このブログを検索

2022年11月29日火曜日

涸沼合宿SSF,雑木林の世界26,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199110

 涸沼合宿SSF,雑木林の世界26,住宅と木材,(財)日本住宅・木材技術センター,199110

雑木林の世界26

涸沼合宿SSF 

                        布野修司

 

 八月二三日から二四日にかけて、茨城県の涸沼(ひぬま)へSSF(サイトスペシャルズ・フォーラム)の合宿のために出かけた。涸沼といっても知らない人も多いのかもしれないが、水戸から大洗鹿島線で四つめの駅が涸沼だ。電車で二〇分程、車で三〇分程であろうか。茨城町、旭村、大洗町にまたがる小さな湖である。大洗海岸へ通じでて太平洋へ至る。真水と塩水が混じり合い、蜆(しじみ)が採れる。川の幸と海の幸を嗜める絶好の地だ。

 涸沼へは二度目であった。最初訪れた時から親近感がある。同じように真水と海水が混じり合う、宍道湖と中海をつなぐ大橋川のほとりで育ったからである。大橋川というのは、時に右から左に流れ、時に左から右に流れる世にも不思議な川なのだが、大橋川は知らなくても宍道湖はご存じであろう。七珍味、中でも蜆は有名な筈だ。宍道湖の淡水化反対の理由のひとつは蜆が採れなくなるというものであった。関東へ送られる幼蜆というか種蜆の大半は宍道湖のものである。涸沼は宍道湖よりもちろん小規模なのだが、なんとなく雰囲気が似てもいるのだ。

 さて、SSFの涸沼合宿の目的とは何か。「職人大学」、「SSA(サイト・スペシャルズ・アカデミー)」の構想を煮つめようというのである。内田祥哉理事長以下、総参加人数二八名*1の大合宿となった。大合宿というのは人数だけではない。現地視察の後、夕食をはさんで前後四時間に及ぶ大議論は、真に合宿の名に値するものであった。

 藤澤好一SSFアカデミーセンター長によって用意された、当面の検討内容は以下のようであった。

 

 ①名称と形態 サイト・スペシャルズ・アカデミー(仮)

  当面は制約のない業界自前の機関として、自由で新しい育成方針を確立する。将来展望のある魅力的でユニークなものとする。「職人大学」という「大学」名に拘る必要はないのではないか。近い将来大学そのものの機能が危ぶまれる。

 ②設立運営主体

  設立運営の主体となる組織、SSA教育振興財団(仮)の検討。設立のための調査、交渉、調整、手続きなどを担当する設立準備委員会を早急に設立する。

 ③用地の確保

  適切な設置場所の選定。用地の確保。最低二万平方㍍は必要か。用地確保の時期、資金、財団への委譲手順の検討。

 ④施設配置計画

  教育研修施設、SSネットワークセンター、実習施設、研究開発施設、宿泊施設、リクリエーション施設等の検討

 ⑤研修課程と年限 入学定員と募集方法

  例えば、以下のような構成案についての検討。

  初期課程(高卒 二年課程)   一〇〇名

  専攻課程(実務五年 一年課程)  五〇名

  特別課程(実務十年 一年課程)  二五名

 ⑥学科

  例えば、以下のような二学科で開校してはどうか。

  a専門技術学科・伝統技能学科

  bサイトマネジメント学科

 ⑦修了者の処遇、資格

  公的な資格取得より、業界内で資格を設定し、価値あるものとしていく方向を検討する。

 ⑧ネットワークの構築

  国内外の関連施設(例えば、筑波研究学園都市)との提携、大学、研究機関との交流、教育スタッフ、学生の交換、既往の養成機関との連携などの検討。

 

 多岐にわたる検討内容を大まかに整理すれば、「職人大学」の内容をどうするか、用地をどう考えるか、財源をどうするか、という三つのテーマとなる。いずれも大きな課題である。前半部の司会を務めさせられたのであるが、いきなり問題となったのは、財源の問題であった。

 財源の問題がはっきりしないと全ては絵に描いた餅である。いきなり、財源の問題に議論が集中したのは参加者の真剣さを示していよう。職人の養成、結構、職人の社会的地位の向上、大賛成、しかし、お金は出せない、出したくない、というのがこの業界の常なのである。

 一体幾らかかるのか。内容とも関係するのであるが、みんなプロである。およそ検討はつく。プロが自力建設でやれば、相当安くつく筈だ。建設の過程を実習にすればいい、集まった資金でやれる範囲で施設をつくっていけばいいのではないか、等々色々なアイディアも出て来る。

 資金について議論の焦点となるのは、本当に自前で資金を用意できるかどうかということである。また一方で、サブコンだけでなく、ゼネコンにも協力を求めるべきではないか、結局ゼネコンにとっても重要な課題なのだから、という意見もでる。SSFは、主旨に賛同するあらゆる人や組織に開かれたフォーラムであるから、もちろんゼネコン(に限らずあらゆる機関)を排除しようということはもとよりないのであるが、やはりゼネコンの手を借りなきゃ、という意見と、どうせなら自前でやろうという意見が交差するのである。

 また、広く賛助金を募るためには、建設省など、公的機関のお墨付きが欲しいという意見がある。建設省が支援すれば、ゼネコンもお金が出しやすいし、沢山基金も集まるのではないか、という意見である。それに対しては、お墨付けをもらうといろんな制約が出て来るのではないか、という意見もある。

 内容についても、一方で、初期養成を中心にすべきだという意見と、もっと高度な機関にしたい、という意見がある。これについては、初期養成も無視しないけれど、全国の養成教育機関の拠点になるような高度な内容としたいということでまとまりつつあるところだ。問題は、そうした実力をSSFがもてるかどうかである。

 用地については、様々な意見がでた。さすがプロ集団である。引続き調査検討することになった。懇親会で深夜まで続いた議論で、最初期のイメージが出てきたように思う。早速、計画書の作成にかからなければならない。一一月初旬には、SSFのメンバーで、ドイツのマイスター制度を視察にいく。その旅行において、設立趣意書がまとめられることになっている。

 

 

*1 主要な参加理事は次の通り。小野辰雄(日綜産業、副理事長)、田中文男(真木 運営委員長)、斉藤充(皆栄建設)、入月一好(入月建設)、藤田利憲(藤田工務店)、曽根原徹三(ソネコー)、青木利光(金子架設工業)、黒沼等(越智建材)、上田隆(山崎建設)、富田重勝(内田工務店)、今井義雄(鈴木工務店)、深沢秀義(西和工務店)、伊藤弘(椿井組)、辰巳裕史(日刊建設工業新聞社)、田尻裕彦(彰国社)、安藤正雄、藤澤好一、布野修司





0 件のコメント:

コメントを投稿