企画の役割,デザイナーになるか,総合者であり続けるか,日経アーキテクチャー,日経BP社,19921123
企画(者)の役割 布野修司
何故企画か。何故企画者なのか。建築を全体的に統合する主体や職能が今見失われつつあるからだと思う。社会の複雑化に伴い、社会的分業がますます進行する。建築のあり方もそれに伴い複雑となる。建築技術の専門化、細分化が加速するなかで、誰が建築をまとめるのか、わからなくなってきた。要するに、建築の発注システムの変化、あるいは、大きく建築生産システム全体の変化がその背景にあると思う。
建築の全体を総合する役割は、本来、少なくとも理念的には、建築家の役割であった筈だ。しかし、建築家をとりまく状況は激しく変化した。バブルとともに川上から参入してきたのが、広告代理店であり、不動産屋・ディベロッパーであり、銀行であり、保険会社である。もともと建築家というのはお金に弱い。また、法律に弱い。それに加えて川下の技術に弱いときたらまさに「裸の王様」である。状況について行けないのは当然だ。
こうした中で、建築家がとりうる道は二つである。ひとつは「デザイナー」、「アーティスト」に徹することである。その場合、総合の役割は企画者なり、サイト・マネージャーなり、別の主体が担うことになる。もうひとつはあくまで建築全体についての総合者であることに拘ることである。それが如何に可能か、企画者の登場によって建築家に問われているのはかなり決定的なことである。
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