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2023年7月17日月曜日

自立した個のネットワークへ,職人サブコン,タウンアーキテクト,果てることのない役割,私論時論,建設通信新聞,20020204

 自立した個のネットワークへ,職人サブコン,タウンアーキテクト,果てることのない役割,私論時論,建設通信新聞,20020204

自立した個のネットワークへ

サブコン、職人、タウン・アーキテクト


布野修司

 

 今年の一月号から二年間、二四号、日本建築学会の『建築雑誌』の編集長を務めることになった。半年ほど編集委員会で議論を重ねた末に一月号の特集タイトルは「建築産業に未来はあるか」となった。当然だと思う。日本の建築生産の仕組みが今こそ問われているときはないからである。

日本の産業界そして社会全体が大きな構造改革を求められる中でひとつの焦点は建設産業である。戦後まもなくの日本は農業国家であった。就業者人口の6割は農業に従事していたのである。その後の高度成長を支えたのは重厚長大の製造業そして建設産業である。スクラップ・アンド・ビルドが日本経済を勢いづかせ、日本の建築生産は一時国民生産の四分の一を占めた。「土建国家」と言われたほどだ。しかし、大きな流れは第二次産業から第三次産業へである。そして、バブル期の金融業が日本を舞い上がらせ、掻き回した上に糸の切れた凧のようにしてしまった。日本の製造業の空洞化は誰の目にも明らかである。

こうした趨勢の中で建築産業はどうなっていくのかは今建築界全体の切実なる問いである。明確な指針は手探りであるにせよ、とにかく考える材料を提供しようというのが先の特集である。一瞥頂きたい。

まず前提とされるのは建設投資が国民総生産の二割を占めるそんな時代は最早あり得ないことである。先進諸国をみても明らかなようにそれは半減してもおかしくない。そして、スクラップ・アンド・ビルドではなく、建築ストックの再利用、維持管理が主体となっていくことも明らかである。都市再生の大合唱はその方向を指し示すけれど、需要拡大のみを期待するのは大間違いである。技術のあり方、仕事のあり方そのものが変化せざるを得ないのである。さらに、建築産業の体質が厳しく問われるのも明らかである。すでに、公共事業に対する説明責任が各自治体に厳しく問われる中で、設計そして施工に関わる業務発注の適正化が求められつつあるところである。それ以前に、不良債権の処理がままならず、大手建設業の倒産がさらに続くと噂されつつあるのが現状である。

こうした中で現在起こっているのは就業人口の大きなシフトである。建設業界はこれまで就業者人口調節の役割を担ってきたけれどその余裕は最早ない。IT産業、介護部門への転換は不可避である。そして、建設業界で起こっているのは、熾烈なサヴァイヴァル戦争である。「生き残る者」と「そうでない者」との二極分解が急速に進行しつつあるのである。

取り敢えず現在の問題は「そうでない者」の方である。先の特集の座談会で下河辺淳先生の一言が耳について離れない。

「生き残れない者は死ぬんです」。

確かに、建設業界の高齢化率は高く、需要減によって新規参入がなければ早晩業界全体は縮小して一定の規模に落ち着くであろう。問題はその先である。熾烈な淘汰が進行した後に残存するのがどういうシステムかということである。おそらく、スーパーゼネコンを頂点とする重層下請構造と言われてきた日本の建設産業体勢は変わらざるを得ないのではないか。

 ひとつの根拠は国際化である。建築は地のものとは言え、国際的なルールは尊重せざるを得ないだろう。CM、PMといったシステムは様々に取り入られていくであろう。もうひとつの根拠としてソフト技術の進展がある。企業の規模に関わらないネットワーク型の組織体制がいよいよ実現していくのではないか。そしてもうひとつ鍵を握るのは技術であり技能である。結局は、ビジネスモデルを含めてものをつくるノウハウを握っていることが決め手となるのではないか。そうした意味では能力あるサブコンが建築生産システムのひとつの行方を握るであろう。

 一方念頭に浮かぶのは地域社会を基盤においた建築職人のネットワークである。建築の維持管理が主となるとすれば建築業はどうしても地域との関係を深めざるをえないはずである。小回りが利いて、腕のいい職人さんの需要は減ることはないと考えるけれどどうだろう。

 限られた紙数で、法的枠組み、資格、報酬、保険など様々な問題を論じきれないけれど、期待するのは組織ではなく、技能、技術を持った個人のネットワークによる建築生産システムである。建築家、設計者のあり方もそのネットワークにおいて問われるだろう。まちづくり、維持管理、国際化が建築家にとってのキーワードである。グローバルにみて、 各地域においてサブコン、職人、タウン・アーキテクトのネットワークが果たすべき役割はなくなることはないと思う。