バンブーハウス,at,デルファイ研究所,199307
バンブーハウス バリ
布野修司
バリのかっての王国のひとつ、ギャニャールを通りかかったところ、アルン・アルン(広場)いっぱいに仮設の建物が建設されつつあった。聞けば、プリ(王宮)の長が亡くなって、その葬式会場の準備だという。真ん中の広場を四角く囲うように細長い切妻の棟が並ぶ。桟敷である。桟敷といっても本格的で、階段がきちんと一定の間隔でつけられ、桟敷そのものも階段状になっている。仮設とはいえ、古来、一定の形式をもって建てられてきたに違いない、と直感されるつくりであった。際立つのは、屋根を除けば全て竹でつくられていることだ。継手仕口などもきちっとしているのである。
仮設の建造物に竹が用いられることは日本でもあるが、東南アジアでは、一般の住居に竹を使うことも多い。われわれの眼からすれば、一般の住居もまた仮設的に見えるのかもしれないのであるが、竹を建築材料に用いること、それも柱梁など構造材に用いることは、東南アジアでは珍しくない。それどころか、屋根も扉も何も竹でつくられた家もある。やはり、バリに全て竹で出来た住居が建ち並ぶ集落がある。キンタマニへ行く街道沿いの集落である。
竹葺きの屋根は、割って先をとがらしたものを重ねていく。壁はバンブー・マット。日本だと雨仕舞いや隙間風が気になるところだけれど熱帯の気候では快適そうである。
東南アジアでも竹は極めて身近かな素材である。建材としてのみならず、様々な用途で用いられるのは日本と同じである。再びバリの例で言えば、儀礼に欠かすことのできない竹のウンブル・ウンブル(幡)がそこら中に建てられているし、日常の用具にも竹はふんだんに用いられているのである。
石の文化に対する木の文化という対比がよく用いられるが、もうひとつ竹の文化を重ね合わせて考えることができる。明らかに竹の文化といえる広がりが東南アジア世界にあるのである。
竹はヨーロッパにはない。極めて少ない。北アメリカ、オセアニアには少ない。南アメリカには多少ある。竹と言えばアジアとアフリカである。アジアといっても東アジアと東南アジア、南アジアである。東南アジアの竹をみると日本と明らかに違う。日本のように一本一本バラ立ちするのではなく、株のように固まって生えるのである。竹薮といっても随分景観が異なるし、竹に対する感覚も竹製品などを見るとずいぶん違うようだ。
日本にも竹で出来た建物はないかというと京都にあるという。竹について様々な文化を育んできた日本だから、竹を構造材に用いる例があっても不思議はない。ただ、気候が合わないし、耐用年限の問題もある。
やはり、オール・バンブー・ハウスは、東南アジアのものではないか。竹の成長は早い。伸び盛りには一日に一メートルも伸びる。そうした意味では無限の材料といっていいのである。
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