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2022年4月5日火曜日

公開ヒヤリング方式の定着へ,ギャラリー間,コンペ・アンド・コンテストNO49,199611

公開ヒヤリング方式の定着へ,ギャラリー間,コンペ・アンド・コンテストNO49199611 

公開ヒヤリング方式の定着へ

 布野修司

 

 「鹿島町立体育館公開コンペ」「建築専門委員 結果に不満」「町側委員に押し切られた」「運営方法に問題 在り方に疑問の声」という見出しが山陰中央新報の一面を飾った(1996年8月9日)。リード文には、「決定した島根県鹿島町の町立総合体育館の設計案をめぐって、審査した建築専門委員がそろって「町側委員に押し切られた」とし、審査結果に不満を評している。決定案は町側委員が強く支持、建築専門委員は「管理しやすい以外、何の評価もない。他案とのレベルの差は歴然」と主張したが、聞き入れられなかった。」

 建築専門委員のひとりが筆者である。審査委員長を務めた。恥ずかしい限りである。審査については、報告書に述べる通りである(興味を持たれる向きは鹿島町に問い合わせられたい)。審査委員長として報告書以外に言うべきことはない。

 ただ、冒頭のような記事が載ることになったのは、報告書の以下のような付記が公開されなかったからである(現在では公開されている)。

 「付記(審査委員長の個人的見解):審査内容、経過についての報告は上記する通りである。審査が慎重かつ公正に行われたことはいうまでもない。しかし、審査結果は、委員長個人の評価判断とは異なったものとなった。審査結果と個人的評価の違いを説明することは、設計競技への参加者、公開ヒヤリングへの参加者、また町民への委員長としての責務と考えて以下に付記する次第である。

 選定された案は、コンパクトにまとめられていること、従って管理がしやすいこと、また、メンテナンスにかかる費用等が他案に比べてかからない(と思われる)こと等、専ら、管理者側の評価を重視して選定されたものであって、他の点についてはとりたてて見るべきものがない。他案にはるかにすぐれた提案が多かったことは、審査評に示す通りである。最終的には、「夢を取る」か「無難な案」を取るかが争点となったが、長時間の議論の末、町側委員、町長以下事務当局の意向および能力として、選定案以外を受け入れることができない、と判断して多数決に従うことにしたのが経緯である。

 選定案は、以下のような欠点がある。実施に当たっては、可能な限り良い施設となるよう、選定された設計者は、当局、町民と協力し合って努力されたい。・・・(以下、箇条書きの要望事項)・・・以上を検討する中で再度慎重な検討をされたい。」

 実に恥ずかしい話である。こう書かざるを得ない案を選ぶ羽目に陥ったのである。そもそも審査委員構成が問題であった。助役、教育長、議長と専門委員2人の構成である。町側委員に建築関係者を入れるように要請したのであるが、「小さな町で建築の専門家はいない、県庁OBの技術者を嘱託として(投票権無し)事務局につけるから」ということであった。町はじめてのコンペであり、しかも公開ヒヤリングをやることを了解してもらっており、とにかくコンペを行うことの意義を優先した判断であった。結果として墓穴を掘った。自らの非力を感じるばかりである。建築専門家としての判断に徹底して執着すべきだという気も全くないわけではなかったが、多数決には従わざるを得なかったのが経緯である。

 つくづく感じたのは、建築の世界が全く一般に理解されていないということである。教育長にしろ、助役にしろ、議長にしろ、町の中ではすぐれた見識の持ち主である。そうした見識者に、建築のもつ全体として意義がなかなか通じないのである。素朴機能主義的な評価、デザインより機能といった二元論的理解を抜けれないのである。

 もっと問題なのは、行政当局、事務局の管理者的態度、小官僚的発想である。自分たちの仕事が煩雑でないことのみがチェックリストにあげられる。

 さらに痛切に感じたのは、「建築」アレルギーである。スター建築家が、メンテナンスを考えずに「やり逃げ」する。苦労するのは自治体で、「建築家」は責任をとらない。「見てくれだけの建築は要注意!」というのが、常識になっているのである。

  「何のための公開ヒヤリングか」(山陰中央新報 9月5日)脇田祥尚島根女子短大講師がフォローしてくれている。公開ヒヤリングの意義がまさに問われていると、さらなる議論の必要性を訴えている、のである。「島根方式」と呼ばれ出そうとしている公開ヒヤリング方式は、これまで比較的うまく行った例が多かった。今回はそれ以前に問題があった。しかし、それでも建築の世界を外へ開くきっかけにはなったと思う。公開ヒヤリング方式の定着を願うばかりである。

                





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