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2022年11月27日日曜日

「木の文化研究センタ-」構想,雑木林の世界24,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199108

 「木の文化研究センタ-」構想,雑木林の世界24,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199108

雑木林の世界24 「木の文化研究センター」構想

                                  布野修司

 

 「地域職人学校」(雑木林の世界12 本誌 一九九〇年八月号)で紹介した地域における建設技能者養成のプログラムが徐々に動きだしている。来年四月にはとりあえず私塾としてスペシャリストの募集を始めることになった。仮称ではあるが「茨城ハウジングアカデミー」という。スタッフ、カリキュラム、施設などをめぐって組織固めが急ピッチで進められていく。

 飛騨高山木匠塾(仮称)の第一回「インターユニヴァーシティー・サマースクール」も近づいてきた。七月二三日から三〇日まで一週間の予定である。カリキュラムは、前半は学生向け、後半は実務者むけに組んだ。なにせ、初めてである。水道、ガス、トイレなど施設整備が大変だ。ハプニング続出の予感がある。乞うご期待である。

 SSF(サイト・スペシャルズ・フォーラム)は、創刊号を出した(六月一日付)。まだ、字が多い。どうも頭でっかちである。現場で回し読みされるのが夢である。SSFは、いま、一一月二七日の一周年記念事業をめぐって楽しい議論が続いている。「職人大学」の用地も検討がつきつつある。一周年記念事業のひとつとして「職人賛歌」のポスターを募集中である(一〇月末締切)。奮って応募して欲しい。問い合わせはSSF事務局(電話 〇四七二ー九六ー二七〇一)である。

 SSFでは現場をまわることが多くなった。取材で職人さんたちサイトスペシャリストの声を聞いて回っている。現場で学んだことはSSFニュースや『施工』誌上で紹介して行きたいと思うのであるが、まずは「大文」さんこと田中文雄棟梁(SSF運営委員長)を軸に一冊の本をまとめれればと思いはじめたところである。

 AF(建築フォーラム)も体制固めが進む。先々月号で予告した「深化する建築」シリーズのフォーラムの他、『建築思潮』の発行体制もできた。一一月には「出雲建築展」を開催する。自分でも信じられないぐらいの忙しさである。自分で自分を忙しくする。悪い癖である。

 

 忙しさに忙殺される中、もうひとつの構想の相談をもちかけられつつある。京都大学の西川幸治先生の「木の文化研究センター」構想である。当「日本住宅木材技術センター」あるいは「木造建築研究フォーラム」などと連携して考えたいとのこと。以下に紹介しよう。検討いただければと思う。その構想は「新・京都策」(中央公論 一九九一年五月号)の一環として提案されたものでもある。

 

 「木造建築の技術がおかれている現況を自覚し、積極的な対策を構じなければならない時に来ているようだ。

 木の文化の伝統は、大工技術にとどまらない。その体系的保存を心がけなければならない。

 木の文化の再生をめざし、その伝統技術の再評価と、継承・発展をはかるための木の文化研究センター構想を提言したい。

 この研究センターは研究部門・研修部門・伝統建材バンクの三部門からなる。研究部門では、比較住居論を通じて、風土に根ざした住居への確固とした基礎をつくり、アジア各地の技術者との交流をはかる。同時に、現代的観点から、閉鎖的になりがちな木造の伝統技術の体系化をはかり、現代の建築技術との交流、風土環境にふさわしい建築の創造をめざす。

 研修部門では、木の技術に関心をもつ人びとのために、その技術の研修をはかる。建築科の学生には、日本の伝統である木造建築をもって体験せしめ、各大学での学習と連繋させて新しい建築学の創造に寄与する。市民の研修は重大である。余暇時間の増大とともに木の文化、木の技術への関心はたかまっている。そこで「日曜大工から数寄屋大工まで」をモットーに、多様な木造技術の研修の場を用意する。また、現在活躍中の大工や建築家にも、再研修の機会を用意し、技術の深化をはかる。昨年の木造文化財保存国際研究集会に於ても、また現在日本の技術者が協力してすすめているモンゴルのラマ寺院、アマルバヤスガランの修復計画でも、日本の木造技術への関心、研修の希望がつよかった。アジアの木造建築技術者の研修と交流の場ともしたい。

 最後に、伝統建材バンクは、現在数多くの木造建造物が新しい建築に更新されている。建材は廃材として処理され、その処理法がむずかしい問題をひきおこしているが、かつて建材はくり返し再利用され、新しい建造物のなかに再生されてきた。このことは、伝統的建築の解体修理のさいの調査であきらかにされている。そこで、貴重な伝統建材(瓦・柱・梁・壁土・建具など)を登録し、保存して、適宜再活用をはかることにしたい。」(西川幸治 「木の文化を見直す」より)

 

 研究部門は、比較住居論、アジア木造技術者の交流、伝統的木造技術の体系化、伝統的技術と現代技術の交流などをその内容とする。研修部門は、建築学科学生、市民、大工・建築家など様々な層の研修をカヴァーする。飛騨高山木匠塾の構想とその研修部門の構想はオーヴァーラップしそうである。また、茨城ハウジングアカデミーで考えてきたことの応用もできそうである。

 「木の文化研究センター」は、石の文化と石造技術の研修をめざすローマ・センターにたいして、アジア地域の木の文化と木造技術の研修センターをめざすというグローバルな視点がある。ユネスコの関連施設する案、京都に拠点を置く案など、具体化へむけて模索が開始されたところである。

 

 SSFで「職人大学」構想を打ち上げた直後、すぐさま、二つの反応があった。ひとつは、陸前高田、気仙沼から、「職人大学」を誘致したいというもの、ひとつは出雲市から、「国際技能者研修センター」の構想があるというインフォーメーションである。いま、各地で様々な技能者養成のプログラムが進行中である。飛騨高山にしても、もともと「木の大学」構想があったし、秋田でも短大をつくろうという動きがあると聞く。

 各地で多様な試みがなされていいと思う。既成の枠組みのなかではそうそううまくいかないこともはっきりし始めている。また、他力本願でも駄目である。しかし、一方、ネットワークの要になるような拠点が必要とされつつあるのかもしれない。SSFの「職人大学」は、野丁場のスペシャリストの拠点を目指しているといっていい。一方、町場の拠点、「木造文化」の要もあってもいいかもしれない。「木の文化研究センター」構想は、そのスケールにおいて魅力的な構想である。

 





 


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