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2022年4月3日日曜日

住まいの輸出に答えなし 押しつけよりもアジアモデルを探れ,対談:布野修司vs恵藤英郎),NNA『カンパサールKanpasar』, 第3号,201104

住まいの輸出に答えなし 押しつけよりもアジアモデルを探れ,対談:布野修司vs恵藤英郎),NNA『カンパサールKanpasar』, 3号,201104



住まいの輸出に答えなし
押しつけよりもアジアモデルを探れ

日本の住宅は、アジアに輸出できるか――。高機能で安全、環境に優しい日本の技術も、アジアですんなり受け入れられるわけではない。気候や歴史、文化を踏まえた、アジアモデルとは。中国事業で成功を収める大和ハウス工業のグローバル化推進グループの恵藤英郎グループ長と、アジアの都市・集落・住居のフィールドワークを続ける布野修司教授が、ビジネスと文化の視点からアジアの住居を縦横に語った。


(プロフィール)
布野修司
ふの・しゅうじ(滋賀県立大学教授)
1949年、島根県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学大学院博士課程中退。東洋大学工学部助教授、京都大学工学部助教授などを歴任。現在は滋賀県立大学環境学部の学部長。82年から2000年まで住まいとまちづくりのための同人雑誌「群居」の編集長を務めた。著書に『戦後建築論ノート』『住まいの夢と夢の住まい アジア住居論』『スラムとウサギ小屋』など多数。

恵藤英郎
えとう・ひでろう(大和ハウス工業海外事業部 グローバル化推進グループ グループ長)
1960年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部を卒業後、84年に大和ハウス工業に入社。87年より米国勤務。88年から93年までオーストラリア法人のゼネラル・マネージャー。海外事業部を経て、98年から2000年まで上海法人で業務に携わり、06年より現職。

(セリフ抜粋)
・「日本の市場が縮小しているからアジアに」というのはつまらない 恵藤
・日本の集合住宅は北欧モデルが基本で、熱帯用にはなっていない 布野
・大和ハウスの中国進出は、駐在員向け住宅から始まりました 恵藤
・住宅の輸出は、自動車や家電のようにはいきません 布野



――住宅関連メーカー各社のトップの発言などをみていると、多くはアジアを中心とした海外市場への進出を目指す、あるいは強化するという論調が目立ちます。

 

恵藤:当社は米国で1万戸を販売した実績や経験もありますし、中国でも80年代から事業を展開しています。あまり海外市場に抵抗はなかったですし、日本で作り上げてきたノウハウを活用し、各地で住まい方の提案をして底上げをしようという使命感を持っています。日本の市場が縮小しているから海外に出ようという姿勢だとしたらもったいないですね。

 

布野:日本の住宅がそのまま輸出できるものなのか、考える必要がありますね。私は70年代にインドネシアに行って以来、アセアン諸国やインドなどの住宅を見てきました。インドネシア第2の都市スラバヤのカンポン(都市集落)には30年以上通っています。アジアは急速な経済発展を遂げているとはいえ、依然として貧困層が多い。都心に行けば高層住宅もありますが、まだまだ平屋や二階建ての住宅が中心という印象です。

 

恵藤:当社もすでに事業を進めている中国だけでなく、マレーシアやタイ、インドネシア、ベトナムなどの市場調査を行っていますが、今のところはビジネスとして成り立たせるのは難しいという印象です。都市部ではコンドミニアムが多いですが、われわれの本業である戸建てを何とか展開したいと考えています。

 

布野:大和ハウスさんが昭和30年代半ば?(1959年)に「ミゼットハウス」を発売したことを考えれば、東南アジアにプレハブを投入するというのは、自然な流れですよね。

 

恵藤:おっしゃる通りです。そもそも当社の創業者がミゼットハウスを考え出したのは、当時の子どもたちに帰る部屋がなく、夕方遅くまで外で遊んでいたのを見て「帰る部屋を作ればいい」と思ったことがきっかけです。住宅が不足している地域に供給するのは、当社の本来的なポリシーですから。

ただ、特に戸建て事業に関しては採算を取るのが難しいのが現状です。東南アジアで比較的戸建てが高いクアラルンプールやバンコク、ジャカルタあたりでうまく行けば、商機もあるかもしれないと考えてはいますが。

 

布野:タイやマレーシアでは、リタイアした日本人向けに畳を使った部屋などの需要はありませんか。

 

恵藤:中国の集合住宅は1プロジェクト当たり1,000戸単位でやっていることを考えると、絶対数が少ないですね。

 

■日本の住宅は北欧モデル

布野:ある国際シンポジウムに出席したとき、環境共生住宅(エコハウス:環境に良い住宅???)のモデルについて議論をしました。そこで出る話と言えば、寒い国の住宅モデルばかりです。

 

恵藤:高気密、高断熱ですね。

 

布野:そう。それは日本も同じですね。その席で私は、熱帯や赤道付近の人口は30億人で、これからも増え続けると思うが、そういった地域向けの住宅モデルは考えなくていいのかと問いかけました。そうしたら「あなたが考えてみてください」と言われた。それで1998年に、スラバヤ・エコハウスという実験集合住宅を建てました(写真●)。現地で調達したヤシの繊維を断熱材に使い、井戸水を太陽電池のポンプでくみ上げてパイプで水を循環させ、室温を下げるといった構造にしました。

 

恵藤:確かに、暑い国では家の機密性を高めてエアコンかけて涼しくする、という方向性だけが正しい選択ではないと思います。自然を活用したパッシブクーリングの発想は、今後も重要になってくると思います。当社も越谷レークタウンというプロジェクトで川の水と空気を街の中に流し、家の中を涼しくする仕組みを作りました。

 

布野:スラバヤ・エコハウスは、現在も大学の寮で使われています。ただ、地元の人は「日本は冷房を使っているのに、なぜ私たちにだけ、こんなモデルを押しつけるんだ」と怒られました(笑)。「モデルを考える必要はあるでしょう」と説得しましたが。

日本のやり方ではコストがかさみ、東南アジアではお金が足りないことが多い。ただ、バナキュラー(その土地固有の)建築など、昔からの知恵があるので、そういった装置を現代的に活用すればいいと思う。非政府組織(NGO)などと協力して、自治体や政府を説得する必要がありますね。大和ハウスさんも、是非お金を出してください(笑)

 

恵藤:(笑)。そういった方面での事業も、必要ですね。

 

布野:国によっては、技術供与を行ってもろくに活用されないこともある。日本はノウハウを持っているのに、政府の関係機関が積極的でないところもあるんです。最近の援助は人権方面が主で、モノの援助がしにくくなっている。ベーシック・ヒューマン・ニーズとして住宅の援助は必要ではないかと思うけれども、そのあたりは韓国などの方が積極的にやっている。

 

恵藤:住む場所のない人に住宅を援助しても、まったく問題はないと思いますがね。

 

■駐在員向けから始まった

布野:大和ハウスさんは、他の企業と比べてもかなり早い時期に中国に進出されていますね。

 

恵藤:1983年に大連、85年に上海に進出しました。日系のハウスメーカーとしては早いほうだと思います。ただ、そのころは中国人向けのビジネスではなく、日本人の駐在員向けでした。中国の住宅事情が良くなかったので、過酷な地に赴任される方に日本の環境をそのまま作って提供しようという考えでした。日本語が通じる環境で、日本食を買えるコンビニやタクシーのサービスなども用意しました。中国で5カ所に建設しましたが、中国の住宅環境も整ってきましたし、現在は使命を終えたと思っています。合弁の期間が終了したら、順次撤退していく予定です。

 

布野:建材などは、中国の工場で生産されたのですか。

 

恵藤:全て輸入でした。ただ、特に上海市政府は外資を誘致したいという思いが強かったので、それでも非常に優遇されました。当時の市長は江沢民でしたが、建設現場に視察に来ました。

 

布野:江沢民は街中の伝統的な部分さえ守れば、あとは開発に非常に積極的だったと聞いています。それもあって中国も様変わりし、蘇州は歴史的なすばらしい街ですが、一歩郊外に出るとアメリカの郊外のようですね。中国が住宅バブルになっているという印象はありますか。

 

恵藤:北京や上海など、一部ですね。中国は都市部の人口が約6億人で、世帯数は2億世帯。日本のバブルがはじけた時は、持ち家のストックが世帯数を完全に上回っていましたが、中国では家を持っていない世帯も多い。中国の住宅市場は、紆余(うよ)曲折はあっても中期的に見ればまだまだ伸びると思っています。2006年には大連で、09年には蘇州でも中国人向けの分譲マンションの開発に着手しています。昨年11月には無錫市で不動産開発用地を落札し、中国で4番目となる不動産開発「無錫呉博園プロジェクト」を開始することになりました。

 

■求ム「外向きの人材」

布野:中国ではサブコンがまだまだ育っていないですから、施工や管理でも日本に一日の長があるでしょう。職人の質や材料の問題など、地元ならではの問題もある。

 

恵藤:実際に動くのは地元の方々なので、日本からは工程や品質の管理のノウハウなど、ソフトの部分を輸出するしかないですね。人の育成には当然時間がかかります。ある地場の業者と仕事をしたとき、当社が日本でやっているように手直しを繰り返していたら「話が違う。こんなことまでするなら、次回からは大和ハウスとは仕事をしたくない」と言われたこともあります。

 

布野:日本で研修はしたのですか。

 

恵藤:いいえ。ただ、地場のデベロッパーにとっては、日本の業者と仕事ができたなら、同じ水準の仕事がまたできるだろうと。それで「新たな仕事の依頼が来るんだからいいじゃないか」となだめましたが(笑)。中国の市政府が日系企業に期待しているのは、地場企業の技術水準の底上げなので、誘致をしてくれる地域ではやりやすい。

 

布野:政治状況も難しいなかで、よくやってらっしゃいますね。今後も中国事業を拡大する方針ですか。

 

恵藤:人材の数も限られているので、長江デルタや、当社が関わった歴史が長い大連でも拡大していきたいと考えています。バブルを免れている天津なども検討しています。

 

布野:人材ということですが、日本の学生は内向きですね。アジアでなら、日本でできないような、すごいものを作ることもできるのに。外国に出て行けと言っても、出て行かない。就職活動で1年くらい費やしてますからね。

 

恵藤:バブルがはじけてから、便利で清潔でモノが安い日本の生活をエンジョイしたいという人が増えている気がします。

 

布野:入社したころの恵藤さんはどうだったんですか。

 

恵藤:私は入社のときに「3年たって海外に行かせてもらえなければ、会社を辞めます」と言ったんです。それで無理やり米国に赴任させてもらった(笑)。その後はオーストラリアと中国で、会社人生は海外のほうが長いくらいです。海外に行きたがらない人を見ると、会社がお金を出してくれて、異文化を体験させてくれるのにと不思議ですね。

 

■ニーズは手探り

布野:コアハウスの部分だけを大量生産するというシステムの普及を検討しているのですが、そういった事業の可能性はいかがですか。

 

恵藤:どこまでこちらが割り切れるか難しいですね。売りっぱなしでは、何かあったときの責任が取れず、企業イメージを維持できませんから。当社製のコアハウスが丈夫で劣化しないというイメージを確固たるものにできれば、そこから広げていける可能性もありますが。

 

布野:マレーシアやインドネシアではスケルトン売りが多いですね。多様な民族と風習があり、例えばバリ人はヒンズー教に基づいたバリ風のインテリアにしたりするので、内装まで仕上げてしまうと売れない。基本的には仕上げない売り方ですよね。

 

恵藤:中国も似たような所があります。富裕層の中には、建築屋は信用できないので内装は自分たちでやると言う人も多い。当社の蘇州のプロジェクトは内装付きですが、スケルトンだけだと差別化が難しい。

 

布野:1995年からインドネシアで、共有部分を最大にした集合住宅を設計しました。キッチンは共有で、シャワーは2戸にひとつ。2階と3階のフロアには店舗も入れられる。もともと共同生活をしている人が多いので、個々の施設の所有関係がはっきりしていなくても、すんなり受け入れられる。国によってはこういった住宅もありうるという提案でした。コレクティブ・ハウスといっていいのですが、子供が多いのでなかなか活気がある集合住宅になりました。ただ、シンガポールでは理解できなかったようで、「共有部分をだれが所有して、だれが管理するのか」と質問攻めに合いました。

 

恵藤:なるほど。

 

布野:高齢化が進むと、ひとつの家に単身で住む居住者が増え、核家族を前提としたモデルの住居が合わなくなっていく。中国は急速に高齢化していくので、近い将来シェア型の集合住宅の普及もありえるかもしれません。

 

恵藤:シルバー産業には中国でも地元のデベロッパーは目を向けています。まずは富裕層を狙っていて、高級老人ホームが出てきていますね。バリアフリーも知識としては入っているようです。

 

布野:私は51C型という、日本の公団のプロトタイプを作った研究室の出身なんです。インドネシアやフィリピンに最初に行ったときに、日本はアジアにどんな住宅が提案できるのかと考えさせられました。材料が日本と違うし、収入の階層も違う、気候の問題もあります。家族の形なども含めて、本腰を入れて調査をした上で臨まないといけないと思いました。

 

恵藤:そうですね。ビジネスとしても、相手が求めているものを、しっかりと探して作らなければと思います。例えば、インドネシアで耐震構造付きの住宅を提案しても「ジャカルタではそんなに地震がないからいらない」と言われ、セールスポイントにならなかった。また、耐震構造はお金がかかるので、コストとの兼ね合いの問題もある。相手が何を求めているのか、手探りの状態です。まして、住宅はずっと住むものですから。

 

布野:自動車や家電を輸出するのとは違う。

 

恵藤:ええ。ただ、日本発の便利なものを提案すれば、アジアでも受け入れられる素地はあります。中国ではバスタブに入る習慣はありませんが、温泉も好きですし、風呂に入れば、それなりに好評です。トイレとバスも一緒の住宅がほとんどですが、トイレを独立させたら「気に入った」という中国人も多い。蘇州のプロジェクトでは、全戸にウォシュレットをつけました。家電などでもそうですが、不要な部分をそぎ落として売る必要があるでしょうね。

 

 

 





 

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