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2021年2月16日火曜日

自立循環型地域社会(エコハウス、エコヴィレッジ、エコタウン)へー地域の生態系に基づく居住システムとコミュニティ・アーキテクト制(まちづくりネットワーク)の確立

 東日本復興計画私案

自立循環型地域社会(エコハウス、エコヴィレッジ、エコタウン)へー地域の生態系に基づく居住システムとコミュニティ・アーキテクト制(まちづくりネットワーク)の確立

 

二〇〇四年一二月二六日、スリランカのゴールにいてインド洋大津波に遭遇、危うく命拾いをしたときのことをありありと、寒気とともに思い出した。その時求められて一文を書いたのであるが、その中に次のようにある[i]

転がった列車の中から幼児が生還 名前名乗るも 住所を知らず

シュルシュルと獲物を狙う蛇のよう 運河を登る 津波の早さよ

大車横転後転繰り返す 押し流されて皆スクラップ

気がつくとバスや車、そして船が転がっている、自分が居た周辺で五〇〇人が亡くなった。悪夢の再現である、否、これはもう全てを超えて言葉もない。一度起これば全てが瓦解する原発の致命的問題が起こってしまった。世界は人類始まって以来の経験を共有しつつある。

 

阪神淡路大震災の後、建築家の責任を強く感じ、『裸の建築家・・・タウンアーキテクト論序説』(2000年)を書いて、地域診断からまちづくりまで一貫して担う職能の必要性を提起した。その後、インド洋大津波に巻き込まれ、復興支援に通う中で、その感をますます強くした。安心・安全のためのまちづくり(都市地域計画)の主体は地域社会(コミュニティ)である。地域社会に基礎をおいたまちづくりを組織する職能、コミュニティ・アーキテクトが必要である。そう考えて、京都コミュニティ・デザインリーグの活動、近江環人(コミュニティ・アーキテクト)地域再生学座による人材育成の活動をささやかに展開してきたが、東日本大震災を前にして、声を大にして繰り返して言うべきは、まちづくりの仕組みの大転換こそが必要だ、ということである。

素朴に自立循環型地域社会の再構築をうたう以下の復興計画私案は、地味かもしれない。脱原発依存、低炭素社会へという大きな枠組みを考える時、目指すべき方向は揺らがないと思う。

復興計画が共通に目指すべき前提として問われているのは、日本の社会、経済、政治、文化、産業、国土など全ての編成の問題であり、東京一極集中の構造を多極分散型に転じていくことである。大災害は常にその社会に潜在している矛盾、軋轢、差別を明らかにする。日本社会の全体があまりに被災地域に多くを委ね強いてきたということが今回の大震災で大きくクローズアップされた。部品産業の問題、日本の食を支える水産業の問題、そして原発・エネルギー問題がまさにそうである。

日本の産業構造の歪みを是正するためには被災地域に大きな投資を行う夢あるヴィジョンが欲しい。

また、エネルギー政策として、原子力発電に頼らず自然エネルギーに代替していくことは大きな流れになっていく。多様なエネルギー源が各地域に確保されるシステムが必要であることは誰の眼にも明らかになった。

復興は、単なる復旧であってはならず、日本再生、日本の地域社会再生のためのシステム構築でなければならない。復興計画は、自立循環型地域社会(エコハウス、エコヴィレッジ、エコタウン)の具体的な空間のあり方、その形態とそれを実現する仕組みにわかれるが、ここでは後者に力点を置きたい。というより、前者を自ら提案、選び取るのは地域社会であるという仕組みこそが重要であり、地域住民の日常生活を支える持続的な仕組みの構築こそを復興計画の中に組み込むというのが本提案である。

 

1 地域社会(コミュニティ)主体の復興計画 

まちづくり(都市地域計画)の主体は地域社会(コミュニティ)である。安心・安全のためのまちづくりの基礎は地域社会にある。

 災害時、倒壊した家屋の下敷きになった人たちの救出や消火など緊急事態に対処する上で第一に拠り所になるのは地域(近隣)社会である。今回の空前の大災害ではっきりするのは、消防、警察など災害救助の役割を担う職員を含めて自治体職員も被災者となる。自治体の危機管理システム、防災体制が完備していたとしても、必ず機能するとは限らない。災害発生まもなくの緊急事態に対処しえるのは個々の地区における相互扶助活動である。

 災害後の避難生活を支えるのも基本的には地域(近隣)社会である。小中学校、病院などの地域施設、近隣公園などが避難所生活の拠点となる。

  応急仮設住宅地の生活において重要なのもコミュニティ(地域社会)である。地域社会と切り離された形の応急仮設住宅への入居は、単身老人の孤独死など大きな問題を残した。地域社会を基礎としない公共住宅の供給が空家を大量に生み出している。地域と生活基盤の密接な関係を考慮するのは復興計画の前提である。

 復興計画で究極的に問われるのは地域(地区)における合意形成である。集合住宅の復旧、建替え、区画整理事業、再開発事業など復興のための全ての計画において必要なのは住民(市民)のまとまりである。地域社会の安全・安心のために個々人が果たすべき役割が共有されなければ合意形成は困難である。

 以上のように都市地域計画の基礎は地域社会にある。しかし、地域社会を都市地域計画の主体とする仕組みが日本にはない。日本の都市計画制度には、地域住民の積極的参加を位置づける仕組みがない。すなわち、安心・安全の都市地域計画を基礎づける仕組みがない。

 都市計画審議会等都市計画決定の手続きは形式的で、地域社会(コミュニティ)の参加は必ずしも保証されていない。自治体の都市計画に関わる施策は縦割りの組織による事業、補助金制度が主体となっている(に縛られている)。自治体による都市計画は公共事業の実施を中心としている。インフラストラクチャーの整備、また、施設建設(箱物)行政が主体である。日本の都市計画・建築行政はコントロール行政である。民間の開発行為について、開発規模、用途などを規制する手法が基本である。

 一方、地域住民の都市計画への参加意識は必ずしも高くない。あるいは、地域の利益のみの追求(地域エゴ)、企業利益のみの追求が都市地域計画のテーマとなっている。私的所有権が前提される中で、公共の福祉等、都市景観の公共性、地域社会の共用基盤としての公共空間についての認識は日本においては必ずしも定着していない。

 そうした状況において、地域社会を主体とする都市地域計画の仕組みの確立のために「建築家」「都市計画家」の果たすべき役割は大きい。都市地域計画について、「公共」自治体と地域社会(「民間」)の関係を媒介する組織として「NPO」(非営利組織)が位置づけられる必要がある。NPOは、都市計画のプロセスを一貫してサポートし、調整する役割を果たす組織として位置づけられる。

  もちろん、都市地域計画の実施主体としての自治体の役割は大きい。しかし、自治体が全ての地区についてその計画を一貫して担うのには限界がある。地域社会(地区)の自発的な取り組みを前提として、それをサポートする形が基本である。

 一方、地域社会(地区)が自らの要求を自ら都市地域(地区)計画へまとめあげるのにも限界がある。地域社会内部で利害はしばしば対立するし、要求をまとめ上げる時間、エネルギーは大きな負担となるのが一般的である。また、都市地域計画に関する専門的知識も必要とされる。

 自治体と地域社会を媒介する機関としてNPO、あるいは様々なヴォランティア・アソシエーションの活動が位置づけられる必要がある。その職能は、タウン(地区)・アーキテクト(プランナー)、ハウス・ドクター等として理念化される。様々な形の新しい都市地域計画の仕組みがそれぞれの地域で試行され、確立されるべきである1

災害時に備えて必要とされるのは、地域社会(地区)の自立性である。火災発生時に、消火活動のために必要な水は一定の地区内に確保されている必要がある。災害時に緊急に必要とされる薬品、食料などは一定の地区内に備蓄されるか、速やかに供給されるシステムが用意されている必要がある。ガス、水道、電気、交通などライフライン、インフラストラクチャーなどにはフェイル・セーフのシステムが必要である。一極集中型のシステムではなく、多核分散型のシステムが用意されていなければならない。

 

2 コミュニティ・アーキテクト制の導入 

 

指針

1 コミュニティ主体の復興計画

復興を全て公的な援助に頼ることはできないし、財政の問題もあって現実的ではない。しかし、被災者が自力で復興に取り組むには限界があるし不可能である。また、こうした復興をすべて自助にゆだねることは公的責任の放棄である。ただ、国、自治体が各個人の、また各地区の事情や要求に細かく対応することができないとすれば、復興計画の主体として考えるべきはコミュニティであり、コミュニティによる共助がベースとなる。パダンのアーバン・コミュニティにはそうした相互扶助の精神と仕組みが維持されている。

2 参加による合意形成

 復興計画の立案、実施に当たっては地区住民の参加が不可欠である。計画に当たっては様々な利害調整が必要であり、地区住民の間で合意形成がなされなければ、その実効性が担保されない。コミュニティは、地区住民の参加による合意形成をはかる役割を有している。

3 スモール・スケール・プロジェクト

合意形成のためには、大規模なプロジェクトはなじまない。身近な範囲で復興、居住環境の改善をはかるためには、小規模なプロジェクトを積み重ねるほうがいい。

4 段階的アプローチ

すなわち、ステップ・バイ・ステップのアプローチが必要である。実際、被災地では、様々な形で自力で復興がなされつつある。個々の動きを段階ごとに、一定のルールの下に誘導していくことが望まれる。

5 地区の多様性の維持

地区に地区の歴史があり、また、住民の構成などに個性がある。復興計画は、地区の固有性を尊重し、多様性を許容する方法で実施されるべきである。すなわち、市全体に画一的なやり方は必ずしもなじまない。

6 街並み景観の再生:都市の歴史とその記憶の重要性

地区の固有性を維持していくために、歴史的文化遺産は可能な限り復旧、再生すべきである。阪神淡路大震災の場合、被災した建物の瓦礫を早急に廃棄したために、町の景観が全く変わってしまった地区が少なくない。都市は歴史的な時間をかけて形成されるものであり、また、住民の一生にとっても町の雰囲気や景観は貴重な共有財産である。人々の記憶を大切にする再生をめざしたい。

7 コミュニティ・アーキテクトの活用

復興地区計画のためには、コミュニティ住民の要望を聞いて、様々なアドヴァイスを行うまとめやくが必要である。既に、地元大学の教官と学生たちが現地にオフィスを開いて住宅相談にのるヴォランティア活動を行う例が見られるが、そうした人材を各地区に配置する仕組み、援助の仕方が望まれる。

これからはスクラップ・アンド・ビルドだけではなく、建物の寿命を伸ばすことが必要だとされる時代である。建設資材の再利用を積極的に行い、補修、再建技術の蓄積を行うべきであったという反省もある。

 

2 行動計画

 以上のような指針も、具体性を欠いては意味がない。問題となるのは、予算であり、人材である。以下に、しかし、できることから一歩ずつ進めるというのが以上の指針である。以下に、パタン旧市街の復興計画についていくつかの具体的行動計画を示したい。

ここで復興計画の主体として念頭に置くのは、パダン市など自治体とコミュニティ組織であり、中央政府の各部局がそれをサポートする体制である。それらが立案する以下の行動計画を、UNESCOなど国際機関、文化遺産国際協力コンソーシアム、JICAなど各国政府機関、NGOグループ、国際ヴォランティア・グループ、インドネシアとの大学間交流など様々なレベルの協力体制が支える、というのが前提となる理想的なスキームである。また、行動計画を提案するのは、旧市街でも、具体的に焦点を当てているのは、今回調査を行った歴史的建造物が集中するバタン・アラウの周辺地区である。

 

A 緊急対策

    住宅修復・再建技術基準・マニュアルの作成:住宅補修・修復・再建の方法について、基準を早急に検討し、わかりやすいマニュアル書をいくつかの事例を含めて作成(画一的な手法ではなくオールタナティブを示す)、被災居住者とともに建設関連業者にアピールし周知徹底することが必要である。特にレンガ造建物の補強が必要である。日本はレンガ造建物は採用してこなかったこともあって、その補強方法についての経験はほとんどないが、いくつかの方法について提案することは可能である。住宅補修・修復・再建の手法は、単に、応急的対応だけではなく、建物を維持管理していくためにも恒常的なシステムとしても必要とされる。補修・修復の現場施工グループが組織されることが、将来の街並み景観の維持システムにもつながる。住宅補修・修復・再建は、経済対策ともなりうる。至急、住宅補助の制度を実行に移す必要があるが、可能であれば①の住宅改善指針の徹底とリンクするのがベストである。

    重要歴史的建造物のモデル復元:震災後に復元すべきとされる7つの重要建造物のなかに、街並み景観に関するものとして、ショップハウスRukoが2軒(Bola DuniaEs Kompto)含まれている。この復元を①のモデルケースとすることが推奨される。これまでの建築文化を継承しつつ、構造的検討を加えた新しい型の創出を目指す。

   景観形成地区の制定と建景観築ガイドラインの作成:①②とともに、また先立って、各地区の将来像を描く必要がある。パダン市は1998年に、市条例として街並み景観の保存維持することを定め、具体的な地区(バタン・アラウ、カンポン・ポンドック、パサ・ガダン)を挙げている。しかし、具体的なアクションを起こしてきてはいない。まず、重要景観形成地区を指定し、その地区について、街並み景観に関わる高さ、形態、使用建材などについて緩やかなガイドラインをもうけたい。また最低限の建築規制を法制化(高さ、構造基準)したい。

   地区の景観イメージの作成中長期計画にとって、必要とされるのは地区の将来イメージであり、その方向性については可能な限り早期に合意形成する必要がある。指針の1 コミュニティ主体の復興計画2 参加による合意形成を展開したい。また7 コミュニティ・アーキテクトの活用を考えたい。

 

B 中長期計画

    被災指定歴史建造物の積極活用:②には含まれないけれど、国のレベルで歴史的文化遺産として指定された建造物の多くが被害を受けている。こうした建造物については、復元そのものを目指すのではなく、コンヴァージョンも含めた様々な保存活用が図られるべきである。例えば、バタン・アラウ沿いには多くの被災建物があるが、ウォーターフロントを生かした再開発の潜在的可能性は大きいと考えられる。

    共同建替、地区再開発の検討:比較的余裕のある住民の中には震災によって、移住を決断し、宅地を手放すケースが既に見られる。土地および住民の流動化によって、地区が大きく変化していく可能性がある。また、一方、集合住宅や連棟のショップハウス(店舗併用住宅Ruko)の場合、合意形成に時間を要して、復興が進まないことも想定できる。区画整理、土地のころがしRollingシステムによる宅地の共同化など新たな手法も含めて、パダン市の新たな景観資源、文化遺産となるような地区計画を考えたい。そのためには、例えば、ショップハウスなどいくつかの建築類型についてプロトタイプを設計し、そのビルディング・システムの開発を行う必要もある。

   世界への発信:生活再建のために、住宅再建から開始される復興計画であるが、鍵となり、目標となるのは、地区の持続的な活性化である。歴史的遺産を多く有するパダン旧市街の復興はそれ自体国際的な関心であり、復興過程そのものも国際的に注目されている。ミナンカバウをはじめ多くの民族が居住し育ててきた都市をどう復興するかどうかは、パダン市のみならず、西ジャワ州政府、インドネシア政府にとっても、国のアイデンティティに関わる極めて重要な課題である。復興計画によって、その方法と過程そのものが他のモデルになるよう期待したい。



[i] 「スリランカ・ゴールGalleでインド洋大津波に遭遇:現場報告 オランダ要塞に救われた命」『みすず』20053月号

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