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2021年2月15日月曜日

パダン旧市街の歴史的街並み復興計画のための指針および行動計画 Shuji Funo,Yasushi TAKEUCHI et al (2009),Report to UNESCO Jakarta, Damage Assessment on Cultural Heritage in West Sumatra,National Research Institute for Cultural Properties, Tokyo,December 2009

 

パダン旧市街の歴史的街並み復興計画のための指針および行動計画

Some Recommendations toward the Rehabilitation Programs and Action Plan of Historical Landscape in Kota Lama Padang

都市景観(歴史的文化遺産)の継承と地域コミュニティの再生

Conservation of Urban Landscape (Historical Cultural Heritages) and Revitalization of Community Lives

 

復興地区計画のための指針と行動計画

 都市全体のマスタープラン、都市構造に関わる計画については別として、ここでは市街地の復興、地区レベルの復興について、街並み景観を文化遺産として捉える視点から、その指針、理念と具体的行動計画をまとめてみたい。

  震災復興については、住民の生活再建が第一である。そのためには住居に大きな被害を受けた住民については、早急に居住のためのシェルター(空間)が用意される必要がある。今回の調査では、詳細なデータは得られていないが、被災した住居に自力で応急措置を加え、そのまま住み続けるかたちが数多くみられた。完全に倒壊した住居の場合は、居住者は血縁地縁を頼って一時避難するかたちがとられており、パダン市内においては応急仮設住宅はほとんどみられない。被災建物にそのまま住み続ける住民に対しては、まず、安全・安心、快適な生活のための措置を講ずる必要がある。また、一時避難をしている層に対しては住宅再建のための道筋を講ずる必要がある。いずれにしても、従前の生活を従前の居住地で展開できるようにする生活再建プログラムが出発点である。実際、調査期間中においても日々住宅再建が行われ、被災地の景観は日に日に変わりつつある。

 

1 指針

1 コミュニティ主体の復興計画

復興を全て公的な援助に頼ることはできないし、財政の問題もあって現実的ではない。しかし、被災者が自力で復興に取り組むには限界があるし不可能である。また、こうした復興をすべて自助にゆだねることは公的責任の放棄である。ただ、国、自治体が各個人の、また各地区の事情や要求に細かく対応することができないとすれば、復興計画の主体として考えるべきはコミュニティであり、コミュニティによる共助がベースとなる。パダンのアーバン・コミュニティにはそうした相互扶助の精神と仕組みが維持されている。

2 参加による合意形成

 復興計画の立案、実施に当たっては地区住民の参加が不可欠である。計画に当たっては様々な利害調整が必要であり、地区住民の間で合意形成がなされなければ、その実効性が担保されない。コミュニティは、地区住民の参加による合意形成をはかる役割を有している。

3 スモール・スケール・プロジェクト

合意形成のためには、大規模なプロジェクトはなじまない。身近な範囲で復興、居住環境の改善をはかるためには、小規模なプロジェクトを積み重ねるほうがいい。

4 段階的アプローチ

すなわち、ステップ・バイ・ステップのアプローチが必要である。実際、被災地では、様々な形で自力で復興がなされつつある。個々の動きを段階ごとに、一定のルールの下に誘導していくことが望まれる。

5 地区の多様性の維持

地区に地区の歴史があり、また、住民の構成などに個性がある。復興計画は、地区の固有性を尊重し、多様性を許容する方法で実施されるべきである。すなわち、市全体に画一的なやり方は必ずしもなじまない。

6 街並み景観の再生:都市の歴史とその記憶の重要性

地区の固有性を維持していくために、歴史的文化遺産は可能な限り復旧、再生すべきである。阪神淡路大震災の場合、被災した建物の瓦礫を早急に廃棄したために、町の景観が全く変わってしまった地区が少なくない。都市は歴史的な時間をかけて形成されるものであり、また、住民の一生にとっても町の雰囲気や景観は貴重な共有財産である。人々の記憶を大切にする再生をめざしたい。

7 コミュニティ・アーキテクトの活用

復興地区計画のためには、コミュニティ住民の要望を聞いて、様々なアドヴァイスを行うまとめやくが必要である。既に、地元大学の教官と学生たちが現地にオフィスを開いて住宅相談にのるヴォランティア活動を行う例が見られるが、そうした人材を各地区に配置する仕組み、援助の仕方が望まれる。

これからはスクラップ・アンド・ビルドだけではなく、建物の寿命を伸ばすことが必要だとされる時代である。建設資材の再利用を積極的に行い、補修、再建技術の蓄積を行うべきであったという反省もある。

 

2 行動計画

 以上のような指針も、具体性を欠いては意味がない。問題となるのは、予算であり、人材である。以下に、しかし、できることから一歩ずつ進めるというのが以上の指針である。以下に、パタン旧市街の復興計画についていくつかの具体的行動計画を示したい。

ここで復興計画の主体として念頭に置くのは、パダン市など自治体とコミュニティ組織であり、中央政府の各部局がそれをサポートする体制である。それらが立案する以下の行動計画を、UNESCOなど国際機関、文化遺産国際協力コンソーシアム、JICAなど各国政府機関、NGOグループ、国際ヴォランティア・グループ、インドネシアとの大学間交流など様々なレベルの協力体制が支える、というのが前提となる理想的なスキームである。また、行動計画を提案するのは、旧市街でも、具体的に焦点を当てているのは、今回調査を行った歴史的建造物が集中するバタン・アラウの周辺地区である。

 

A 緊急対策

    住宅修復・再建技術基準・マニュアルの作成:住宅補修・修復・再建の方法について、基準を早急に検討し、わかりやすいマニュアル書をいくつかの事例を含めて作成(画一的な手法ではなくオールタナティブを示す)、被災居住者とともに建設関連業者にアピールし周知徹底することが必要である。特にレンガ造建物の補強が必要である。日本はレンガ造建物は採用してこなかったこともあって、その補強方法についての経験はほとんどないが、いくつかの方法について提案することは可能である。住宅補修・修復・再建の手法は、単に、応急的対応だけではなく、建物を維持管理していくためにも恒常的なシステムとしても必要とされる。補修・修復の現場施工グループが組織されることが、将来の街並み景観の維持システムにもつながる。住宅補修・修復・再建は、経済対策ともなりうる。至急、住宅補助の制度を実行に移す必要があるが、可能であれば①の住宅改善指針の徹底とリンクするのがベストである。

    重要歴史的建造物のモデル復元:震災後に復元すべきとされる7つの重要建造物のなかに、街並み景観に関するものとして、ショップハウスRukoが2軒(Bola DuniaEs Kompto)含まれている。この復元を①のモデルケースとすることが推奨される。これまでの建築文化を継承しつつ、構造的検討を加えた新しい型の創出を目指す。

   景観形成地区の制定と建景観築ガイドラインの作成:①②とともに、また先立って、各地区の将来像を描く必要がある。パダン市は1998年に、市条例として街並み景観の保存維持することを定め、具体的な地区(バタン・アラウ、カンポン・ポンドック、パサ・ガダン)を挙げている。しかし、具体的なアクションを起こしてきてはいない。まず、重要景観形成地区を指定し、その地区について、街並み景観に関わる高さ、形態、使用建材などについて緩やかなガイドラインをもうけたい。また最低限の建築規制を法制化(高さ、構造基準)したい。

   地区の景観イメージの作成中長期計画にとって、必要とされるのは地区の将来イメージであり、その方向性については可能な限り早期に合意形成する必要がある。指針の1 コミュニティ主体の復興計画2 参加による合意形成を展開したい。また7 コミュニティ・アーキテクトの活用を考えたい。

 

B 中長期計画

    被災指定歴史建造物の積極活用:②には含まれないけれど、国のレベルで歴史的文化遺産として指定された建造物の多くが被害を受けている。こうした建造物については、復元そのものを目指すのではなく、コンヴァージョンも含めた様々な保存活用が図られるべきである。例えば、バタン・アラウ沿いには多くの被災建物があるが、ウォーターフロントを生かした再開発の潜在的可能性は大きいと考えられる。

    共同建替、地区再開発の検討:比較的余裕のある住民の中には震災によって、移住を決断し、宅地を手放すケースが既に見られる。土地および住民の流動化によって、地区が大きく変化していく可能性がある。また、一方、集合住宅や連棟のショップハウス(店舗併用住宅Ruko)の場合、合意形成に時間を要して、復興が進まないことも想定できる。区画整理、土地のころがしRollingシステムによる宅地の共同化など新たな手法も含めて、パダン市の新たな景観資源、文化遺産となるような地区計画を考えたい。そのためには、例えば、ショップハウスなどいくつかの建築類型についてプロトタイプを設計し、そのビルディング・システムの開発を行う必要もある。

   世界への発信:生活再建のために、住宅再建から開始される復興計画であるが、鍵となり、目標となるのは、地区の持続的な活性化である。歴史的遺産を多く有するパダン旧市街の復興はそれ自体国際的な関心であり、復興過程そのものも国際的に注目されている。ミナンカバウをはじめ多くの民族が居住し育ててきた都市をどう復興するかどうかは、パダン市のみならず、西ジャワ州政府、インドネシア政府にとっても、国のアイデンティティに関わる極めて重要な課題である。復興計画によって、その方法と過程そのものが他のモデルになるよう期待したい。

 

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