このブログを検索

2022年4月19日火曜日

木の移築プロジェクト,現代のことば,京都新聞,19970603

木の移築プロジェクト,現代のことば,京都新聞,19970603 


木の移築プロジェクト

 フィンランドのヘルシンキ工科大学、米国のヴァージニア工科大学からたてつづけに建築家、教授の訪問を受けた。学生それぞれ二十人前後が同伴しての訪問である。目的もよく似ている。京都の町を素材に特に木造建築について学ぼうというのである。ワークショップ方式というのであろうか、単位認定を伴う研修旅行である。日本の大学も広く海外に出かけていく必要があると思う。うらやましい限りである。

 修学院離宮、桂離宮、詩仙堂…、二つの大学のプログラムを見せられて、つくづく京都は木造建築の宝庫であると思う。実に恵まれているけれど、時としてその大切な遺産のことを僕らは忘れてしまっている。議論を通じて、日本人の方が木造文化をどうも大事にしてこなかったことをいまさらのように気づかされて恥じ入る。

 フィンランドは木造建築の国だ。だから木の文化への興味は実によく分かる。フィンランドにはアルヴァー・アールトという大建築家の存在があって日本にもファンが多い。建築の感覚に通じるものがあるのである。建築史のニスカネン教授のアールトについての講義はいかにその作品が深くフィンランドの木造建築の伝統に根ざしているかを具体的に指摘して面白かった。建築のグローテンフェルト氏と美術史のイエッツォネン女史の講義も、フィンランドの建築家の作品の中に日本建築の影響がいかに深く及んでいるかを次々に指摘していささか驚いた。

 学生たちはただ観光して歩いているわけではない。両大学ともスケッチしたり、様々なレポートが課せられている。レイ・キャス教授率いるヴァージニア工科大学のプログラムで特に興味深いものとして具体的にものを制作する課題がある。近い将来日本の民家を解体してアメリカに移築しようというのだ。「木の移築」プロジェクトという。プロジェクトの中心は、京都で建築を学ぶピーター・ラウ講師である。民家の再生を手がける建築家、木下龍一氏がサポートする。

 まず、初年度は民家を解体しながら木造の組立を学ぶ。そして、次年度はアメリカで組み立てる。敷地もキャンパス内に用意されているという。米国の大工さん(フレーマー)も協力する体制にあるという。問題は日本側の協力体制である。面白そうだから協力しましょう、という話になったけれど、容易ではない。組立解体の場所を探すのが大変である。解体する民家を探すのも難しい。いきなり今年は実行できないけれど、とにかく何か共同製作しようという話になった。みんなでひとつの巨大な「連画」を描く。場所は何とか確保した。ヘルシンキ工科大学は参加できなかったが日米学生三〇数名が参加する。六月四日が実行の日である。




0 件のコメント:

コメントを投稿