日本を代表する建築組織であった。今でこそ高速道路の影に隠れるようだが、円形の時計塔を掲げた玄関は威風堂々であり、そのゼセッション(分離派、アール・ヌーボー)風のインテリアはいかにも当時の最先端を思わせる。港町神戸のシンボルとして、港と町の接点として、長く市民に親しまれてきた。

 こうした歴史的建造物をどう保存再生活用していくのかはいままさに建築家のテーマである。スクラップ・アンド・ビルド(建てては壊す)時代は終わったのである。関東大震災直後の設計ということもあって充分な配慮がなされていたのだろう、阪神淡路大震災でも大きなダメージを受けたわけではない。旧館の竣工後、必要に応じて建て増された分館を統合し、高度な情報処理システムに対応することがこのプロジェクトの背景にある。そして、市民に親しまれてきた旧神戸税関をどう活かすかが主テーマとされたのである。

 中庭に十本の柱がただ建っている。旧館で用いられたものをそのまま残したのだという。インテリアもほぼそのままで旧館の記憶を甦らせる。可能な限り旧館の構成を活かす。採用された方法は単純だ。面白いのはロの字型の平面構成である。片廊下型で中庭を囲むオフィスビルの構成は現代では珍しいが、新たにつくられた高層部分にもそのまま用いられている。この中庭は「自然の光に満ち、爽やかな風が吹く」という「環境親和型」のオフィスビルの構想にも結びついている。

 阪神淡路大震災直後、公的補助がなされるというので多くの建造物がそのまま廃棄された。あの時、こうした建築物の保存再生の試みが広範になされていたら、既に多くの経験が蓄積されていたであろう。いまにしていささか悔やまれるが、遅くはあるまい。



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