京都コミュニティ・デザイン・リーグ(京都CDL)の試みーすまいの専門家の生きる道,『住宅』,200110
すまいと住生活のみらいを考える
京都コミュニティ・デザイン・リーグ(京都CDL)の試み・・・すまいの専門家の生きる道
布野修司
すまい、というのは極めて保守的なものだと思う。この100年ほどの日本のすまいの歴史を見てもよくわかる。畳の和室や床の間、続き間は必ずしもなくなりはしないし、床座とと椅子座の折衷的使い分け(二重生活)もすっきりと解消されたわけではない。
とはいえ、この半世紀において日本のすまいが決定的に変化したことも指摘できる。具体的には1960年代がその転換点である。1960年に、日本の住宅生産は60万戸、そのほとんどはいわゆる在来工法で建てられていた。10年後、アルミサッシュの普及率はほぼ100%となり、日本中から茅葺き屋根の住宅が消えた。プレファブ住宅の割合は一割に迫ろうとし、住宅生産の工業化はさらに進んだ。、そして1985(昭和60)年、新築住宅(フロー)のうち木造住宅の割合が5割を切った。戸建て住宅の割合も5割を下回った。住宅生産という観点から見ると、日本のすまいが20世紀前半で歴史的転換を経験したことははっきりしている。
これから4半世紀後、果たして日本の住宅はどうなっているのか、と問われれば、まずは、そうかわらないだろうと答える。しかし、こう変わっていく必要があるのではないか、ということは幾つか言える。
まず、スクラップ・アンド・ビルドの時代ではない、ということがある。問題は住宅生産のサイクルであって、スクラップ・アンド・ビルドが一概に否定されるべきではないけれど、資源の有効利用という意味で既存のストックを有効活用するのがこれからの流れであろう。また、省エネルギーという観点からは、一個一個ののすまいのレヴェルにおいて、自然エネルギーの活用、資源のリサイクルが追求されるされるであろう。
もうひとつ、日本のすまいを変えていく流れは、日本の家族のあり方である。少子化、高齢化は、コレクティブ・ハウスの日本的形態など新たな空間形式を必要としている筈である。
それぞれに論ずることは多いけれど、第一の問題は、すまいの専門家たるべき建築士の行方である。日本社会の構造改革の方向として、建設(住宅)投資が減り、結果として日本の住宅の寿命が延びるとすれば、従来の建築士は必要なくなるのである。建設投資が先進諸国並みに国内総生産の1割程度になるとすれば、極端に言って、建築士の数は半減してもおかしくない。自分がどう生き延びるかが問題であって、悠長にすまいのみらいを考えている場合ではないのだ。
筆者には、三つの目指すべき方向が見えている。
第一、すまいの維持管理、再生活用、リサイクル技術など、ストック活用の方向へむかう、これは多くが論ずるところであろう。
第二、まちづくりの専門家、タウン(コミュニティ)・アーキテクトを目指す。一個の住宅でも、地域社会との関係において時間をかけて建てる時代となる。地域社会の環境、景観に責任をもつ、そうした新たな職能確立を目指す。
第三、国際的フィールドを目指す。世界には発展途上国を中心に住宅問題をめぐって、日本の建築士が活躍すべき広大な分野がまだある。
第三は置くとして、第一、第二の方向は、重なり合う。ホーム・ドクターならぬハウス・ドクター、あるいは介護の問題など地域社会のケアが大きくクローズアップされつつあることを想起すれば、その建築版として、タウン(コミュニティ)・アーキテクトの必要性が理解できるだろう。
タウン・アーキテクト制については、『裸の建築家ータウン・アーキテクト論序説』(建築資料研究社、2000年)で論じた。しかし、論じていてるだけでははじまらない、というので、ひとつのシミュレーションを始めた。京都コミュニティ・デザイン・リーグ(京都CDL)という。
簡単に言うと、各チームが、京都の特定地区を担当し、年に一度、その地区の状態を記録し、それを分析した結果、何らかの提案をし、その成果をチーム毎に競い合うというのが活動の基本である。大学の研究室などを単位としたのは持続性を重視するからである。
謳い文句を並べれば以下のようだ。
○京都CDLは、京都で学ぶ学生たちを中心とするチームによって編成されるグループです。
○京都CDLは、京都のまちづくりのお手伝いをするグループです。
○京都CDLは、京都のまちについて様々な角度から調査し、記録します。
○京都CDLは、身近な環境について診断を行い、具体的な提案を行います。
○ 京都CDLは、その内容・結果(試合結果)を文書(ホームページ・会誌)で一般公開します。
○京都CDLは、継続的に、鍛錬(調査・分析)実戦(提案・提案の競技)を行うグループです。
○京都CDLは、まちの中に入り、まちと共にあり、豊かなまちのくらしをめざすグループです。
2000年4月に活動を開始したばかりだから、海のものとも山のものともわからない。しかし、それなりに手応えはある。4月に設立大会を催して、6月には四条通りを横断する一日大行進を試みた。現在、『京都げのむ』という雑誌の発行を準備中である。10月には第2回の集会をもつ。遊んでいるようであるが大真面目である。全国の町にも、必ず、それぞれの地区をウォッチングし続ける建築士が居て、地区の様々な問題に関わり提言する、それがタウン・アーキテクトの原点と考えるのである。
現在、14大学25チームの参加があるが、京都市全体をカヴァーするのにはまだまだチームが足りない。興味をもたれるむきは是非ご参加を(http://www.kyoto-cdl.com/)。
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