肛門から口の方へさかのぼっていくと、肛門→直腸→結腸→盲腸→小腸(回腸→空腸→十二指腸)→胃へとつながっています。大腸は結腸と直腸などを併せた総称です。
大腸がんには結腸がんと直腸がんがあります。一口に大腸がんの手術といっても、結腸がんに対する手術と直腸がんに対する手術は異なります。
結腸がんの手術
結腸がんの手術では、がんから両側10cmの範囲で結腸を切除し、残った部分をつなぎ合わせます。つなぎ合わせることを吻合(ふんごう)と言います。10cmというのは、「がんから10cm以上離れた部分への転移はまれである」という過去の研究を基準にした値です。結腸を切除することに加えてリンパ節郭清を行います。リンパ節郭清に関しては下で詳しく説明します。
直腸がんの手術
直腸がんの手術方法には、大きく分けると、直腸局所切除術、前方切除術、直腸切断術、括約筋間直腸切除術があります。
■直腸局所切除術
直腸がんの周りの部分だけ切り取る手術方法です。手術する場所に道具を届かせるために、肛門から侵入する方法と、お尻の骨(仙骨)の横から侵入する方法があります。切除する部分は、がんから1cm程度離れたところになります。早期の大腸がんに対して行われることが多い手術です。
■前方切除術(高位前方切除術/低位前方切除術)
がんのある直腸を切除する手術方法です。切除後、切除せずに残った直腸と結腸をつなげるための自動吻合器という機械も使われます。
■直腸切断術
肛門に近い直腸にあるがんに対して行う手術です。直腸と一緒に肛門も切除します。肛門を切り取ってしまうため、代わりとなる人工肛門(ストーマ)を取り付ける必要が出てきます。人工肛門から便を排泄するために、袋(パウチ)を取り付けます。最近では人工肛門の管理が進歩するとともに、人工肛門を作った人にも使いやすい公衆トイレや浴場なども見かけられるようになってきました。慣れてくると、それまでの日常生活に近い生活を送ることができます。
■括約筋間直腸切除術
肛門に近い直腸にあるがんに対して行う手術です。また、比較的早期のがんに対して行われます。肛門付近にできたがんを切り取る際に、肛門括約筋(肛門を開いたり閉じたりする筋肉)の一部を残す手術方法です。肛門括約筋は、内側(内肛門括約筋)と外側(外肛門括約筋)に分かれます。このうちがんに近い内肛門括約筋のみ切り取ります。肛門を残すことができるという利点はあるのですが、一部の筋肉を切り取ってしまうために肛門機能が低くなることもあります。
直腸がんの方が結腸がんよりも再発が多いことが分かっています。以下が再発率の比較の表になります。
【結腸がんと直腸がんの再発の起こる割合の違い】
再発部位 | 結腸がんの再発割合 | 直腸がんの再発割合 |
---|
肝臓 | 7.0% | 7.3% |
肺 | 3.5% | 7.5% |
局所(がんのあった部位の近く) | 1.8% | 8.8% |
吻合部(がんを切除した断面) | 0.3% | 0.8% |
その他 | 3.6% | 4.2% |
合計 | 14.1% | 24.3% |
*太字は統計学的に有意差のあった再発部位
(大腸癌研究会プロジェクト研究1991−1996年症例を参考に作成)
そのため、手術に慎重になることはもちろんですが、手術後に再発がないかをチェックするために検査も慎重に行っていきます。
リンパ節郭清
大腸がんの手術を行ううえでリンパ節郭清(かくせい)を行うことがあります。リンパ節郭清は結腸がんでも直腸がんでも行います。
大腸がんは進行するとリンパ節転移を起こします。そこで、大腸がんを取り除くとともに、転移している可能性があるリンパ節を複数まとめて取り除きます。これをリンパ節郭清と言います。
CT検査など事前に行った検査でリンパ節に転移がないように見えても、見えない転移が起こっていることがあります。手術の際、見えないリンパ節転移を取り残してしまうと、再発の原因になってしまいます。そこで、がんの近くにあって転移が起きやすいリンパ節は、がんがある場所と一緒にまとめて取り除きます。
リンパ節郭清を行う範囲は適切である必要があります。本来郭清を行うべき範囲に比べて狭い範囲しか郭清しなければ再発の危険性が上がりますし、本来郭清を行うべき範囲に比べて必要以上に郭清してしまいますと身体の負担が大きくなります。
そのため、事前の検査と手術中の様子を考え合わせて郭清する範囲が決まります。
リンパ節郭清には3段階あり、その程度は以下のとおりです。
- D1郭清
- D2郭清
- がんのある大腸に入ってくる血管(栄養血管)に沿ったリンパ節も切除
- D3郭清
- 栄養血管の根元にある血管も切除
- 上に記したリンパ節郭清のうちD3郭清が最も多くのリンパ節を切除します。実際にどの程度の範囲を郭清することが推奨されているかは下の表をご覧ください。
深達度 | 郭清の範囲 |
---|
Tis:粘膜内にとどまる | 郭清しない or D1 |
T1a:粘膜下層(1000μm未満)に達する | D2 |
T1b:粘膜下層(1000μm以上)に達する | D2 |
T2:固有筋層に達する | D2 or D3 |
T3:固有筋層を超えるが漿膜を超えない | D3 |
T4a:漿膜を超える | D3 |
T4b:漿膜を超えて周辺の臓器に達する | D3 |
◎リンパ節転移のある場合 | D3 |
リンパ節転移のない場合は、大腸がんの深達度によって郭清範囲が決まります。大腸がんのリンパ節転移がある場合は、D3郭清が選択されます。つまり、転移しているリンパ節の周囲のリンパ節も転移している可能性があるので疑わしい部分を全て切除するような形になります。
腹腔鏡下手術
腹腔鏡下手術は、腹腔鏡(ふくくうきょう)と呼ばれる内視鏡の一種を、大腸の中ではなく、大腸の外側の隙間(腹腔)に入れて行う治療です。
お腹の数カ所に小さい穴を開けて、ポートと呼ばれる細い筒を入れ、炭酸ガスで腹腔を膨らませます。
ポートの中に腹腔鏡を入れて腹腔の中を映し出します。映った様子を見ながら内視鏡治療のように腹腔鏡用の医療機材を操作して手術を行います。
腹腔鏡下手術のメリットは皮膚につける傷が小さくて済むため、痛みが少ないこと、回復が早いこと、出血量が少ないことが挙げられます。一方、デメリットとしては、お腹を開く手術とは別の高度な技術が必要であること、手術時間が長くなること、手術費用が高くなることが挙げられます。
人工肛門(ストーマ)について
人工肛門(ストーマ)をおなかに作る場合には、多くの人が不安を感じます。ストーマは一見「痛そう」に見えますが、痛みを伝える神経がないので、排泄時や触れた際に痛みを感じることはありません。
手術後に便を処理する方法や、ケアの方法を看護師とともに練習します。便をためるストーマ袋には防臭加工がされているため、トイレで便を処理するとき以外は臭うことはほとんどなく、扱いに慣れれば漏れることもありません。また、仕事や外出、軽い運動や入浴など、通常の生活を送ることができます。
3)腹腔鏡下手術・ロボット支援下手術
腹腔鏡下手術では、二酸化炭素でおなかをふくらませ、おなかの中を内視鏡(腹腔鏡)で観察しながら手術を行います。腹腔鏡下手術は開腹手術に比べておなかのきず(創)が小さいため、手術後の痛みが少なく回復が早いという長所がある一方、開腹手術に比べて手術時間が長くなりやすくなります。がんの部位や体格、以前に受けた手術などにより、手術の難しさが左右されるため、腹腔鏡下手術を受けるかどうかは、担当医とよく相談してください。
また、腹腔鏡下手術と同じように、二酸化炭素でおなかをふくらませ、内視鏡と関節のついたロボットアームを挿入して手術を行うロボット支援下手術があります。腹腔鏡下手術と比較して、より繊細な手術操作が可能となると期待されています。しかし、長期的な治療成績についてはまだ十分には分かっていないため、ロボット支援下手術が可能かどうかは、担当医とよく相談してください。
ダヴィンチ(ロボット支援腹腔鏡下手術)
腹腔鏡下手術とは
腹腔鏡下手術とは、手術部位周辺に小さな穴をいくつか空け、そこに直径12㎜程度の『ポート』と呼ばれる筒状の棒を立てその棒に鉗子を入れて行う手術です。
鉗子には種類があり、適宜取り替えながら行います。体の中の様子はカメラを通じて映し出されますので、執刀医はその画像を見ながら作業をします。
当院泌尿器科では、現在、腎臓に関する手術の6割ぐらいは腹腔鏡下手術で行っています。副腎(ホルモンを作る臓器)の手術にいたっては8割方が腹腔鏡下手術です。もちろん、病状や病期により腹腔鏡下手術が適さない場合もあります。
消化器でも、大腸の手術は全国的には7割近く、胃も3割程度は腹腔鏡に移行していると思います。また、2010年度から肝臓の腹腔鏡が保険適用となりました。当初、肝臓の手術は腹腔鏡ではできないだろうと言われていましたが、道具と技術の進化により可能となり、安全性が認められました。
ロボット支援腹腔鏡下手術とは
通常の腹腔鏡手術では医師が直接鉗子を操作して行いますが、「ダヴィンチ」による手術ではロボット支援"と言われているように鉗子の操作はロボットアームにより行われます。ですが、そのロボットアームを動かすのはあくまでも執刀医で、執刀医は「サージョンコンソール」という機械に座り、術野の3D画像を見ながら、4本のロボットアームを遠隔操作します。
開腹手術と比較した腹腔鏡手術の主なメリット
① 手術中の出血量が少ない
開腹手術と比較すると、筋肉を切る量が少ないので、出血量が少なく、輸血の必要性も低くなります。
② 傷口が小さい
鉗子を挿入するための穴は直径5㎜~12㎜ほどの小さなものです。
※術式により異なる場合もあります。
③ 術後の疼痛が少なく、感染症のリスクも低い
傷口が小さいため、術後の疼痛が比較的軽いことに加え、開腹手術に比べると感染症のリスクも低くなります。
④ 回復が早い
傷口が小さいので、「美容的」なメリットもあり、疼痛も少ないので術後の回復が早く、早期退院、早期社会復帰が可能となります。
⑤ 機能の温存性が高い
鉗子の操作性が高く、緻密な手術が可能なため、機能を温存する可能性が高まります。
泌尿器科の領域では、副腎は体の中心にあり肉眼では見えにくいのですが、腹腔鏡であれば臓器の近くまでカメラで寄って見ることができ、より視野が良いことも、術者にとってのメリットです。ただし、あくまでもポートを立てた場所を支点にした作業になりますので、どうしても可動域の制限は出ます。
外科の手術を受ける患者さんの中には、開腹の方が緻密な手術だと思っている方もいらっしゃいますが、むしろ、細かい作業にこそ腹腔鏡が強みを発揮します。一方で、大きな塊や重量のある臓器を取り除くのには開腹手術の方が適しています。
通常の腹腔鏡下手術と「ダヴィンチ」による手術の違い
3D画像とロボットアームの操作
「ダヴィンチ」の鉗子
「ダヴィンチ」による手術では、鉗子の操作はロボットアームにより行います。そのロボットアームを動かす執刀医は、「サージョンコンソール」という機械に座り、術野の3D画像を見ながら、4本のロボットアームを遠隔操作します。
通常の腹腔鏡ではポートに入れた鉗子の先が開閉するだけですが、「ダヴィンチ」では鉗子の先が人間の手首と同じように自在に曲がるので、可動域が広くなり、鉗子には人間のような関節があり、腹腔鏡下手術では不可能だった「手」の様な動きが再現できます。また、通常の腹腔鏡手術の画像は2次元が主流ですが、「ダヴィンチ」では、いわゆる3Dで奥行の確認ができます。
従来の腹腔鏡下手術に比べて、奥行きを読み取って、手の様な動きが再現出来るようになったので、より正確な手術が可能となりました。