違反建築いたちごっこ、周縁から28,産経新聞文化欄,産経新聞,19900226
28 違反建築いたちごっこ 布野修司
地価狂乱の余波が依然として続いている。じわじわと庶民の生活を直撃しつつある。何もしなくても、路線地価の値上がりが固定資産税や相続税として跳ね返ってきつつあるのだ。そうしたなかで目立ちはじめているのが違反建築の増加である。どういうことか。
相続をきっかけとして住宅が建て替えられる場合、必ずしもこれまでの住戸面積より広く建てられるわけではない。建築基準法などの法的規制があるからである。法の改正で前のままではそもそも不適格だったという例も多い。また、こう住宅取得が困難になると、同じ敷地に二世帯で住もうという例も増えてきた。そうすると、むしろ狭くなるということも少なくないのである。
建築家も住み手も限られた敷地に目一杯の容積を確保しようと工夫する。住まいに対する要求水準も全体的にあがってきており、当然といえば当然であろう。いきおい、違反も多くなる。信じられないかもしれないけれど、狭くてやむにやまれず意識的に違反するという例もでてくる。大都市圏の平均住戸面積はむしろ減っているのだ。
やむにやまれぬ違反建築でも、当然、建築指導の対象である。ひどい場合は取り壊される。しかし、黙認される場合も実際にはなくはない。場所によっては少しの違反は無理もないケースがあるのだ。市街地の急速な変化で用途地域制や建築規制が実情に合わず、杓子定規な法規の適用が不合理と思えることも多いのである。
しかし、違反は違反というので、各自治体の建築確認申請の窓口では、毎日、攻防が繰り広げられている。いたちごっこが続いている。こう建築ブームだと行政窓口の手も足りない。実情に合わない規定は手がつけられないままだ。
いかに規制をくぐり抜けるか、いかに規則を杓子定規に適用するか、という、違反建築をめぐるいたちごっこだけでは、日本の町づくりはいかにも貧しい。
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