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2024年4月26日金曜日

住まいの大切さを力説,居住福祉 早川和男著,共同通信,19971116

 「住居は人権である」というのがかねてからの著者の主張である。「健康で文化的な生活」を営むためには「安全・快適で安心できる住居」がなければならない。本書の第2章「健康と住居」にも、住居が「貧困」であるが故に引き起こされる傷病について多くの事例があげられている。「狭さはストレスとして現れ、家族の人間関係をおかしくする。不眠、抑うつ症状、精神分裂症状、あるいはケンカ、離婚などの家庭崩壊にいたることもある」などというのは極端にしても、住居の大切さが力説されている。

 著者は、毎年、釜ケ崎に越冬パトロールに出かけるのだという。冒頭にその経験が語られている。「寄せ場」や大都市の地下コンコースを住処とする「ホームレス」を目の当たりにすると、まさに「住居は人権である」という主張は実感できる。しかし、一般にわが国において、住居についての権利意識は薄い。住居の取得は住宅市場のメカニズムに委ねられるだけだ。そこで著者が提出しようとするのが、「居住福祉」という概念、「住居は福祉の基礎」というテーゼである。

 阪神・淡路大震災の経験が決定的であった(第1章「阪神・淡路大震災に学ぶ」)。最も多くのダメージを受けたのは、高齢者、障害者、在日外国人等々、要するに社会的弱者である。老朽化した住居の密集する地区が最も被害を受けた。隠されていた現代日本の「住宅問題」が露わになった。

 そこで「居住福祉」をどう展開するか。「高齢者と居住福祉」(第3章)の問題、わが国の居住政策への批判(第4章「居住福祉原論」)など、海外の事例、制度の紹介を豊富に加えて論じられている。そして具体的な行動指針が提示される(第5章「居住福祉への挑戦」)。鍵となるのは運動である。広範な「居住権運動」「居住福祉」運動が組織されねばならない。そこで大きなネックとなっているのが居住者の受動性なのである。



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