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2023年4月28日金曜日

鉄筋コンクリート,周縁から29,産経新聞文化欄,産経新聞,19900305

 鉄筋コンクリート,周縁から29,産経新聞文化欄,産経新聞,19900305

29 鉄筋コンクリート               布野修司

 

 鉄筋コンクリートは建築になくてはならない素材である。自由に形態が創れる可塑性、防火性能、強度など、近代建築はその素材としての可能性の上に成り立ってきた。鉄筋コンクリートという建築材料がなければ建築の歴史は全く違ったものになっただろう。

 ところで、その鉄筋コンクリートは果して万能だろうか。この頃時々、老朽化した建物からコンクリートの破片が落ちてきて怪我をするという事故が起きる。鉄筋コンクリートといえども耐用年限はあるのだ。それも場合によると驚くほど短い。少し前、新幹線や高速道路を支える柱梁の劣化が大問題となった。塩分を含んだ海砂を使ったせいである。アルカリ骨材反応というやつだ。

 どうも鉄筋コンクリートという素材は増築とか改築、修復といったことには不向きなようだ。耐用年限がくると壊すしかない。コンクリートを再生する試みもなされるのであるがうまくいかないらしい。解体して捨てるしかないのだが、解体がやっかいだ。二年前に高島炭坑(長崎県)で日本の最初期の鉄筋コンクリートアパートの解体実験がようやく行われたのであるが、これからの検討課題である。そして、膨大に廃棄されるコンクリートの固まりはどうなるのか。気が遠くなりそうな課題もある。

 何故、こうした課題が放置されてきたのか、無理もないかもしれない。一八五〇年頃、フランスのランボーという人がボートを造ったのが鉄筋コンクリートの始まりである。鉄とコンクリートとの熱膨張率がほとんど同じという偶然が生んだ発明だった。そして、建築に応用する計算法などが考案されたのはようやく一八八〇年代の終わりの頃である。鉄筋コンクリートの歴史は高々一世期のことなのである。

 ライフサイクルコストということが言われ始めている。建設時のコストだけでなく、それが維持管理され、やがて解体されるそうした全体において建築を考えねばならないことを鉄筋コンクリートが教え始めている。



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