このブログを検索

2022年8月31日水曜日

中高層共同住宅生産高度化推進プロジェクト,雑木林の世界13,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199009

中高層共同住宅生産高度化推進プロジェクト,雑木林の世界13,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199009

雑木林の世界13

 中高層共同住宅生産高度化推進プロジェクト

                        布野修司

  

 昨年度からあるタスクフォース(特殊機動部隊)に参加してきた。中高層共同住宅生産高度化推進プロジェクトのためのタスクフォース(通称 大野(勝彦)委員会)*1である。今年度から本格的に始動することになったのであるが、以下に概要を紹介してみよう。もちろん、全くの私的なメモである。

 プロジェクトの目的と内容は、誤解を恐れず一言でいえば、中高層共同住宅の生産性向上のためにコンペを行う、というものだ。またか、と思われるかもしれない。過去の様々なコンペがすぐさま想い浮かぶ。コンペのみイヴェントとしてやって何になるのか、お祭りだけではしょうがない。生産性の向上というけれど、一体何を意味するのか。次々に疑問が涌いて来る。コンペはあくまで手段である。議論の出発点は、何のためにコンペを行うかということであった。最初に感じたのは以下のような点である。

 

 1.国民住居論・・・住宅供給の促進、土地の高度利用のために中高層共同住宅の建設が必要性であるという主旨が考えられる。しかし、いくつかの留保が必要である。第一、土地の高度利用の形態、都市開発における住宅開発の位置づけがはっきりしない。第二、第一と関連して、中高層共同住宅という時、住宅専用の中高層住宅をなんとなくイメージしてしまうが、他の都市機能との関連でどういう形態が必要なのか必ずしもはっきりしない。すなわち、中高層共同住宅の建設推進という時に、どのような中高層共同住宅がどういう場所に必要なのかという議論が必要である。コンペをやっても国民にとって魅力的でなければ受け入れられないし、反響も呼ばないであろう。

 2.建築職人育成システム・・・中高層共同住宅の生産性の向上・生産合理化の問題、建設労働者の高齢化・新規参入の減少・労働力不足の問題、建設コストの高騰の問題等がプロジェクトの大きな背景となっている。しかし、このプロジェクトにおいて、それをモデル的に解くというのは、口実としてはあっても過大すぎる目的である。建設労働力の編成の問題はもう少し大きなフレームを要する問題である。建設労働力の編成と育成の問題はそれ自体大テーマとなる。

 3.工業化手法の展開・・・2.の目的を工法・構法の開発というレヴェルでのみ対応しようとするのは1.の具体的イメージがないかぎり、そう有効ではない。このレヴェルで目的となるのが、量産化・画一化手法ではなく、多様化手法、多品種少量生産手法である。というより、中高層共同住宅に関する工業化手法の本格的展開というのが目的となる。この場合、戸建住宅との同一尺度による比較において生産性、建設コストを問題にすることは必ずしもできない。より、トータルな評価システムが必要となる。

 4.リストラクチュアリング・・・3.を目的とする場合、基本的問題がある。工業化手法の本格的展開を担う主体がはっきりと見えていないことである。そこで大きく浮かびあがるのが、住宅生産供給構造のリストラクチュアリングという目的である。このリストラクチュアリングについての方針が前提とならないと、プロジェクトは単なる実験、イヴェントに終わる可能性が高い。実験あるいはデモンストレーション、パイロット・プロジェクトという性格は当然あるとして、リストラクチュアリングの戦略がなければ波及効果は期待できない。

 5.都市住居のプロトタイプ・・・もうひとつ、都市住居の型の創出という目的がある。単に工業化手法による中高層住宅モデルというだけではなく、町並みを形成するモデルとしての都市住居を問題とする必要がある。1.を建築的に問題とした場合、都市型住居のモデルが問題となる。また、このレヴェルでは、都市計画的な諸規制、事業法のありかたも当然問題となる。

 

 議論のなかで次第に明らかになったことがある。中心的な目的は、どうやら、上で言うと、4.のリストラクチュアリングである。中高層住宅の生産供給構造がしっかりと見えてこなければ、都市住居のプロトタイプも根付いていく保証はないのである。また、コンペも一過性のプロジェクトで終わる可能性も高いのである。

 中高層共同住宅の現状での問題点と方策について、建築審議会建築生産分科会小委員会の報告は以下のようにいう。ポイントのみ要約してみよう。

 

 ①中高層共同住宅の生産性は戸建住宅に比して低い。

 ②中高層共同住宅は、ユーザー・ニーズの高級化、個性化、多様化に設計面で対応することが多く、標準部品が使われることが少ない。

 ③中高層共同住宅の建設は、ほとんどゼネコンが担っているが、多くのゼネコンは、部品、部材の自社工場を持たず、材工とも下請業者に依存する形態をとっている。

 ④建築工事の元請と下請の関係は、材工分離発注方式から材工一式発注方式へ進んできた。材工一式発注方式は、単価のアップが労賃のアップに結びつかず、高能率=高賃金といった労働意欲を生むインセンティブが内在されないシステムとなるというきらいがある。

 ⑤中高層共同住宅の生産性向上に当たっては、③④のような供給構造を変革することが基本的に必要である。競争原理の導入による市場形成を目指し、コスト競争の観念が価格に反映されるような供給構造とすることが必要である。市場形成の契機となる新しい仕組みを導入し、これが刺激となって全体に競争原理が段階的にゆきわたるような方式を考えていくことが適切である。

 ⑥建設資材について、海外工場での品質の確保、国内流通システムの整備、許認可制度の整備等をはかる。

 ⑦ディベロッパーは、ユーザー・ニーズを適切に把握し、ユーザーから評価される住宅を計画供給すべきである。ゼネコンは、主要部品・部材の自社工場を持ち、労務の直傭化を図り、一部を直接生産する仕組みをつくるべきである。下請主導型のコスト決定のメカニズムを改善すべきである。

 ⑧低層系プレハブメーカーが中高層共同住宅市場にディベロッパーとしてではなく、生産供給者として参画することが有効である。建材、設備等、サブコンの参画も考慮すべきである。

 ⑨中高層共同住宅についても、多品種少量生産を可能にするシステムを開発する。

 

 住まい手のニーズをフィードバックする回路がないこと、またコストの観念がなく競争市場が形成されていないことが問題点の中心だ。そして、⑥~⑨が具体的な方針である。住宅生産供給構造の変革という課題はもとより容易なことではない。プロジェクトとともに様々な可能性を追求してみたいと思っている。

 

*1 『中高層住宅生産近代化推進検討業務報告書』 1990年3月

 


0 件のコメント:

コメントを投稿