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2021年8月13日金曜日

見聞録19 簡素で徹底した建築技術の表現 ガラス張りの大学 情報技術を駆使する自在な空間  公立はこだて未来大学 設計:山本理顕設計工場+木村俊彦構造設計事務所  函館市亀田中野町

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 簡素で徹底した建築技術の表現 ガラス張りの大学 情報技術を駆使する自在な空間

 公立はこだて未来大学 設計:山本理顕設計工場+木村俊彦構造設計事務所

 函館市亀田中野町


 なんともうらやましい大学である。まさに未来大学という名に恥じない。全ての教室の全ての机にコンセントがあり、インターネット用のジャックがついている。学生はノート・パソコンを持って移動すれば、教科書も参考書も要らない。教師も教材用にプリントを用意する必要はない。学生は黒板代わりの画面をそのままダウンロードすればいいのである。旧態以前たる教室で、講義のために毎回スライドやオーバー・ヘッド・プロジェクターを用意するのに四苦八苦している身には実に刺激的であった。

しかし、それだけではない。以上の情報メディアの問題であれば早晩全ての大学がそうなるであろうし、多くの大学で既に情報技術は教育研究に駆使されている。過激なのは全ての研究室がガラス張りであることだ。大学の研究室といえば蛸壺と言われたイメージは全くない。スタジオやアトリエ、ラウンジ、モールなどは巨大な吹き抜け空間に一体的に配されており、明るい自然光が差し込んでくる。そして、いつでもどこでも眼前に函館山の全容を望むことができる。絶好の立地である。

建築は巨大な箱だ。極めてわかりやすい。一律一二・六メートル四方という柱間にトリプルTスラブと呼ぶプレキャスト(予め工場で作った)の床を架けるだけだ。工期の短縮を絶対的条件としたための架構方法の選択である。全体を手掛けたのは埼玉県立福祉看護大学(要確認)で芸術院賞を受けた山本理顕、今、脂が乗り切っている建築家のひとりである。単純な架構の中に、高低、広狭、開閉、明暗、・・実に多様な空間を作り出し、全体を通じて破綻がない。

そして、構造計画を担当したのは木村俊彦、日本を代表する構造デザイナーのひとりだ。その簡素で徹底した技術の追求には、全てが乏しかった戦後まもなくの建築家たちの初心を思い起こさせる。木村は、テクニカル・アプローチを標榜し、戦後の建築界をリードした前川國男設計事務所の出身である。



 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21


⓳土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

2021年8月12日木曜日

見聞録18 コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて  使われない共用空間!?

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて

 使われない共用空間!?

 


阪神淡路大震災以後、コレクティブ・ハウスと呼ばれる共同住宅のあり方が追求されつつある。ヨーロッパでは、血縁関係のない単身者が台所、食堂、居間などを共用する住宅のことである。同世代が一緒に住む場合が多いが、シェア・ハウスと呼ばれる形式もある。日本の場合、今のところ、独居老人が一緒に住む形式が一般的である。

この「グループ・ハウス尼崎」は中でも先進的な一例である。個室が九つずつ左右にあり、真中に共用の居間、台所、浴室が配されるだけのシンプルな間取りであるが、居住者が実に生き生きとしている印象を受けた。面白いと思ったのは、僕がインドネシアで手掛けたコレクティブ・ハウスの間取りとよく似ていることだ。

もともと二つのケアつき仮設住宅を統合してつくられたのがこの施設である。知られるように震災後の仮設住宅では独居老人の孤独死が相次いだ。こうした共同施設の必要性が痛感されたのである。しかし、これはあくまで仮設住宅でその存続は危ういという。一方、厚生労働省が制度化したグループ・ホームは痴呆性高齢者に限定されている。

問題はこうした新たな共同住宅が必要なのは高齢の単身者に限らないことだ。女性の社会進出、少子化もあり、日本の家族のあり方は遥かに多様化しつつある。

いくつかのコレクティブ・ハウスを見せて頂いていささか暗然とすることがあった。いわゆる共用空間が全く使われていないのである。極端なところでは、共益費にお金がかかるというので共用室の蛍光灯が取り外されていた。そして、何よりも活気がない。全く状況は異なるが、インドネシアの場合、共用室は子供たちの遊び場でもあり、実に賑やかである。

高齢社会とはいえ、各世代がともに棲むのが街だ。各世代が棲む共同住宅の形が我が国にも欲しい。




➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

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❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

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⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

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⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112


⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

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2021年8月11日水曜日

見聞録17  世界貿易センター(WTC)の悪夢  呪われた建築家、ミノル・ヤマサキ  現代技術の盲点:最適設計の美学

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 世界貿易センター(WTC)の悪夢

 呪われた建築家、ミノル・ヤマサキ

 現代技術の盲点:最適設計の美学





ミノル・ヤマサキという建築家はよくよく呪われている。彼が設計したプルーイット・アイゴー団地(セントルイス)が爆破解体されたのは一九七〇年代初頭であった。近代の理想の団地もスラム化がひどく壊すしかなかったのである。その爆破の写真は、近代建築の失敗の象徴としてしばしば取り上げられる。そして世界貿易センタービルの一瞬の消滅である。その設計思想の破綻が白日の下にさらされたのである。

それは信じられないような光景であった。超高層ビルがまるで砂のように崩れ去ったのである。建築のことはひと通り学んだつもりの僕でも、こんなことがありうるのか、と眼を疑った。超高層にジェット機がぶつかることなどそもそも想定されていないと言えばそれまでである。しかし、ぶつかって火焔を上げている超高層ビルが次の瞬間に崩れ落ちると予測した人が何人いたであろうか。

事件からしばらくして、予想通りの美しい壊れ方であったと嘯く専門家がいると聞いた。最も経済的に最も合理的に設計された建築物は全ての部位が同時に破壊されるのが理想だという。最適設計の理論である。そんな理論など一般の人は知らないだろう。超高層ビルがそんな思想で設計されていると知っていたら、多くの消防士や警察官は救助に向かわなかったであろう。そして命を落とすことはなかったであろう。

超高層はそもそも不要だ、あるいは不自然だ、などとは言うまい。それ以前に、何があろうと、建造物があのように崩れてはならないと思う。一本の柱でも一本の梁でも壊れずに残れば多くの命が救われた筈だ。全て同時に壊れるのではなく、わざと弱いところをつくっておいて、他を救うという考え方だってある。問われているのは設計の思想である。

超高層ビルを生んだ二〇世紀の設計思想が恐ろしいのは、それがいかに危ういか、を知りながらそれを隠していることではないか。




➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

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❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

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2021年8月10日火曜日

見聞陸16  ソカロからラテン・アメリカ・タワーへ メキシコ・シティの苦悩!? 問われる歴史的都市核の再開発 超高層の海に沈むかコルテスの街

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 ソカロからラテン・アメリカ・タワーへ メキシコ・シティの苦悩!? 問われる歴史的都市核の再開発 超高層の海に沈むかコルテスの街

 


 京都のような格子状の町に住んでいるせいだろうか。世界中の格子状都市が気になって、ついにはメキシコまで行ってきた。中南米はスペインがつくった格子状都市の宝庫である。フェリペ二世が都市はこうつくりなさいとワンパターンに命じたのである。

メキシコ・シティの地をコルテスが征服した時、テスカカ湖の上にはアステカ帝国の都テノチティトランの壮麗な姿があった。それを破壊し、その石材を使って彼は自分たちの都ヌエヴァ・エスパニョールを建設した。ソカロと呼ばれる中央広場の周辺には、スペインの当時の都市に負けないカテドラル、宮殿が建つ。宮殿の隣地からアステカの中央神殿跡が発見されたのは一九一三年のことだ。ひどいことをしたものだ、とつくづく思う。

とは言え、ソカロは既に五〇〇年にも及ぶ歴史を誇る。周辺は世界文化遺産に指定されている。ところで、その地区にエンパイア・ステート・ビルを小型にしたようなラテン・アメリカ・タワーというビルが建っている。

地上四四階、さらテレビ塔が載って一八二メートルにもなる。驚いたことに一九四八年に着工して五六年に竣工している。日本に霞ヶ関ビルが出来る(六八年)遙かに前である。設計者はオルティス・モナステリオ。日本において、六〇年頃国立自治大学図書館の民族的表現などが話題になったことがあるが、この建物は知られていない。アメリカ建築の華々しさの前に無視されたのだろう。耐震性にすぐれ、度重なる地震にも問題ないという。

このタワーをめぐって今一騒動が起こりつつある。なんと、大統領とメキシコ市長は、都心活性化のために、ゾカロからラテン・アメリカ・タワーの町へ化粧直しをはかることで一致、そのためのプロジェクトを発表したのである。近代建築の理念と美学は根強いということか。果たして、栄光のコルテスの町も、超高層の林立する街の底に沈んでしまうのであろうか。










➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

❼知られざるモニュメント  丹下健三の「動員学徒記念若人の広場」見聞録07,共同通信,200101

❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

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⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

⓴古都にふさわしい建築とは 巨大マンション登場,見聞録20,共同通信,200203 11

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2021年8月9日月曜日

見聞録15  バブリーなオランダ建築 ポストモダン建築の最後の競演、饗宴、共演!?  ハーグ駅前再開発 マイケル・グレイブス、シーザ・ペリ、レム・コールハウス、リチャード・マイヤー、アルド・ロッシ他

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 バブリーなオランダ建築 ポストモダン建築の最後の競演、饗宴、共演!?

 ハーグ駅前再開発 マイケル・グレイブス、シーザ・ペリ、レム・コールハウス、リチャード・マイヤー、アルド・ロッシ他



趣のある歴史的建物の背後に異形の高層建築が二つ見える。オランダはハーグの王宮から中央駅前を望んだ光景である。左の砲弾形のビルは、シーザ・ペリ、右の急勾配の切り妻屋根が二つ連なるビルがマイケル・グレイブスの設計だ。

国際司法裁判所があり、歴史ある落ち着いた町として知られるハーグの駅前に、よくもまあ次々に話題作がそろうものである。コールハウスの出世作といっていいドラマ・シアター、リチャード・マイヤーのハーグ新市庁舎も隣接して建っている。国際的建築家の時ならぬ饗宴の感がある。それにしても、クアラルンプールの世界一高いペトロナス・タワー、NHK大阪など、このところのシーザ・ペリの世界を股にかけた活躍はすさまじい。

オランダ建築には昔から興味があった。アムステルダム派の建築が好きで随分見ている。長年つき合ってきたインドネシアの宗主国でもあり、オランダ建築や都市計画の世界史的展開には関心がある。ハーグには国立図書館、国立公文書館があって、このところ資料漁りのために通っていて気になってしかたがない。

まずは、オランダ建築の元気の良さにはびっくりするやら、うらやましいやらである。しかし、ポストモダンの建築などもう流行らないのではないのか。負け惜しみのようだが、大丈夫かな、という気がする。まるでバブル期の日本建築を見るようなのだ。

確かに、それぞれがハーグの町を読んで、それぞれに解答を出しているように見える。しかし、その解答の方向はばらばらなのだ。ハーグの町の未来がここに示されているとはとても思えない。

無味乾燥な近代建築の立ち並ぶ景観にポストモダンの歴史主義は確かに一撃を加えたかも知れないけれど、しっかりした歴史的街並みの前ではどうしても薄っぺらに見えてしまう。競演が饗宴に終始し、共演になり得ていないのが致命的なのである。


➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

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❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

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⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

⓯メキシコ・シティの再開発 タワーめぐり一騒動勃発,見聞録15,共同通信,200110

⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

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㉑京都都心の惨状 林立するマンション 消えゆく町家 覆いがたい理念の分裂,見聞録21,共同通信,200204

 

2021年8月8日日曜日

見聞録14 路地型集合住宅 街並みのモデル きめ細かい設計  こじんまりとしたスケール 中島ガーデン 静岡県富士市 設計 松永安光 近代建築研究所

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 路地型集合住宅 街並みのモデル きめ細かい設計

 こじんまりとしたスケール

 中島ガーデン 静岡県富士市 設計 松永安光 近代建築研究所



全部で一二戸のこじんまりした集合住宅である。家の中から毎日富士山が見える。実にうらやましい。

二階建ての住棟が三列に並ぶごくシンプルな構成だ。しかし、単調さを破る工夫がある。まず、真っ直ぐ富士山に向けて斜めの通路が走っていて面白い。通路の上には平行して二階の住戸のためのブリッジがあり、その上に立つと富士山が住戸の壁と壁の間に見える仕掛けである。また、各戸の坪庭が交互に配置され、眼を楽しませる。さらに、幅二メートル程の路地が心地いい。スケール感がいいのである。小さな池と水路も効果的だ。モウソウチク、ヤマモミジ、ベニカナメ、そして下草にシャガ、ヤブラン、フッキソウ、ユキノシタ、コグマザサなど植裁もきめ細かくデザインされている。全体として路地と坪庭が実に効果的に外部空間を形作っている。設計者は、路地型集合住宅という。

住戸は全て二寝室で一室は和室という構成であるが、メゾネット(二階建て)型が二種類、フラット(平屋)型が二種類用意されている。一二戸でも居住形式の多様性に対応する意図もある。全てが専用庭を持ち、南北に通風と採光が採れる。目新しい技術の利用があるわけではないが、細部に目配りの効いた設計である。

単なる空き地が連なるだけの集合住宅が少なくない中で、共用空間が随分豊かである。ひとつには、特定優良賃貸住宅制度(特優賃)という制度の利用がある。敷地を民間が提供し、金融公庫が融資し、共用部分の建設費を公共が補助し、基準収入以下の入居者に対して家賃補助を行うという制度である。もっと利用されていい。

一二戸ほどの小さな集合住宅に、二〇〇一年度の日本建築学会賞が与えられた。個人住宅や小規模の集合住宅が受賞するのは珍しい。小さいが、日本の街並みをつくっていくモデルになるというのが最大の評価である。

 

➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

❹緑再生の巨大な実験 傷つけて癒す・・・建築の本質 見聞録04,共同通信,200010

❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

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⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

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2021年8月7日土曜日

見聞録13  骨太の建築/斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!? 大方あかつき館(上林暁文学館) 高知県幡多郡大方町 設計 團紀彦 建築設計事務所

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 骨太の建築/斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?

大方あかつき館(上林暁文学館) 高知県幡多郡大方町 設計 團紀彦 建築設計事務所

 


 この白い異形の大方あかつき館は、図書館、ホール、ギャラリーそして上林暁文学館からなる複合施設だ。上林暁は最後の私小説作家と言われる。本名徳廣巌城、高知県幡多郡田ノ口(大方町)に生まれ、東大の英文科で学んだ。一九三二年に「薔薇盗人」でデビュー、戦後『春の坂』で芸術選奨、晩年は脳溢血で寝たきりになりながら、左手で書き続けた。記念館には字というか絵というか、模様のような記号で綴られた原稿が展示されている。

 設計したのは先頃父君團伊玖磨を亡くした團紀彦である。毛並みのいい芸術家二世が不撓の作家に挑んだ、個性豊かな建築が個性豊かな文学者に捧げられたそんな作品である。

 全体は巨大な船のように見える。海が近いせいだ。いきなりの大階段を上ると甲板のような屋上広場が設けられているせいでもある。それにしても変わっている。屋根も壁も斜めで水平垂直の線がない。不思議な、日常体験しない内部空間は新鮮である。

 四角四面の近代建築には飽きたとばかりに建築の表面を装飾や歴史的様式で覆ったのがポストモダン建築である。そこに新たな空間の提示は必ずしも無かった。だからであろう、バブル崩壊とともに飽きられた。しかし、この建築は一味違う。ここには折り込んだり、捻ったり、傾けたり、新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘がある。

 日本の建築界全体がそつない綺麗なガラスの箱に回帰していく中で、この悪戦苦闘は微笑ましい。若々しいというべきか。目指すのは小手先の操作ではなく力強い空間である。これだけ複雑な構成をとると、ここそこにデッド・スペースが出来るのであるが、大きな破綻はない。コンピューターではなく、模型をつくる。つくっては壊す。その繰り返しの検討が味のある空間を生んでいる。

 ディテールや空間構成に多少粗いところがあっても骨太の建築がもっと欲しい。近代建築を超える試みに停止はない筈である。

 













➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

❸出島の復元  日蘭交渉400年 まちづくりの世界史 見聞録03,共同通信,200009

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❺出雲大社は一六丈あったのか 巨大木造建築の伝統 見聞録05,共同通信,200011

❻空調を使わないビル  エコ・オフィス 見聞録06,共同通信,200012

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❽木匠塾の目指すもの  ざらざら,ぼこぼこの素材感 見聞録08,共同通信,200102

❾笑う住宅   くねって,捻(ひね)って,捩(よじ)って 見聞録09,共同通信,200103

❿縄文の森を埋め込む  屋上緑化 壁面緑化 見聞録10,共同通信,200104

⓫自然素材の魅力 誰でも建築家になれる 建築探偵の佳作,見聞録11,共同通信,200105

⓬建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな,見聞録12,共同通信,200106

⓭骨太の建築 斜めの空間 新たな空間を生み出そうとする悪戦苦闘 デコン(破壊)派の傑作!?,見聞録13,共同通信,200107

⓮バブリーなハーグの建築,見聞録14,共同通信,200109

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2021年8月6日金曜日

見聞録12  建築の保存再生 建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな 神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

 布野修司 共同通信 学芸=見聞録 連載全21回 2000年8月~20024

 建築の保存再生  建物を大事に使う時代へ 無闇に壊すな

神戸税関本関  兵庫県神戸市中央区 設計 建設省近畿地方建設局営繕部+日建設計

  


 七十年前(一九二七年)に竣工した旧神戸税関は大蔵省営繕課の設計である。当時の大蔵相営繕課といえば、逓信省営繕課、東京市役所営繕課などと並ぶ日本を代表する建築組織であった。今でこそ高速道路の影に隠れるようだが、円形の時計塔を掲げた玄関は威風堂々であり、そのゼセッション(分離派、アール・ヌーボー)風のインテリアはいかにも当時の最先端を思わせる。港町神戸のシンボルとして、港と町の接点として、長く市民に親しまれてきた。

 こうした歴史的建造物をどう保存再生活用していくのかはいままさに建築家のテーマである。スクラップ・アンド・ビルド(建てては壊す)時代は終わったのである。関東大震災直後の設計ということもあって充分な配慮がなされていたのだろう、阪神淡路大震災でも大きなダメージを受けたわけではない。旧館の竣工後、必要に応じて建て増された分館を統合し、高度な情報処理システムに対応することがこのプロジェクトの背景にある。そして、市民に親しまれてきた旧神戸税関をどう活かすかが主テーマとされたのである。

 中庭に十本の柱がただ建っている。旧館で用いられたものをそのまま残したのだという。インテリアもほぼそのままで旧館の記憶を甦らせる。可能な限り旧館の構成を活かす。採用された方法は単純だ。面白いのはロの字型の平面構成である。片廊下型で中庭を囲むオフィスビルの構成は現代では珍しいが、新たにつくられた高層部分にもそのまま用いられている。この中庭は「自然の光に満ち、爽やかな風が吹く」という「環境親和型」のオフィスビルの構想にも結びついている。

 阪神淡路大震災直後、公的補助がなされるというので多くの建造物がそのまま廃棄された。あの時、こうした建築物の保存再生の試みが広範になされていたら、既に多くの経験が蓄積されていたであろう。いまにしていささか悔やまれるが、遅くはあるまい。



➊仮設住宅の創意工夫 台湾のまちづくり最前線 伝統文化の継承 見聞録01,共同通信,200007

❷循環型の社会へ一戸の住宅から 石井の家 見聞録02,共同通信,200008

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⓰超高層の危険隠した20世紀の「設計思想」ー何故ビルは一瞬で崩壊したか,見聞録16,共同通信,200111

⓱コレクティブ・ハウスの行方 新しい共同住宅のあり方を求めて 使われない共用空間!?,見聞録17,共同通信,200112

⓲巨大な「箱」に多様空間 はこだて未来大学,見聞録18,共同通信,200201 21

⓲土木デザインの新展開 都営大江戸線・飯田橋駅,見聞録19,共同通信,20020201

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