JCIC-Heritage, 文化遺産国際協力コンソーシアム令和2年度調査報告書,海域交流ネットワークと文化遺産, 2021年3月
https://www.jcic-heritage.jp/wp-content/uploads/2021/04/Report_Maritime-Network-and-Cultural-Heritage.pdf
東南アジア・南アジア分科会
執筆者:布野修司(日本大学)
0 アジア海域世界
アジア海域とは、ユーラシア大陸の東と南、そしてアフリカ大陸の東に拡がる海域、大きくは、アジア大陸、アフリカ大陸、オーストラリア大陸、南極大陸で囲われたインド洋に太平洋とアジア大陸との間を加えた海域をいう。北東から南西へ、オホーツク海域、日本海域、東シナ海域、南シナ海域、セレベス海域、ジャワ海域、アンダマン海域、ベンガル湾海域、アラビア海域、東アフリカ海域という小海域に区分される。
・家島彦一(2006)は、イスラーム地理学における海域認識、すなわち、地中海とインド洋を大陸に食い込んだ入江(海域)とみなす世界観をもとにして、地中海世界に対するインド洋海域世界=アジア海域世界を考える。そして、その2大海域世界が、「それぞれに包摂される自然地理・生態・人間・文化や陸域との関わりなどの「差異」の諸条件に基づいて」、7つの小海域、すなわち、Ⅰ東シナ海海域世界、Ⅱ南シナ海海域世界、Ⅲベンガル湾海域世界、Ⅳアラビア海・インド洋西海域世界、Ⅴ紅海北海域世界、Ⅵ東地中海海域世界、Ⅶ西地中海海域世界に区分する。家島の場合、視座は、地中海に対する「イスラームの海」としてのインド洋海域に置かれている。海域は海域であって截然と区別できるものではないことは、家島の区分が重なり合う海域をもつことが示している。視点によって、また時代によって、海域区分は異なる。
家島彦一によるアジア海域区分 |
・東アフリカの大地溝帯で誕生したホモ・サピエンスは、20万年前から数万年前にかけて「出アフリカ」し、グレート・ジャーニーと呼ばれる移住を開始する。まず、西アジアへ向かい(20~8万年前)、そしてアジア東部へ(6万年前)、またヨーロッパ南東部(4万年前)へ移動していく。ベーリング海峡を渡って南アメリカ最南端のフエゴ諸島に到達したのは1~2万年前である。このグレート・ジャーニーの過程に海路も含まれていた。モンゴロイドのうち中央ルートを抜けたグループ、すなわちアルタイ山脈を抜けて中国へ至ったグループの一部は、東シナ海あるいは南シナ海に突き当たって台湾に渡ったと考えられる。この台湾を渡ったグループは、やがて島嶼を伝って南下していくが、言語の系統分析からオーストロネシア語族と呼ばれる(Blust、 Robert(1995))。オーストロネシア語族は、東はイースター島、西はマダガスカル島まで、太平洋、インド洋の広大な地球半周を優に超える海域に広がる。アジア海域世界を最初にひとつの世界としたのはオーストロネシア諸族である(オーストロネシア世界)。
・人類が最初に都市を創造するのは、ティグリス・ユーフラテス(メソポタミア)、ナイル(エジプト)、インダス、黄河、長江の大河川の流域であるが、それぞれアジア海域世界と密接に関わり合いをもつ。ナイル川が流れ込むのは地中海であるが、その心臓部には紅海が深く食い込んでいる。大河川を通じて都市文明とつながることで、アジア海域は、いくつかに色分けされることになる。東シナ海、南シナ海は、文字通り「中国の海」となり、インド洋もまさに「インドの海」となるのである(都市文明と海域)。
・各地域に成立した「帝国」は、世界貨幣を流通させ、法(国際法)をもち、世界宗教を統合の原理とし、世界言語をコミュニケーション手段とする。アジア海域世界は、それらを伝えていくことになる。イスラームは、その誕生からまもなく中国南部に到達しており、やがてインド洋海域はイスラームの海と化す。ユーラシアの大陸部が1つの世界として結びつけられるのは、人類史上最大の世界帝国大モンゴル・ウルスの成立によってである。13世紀以降、海のネットワークがユーラシアの東西をつなぎ、ヨーロッパ列強の海外進出の基盤が成立する(世界史の成立)。
・ヨーロッパ勢力がアジア海域に姿を現すのは15世紀末である。ポルトガル、そしてスペインが先鞭をつけ、オランダが続いたヨーロッパ世界の海外進出と並行して、15世紀半ばから17世紀半ばにかけて近代世界システム」が成立する(I.ウォーラーステイン[1])。最初にそのヘゲモニーを握ったのはオランダであり、それを追ってアジア海域に進出したのがイギリスとフランスであり、アジア海域世界は西欧列強による世界分割のための海となる(近代世界システムとアジア海域)
1.海域ネットワーク/水上輸送に関わる文化遺産の種類
東南アジア、南アジアの沿海部そして島嶼部はアジア海域世界の中央部を占める。家島彦一(2006)の小海域区分に従えば、南シナ海域、セレベス海域、ジャワ海域、アンダマン海域、ベンガル湾海域、アラビア海域が含まれるが、東南アジアについては、さらにウォーレシア海域―マカッサル・フローレス海域、マルク・バンダ海域―が加えられる。ウォーレシア海域の東がオセアニア海域である。
アセアン10ヶ国、南アジア7ヶ国のうち、特にフィリピン共和国、インドネシア共和国、スリランカ民主社会主義共和国、モルディブ共和国の4ヶ国(インド洋海域としてはさらにマダガスカル共和国)は、海に囲われた海洋国家であり、その成立の起源から海域世界とのかかわりは深い。また、ネパール連邦民主共和国、ブータン王国、ラオス人民民主共和国を除けば、諸国は、直接海域世界に接する沿海部をもっており、海域世界とのつながりは深い。
インドネシアは、「海洋文化遺産は国家のアイデンティティ」という。また、フィリピンは、海洋関連遺産についての意識を啓発するために、大統領令(No.316、2017)(ドゥエルテ大統領)によって、9月を「海洋群島国家啓発月間」と指定している。
東南アジア海域、インド洋海域における海域ネットワークと海上交易に関わる文化遺産は、共通して、①人類の誕生とその拡散、②都市文明(メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、中国文明)の成立とそのインパクト、③世界宗教(キリスト教、仏教、イスラーム)の成立とその伝播、④陸域の帝国との関係、⑤西洋列強による植民地化、⑦近代化、産業化の影響に大きく分けられる。
フィリピンは、その文化遺産として、オーストロネシア文化に関する文化遺産(①)、中国・東南アジアとの交易(陶磁器など)に関する遺産(②④)、スペインとのガレオン交易に関する遺産(⑤)、スペイン植民都市(セブ、パナイ、マニラ、ヴィガン)(⑤)、第二次世界大戦の沈没船(⑦)を挙げる。また、インドネシアは、人類の拡散に関わる遺産(スラウェシの洞窟画など)(①)以降、あらゆる時代の文化遺産が海域と関わるとしている。近年では、ビンタン島水域やスラヤール島水域、ジャワ海域の沈没船、また、南シナ海の領海問題と絡んでナトゥール島の文化遺産が関心事となっている。南シナ海のほぼ中央に位置するナトゥール諸島は多数の島からなるが、東ナトゥナに世界最大級の埋蔵量をもつ天然ガス田があり、中国との間の係争海域となっている。スリランカは、インド洋海域の要に位置し、古くから東西交易の拠点として知られるが、各時代の交易品(陶磁器、絹、コイン、象牙、宝石、香辛料など)に関わる文化遺産があり、土着のドラヴィダ文化、ポルトガル文化、オランダ文化、そして英国文化に関わる遺産がある。港市については、オランダ植民都市(ゴール、コロンボ、トリンコマリー、ジャフナ、マターラ)とコロニアル建築、とりわけ、ゴールとゴール湾の難破船に注目している。
東南アジア海域、インド洋海域において、ユネスコの世界文化遺産として登録されるものはそう多くはない。港市については、Ⅰ.都市国家としての港市、Ⅱ.内陸国家に従属する港市、Ⅲ.海域通商国家としての港市に大きくわけられるが、その立地について、直接海洋に接する港市のみならず河川を通じて内陸に位置するものも含めると、世界遺産登録されている文化遺産には、古都ホイアン、フエ、ハノイ(ベトナム)、ヴィガン(フィリピン)、マラッカ海峡の歴史的都市群:マラッカとジョージタウン(マレーシア)、古都アユタヤ(タイ)、ピュー古代都市群(ミャンマー)、マハーバリプラムの建造物群、ゴア、エレファンタ石窟群(インド)、ゴール旧市街(スリランカ)(東アフリカ沿海部には、ラム、キルワ、ストーンタウン)などがある。水中文化遺産の中心は、沈船関連の文化遺産で、近代以前の、ジャンク船、ダウ船、そしてヨーロッパ船、さらに近代の戦争における軍艦などに分けられる。インドネシアでは、近年、スラウェシ島の湖底遺跡(10世紀以降)の調査研究が行われつつあるほか、イリアンジャヤ(Raja Ampat)での調査が開始されつつある。太平洋戦争との関連では、マルク諸島やスラウェシ島など東インドネシアに関連する戦跡が多い。
2. 海域ネットワーク/⽔上輸送に関わる⽂化遺産の調査研究・保護に関わる機関・法制度について
3.海域ネットワーク/水上輸送に関わる文化遺産の調査研究・保護の現状・動向
水中文化遺産
1960 年代の潜水技術の発達をきっかけに世界中で水中探索が盛んに行われるようになり、一方でサルベージ会社や個人のダイバー等による無秩序な遺物引き上げが問題となってきたが、東南アジア海域、南アジア海域においても、海外のサルベージ会社による商業目的の沈船調査が行われ、盗掘のような形で遺跡破壊が進み、多くの関連遺物が散逸してきたという経緯がある。近年においても、新たな沈船や関連遺跡が発見された直後から、地元のトレジャーハンターらによる盗掘や遺物の販売が活発に行われ、数年で遺跡が消滅する例も報告される。海外のサルベージ会社との共同調査の場合、収集された遺物は折半されることが多く、半分は海外チームが所有し(オークション販売等をすることもあった)、残りの半分は各国の国立博物館等が所蔵する形で残される。一般には、沈没船そのものよりも、積載品である陶磁器等の遺物の収集や研究が主流となっている。
インドネシアでは国立の調査機関等が関与せず、私企業等によるサルベージが横行してきたが、過去に商業サルベージで引き揚げられた遺物が大量に収蔵庫に保管されており、この活用について、ユネスコ・ジャカルタ事務所では、東南アジア海域におけるモデルケースとなるような海事博物館における展示などを模索中である。2017年にロンドン大で行われた海のシルクロード関連文化遺産のシリアルノミネーションを検討するUNESCOの専門家会議(Maritime Silk Routes: Report on UNESCO Expert Meeting、 London、 30-31 May 2017)を受けて、2019年には、ASEAN諸国の専門家を交えてのASEANとUNESCOの主催で水中遺産に関するフォーラム(Forum of Southeast Asia Ministries of Culture on Underwater
アジアやオセアニアの水中文化遺産、水中考古学に関する国際学会としては、4年に1度開催Asia-Pacific Regional Conference on
Under-Water Cultural Heritatge (APCONF)がある(過去にはマニラ、ハワイ、香港で開催済み)。アジアを中心とする水中文化遺産関連の最新情報はこの学会でほぼカバーされている。
南シナ海域・ジャワ海域
⽂化遺産の調査研究・保護についての各国の取り組みはさまざまであるが、組織的な展開がみられるのがベトナムである。ベトナムは、南北1650Kmにわたって南シナ海に接しており、古代より多くの港市が存在してきた。港市関連の文化遺産としては、ベトナムの代表的港市として、1999年にユネスコ世界文化遺産に指定されているホイアン以外に、クアンニン、フンイエン、タインホア、ゲアン、ハティン、ビンディン、ベンチェー、ハティエン等、沿岸部の各省、各地で歴史的港や港市について考古学調査が盛んに行われ、クアンニン、フンイエン、ゲアン、ハティンの港遺跡では、菊地由里子(東京大学)が発掘調査を行っている。
ベトナム海域には、古代から近世の商船が多数沈んでおり、特に以上の港市の沖には多数の沈没船が確認されている。クアンガイ省のホイアン沖では、14~15世紀の2隻の沈没船が発見され、さらに10隻以上の沈没船があるとされるが、最近注目されているのが考古学研究所によるチャウタン海域沈没船(唐代)の引き揚げ調査である。この海域では複数の沈没船の存在が確認されており、木村淳(東海大学)らが調査を行っている(「東南アジア港市の船体考古資料調査と保存研究」)。また、菊地由里子がハティン省で、17世紀に沈没した朱印船の探査を目的とした水中考古学調査を佐々木蘭貞(九州国立博物館)の協力を得て行っている。さらに、ベトナム中部の海域には、太平洋戦争中の日本の輸送船が沈んでいる。遺骨は引き揚げられているが、まだ船体内に残されている可能性があるとされている。ベトナム政府がサルベージを認可した、あるいはサルベージに関わった沈没船は、1.ウンタウ(1990)、2.フークォック(1991)、3.ホイアン(1997~99)、4.カマウ(1998~99)、5.ビントゥアン(2001~02)の5隻である。
水中遺産については、考古学研究所内に水中考古学研究センターが設置され、専門家の育成や学術的調査を担っている。海外の研究者の支援をうけながらも、公的組織として水中考古学研究センターがあり、自前の機材と常雇の専門家がいるという意味では先進的である。ベトナムにおける海域ネットワーク研究には、歴史学分野でも考古学分野でもこれまで一定の研究成果があるが、近年は、中国との領土問題もあり政策的に海域ネットワーク研究が展開されている。また、ベトナムでも、政府が許可した遺物引き揚げの後に遺物の売買が行われる等、十分な規制が行われていないという指摘もある。
ベトナムの文化遺産保護政策は、日本の文化庁に相当する観光・体育・文化省(BỘ VĂN HÓA、 THỂ THAO VÀ DU LỊCH)を頂点として、各省の文化課、省博物館、地域の人民委員会が協力して政策を実施している。そして、ベトナム国立大学ハノイ校やホーチミン社会科学院、考古学研究所が研究面を支えている。国営放送では特集番組が制作され、You Tubeでも公開されている。ベトナム沿岸部各省の省博物館は、啓発的な展示やシンポジウムのほか、各港遺跡の保存活用に取り組んでいる。
・フィリピンでは、海域文化遺産、水中文化遺産については、フィリピン国立博物館(NMP)の民族学、考古学部門において、フィリピン大学UPなど研究機関と共同して調査研究が行われ、その保護政策、法制定についても、法制当局をサポートするかたちがとられてきたが、この保護政策、法制定については、2021年から国家文化芸術委員会NCCAの管轄に移行している。国立博物館(NMP)の調査研究は、上述のように、あらゆる時代の地域交易、文化交流を対象として、個々の遺構について積み重ねてきているが、現在は、これまでのコレクションの再調査も行っている。海域ネットワーク遺産、水中遺産に関する分野についてはスタッフも足りないし、必ずしも主要な関心事になっているわけではない。
研究成果は、調査研究報告書、展覧会、図録などによって公表されてきているが、直近の展覧会は「フィリピンの陶磁器遺産」展であり、現在は、「海上交易の1000年」展を企画中である。文化財保護については、陸地のみならず水中を含む一般的な文化財保護法があり、2009年の遺産法:共和国法(RA)10066が最新であるが、RA10066の一部は、2019年のフィリピン国立博物館法:RA11333によって修正されている。フィリピン国立博物館(NMP)は、遺構、遺産の損傷、略奪についての報告に基づいて、それを確認するが、予算と人員不足で必ずしも対応できていない。NMPにとって予算の問題は大きな問題である。年によって異なるが、過去3年間は、年US$2、000ほどで、フィールド調査はできない。NMPの研究プロジェクトは、すべて外部資金に頼っている状況にある。文化遺産の保護に関わる予算は不明であるが、最小限である。
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木村淳提供
東南アジア大陸部
木村淳提供 |
・東南アジア大陸部諸国の海域遺産、水中遺産についての取組については不明の点が多いが、ユネスコの水中文化遺産保護条約(2001年採択)をアジア・太平洋地域の中では一番に締結した(2007年)カンボジアは、締結当初、バンコクのSEAMEO-SPAFAや、タイのチャンタブリの国立海洋博物館との水中考古学の技術研修や交流などを行っている。水中考古学部門は文化芸術省に置かれており、専門の担当者も配置されたが、2016年頃から、国内他の世界遺産登録準備等を兼任するようになり、もともと海域の文化遺産が多くないこともあって、現在、ほとんど動きが無い。文化芸術省は、海域のみならず、河川や湖等の水域に埋没している遺跡、遺物、文化財の調査や保存処理については興味をもっており、将来、何らかの技術協力をSEAMEO-SPAFAあるいはユネスコに要請したい、という意向をもっている。2018年には、プノンペン国立博物館の企画展として、第一世界大戦中に地中海沖で沈没した戦艦に乗船していたカンボジア義勇兵に関する展示を行っている。
・マレーシアは、マラッカ海峡の歴史的都市群(マラッカとジョージタウン)があり、クアラルンプルの国立博物館に水中考古学関連資料が保管されているが、水中考古学のセンターとなるような研究機関はまだ設立されていない。
・タイでは 1970 年代のコークラン沈没船(15世紀)の引き揚げ(1973~74)やシーチャン1号沈没船(16世紀末~17世紀初頭)の西オーストラリア海事博物館との共同調査以降、国立海事博物館が設立されるなど、一定の取り組みがなされてきた。1992年にチャンタブリー県バンカチャイ湾沖で発見されたバンカチャイ2号沈没船については、1994年にタイ芸術局により、第1次調査が行われ、その後、1999年~2002年に2~5次調査が行われるなど、研究も進んできている。
インド洋海域
・スリランカは、1990年代の10年間、ロナルド・シルバRonaldo
SilvaがICOMOSの会長をつとめており、ICOMOS国際条約を基本とした文化財保護行政を展開してきている。国内法としては、中央文化基金、古物条例Antiquity Ordinanceが文化財保護関連の法として制定されている。これまで中央高地のいわゆる黄金の三角地帯の歴史遺産が評価され、聖地アヌラーダプラ、古都ポロンナルワ、古都シーギリア(1982年)、そして聖地キャンディ(1988年)続いてタンブッラの石窟寺院(1991年)が世界文化遺産に登録されてきたが、そうした中で港市としてゴールの旧市街と要塞(1988年)が追加され、近年、ゴール湾の沈没船と搭載品が注目されてきたことは上述の通りである。ゴールの旧市街と要塞の保存は、UNESCO のアジア太平洋賞Asia Pacific Merit Awardを受賞している。
スリランカには、文化遺産の保護を担当する文化遺産省Ministry of
Cultural Heritageがあり、関連機関として中央文化基金の考古学部門Department of Archaeology; Central
Cultural Fund、国立博物館の海洋考古学部門が重要な役割を果たしている。また、ゴールには、国立海洋考古学博物館がある。
国立機関については、政府によって年間予算が組まれており、文化遺産保護政策については組織的な展開が行われている。ただ、特に海洋遺産、水中遺産についての予算が計上されているわけではなく、緊急事態(インド洋大津波など)の場合には、予算の組換えで対応している。ゴールの旧市街と要塞の保存には、国家遺産文化省へのオランダ文化助成金とアメリカン・エクスプレス銀行の基金(ゴール・フォート内の旧オランダ病院の保存)を得ている。インド洋大津波の被害を受けたマターラ・フォートの保護にはアメリカ大使館の助成金が用いられている。しかし、調査研究については、通常、国際的ドナー機関、民間研究所からの企業社会責任基金CSR(Corporate Social Responsibility Funds)によって行われている。現状では、調査研究、データ収集は極めて困難な状況にある。
・モルディブについては、その歴史的遺産の全てが海域文化遺産といっていいが、京都大学東南アジア研究センターのデジタル遺産ドキュメンテーションラボを拠点とするオクスフォード大学などと連携した、GPS / RTK(Real-Time Kinetic)マッピング、デジタル写真、ビデオ、CAD図面、IIIF(International
Image Interoperability Framework)デジタル化、空中および地上撮影などのデジタル技術によるアーカイブ化を目的とした海域アジア遺産調査(MAHS)を展開中である。
4.他国との国際協力の現状
フィリピン国立博物館は、オーストラリアの環境エネルギー部門Deparment of the Environment and Energyと水中考古学、水中遺産に関する共同調査研究を行うことで合意している。
インドネシアは、人材育成についてはインドネシア教育文化省とUNESCOと共同している。海洋文化遺産に関してはオーストラリアとオランダと共同関係にある。
スリランカは、ゴールの旧市街と要塞の保存については、上述のように、いくつかの外国機関と共同している。外部資金・基金についてはの規制がある。海域ネットワーク/水上輸送に関わる文化遺産の調査研究・保護について、他国や国際機関との共同について将来計画について示してほしい、という。
参考文献その他
本稿は、主として、①各国当該機関へのアンケート(フィリピン、インドネシア、ベトナム、タイ、バングラデシュ、インド、スリランカにアンケート調査を行い、フィリピン、インドネシア、スリランカから回答を得ている。)および②東南アジア・南アジア分科会メンバーによる情報提供、また、③木村淳(東海大学)「東南アジア・南アジアの水中文化遺産保全の概況」(第35回東南アジア・南アジア分科会報告)、④Michael Feener(京都大学東南アジア地域研究研究所
)‘The Maritime Asia
Heritage Survey‘(第35回東南アジア・南アジア分科会報告)に基づいている。
家島彦一(2006)『海域から見た歴史―インド洋と地中海を結ぶ交流史』名古屋大学出版会
A.S.
Gaur&Sundaresh、 Maritime Archaeology of Gujarat: Northwest coast of India、 Asia-Pacific Regional Conference on Underwater Cultural
Heritage Proceedings. Eds. by: Staniforth、 M.; Craig、 J.; Jago-on、 S.C.;
Orillaneda、 B.; Lacsina、 L. (Asia-Pacific Regional Conference on Underwater
Cultural Heritage; Manila; Philippines; 8-12 Nov 2011). 2011; 155-168
関係諸機関
べトナム
タイ
SEAMEO-SPAFA
https://www.seameo-spafa.org/
インド
Underwater Archarology Wing(UAw)、 Archaeological Survey of India
https://asi.nic.in/underwater-archaeology-wing/
National instutute of Oceanography
https://www.nio.org/about_nio/general-information/nio-at-a-glance
Deccan College Course of Underwater
Archaeology
https://www.dcpune.ac.in/post-graduate-diploma-underwater-arch.php
Tamil University、Andhra University
http://www.tamiluniversity.ac.in/english/faculty/department-of-maritime- history-and-marine-archaeology/
Andhra University Center for Marine
Archaeology
http://andhrauniversity.edu.in/science/marinearchaeology.html
スリランカ
Ministry of
Cultural Heritage
https://dutchculture.nl/en/organisation/ministry-culture-arts-government-sri-lanka
Department of National Museum
http://www.museum.gov.lk/web/index.php?option=com_content&view=frontpage&Itemid=1&lang=en
Central Cultural Fund http://ccf.gov.lk/index.php?lang=en
National Maritime Archaeology Museum(Galle)
https://www.yamu.lk/place/national-maritime-archaeology-museum-galle/review-36840