このブログを検索

2025年8月10日日曜日

前田昌弘『津波被災と再定住 コミュニティのレジリエンスを支える』京都大学学術出版会 2016年2月29日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(4月ー6月)

 書籍紹介 岩本弘光『ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アミニズム・モダン」』 彰国社 2016110日/前田昌弘『津波被災と再定住 コミュニティのレジリエンスを支える』京都大学学術出版会 2016229日/応地利明『トンブクトゥ 交界都市の歴史と現在』臨川書店 2016131日/いるか設計集団編著『よみがえった茅葺の家』建築ジャーナル 2016131日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(46月)


『建築討論』008号  ◎書籍紹介 布野修司 書籍紹介008号(2016年夏号(4-6月))

 

── By 布野修司 | 2016/04/05 | 書籍紹介, 008号:2016年夏号(4-6月)

 

 

 

前田昌弘『津波被災と再定住 コミュニティのレジリエンスを支える』京都大学出版会、2016229

 

本書のもとになっているのは、学位請求論文『津波被災者の再定住地への移住関係の再編に関する研究―スリランカのインド洋津波からの復興を事例に』(京都大学、20121月)である。そして、この論文の執筆の最中に発生した東日本大震災の復興支援に論文執筆を中断して関わったその後の経験を踏まえて、大幅に加筆、修正したものが本書である。

 本書が焦点を当てるのは、スリランカのインド洋大津波(20041226日)の被災地と被災者の再定住地、その後の復興過程である。著者は、インド洋大津波後の20054月に最初にスリランカを訪れて以来、10年以上通い続けて、10次にわたる臨地調査と支援活動を行ってきた。本書が迫力を持って、復興計画論を展開し得ているのは、フィールドでの経験の厚みである。

 全体は、序論の第1章から結論の第7章までの7章と補章1,2からなる。また、topics-16ということで、東日本大震災の問題も含めた議論が挿入される、立体的な構成をとっている。

 本書が依拠する重要な概念とされるのは、副題が示唆するように、レジリエンスである。東日本大震災の復興とともに、国土「強靭化」などという脈略で盛んに用いられるのであるが、著者が着目するのは、レジリエンスの基盤としての「社会関係」である(序論)。

 課題1 被災者の生活・仕事の継続に影響する物的環境要素の解明(第2章、補償)、課題2 被災者の生活・仕事、社会環境、物的環境の関係を捉えるフレームの構築(第3章、補章2)、課題3 被災者を取り巻く社会的環境に対する物的環境の規定性の解明(第4章、第5章)、課題4 被災者の生活・仕事の継続における社会環境の役割の解明(第6章、補償2)という4つの課題を明らかにするとする。課題2のフレームの構築というのは、いささか次元が異なるように思えるが、「暮らしの再建をはかるフレームの構築」(第3章)という意味である。また、課題4の「社会環境の役割」も一般的に思えるが、具体的に論じられるのは、マイクロクレジットの活用である。

 結論の最後には、自然災害後の再定住計画の原則が的確にまとめられている。

 遅々として進まないかに思える、東日本大震災の被災地の復興をさらに考えるために、読まれるべき多くの示唆を含んでいる労作と言っていい。S.F.

 

前田昌弘:1980年奈良県生まれ。2004年、京都大学卒業。京都大学大学院工学研究科博士過程、京都大学グローバルリーダーユニット養成研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、2013年~、京都大学大学院工学研究科建築学専攻助教


2025年8月9日土曜日

応地利明『トンブクトゥ 交界都市の歴史と現在』臨川書店 2016年1月31日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(4月ー6月)

 書籍紹介 岩本弘光『ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アミニズム・モダン」』 彰国社 2016110日/前田昌弘『津波被災と再定住 コミュニティのレジリエンスを支える』京都大学学術出版会 2016229日/応地利明『トンブクトゥ 交界都市の歴史と現在』臨川書店 2016131日/いるか設計集団編著『よみがえった茅葺の家』建築ジャーナル 2016131日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(46月)


『建築討論』008号 201641日刊行  

◎書籍紹介 布野修司 書籍紹介008号(2016年夏号(4-6月))

 

応地利明『トンブクトゥ 交界都市の歴史と現在』臨川書店,2016131[布野修司1] 

 

 稀代のフィールドワーカーによる珠玉の都市モノグラフである。建築,都市計画の分野における住居,集落,都市研究にとっても,必読書と言っていい。

 トンブクトゥTombouctouとは,西アフリカ,マリ共和国のニジェール川の中流域に位置する都市である。現在は,人口5万人ほどの1地方都市に過ぎないが,古来,地中海世界とブラック・アフリカを結ぶサハラ縦断交易の要衝として発展し,リ帝国,ソンガイ帝国時の中心都市として繁栄したことが知られる。交易の主要な商品は,塩と金であり,サハラ縦断のキャラバン・ロードは「塩金の道」と呼ばれた。西欧では,トンブクトゥを「黄金郷」とするトンブクトゥ幻想が19世紀まで人々を引きつけてきた。モスクや聖廟を含むトンブクトゥの歴史地区は,1988年,世界文化遺産に登録されている。

 著者は,このトゥンブクトゥについて,1988年以降,10度にわたるフィールドワークを行う。本書はその集大成である。

 著者は,トゥンブクトゥを「交界都市」の典型だとする。「交界都市」とは,「2つの異質な世界が接触・交渉する」「インター・フェイスとしてのフロンティア」を体現する都市である。アジア,アフリカでは,他に,中国の張家口,成都,インド亜大陸のペシャワール,ジョドプル,サヘルのアガデズ,そしてトンブクトゥなどが「交界都市」である。グローバルな視野でトンブクトゥを位置づけた上で,実に多彩な角度からトンブクトゥの特性を明らかにするのが本書である。人文地理学を出自とする著者であるが,農業,住居・集落・都市,経済,・・・などその視点は様々な分野を越境していく。というより,それぞれの地域に,それぞれの場所に,それぞれの出来事に世界(の構造)を見るのが著者の基本アプローチである。本書には,この間著者がフィールドで考えてきたことが,トンブクトゥに即して全て収められている。

 全体は,15章からなる。「Ⅰ トンブクトゥ幻想―カタローニア図からルネ・カイエまで―」では,地図そして歴史的資料に現れるトンブクトゥが分析される。背景には『「世界地図」の誕生 地図は語る』がある。すなわち,トゥンブクトゥの世界史的な像が明らかにされる。「Ⅱ砂丘列のなかの構築港市」は,遠隔地交易の生態学的基盤が明らかにされる。「Ⅲ 都市編成の構造分析―形態論からのアプローチ―」は,都市空間構成,市壁と袋小路の欠如というマグリブ都市との違い,植民都市のグリッド・パターンの導入に焦点があてられる。「Ⅳ サハラ縦断塩金交易―シルク・ロードとの対比―」そして「Ⅴ 「黒人たちの国々」への道―成立と西遷―」は,交易の歴史を明らかにする。「Ⅵ トンブクトゥ簡史―栄光と凋落―」「Ⅶ 最盛期のトンブクトゥ―歴史地理と施設配置―」「Ⅷ 近現代のトンブクトゥ―植民都市への改変―」と歴史が詳細に振り返られ,「Ⅸ 人口構成とエスニシティ―諸集団共住の実態―」では,現代のトゥンブクトゥの棲み分け状況が明らかにされる。そして「Ⅹ トゥンブクトゥ町家論―「住まい」と「住まう」―」は住居,「Ⅺ 家族の職業―大区別・エスニシティ別特性―」は生業,「Ⅻ 市場活動のエスニシティ・ジェンダー(Ⅰ)―「大市場(ヨブ・ベル)」―」「ⅩⅢ 市場活動のエスニシティ・ジェンダー(Ⅱ)―「小市場(ヨブ・カイナ)」―」「ⅩⅣ 市場活動のエスニシティ・ジェンダー(Ⅲ)―「近隣市場(アルバメ市場)」―」は市場に焦点をあてる。そして,「ⅩⅤ トンブクトゥ周辺の農耕―ニジェール川と砂丘の賜物―」で,トンブクトゥが一方で農耕によって支えられていることが明らかにされる。

 大部で,いささか高価ではあるが,地域研究の方法,視点について,実に多くを学ぶことができる。

 

 応地利明 京都大学名誉教授。1938大阪生まれ。1960年京都大学文学部史学科地理学専攻卒業,1964年同大学院文学研究科博士課程退学,名古屋大学文学部助手,1966年名古屋工業大学講師,1969年愛知県立大学助教授,1973年京都大学文学部助教授 ,1986年教授,同年「南西アジアにおける農業的土地利用の地理学的比較研究」で京大文学博士。94年同東南アジア研究センター教授,98年同アジア・アフリカ地域研究・研究科教授,2000年滋賀県立大学・人間文化学部教授,2005年立命館文学部教授(2008年退職)。著書に,『絵地図の世界像』(1996年,岩波書店),『「世界地図」の誕生 地図は語る』(2007年,日本経済新聞出版社),『都城の系譜』(2011年,京都大学学術出版会),『生態・生業・民族の交響』中央ユーラシア環境史(2012年,臨川書店)など。



2025年8月8日金曜日

岩本弘光『ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アミニズム・モダン」』 彰国社 2016年1月10日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(4月ー6月)

 書籍紹介 岩本弘光『ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アミニズム・モダン」』 彰国社 2016110日/前田昌弘『津波被災と再定住 コミュニティのレジリエンスを支える』京都大学学術出版会 2016229日/応地利明『トンブクトゥ 交界都市の歴史と現在』臨川書店 2016131日/いるか設計集団編著『よみがえった茅葺の家』建築ジャーナル 2016131日:布野修司 | 2016/04/01 |『建築討論』 008号:2016年夏(46月)


『建築討論』008号 201641日刊行

  

◎書籍紹介 布野修司 書籍紹介008号(2016年夏号(4-6月))

20160110 著者:岩本弘光『ジェフリー・バワの建築 スリランカの「アミニズム・モダン」』彰国社

 先だって、隈研吾・山口由美『熱帯建築家: ジェフリー・バワの冒険 』(新潮社(とんぼの本)  20151127日)も上梓されている。ジェフリー・バワ(19192003)が亡くなったのは10年以上も前であるが、学位論文、高取愛子『ジェフリー・バワの建築思想に関する設計論的研究』(2012年、京都大学)もあり、時ならぬバワ・ブームの感がある。Robson, David (2002): Geoffrey Bawa: The Complete Works, Thames & Hudsonが出版されたのは死の直前であるが、その後、財団Geoffrey Bawa Trustが出来て(2010年)、ジェフリー・バワ賞も創設され、ジェフリー・バワに関するアーカイブも充実し、Robson, David  & Daswatte, Channa(2011) ,Geoffrey Bawa1919-2003”,Geoffrey Bawa Trustがまとめられたことが大きいのであろう。

 オランダ植民都市研究を展開するなかで、スリランカには随分通った。主要なターゲットとしたのはコロンボであり、ゴールGalleである。その成果は、布野修司編(2005)『近代世界システムと植民都市』(京都大学学術出版会)にまとめたが,その直前のインド洋大津波当日(20041226日)にはゴールに居て危うく難を逃れ、さらに復旧支援ということでしばらく通った。京都大学で同僚であったモラトゥア大学のサミタ・マナワドゥ教授との縁である。ジェフリー・バワの作品は、従って、折に触れて見る機会があった。ゴールには「ライトハウス・ホテル」(199597)があり、コロンボからゴールまでのインド洋沿岸には、ベントータ周辺などにいくつかホテルがある。特に、遺作と言っていいブルーウォーター・ホテル(199698)には行き帰りに度々依った。インド洋と一体化するような水の扱いが巧みなホテルである。「熱帯建築家」というレッテルが貼られるが、いずれも、自然と一体化する実に素直な良質の心地いいモダニズム建築という印象がある。

 本書は、石窟寺院で著名なタンブッラ近くの「カンダラマ・ホテル」(199194)でダワ作品に出会ったという著者による独自のジェフリー・バワ論である。

 バワはもともと建築家を志したわけではない。ケンブリッジで学んで弁護士となり、その後、AAスクールに入学するのは35歳である。断面図も描けず、いわば素人建築家として出発するのであるが、そのバワを支えたのが10歳年下のパートナー、デンマーク人建築家ウルリック・ブレスナーである。本書をユニークなものとしているのは、第一に、現在テルアビブに住むウルリックへのインタビューをはじめ、バワ事務所の関係者へのヒヤリングを試みていることである。

 中心となるのは、著者が選定する25の作品である。ジェフリー・バワ財団から入手した図面は貴重である。その作品リスト、年表なども添えられ、バワへのアプローチのための基本資料は得ることができる。

 バワのAAスクールの同級生には、K.フランプトン、C.プライス、D.S.ブラウンが要るという。遅い学生だから一回り以上歳は違う。世代を異にし、スリランカをホームグラウンドとしたバワをどう位置づけるかは興味深いテーマである。

 著者は、「バワ建築を理解するための10の視点」として、その位置づけを試みている。総括すれば、サブタイトルにいう「スリランカの「アミニズム・モダン」」ということであるが、読者もまたバワ建築の位置づけを試みることになる。そのための情報は本書に充分を用意されている。

 

著者紹介

岩本弘光:1954年和歌山県高野山生まれ。建築家。岡山県立大学デザイン学部教授。1978年、日本大学理工学部建築学科卒業1980年、同大学大学院修士課程修了1982-1985年、石井和紘建築研究所。1987-1988年、イタリア政府給費留学生としてフィレンツェ大学留学。1989年、ロータリー財団給費留学生としてミラノ工科大学留学。2010年、現職。主要作品 「casa100」(2001年 旭硝子DESIGN SELECTION 2000 優秀賞)、「太田市立休泊小学校」(2001年 第10BELCA賞)、「静岡ガス研修センター」 (2003グッドデザイン賞 第35回中部建築賞入賞 建築学会作品選集)、「静岡ガス研修センター」( 2004年 グッドデザイン賞)、「静岡八幡SS」 (2004年 グッドデザイン賞 第36回中部建築賞入選)、「富士山荘」 (2005年 東京ガス第7回あたたかな住空間最優秀賞)など。


2025年8月7日木曜日

『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』パトリック・ゲデス著 西村一郎訳 鹿島出版会:布野修司 | 2016/01/25 | 書評, 『建築討論』007号:2016年春(1月ー3月)

書籍紹介『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』パトリック・ゲデス著 西村一郎訳 鹿島出版会/太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』彰国社 20151110/陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』弦書房 20151015日/鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』京都大学学術出版会 2015925日/隈研吾『オノマトペ建築』XKnowledge 2015918日/アルキテクト編『好きなことはやらずにはいられない 吉阪隆正との対話』 建築技術 201595日/中村敏男『日記のなかの建築家たち』編集出版組織体アセテート 2015820日/監修:岡本慶一 執筆:林和久 日建設計広報室『日建設計 115年の生命誌』201561日/諏訪正樹・藤井晴行『知のデザイン 自分ごととして考えよう』近代科学社2015630布野修司 | 2016/01/25 | 書評『建築討論』007号:2016年春(13月) 

『建築討論』007号 201611日刊行

  

◎書籍紹介

 

20151120

パトリック・ゲデス著

『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』

西村一朗訳

鹿島出版会

Patrick Geddes (1915),”Cities in Evolution  “, Williams & Norgate,  London”Cities in Evolution  An Introduction to the Town Planning Movement and to the Study of Civics”, Ernest Benn Limited, 1968.

 

 著者パトリック・ゲデスは、、スコットランドアバディーンシャイア出身の都市学、都市計画学の大家として知られる。生物学、植物学を出自とするが、その活動は地域学、都市学へ展開、具体的な実践活動を多様に展開した。その足跡は、スコットランド、アイルランド、フランス、インド、バレスチナ、イスラエルにまで及ぶ。都市学の大家L.マンフォードは。P.ゲデスは師と仰ぐ。また、20世紀の都市計画運動に最も影響力を与えたエベネザー・ハワードと共に近代都市計画の祖とも言われる。

原書の初版が上梓されたのは1915年である。1968年に再版され、その邦訳が1982年に出版されている。本書は、原書出版百周年を記念する邦訳の改訂・復刻版である。全体は18章からなるが、ベースになっているのはエディンバラの経験である。P.ゲデスの活動は、その後のインド、パレスティナでの展開を含めて実に興味深い。

P.ゲデスが徹底的に批判したのは、スラム・クリアランス型のマスタープラン主義である。オン・サイト(現場)での保存的外科的改善手法(コンサバティブ・サージェリー)には、今日猶学ぶべきものがある。それを願うのが改訂・復刻出版の企画である。

S.F.

 

著書紹介:パトリック・ゲデスPatrick Geddes(18541932)

主要著書:Life: Outlines of General Biology (1931) with J.A. Thomson, Harper & Brothers, London./The Evolution of Sex (1889) with J.A. Thomson, W. Scott, London./City Development, A Report to the Carnegie Dunfermline Trust (1904), Rutgers University Press./Cities in Evolution (1915) Williams & Norgate, London./The life and work of Sir Jagadis C. Bose (1920) Longman, London./Biology with Thomson (1925) Williams & Norgate, London.



2025年8月6日水曜日

太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』彰国社 2015年11月10日:布野修司 | 2016/01/25 | 書評, 『建築討論』007号:2016年春(1月ー3月)

 書籍紹介『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』パトリック・ゲデス著 西村一郎訳 鹿島出版会/太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』彰国社 20151110/陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』弦書房 20151015日/鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』京都大学学術出版会 2015925日/隈研吾『オノマトペ建築』XKnowledge 2015918日/アルキテクト編『好きなことはやらずにはいられない 吉阪隆正との対話』 建築技術 201595日/中村敏男『日記のなかの建築家たち』編集出版組織体アセテート 2015820日/監修:岡本慶一 執筆:林和久 日建設計広報室『日建設計 115年の生命誌』201561日/諏訪正樹・藤井晴行『知のデザイン 自分ごととして考えよう』近代科学社2015630布野修司 | 2016/01/25 | 書評『建築討論』007号:2016年春(13月)


『建築討論』007号 201611日刊行

  

◎書籍紹介

 

20151110

太田邦夫著

『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』

彰国社

 木造建築研究に関する日本の第一人者による「ヨーロッパ木造建築」研究の集大成。事典あるいはガイドブック(旅の準備編、旅編、旅の参考資料編)のスタイルをとっているが、内容は、一級の学術書である。

木造建築の分布、気候と建築、植生の分布、土地利用の形態、民族的な背景、…ヨーロッパの木造建築の存立基盤がまず大きく説明される。そして、おすすめ12のルート(旅編)として、ヨーロッパ各地域の木造建築が順に紹介される。1.イギリス、2.ノルマンディ・ブルターニュ、3.フランス南西部・スペイン・バスク地方、4.シュヴァーベン地方・アルザス地方、5.アルプス山地、6.ヘッセン、ニーダーザクセン、ハルツ、テューリンゲン地方、北海沿岸、7.バルト海沿岸・カレリア地方、8.カルパチア山地、9.カルパチア山地、 10. オーストラリア・パンノニア平原、11.トランシルヴァニア地方・ワラキア地方、12.バルカン山地・黒海沿岸と分けて、それぞれの地域の木造建築の特性が説明される。旅の参考資料編は、木造建築研究のための永久保存の価値がある。S.F.

 

著書紹介:太田邦夫(1935年東京~)。東洋大学・ものつくり大学名誉教授。1959年、東京大学工学部建築学科卒業、現代建築研究所入社。1961年、東京大学教養学部図学教室助手。1966年、東洋大学工学部建築学科助教授。1984年、同教授。2001年、ものつくり大学建設技能工芸学科教授。2005年、太田邦夫建築設計室~。

『東ヨーロッパの木造建築-架構方式の比較研究』相模書房、1988年(1985年度日本建築学会論文賞受賞論文)/『工匠たちの技と知恵―世界の住まいに見る』学芸出版社、2007年/『エスノ・アーキテクチュア』SD選書、鹿島出版会、2010年他。

 


2025年8月5日火曜日

陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』(弦書房 2015年10月15日):布野修司 | 2016/01/25 | 書評, 『建築討論』007号:2016年春(1月ー3月)

 書籍紹介『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』(トリック・ゲデス著 西村一郎訳 鹿島出版会/太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』彰国社 20151110日/陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』弦書房 20151015日)/鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』京都大学学術出版会 2015925日/隈研吾『オノマトペ建築』XKnowledge 2015918日/アルキテクト編『好きなことはやらずにはいられない 吉阪隆正との対話』 建築技術 201595日/中村敏男『日記のなかの建築家たち』編集出版組織体アセテート 2015820日/監修:岡本慶一 執筆:林和久 日建設計広報室『日建設計 115年の生命誌』201561日/諏訪正樹・藤井晴行『知のデザイン 自分ごととして考えよう』近代科学社2015630日:布野修司 | 2016/01/25 | 書評『建築討論』007号:2016年春(13月)


『建築討論』007号 201611日刊行

  

◎書籍紹介

 

20151005

陣内秀信

『イタリア都市の空間人類学』

弦書房

 

 「空間人類学」の提唱と実践で知られる著者の、その原点となるイタリア都市に関する論集である。Ⅰ.空間人類学から読むイタリア都市、Ⅱ.イタリア都市論の2部から構成され、イタリア都市全体を対象とする論考と個別の都市に関する論考が分けられているが、Ⅱの末尾には、「地中海都市」として、地中海沿岸のイスラーム諸都市(チュニス、マラケシュ、アンダルシア、トルコ)に関する論考も収められている。

 「空間人類学」という学の構想と方法が具体的に示されたのは『東京の空間人類学』(1985/ちくま学芸文庫1992:“Tokyo, A Spatial Anthropologytranslated by Kimiko NishimuraUniversity of California Press1995)においてである。その学の実践は、イタリア都市、地中海都市のみならず東京、さらに北京などアジアの諸都市にまで拡大されてきた。そうした意味で興味深いのは、「「空間人類学」から都市の深層を読む―「はじめに」にかえて」である。「イタリア都市との出会い」から「東京研究から生まれた「空間人類学」の方法」、「再びヴェネツィアを新鮮な視点で見直す」…と自らの研究史が振り返られているのである。S.F.

 

著書紹介:

陣内秀信(1947北九州市~)法政大学デザイン工学部教授。イタリア建築・都市史。工学博士。1971年東京大学工学部建築学科卒業。1973-1975年ヴェネツィア建築大学留学。1980東京大学大学院工学研究科博士課程単位取得退学。1980年東京大学工学部助手、1982年法政大学工学部建築学科助教授、1990年法政大学デザイン工学部建築学科教授。著書に、『都市のルネサンス――イタリア建築の現在』(1978)、『ヴェネツィア――都市のコンテクストを読む』(1986)、『都市を読む・イタリア』(1988)、『北京――都市空間を読む』(共編著)(1998)『イタリア都市と建築を読む』(2001年)、『イスラーム世界の都市空間』(共編著)(2002)『迷宮都市ヴェネツィアを歩く』(2004)、『南イタリア都市の居住空間――アマルフィ、レッチェ、シャッカ、サルデーニャ』(編著)(2005)『地中海世界の都市と住居』(2007)、『興亡の世界史(8)イタリア海洋都市の精神』(2008)他


2025年8月4日月曜日

鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』京都大学学術出版会 2015年9月25日:布野修司 | 2016/01/25 | 書評, 『建築討論』007号:2016年春(1月ー3月)

 書籍紹介『進化する都市 都市計画運動と市政学への入門』(パトリック・ゲデス著 西村一郎訳 鹿島出版会)/太田邦夫 『木のヨーロッパ/建築まち歩きの事典』(彰国社 20151110日)/陣内秀信『イタリア都市の空間人類学』(弦書房 20151015日)/鈴木哲也・高瀬桃子『学術書を書く』京都大学学術出版会 2015925日/隈研吾『オノマトペ建築』XKnowledge 2015918日/アルキテクト編『好きなことはやらずにはいられない 吉阪隆正との対話』 建築技術 201595日/中村敏男『日記のなかの建築家たち』編集出版組織体アセテート 2015820日/監修:岡本慶一 執筆:林和久 日建設計広報室『日建設計 115年の生命誌』201561日/諏訪正樹・藤井晴行『知のデザイン 自分ごととして考えよう』近代科学社2015630日:布野修司 | 2016/01/25 | 書評『建築討論』007号:2016年春(13月)


『建築討論』007号 201611日刊行

  

◎書籍紹介

 20150925

鈴木哲也・高瀬桃子

『学術書を書く』

京都大学学術出版会

 大学出版会にあって、長年、学術書の出版に関わってきた著者による「学術」論、「学術書」論。

 冒頭、序章は、「Publish or PerishからPublish and Perishの時代へーなぜ、学術書の書き方を身につけるのか」と題される。「出版(発表)か、死か」から「出版しても救われないへ」、(学術)出版会の現状が鋭く分析される。また、論文発表をやかましく迫る大学や学会の問題点が指摘される。当然、殿試化時代についても触れられる。

 全体は、第Ⅰ部「考える」、第Ⅱ部「書いてみる」、第Ⅲ部「刊行する」の3部に分けられ、全7章からなる。

「企画と編成」「本文記述と見出し」「タイトルと索引」など、学術書のノウハウが懇切丁寧に説かれている。もちろん、それだけではない。学術書の今日的役割と要件(第2章「知の越境と身体化」)が力説される。

そして、「おわりにー学術書を「書く」ことと「読む」こと」によって締め括られるが、「二回り外、三回り外」へ向かって書け、 「二回り外、三回り外」のものを読め、というのがメッセージである。

研究者のみならず、書き手、読みて、編集、出版を考える全ての人にとっての必読書といっていい。S.F.

 

著書紹介:

鈴木哲也:京都大学学術出版会専務理事・編集長。大学出版部協会理事。京都大学文学部・教育学部卒業。

高瀬桃子:桃夭舎代表・京都大学理学部卒業。



布野修司 履歴 2025年1月1日

布野修司 20241101 履歴   住所 東京都小平市上水本町 6 ー 5 - 7 ー 103 本籍 島根県松江市東朝日町 236 ー 14   1949 年 8 月 10 日    島根県出雲市知井宮生まれ   学歴 196...