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2022年10月1日土曜日

トラブルへの対応,建築は人を殺す,日経アーキテクチャー,日経BP社,19920316

 トラブルへの対応,建築は人を殺す,日経アーキテクチャー,日経BP社,19920316

トラブルへの対応                          布野修司

  

 建築は人を殺す、と心底思ったことがある。僕のところへ持ち込まれたのは住宅をめぐるトラブルであった。いわゆるイージーオーダー住宅(売建住宅)の欠陥問題である。

 裁判沙汰になってから、鑑定の依頼があったのであるが、その時既に、施主の怒りにはすさまじいものがあった。いざ建ってみると、家が傾いているような気がする。基礎に手抜きがあった。ひとつの欠陥がみつかると、次々に気に入らないところが出てくる。柱のちょっとした傷さえ重大な欠陥に思えてくるのだ。

 業者の非は明かであるが、施主にも問題がある。施主は、後から猛烈に勉強したらしいのだが、そんなに勉強するなら建てる前にすればいい。業者も、最初から誠実な応対を欠いていた。

 建築の場合、100%完全無欠ということはありえないことだ。一品生産が基本だから、その出来上がりについては充分な相互理解が必要である。相互にコミュニケーションを欠いては、ちょっとしたトラブルでもどうしようもないことになる。

 施主は、頭に血がのぼっているから、冷静な判断ができない。和解勧告の補償額は微々たるもので、とてもおさまらない。和解を拒否して徹底的に戦う、という。ほとんどノイローゼ気味である。ついに、そのSさんは身体を壊して、裁判を抱えたまま亡くなってしまう。実に後味が悪いトラブルであった。




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