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2024年5月11日土曜日

X twitter 2024年5月9日~5月11日

 

布野修司 Shuji Funo
チンパンジーとホモ・サピエンスのDNAはわずか1.6% しか違わないが,チンパンジーは一定の住居を造ることはない。樹上に樹木の枝や葉を使って巣を造るが,毎晩場所を変えて造り直す。基本的には自然を棲家としている。建築する能力、空間を創り出す能力はホモ・サピエンスのみが獲得した能力である。

巣をつくる生物は,モグラ,ホリネズミなどの哺乳類の他,両生類,魚類,爬虫類,鳥類をはじめ,昆虫,蜘蛛,ウニ,甲殻類など多数にのぼる。しかし,ホモ・サピエンス以外の生物の巣作りは、遺伝子によってプログラム化されており,その経験をもとに、新たな建築空間形式を創り出すことはない。

建築する能力すなわち人工的に空間を創り出す能力は,ヒト科Hominidaeの進化の過程で,ホモ・サピエンスのみが獲得した能力である。建築する能力とは,予め空間をイメージする能力,二次元の図面(絵,表象)として表現する能力,世界を抽象する能力である。

ユヴァル・ノア・ハラリは、ホモ・サピエンスのみが獲得した能力として,コミュニケーション能力,すなわち言語の発明 ,記憶する能力,学習する能力,とりわけ,虚構すなわち架空の事物について語る能力,単に物事を想像するだけではなく集団で虚構を共有する能力を挙げ、「認知革命」という。

ヒト上科がオナガザルと分岐したのは2800~2400(3800~2500)万年前,ヒト科がテナガザルと分岐したのは2000~1600年前,ヒト亜科がオランウータン と分岐したのは約1600~1400万年前,ヒト族がゴリラと分岐したのが約1000万年前,ヒト亜族とチンパンジーが分岐したのは約700万年前とされている。

何故、ホモ・サピエンスの起源を問うのか?その関心の中心は、芸術や創造、言語、虚構の能力の起源ではなく、それを成立させた集団のあり方である。ホモ・サピエンスの家族と共同体は異なる編制原理をもっている。ゴリラもチンパンジーもホモ・サピエンスのような重層的社会をつくらないのである。



何故、ホモ・サピエンスの起源について改めて考えだしたのか?先日のLocal Knowledgeで山本理顕vs山極壽一対談を聴いたのが大きい。サルは基本的に母系で群れを一生離れることはない。オスが群れを出入りする。対してオラヌータン・ゴリラ・チンパンジーはメスが群れを出て、子育てはオスにまかせる。

30万~20年前に誕生したとされるホモ・サピエンスであるが、「認知革命」が起こったとされるのは7万年前から3万年前にかけてである。何が起こったのか?突然変異説も有力だが、20万年ほどのタイムラグは謎である。そもそも250万年前に分岐したとされるホモ属の脳が急速に拡大していったのも謎という。


山極壽一『家族の起源 父性の登場』『家族進化論』『共感革命 社交する人類の進化と未来』などで一貫して指摘するのは、脳の拡大が先で認知革命(言語の発明)まで30万年近くあること、認知革命の前に非言語コミュニケーション「共感革命」があること、脳の拡大には集団規模の拡大があることである。

山極壽一:群れのサイズが増えると付き合う仲間の数が増える。仲間の行為や自分との関係を記憶しておかないと的確な振る舞いができない。ホモ属の脳はすなわち社会脳ということだ。ゴリラだと10~20、われわれホモ・サピエンス脳容積だと集団規模は150人となる。これは採集狩猟民の村の規模に当たる。

山極壽一:10~15人の集団は共鳴集団であり、言葉はいらない。サッカー、ラグビーの試合では言葉で意思を伝える時間はない。30~50人は学校のクラスだ。誰もが顔を知っていて、担任や級長は全員を把握できる。100~150人は、リストをみなくても顔が思い浮かぶ人数だ。まず家族という共鳴集団があり・・

山極壽一:我々はまず家族という共鳴集団をもっている。家族は見返りを求めない互いに奉仕しあう集団であり、その家族が複数集まって150人ほどの共同体をつくる。共同体はそれぞれのルールに基づいて役割を定め、その行為に応じて見返りを付与する互酬的な関係を保つ。→コミュニティ形成の基本原理。

山極壽一:家族と共同体は編制原理が違う。双方を共存させるのがホモ・サピエンスの高い共感力であり、地域共同体は音楽的コミュニケーションによってつながった集団。祭り、イベント、地域特有の歌を歌い、同じような服を着て、同じ食事を採る、脳ではなく、身体的に衣食住を共にすることで同調する。














2024年5月10日金曜日

2022年上半期読書アンケート,図書新聞, 3553号,2022年7月30日

読書アンケート 2022年上半期

布野修司

 

❶稲村哲也・山極壽一・清水展・阿部健一編『レジリエンス人類史』京都大学学術出版会20223月❷秋吉浩気『メタアーキテクトー次世代のための建築』スペルプラーツ20223月❸アラップ+日経アーキテクチャー『ARUPの仕事論 世界の建築エンジニアリング集団』日経BP2022年1月❹水田恒樹『産業革命の原景 英国の水車集落から米国の水力工業都市へ』法政大学出版局20225月❺小川格『日本の近代建築ベスト50』新潮新書20221

❶は、わが国を代表する知性たちによる人類と地球の歴史とその未来についての論考である。全体は25章からなるが、もとより単なる論集ではない。徹底した議論が基になっており(QRコードでその総合討論・座談会も読むことができる)、人類史を5つのPhaseに分け、主概念レジリエンス(危機を生きぬく知)について3つのキー・コンセプトが立てられている。「人新世」の転換を展望するのはPhaseⅤの5本の論考である。❷は久々に現れた建築理論書である。小冊子であるが、ShopBotという木材加工機を手に入れて以降の各種木工品、家具、そして建築への実践活動の展開をもとに、これまでの建築家の試みを含み込む建築の生産流通消費の壮大な理論が組み立てられようとしている。今後の展開が楽しみである。❸は、世界を股にかける建築エンジニアリング集団ARUP東京事務所の仕事。❷と❸に大きな位相の差異はない。❹は、産業革命の原点を問う。R.オウエンのニューラナークの実態がよくわかる。❺はヴェテラン建築編集者による日本の近代建築ガイド。若い世代には最早知られない建築家も多いか?(建築批評)




 

2024年5月9日木曜日

ソウェトのブリキの家,建築雑誌,199903

 ソウェトのブリキの家,建築雑誌,199903

 ソウェトのブリキの家   

 南アフリカ ジョハネスバーグ


 布野修司

  もう二〇年近くアジアの大都市を歩いてきたから少々の「スラム」には驚かない。が、ソウェトにはちょっと驚いた。見渡す限り一面がブリキの小屋の海なのである。

 ソウェトは1976年の暴動で知られる南アフリカで最も有名な黒人居住区だ。跡形もなくクリアランスされたケープ・タウンのディストリクト・シックスとともにアパルトヘイト体制の象徴である。ソウェトとはサウス・ウエスト・タウンシップの略だ。ジョハネスバーグの南西に位置するひとつの区である。区といっても総面積は東京の山手線の内側の広さがある。人口は300万人を超える。想像してみて欲しい。その大半が小さなコンテナのようなブリキの家に住んでいるのだ。

 もちろん、いくつかの住居タイプがある。ブリキの箱の次に目立つのはホステルと呼ばれる長屋である。農村からの出稼ぎを吸収する単身用宿舎で女性用、男性用と分かれている。さらに公営住宅がある。平屋の二戸一(セミ・デタッチト)の形態が多い。マンデラ大統領の生家もそうした中にある。今や名所で、前に土産物屋が出来たりしている。

 どこでもこうした「スラム」の家の建設資材は廃棄物、廃材である。中には住宅部品(例えば壁パネル)が「新品」として売られていたりはする。需要を考えればそうした商売は充分成り立つのである。しかし、大半の家族は廃棄物しか調達できないのが現実だ。

 何故、こうした廃棄物の家が僕らをひきつけるのか。単に工業用に大量生産されたものを住宅に使えば安くなる、というだけではない。廃棄物を有効利用するといった観点からのみ注目されるのではないであろう。産業社会において失格し、廃棄された、いわば死亡宣告されたものたちが再生していく、そんな夢の物語をそこに感じるからではないか。

 マンデラ以降猛烈な勢いで南アフリカ都市は変貌しつつある。ソウェトがどう変わるのかは実に興味深いと思う。