ダスマリニャス・ハウジング・プロジェクト,at,デルファイ研究所,199308
ダスマリニャス・ハウジング・プロジェクト マニラ
布野修司
コア・ハウス・プロジェクトとは、七〇年代以降、世界中で展開されてきたある種のハウジング・プロジェクトの呼称である。東南アジアでも、フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシアといくつかの試みがなされてきた。その一つ、フィリピンのものを紹介しよう。
発展途上国は極めて深刻な住宅問題を抱えており、様々な対応策がとられてきているのであるがなかなかうまくいかない。特に、スラムをクリアランスして、集合住宅に建て替える形の住宅供給は全く成功しなかった。コストがかかり、決して低所得者向けのハウジングにならないことが大きな理由である。また、集合住宅のモデルが、それぞれの地域の生活様式に合わないということも決定的であった。
そこで考え出されたのがこのコア・ハウスのアイディアである。専門的には、より広く、サイタンサーヴィス( )・プロジェクトとも言われる。サイタンサーヴィスとは要するに宅地分譲のことである。水道や電気などのインフラを整備した宅地を供給する。住宅は、各自の資力に従って自力建設で行う、というのが基本である。
しかし、ただの更地だと手がかりがない。ワンルームに水回りがついた程度のコア(核)・ハウスを前もって建ててあげようというのがコア・ハウス・プロジェクトなのである。
このアイディアは世界中の発展途上国で採用され、実にユニークなコア・ハウスが建設された。写真は、マニラ近郊のダスマリニャスのニュータウン建設で行われたコア・ハウス・プロジェクトである。
細い四本の柱の骨組みが二組、中央のブロックが積んであるところがバス、トイレと水道設備がある場所である。最初見たときは、これが一体家になるのか、という感じであった。
一日、建設の様子を見ていた。人々は、大きなトラック一杯に廃材を積んでやってきた。親戚や友人も沢山乗っている。建設材料となる廃材を降ろして、早速、建設が始まるのであるが、あれよあれよである。二時間もすると、コア・ハウスは、廃材で覆われてしまう。とりあえず、住めるようにするのである。一斉に建設が行われる光景はなかなか壮観なものであった。
まるでゴミ溜のようであるが、中には本格的な家もできる。一年建ってまた訪れてみたのであるが、びっくりするような家もできていた。お金が貯まれば徐々に増築したり、改造したりするのである。
スケルトンだけのコア・ハウスでは、景観的に少し問題だと言うので、壁を張ったコア・ハウスも試みられた。また、ブロック造やRC造のコア・ハウスもフィリピンで試みられてきた。お金がないが故に苦肉の策として考案されたのであるが、建築的アイディアとしては実に面白い試みであった。