布野修司編:世界都市史事典,昭和堂,2019年11月30日
図① チェンマイ 航空写真 |
城壁で囲われた「四角い村」はウィアンViang(ウェインWeing)と呼ばれるが,チェンマイ近郊に重要なウィハンが2つある。ウィアン・スアン・ドークとウィアン・チェット・リンである(図②)。それぞれ1371年と1411年に建設されている。ウィハン・スアン・ドークは,王家の庭園として建設され,ワット・スアン・ドークを中心とする寺院都市とする計画であり, ウィアン・チェット・リンは戦争時の終結場所となることが想定されていた。
正方形の都市は,天文学的な配置を占うマハ・タクサ碑文に基づいて計画されたと信じられている。マハ・タクサによって,都市の中心は,ワット・サドゥエ・ムアンWat Sadue Muang(中心(臍)寺院)の都市柱(ラック・ムアン)の場所に定められ、都市の北部は,王と王家の家族の居住地および行政機関の場所とされ,南部は臣下,兵士,職人の場所とされた。このウィハンという「四角い村」の伝統が今日にまで維持されている例は珍しい。
図③ チェンマイ、1893 年 |
そのチェンマイとバンコクが鉄道によって結ばれるのは1910年であり,さらに自動車による陸上輸送が一般的になると,チェンマイは大きく変わる。その変容は商店街の移動に見ることが出来る。
図⑤ チェンマイ、ショップハウス |
商店街はピン川の東西に形成され,西側はター・ワット・ケートの寺院集団やチャイニーズ移民や外国人が経営する店舗,東側は一般の近郊農民が占め,新たな移住者も東側に商業コミュニティを形成し,川の両側に商品を供給する役割を担った。また,バンコクとの交易が次第に盛んになる。ター・ワット・ケートはピー川の分極点にあり絶好の荷上場となった。ここには伝統的な長屋の店舗が建てられ,今日までその景観の一端が残されている(図⑤)。中国寺院,キリスト教会,シーク教会が当時の状況を伝えている。
チャイニーズ居住地区は,ピン川の西岸に沿って拡がり,さらにチャン・モイ道路に繋がって北のタ・パエ地区に達した。現在,ラオ・ジョウ通りはチェンマイのチャイナタウンとして知られる。中国寺院の存在はそのコミュニティが安定していることを示している。インド人商人はカード・ルアン地区で商売を始め,ヒンドゥー寺院を建設している。
1910年に,木造のナラワート橋が建設され,タ・ワット・ケート,カード・ルアン,タ・パエの各地区を結びつける役割を果たし,新たに鉄橋が建設される1921年までに,チェンマイ最大の商業地区が形成された。以降,水運から鉄道輸送に切り替わっていくことになる。 そして,ピン川の東,ナラワート橋と鉄道駅の間に新しい商店街が形成される。しかし,チェンマイとバンコクを結ぶ幹線道路が建設されると,鉄道輸送より陸上輸送が一般的になっていく。
市街地の西の丘陵部への拡大は,チェンマイ大学が建設された1964年頃に始まる。本格化するのは1980年代で、大きなきっかけになったのは観光産業の急速な成長である。
20世紀から21世紀にかけて西部の大学教育機関,政府機関が立地した地区は,徐々に近代的なゾーンに変容していき,城壁で囲われた旧市街は,100万人が居住するチェンマイ大都市圏の象徴的都市核として歴史的保存地区に指定されることになる。
チェンマイは,タイ第二の都市と言われるが,人口規模でいえば,チェンマイが23.42万人 (2014年)(174,235:2015年)で,ノンタブリー27万609人の方が多い。第二の都市というのは歴史的重要度においてである。バンコクのプライマシー(首座度)は,タイの国土編成の奇形的一極集中を示しているが,そうした中で,かつての歴史的都市核を保存しながら,郊外への発展をはかるというのが,チェンマイの変容パターンである(図⑥)。
図⑥東のピンー川 Ping River から西のステープ山 Doi Suthepへの間にある正方形のチェンマイ旧市街が見える航空写真 |
参考文献
Nawit
Ongsavangchai, 2009, Spatial Planning of Thai Northern Cities and their Urban
Architecture, Proceeding of the 2009
NRL+BK21 International Symposium: Tradition and Modernity of
Architecture and Urbanism in Historic Area, Cheongju, Korea, June.
Nawit
Ongsavangchai, Takashi Kuramata and Tadayoshi Oshima, 2008, An Impact of
Housing Development Projects on Land Use Pattern in Chiang Mai City Planning
Control Area, Proceeding the 4th
International Symposium on Architecture and Culture in Suvarnabhumi (ISACS) 18 – 22 October.