ブエノスアイレス:布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日
L29 延長するグリッド
ブエノスアイレスBuenos Aires,ブエノスアイレス自治市 Ciudad Autónoma de Buenos Aires,アルゼンチン共和国 Aregentine Republic
ブエノス・アイレスの起源は、ペデロ・デ・メンドーサ・イ・ルハンが建設した(1536年)「ヌエストラ・セニョ-ラ・サンタ・マリ-ア・デル・ブエン・アイレ(良き空気の我々の聖母マリア」(南郊のサン・テルモ地区に比定)に遡る。メンドーサの一団は,インディオの反抗に会い,ラプラタ川の上流に追いやられ,指揮を委ねられたフアン・デ・アヨラが翌年建設したのが、南アメリカで最も古い都市のひとつとなるアスンシオンである。多くのコンキスタドールが出陣していく「母都市」となり、ブエノス・アイレスの再征服もアスンシオンからなされた。
その都市形成の歴史を残された都市図をもとにみると以下のようである。最古の都市図(図①)は、フアン・デ・ガライによって再建され,ラ・トリニダードと命名された直後の1583年のものであるが,9×15の完結型のグリッド・パターンで,上下左右が延長される表現をとっている。単純な正方形グリッドで街区規模は140ヴァラ×140ヴァラ,街路幅11ヴァラでプラサ・マヨールは162ヴァラ×162ヴァラである。正方形街区は2×2=4分割される。
ブエノス・アイレスは,ラ・プラタ流域の産物,皮革などの輸出港として発展するまた,黒人奴隷の交易拠点ともなった。次に古い1708年の都市図(図②)には要塞が描かれ,その前に3街区分の大きな広場がとられている。全体は9.5×16の街区となっている。1720年の都市図には実際に建設された既成市街地が示されているが,建詰まっているのは4×9の範囲で,要塞も1街区規模である。周辺に建物が徐々に拡がりつつあり,境界ははっきりしていない(図③)。
「ブルボン改革」によって,ポルトガルの侵攻に対処するために,ラプラタ副王領がペルー副王領から分離するかたちで設置されて(1776),ブエノス・アイレスはその首都となり,開港される。1784年、そしてそれ以降の地図はその成長過程をそのまま示している。1700年に約2000人であった人口は、1778年には約2万4200人、1800年には約3万2000人に増加している。ブエノス・アイレスは、多くのスペイン植民都市が当初の計画とは異なった展開をして行ったのに対して、拡張可能な明快なグリッド・パターンの都市として計画され、その計画理念をもとに発展してきた、ある意味でユニークな都市である。
1810年の五月革命によって、ブエノスアイレスは自治を宣言し、1816年には正式に独立が宣言されるが、独立戦争は難航を極める。1825年のブラジル戦争時に国名をリオ・デ・ラ・プラタからアルヘンティーナに改名するが、その後も内戦が続き、国家統一がなされるのは1861年であり、ブエノスアイレスが首都になるのは1880年のことである。19世紀末の都市図(1885)の都市図(図④)をみるとほぼ一定の範囲が市街地されているのをみることができる。
19世紀を通じて人口は増加し続け、1855年のセンサスでは約9万3000人とされるが、国家統一以降、ヨーロッパからの移民が急増する。自由主義政権が積極的に招来したせいで、リアチュエロ川河口の港湾のラ・ボカ地区には、アルゼンチン・タンゴの発祥地となるイタリア人居住区が形成されたのがその象徴である。都市人口は、1875年には約21万3000人、1900年には約80万6000人に達する。
そして、さらに以降の人口増加は、まさにプライメイト・シティの典型である。1914年には163万人にわずか15年で倍増するのである。
アルゼンチンには広大な鉄道網が建設され、国内の全ての鉄道がブエノスアイレスを起点としたことが大きい。都市構造も、電車、自動車の導入によって変わっていく。ラテンアメリカで最初に地下鉄が建設されたのはブエノスアイレスであり、1911年のことである。そして、高層化も進行していくことになった。
19世紀中葉以降、貧困層の居住区がグリッド街区内に形成されてきたのであるが、20世紀に入って、郊外にも巨大な貧困者の居住区(ヴィジャ・ミセリアVillas miserias )が形成されていった。
ブエノスアイレスは、1920年代以降、ラテンアメリカ最大規模の都市として成長していくことになる。
ブエノスアイレス市の人口は現在300万人弱(289万人、2010年)であるが、ブエノスアイレス州内の24のパルティードを加えたブエノスアイレス大都市圏の人口は、1412万2000人(UN Year Book)に達し、アルゼンチンの総人口約4000万の3割を超えている。世界有数のメガシティである。
参考文献
布野修司・ヒメネス・ベルデホ,ホアン・ラモン:グリッド都市-スペイン植民都市の起源,形成,変容,転生,京都大学学術出版会,2013年
松下マルタ「ブエノスアイレスー南米のパリからラテン・アメリカ型首都へ」(国本伊代・乗浩子編(1991)『ラテンアメリカ − 都市と社会』新評論)
Romero, Jose Luis y Luis
Romero(eds.)(1983), “Buenos Aires, Historia de cuatlo siglos”, Editorial Abril
Ross, Stanly and Thomas McGann(eds.) (1982), “Buenos Aires, 400 years”, University of Texas Press, Austin




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