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2021年8月7日土曜日

見聞録13  骨太の建築/斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!? 大方あかつき館(上林暁文学館) 高知県幡多郡大方町 設計 團紀彦 建築設計事務所

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 骨太の建築/斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?

大方あかつき館(上林暁文学館) 高知県幡多郡大方町 設計 團紀彦 建築設計事務所

 


 この白い異形の大方あかつき館は、図書館、ホール、ギャラリーそして上林暁文学館からなる複合施設だ。上林暁は最後の私小説作家と言われる。本名徳廣巌城、高知県幡多郡田ノ口(大方町)に生まれ、東大の英文科で学んだ。一九三二年に「薔薇盗人」でデビュー、戦後『春の坂』で芸術選奨、晩年は脳溢血で寝たきりになりながら、左手で書き続けた。記念館には字というか絵というか、模様のような記号で綴られた原稿が展示されている。

 設計したのは先頃父君團伊玖磨を亡くした團紀彦である。毛並みのいい芸術家二世が不撓の作家に挑んだ、個性豊かな建築が個性豊かな文学者に捧げられたそんな作品である。

 全体は巨大な船のように見える。海が近いせいだ。いきなりの大階段を上ると甲板のような屋上広場が設けられているせいでもある。それにしても変わっている。屋根も壁も斜めで水平垂直の線がない。不思議な、日常体験しない内部空間は新鮮である。

 四角四面の近代建築には飽きたとばかりに建築の表面を装飾や歴史的様式で覆ったのがポストモダン建築である。そこに新たな空間の提示は必ずしも無かった。だからであろう、バブル崩壊とともに飽きられた。しかし、この建築は一味違う。ここには折り込んだり、捻ったり、傾けたり、新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘がある。

 日本の建築界全体がそつない綺麗なガラスの箱に回帰していく中で、この悪戦苦闘は微笑ましい。若々しいというべきか。目指すのは小手先の操作ではなく力強い空間である。これだけ複雑な構成をとると、ここそこにデッド・スペースが出来るのであるが、大きな破綻はない。コンピューターではなく、模型をつくる。つくっては壊す。その繰り返しの検討が味のある空間を生んでいる。

 ディテールや空間構成に多少粗いところがあっても骨太の建築がもっと欲しい。近代建築を超える試みに停止はない筈である。

 













➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

2021年8月6日金曜日

見聞録12  建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな 神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 建築の保存再生  建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな

神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

  


 七十年前(一九二七年)に竣工した旧神戸税関は大蔵省営繕課の設計である。当時の大蔵相営繕課といえば、逓信省営繕課、東京市役所営繕課などと並ぶ日本を代表する建築組織であった。今でこそ高速道路の影に隠れるようだが、円形の時計塔を掲げた玄関は威風堂々であり、そのゼセッション(分離派、アール・ヌーボー)風のインテリアはいかにも当時の最先端を思わせる。港町神戸のシンボルとして、港と町の接点として、長く市民に親しまれてきた。

 こうした歴史的建造物をどう保存再生活用していくのかはいままさに建築家のテーマである。スクラップ・アンド・ビルド(建てては壊す)時代は終わったのである。関東大震災直後の設計ということもあって充分な配慮がなされていたのだろう、阪神淡路大震災でも大きなダメージを受けたわけではない。旧館の竣工後、必要に応じて建て増された分館を統合し、高度な情報処理システムに対応することがこのプロジェクトの背景にある。そして、市民に親しまれてきた旧神戸税関をどう活かすかが主テーマとされたのである。

 中庭に十本の柱がただ建っている。旧館で用いられたものをそのまま残したのだという。インテリアもほぼそのままで旧館の記憶を甦らせる。可能な限り旧館の構成を活かす。採用された方法は単純だ。面白いのはロの字型の平面構成である。片廊下型で中庭を囲むオフィスビルの構成は現代では珍しいが、新たにつくられた高層部分にもそのまま用いられている。この中庭は「自然の光に満ち、爽やかな風が吹く」という「環境親和型」のオフィスビルの構想にも結びついている。

 阪神淡路大震災直後、公的補助がなされるというので多くの建造物がそのまま廃棄された。あの時、こうした建築物の保存再生の試みが広範になされていたら、既に多くの経験が蓄積されていたであろう。いまにしていささか悔やまれるが、遅くはあるまい。



➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

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2021年8月5日木曜日

見聞録11  自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作 熊本農業大学校学生寮  熊本県 設計 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫共同体

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 自然素材の魅力  誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作

 熊本農業大学校学生寮  熊本県 設計 藤森照信+入江雅昭+柴田真秀+西山英夫共同体



 全体は懐かしい木造校舎のようだ。工事の時の残土を積み上げた小さな丘の割れ目を抜けると、生木の皮を剥がしただけの木が5本、入口の庇を突き抜けて建っていて、不思議な雰囲気を醸し出している。手作りの雨樋が楽しげだ。仕上げ材料は基本的に木と土、布と縄である。照明器具など、随所に手作りの味がある。自然(生物)材料を徹底的に用いる、というのがこの建築の方針である。

 設計者は建築探偵、藤森照信をチーフにする地元の建築家共同体だ。熊本アートポリス事業として藤森が選ばれ、この建築のために地域の精鋭が招待されたユニークな試みだ。自宅「タンポポ・ハウス」の設計で建築家としてデビューして以来、藤森の作品は数作になるが、自然材料を基本とするのは一貫している。

 工業材料が溢れ、世界中が同じような建築物で埋め尽くされる中で、可能な限り生の素材を使おうという単純な主張は、素朴な共感を呼んでいるように思う。しかし、実際は大変である。生木は捻れ、割れ、容易に人の言うことを効かないのである。現場は悪戦苦闘である。普通の建築家であればクレームに耐えられないかもしれない。

 しかし、出来上がった空間は絶妙だ。圧巻は食堂である。無骨な生木が林立して森のようだ。さすが当代の目利きの作品だと唸った。建築がうまくなるためにはとにかく建築を見てまわることである、とつくづく思う。

 建物を上から見ると、インベーダーゲームのキャラクターのようで、異世界から舞い降りたかのようだ。建築の訓練は受けたといえ、藤森の本領は建築史であって、建築のプロから見れば素人である。この建築はおよそ洗練とか、熟練とかからは遠い。下手くそといってもいい。しかし、出来上がった空間には建築の原点に関わる迫力がある。素朴に建てよ、誰でも建築家であり得るのだ、そんな藤森の声が聞こえるような気がしてくる。

      









➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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2021年8月4日水曜日

見聞録10 縄文の森を埋め込む 屋上緑化 壁面緑化 三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化

   三方縄文美術館 福井県三方町 横内敏人建築設計事務所 設計

 


 小さな芝生の丸い岡に、大中小いくつかのコンクリートの楕円の筒が突き刺さっている。周囲をめぐると筒が様々に重なり合って表情を変える。全体は岡に埋め込まれ、建物そのものによって自己主張するところがない。正面のない建築である。

 まるで円墳のようだ。古代の越の国は、出雲とともに四隅突出型古墳が出土する。すなわち大和とは異なった文化圏があったことが知られる。しかし、何も古墳をイメージしたわけではない。ここに収められるのは、古墳時代にはるかに先立つ縄文時代の遺物だ。福井県三方町には鳥浜貝塚という国内屈指の縄文遺跡がある。その遺跡を縄文の森に埋めるようにつくられたのがこの建築である。

 平面の形は三重の楕円形をしている。一番奥の楕円が最大の筒で、映像シアターになっている。次の楕円が縄文ホールと呼ばれる主展示室で、いくつもの丸い筒が巨大な樹木のように上から降りてくる。一番大きな楕円の岡に楔形の切り込みがつくられており、人々は、その縄文の森を模した空間に誘われる、そんな仕掛けだ。小さな筒は換気塔と光の塔である。全体を土と芝生で覆うことによって、光をどうとるかが大きなテーマになる。建築家の腕の見せどころである。

 全体の形は背後の山によく合う。土と芝生は断熱にも大きな役割を担う。通風のシステムもよく考えられている。何より楽しげなのは、この岡にどこからでも自由に登れることである。天候がいい季節には子どもたちが鈴なりになるのだという。

 こうした全体を土で覆う建築はこれまでもなくはない。そうした中でも、テーマといい、立地といい、空間構成といい、なんとなくぴったりとくる作品だ。屋上緑化、壁面緑化ということで、こうした建築のあり方はさらに様々に追求されるだろうが、どんな建築でも土や緑で覆うというわけにはいくまい。問題は、本来の森をとりもどすことである。







➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

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2021年8月3日火曜日

見聞録09 笑う住宅 くねって、捻(ひね)って、捩(よじ)って 屈折住宅   愛知県三河安城  竹山聖+アモルフ 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 笑う住宅  くねって、捻(ひね)って、捩(よじ)って

   屈折住宅 

 愛知県三河安城

 竹山聖+アモルフ 設計

 

 新幹線の車窓から眺める市街地の風景はどこも変わり映えがしない。似たような戸建て住宅の家並みが続いて、マッチ箱だの鶏小屋だのと評される。実際、日本の住宅というのはどこでもワンパターンだ。nLDKと聞いて、住所を知ればなんとなくわかってしまう。同じように工業材料で造られ、地区によって建物の高さや建ぺい率、容積率が決められているから日本中の住宅地の風景が似てくるは当然でもある。

 そんな住宅地の中でこの住宅は一風変わっている。腰をくねって今にも倒れそうである。平面的にも折れていて、側面の壁も編に傾斜している。よくよく見ていると可笑しい。腹を捩(よじ)って笑っているようだ。

 建築家は竹山聖。手堅いディテール(収まりの詳細)で知られる。殊更気を衒(てら)うつもりはなく、ちょっと捻(ひね)るだけで新しい空間がつくれることを示したかったという。クライアント(施主)は独身で、空間的には多少の余裕もあった。

 捩れた箱と鉄筋コンクリートの塔、全体は二つの棟からなる。錆びた鉄の扉を開けて中に入ると、基本的に二階まで吹き抜けた、くねった空間がある。奥にダイニング・キッチンが置かれ、その上にある二階の寝室には、傾げた空間をぐるっと回って行く。吹き抜けの空間に接する鉄筋コンクリート造の別棟の一階には茶室(和室)、三階に浴室が配されている。

 捩れた空間に、様々な光が落ちる。不思議な空間が味わえる。水や白石、竹など、素材の配し方も巧みだ。贅沢と言えば贅沢だ。

 高齢化、少子化が進み、日本の家族のあり方は多様化しつつある。確実なのは単身者が増えることである。コレクティブ・ハウス(グループホーム)のような集合形式が必要とされる一方、こうしたゆとりのある単身者の住宅が日本の住宅地の風景を変えて行くのであろうか。







 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

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2021年8月2日月曜日

見聞録08 木匠塾の目指すもの ざらざら、ぼこぼこの素材感  朝日町エコミュージアム コアセンター創遊館 二〇〇〇年 山形県朝日町 元倉真琴+スタジオ建築計画 設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

   木匠塾の目指すもの  ざらざら、ぼこぼこの素材感

 朝日町エコミュージアム コアセンター創遊館 二〇〇〇年 山形県朝日町 元倉真琴+スタジオ建築計画 設計

 


 

 「木匠塾」という、毎夏、建築系の学生が樹木や木造建築について学ぶ集いがある。本拠地は、岐阜県の加子母村に置かれているが、奈良県の川上村や京都府の美山町などにも広がりつつある。

 秋田県の角館町を中心に「東北木匠塾」が設立されたのは三年ほど前のことだ。その「東北木匠塾」が今夏は山形県の五十沢で開かれた。学生たちは、色漆喰で絵を描く鏝絵(こてえ)を競ったり、茅の葺き代え、炭焼き、草鞋(ぞうり)編みなどに実に喜々として取り組んだ。少し前の日本にタイムスリップしたかのようである。自然との親密な関係を維持する場所はまだまだ日本にはある。

 近くに「まち全体がエコ・ミュージアム」という考えを「まちづくり」の基本に据えている町があるというので行ってみると、田圃の中に一風変わった建物があった。

  町役場などが建つ大通りから見るとモダンな表情をしているけれど、背後に回ると、屋根は、後の里山に向かって大きく傾斜し、芝生で覆われている。なるほど、こうした景観への配慮もあるのか。

 何よりも惹きつけられたのがみたこともないコンクリートの仕上げだ。土のようでやわらかで陰影がある。打ち放しコンクリートが近代建築の美学だ。かつては型枠の木目が残ったが、随分奇麗に打てるようになった。しかし、ここでは不規則にぼこぼこしている。

 エキスバンドメタルという穴の空いた薄い鉄板を型枠に用いたものだ。この仕上げは内部も同じである。内装には節だらけの杉板も使われている。空間構成の全体は端正にまとまっており、そつがないが、「ざらざら」「ぼこぼこ」した質感が意図的に求められている。

 確かに、全て工場生産された「つるつる」「ぴかぴか」の材料は、エコ・ミュージアムをうたう町には似合わない。身近な自然素材を見直し、現場の創意工夫で建築をつくる、それは「木匠塾」の目指すところでもある。

 




➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

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❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

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2021年8月1日日曜日

見聞録07 知られざるモニュメント 丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」  一九六七年 兵庫県福良町(淡路島)

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

  知られざるモニュメント

  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」  一九六七年 兵庫県福良町(淡路島)

 布野修司

 


 今や建築家としてもデビューを遂げた建築探偵藤森照信(東大教授)から、瀬戸内の島に丹下健三の未発表作品があると聞いたのは二年ほど前のことである。スライドを見せられ、へぇーと驚いた。丹下健三と言えば、日本を代表する建築家であり、その作品は常に話題を呼んできたから、未発表作品があるとは俄に信じられなかったのである。

 たまたま鳴門大橋を渡っていて思い出した。遠くの山の上に三角形の塔が見える。尋ねると、「「若人の広場」です、丹下さんの設計ですよ」。地元ではよく知られていた。

  マッシブ(量塊的)な粗石積みの展示施設は、阪神淡路大震災でダメージを受け、閉鎖中であった。石積みの丹下作品など他にはない、と我が目を疑う。しかし、設計計画は確かに丹下流である。軸線を明確に設定しながら、微妙に視線をずらす仕掛けがある。屋上庭園、広場、モニュメントへ向かう通路が巧みに配されている。

 竣工が一九六七年と知って、大いに混乱する。六〇年代は丹下の全盛であり、一方で、代々木の国立屋内競技場(一九六四年)、山梨文化会館(一九六六年)など、建築構造技術を駆使した新たな表現が次々と生み出されているからである。未来都市を目指した大阪万国博の会場設計も既に進められていた。粗石積みの建築は如何にもプリミティブだ。

 何故、この動員学徒のための記念碑が建築界で発表されなかったのかは何となくわかる。第二次世界大戦中(一九四二年)の大東亜記念営造物コンペ(設計競技)に一等入選することによってデビューした丹下の戦後の「転向」を告発する論調が当時建築界では支配的であったからである。

 しかし、この作品の「発見」によって浮かび上がるのはむしろ、丹下健三における戦前戦後における一貫性ではないか。既にそうした指摘はあるが、日本の近代建築の歴史に一石を投じる「発見」となることは間違いない。

 


     



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